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Black Rebel Motorcycle Club “Wrong Creatures” / ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ『ロング・クリーチャーズ』


Black Rebel Motorcycle Club “Wrong Creatures”

ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ 『ロング・クリーチャーズ』
発売: 2018年1月12日
レーベル: Vagrant (ヴェイグラント)
プロデューサー: Nick Launay (ニック・ロネ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のロック・バンド、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブの8作目となるスタジオ・アルバム。

 プロデューサーを務めるのは、ヤー・ヤー・ヤーズ(Yeah Yeah Yeahs)や、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ(Nick Cave & The Bad Seeds)を手がけ、古くはパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd)や、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)での仕事でも知られるニック・ロネ。

 1stアルバム『B.R.M.C.』で、メジャーレーベルのVirginより、鮮烈なデビューを飾ったのが2001年。当時はガレージロック・リヴァイヴァルの最盛期であり、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブもブームを牽引したバンドのひとつです。

 彼らの特徴は、ガレージ・ロックのざらついた耳ざわりと、サイケデリックな空気が、共存しているところ。猪突猛進タイプのバンドが多い当時において、酩酊的なサイケデリアを併せ持つ彼らの音楽性は、異彩を放っていました。

 ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブが結成されたサンフランシスコは、60年代後半に、ヒッピー文化およびサイケデリック・ロックの中心地となった場所。

 60年代のガレージロックとサイケデリック・ロックを、オルタナティヴ・ロックやシューゲイザー的な音像で再現した、まさにロックンロール・リヴァイヴァルのバンドと言えるでしょう。

 デビューから17年が経ち、通算8作目となった本作『Wrong Creatures』でも、ガレージ的なざらついた音色と、サイケデリックな揺らめくフレーズが融合。スローテンポからミドルテンポのゆったりとした曲が目立ち、内省性の濃い音楽を展開しています。

 アンビエントなイントロから、ドラムがトライバルなリズムを刻む1曲目「DFF」。揺らめくギターと、タイトなリズム隊がグルーヴする2曲目「Spook」。引きずるようなスローテンポに乗せて、物憂げなメロディーが漂う4曲目「Haunt」。立体的なアンサンブルが繰り広げられる9曲目「Little Thing Gone Wild」など、収録される楽曲群は、統一感がありながら、実にカラフル。

 彼らのキャリアと、音楽的な引き出しの多さを、感じる作品でもあります。

 前述したとおり、デビューはメジャーレーベルのVirginから。その後、RCAへの移籍、自らのレーベルAbstract Dragonの立ち上げなどを経て、本作はカリフォルニア拠点のインディーズ・レーベル、ヴェイグラントからのリリース。

 必ずしもセールスがふるわないから、メジャーを離れたわけではないと思いますが、自分たちのペースで音楽を続けているところもいいですね。1stでガツンと出てきて、そのあと尻すぼみになり、3rdアルバムぐらいで解散というバンドも多いので。

 本作を聴いていると、自分たちの作りたい音楽を作っている感覚が伝わってきます。

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Mothers “Render Another Ugly Method” / マザーズ『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』


Mothers “Render Another Ugly Method”

マザーズ 『レンダー・アナザー・アグリー・メソッド』
発売: 2018年9月7日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデューサー: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 ジョージア州アセンズ出身のインディー・フォーク・バンド、マザーズの2ndアルバム。

 1stアルバム『When You Walk A Long Distance You Are Tired』は、アメリカ国内ではグランド・ジュリー(Grand Jury)、イギリスとヨーロッパではウィチタ(Wichita)からと、米英それぞれのインディーズ・レーベルよりリリース。

 本作は、エピタフ傘下の個性的なインディーズ・レーベル、アンタイからリリースされています。

 プロデューサーを務めるのは、セイント・ヴィンセント(St. Vincent)や、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(Explosions In The Sky)などの仕事で知られるジョン・コングルトン。

 全体に靄がかかったようなソフトなサウンド・プロダクションで、ゆるやかな躍動感をともなったアンサンブルを展開。ジャンルとしては、フォークロックに分類されることもあるようですが、なんともサイケデリックな空気を持った1作です。

 各楽器の音作りもソフトだし、ボーカルもどこか物憂げ。これだけでも、サイケデリックな空気を漂わせているのですが、アンサンブルに揺らぎがあり、この揺らぎが立体感と躍動感、さらなるサイケデリアを生んでいます。

 1曲目の「BEAUTY ROUTINE」から、空間系エフェクターの深くかかったギターサウンドが、場に浸透するように広がり、アンニュイな女声ボーカルも相まって、心地よくもありながら、サイケデリック。前半はロングトーン主体で、音響を重視したアプローチですが、再生時間1:57あたりからドラムがビートを強めると、スイッチが入ったかのように躍動感が生まれます。

 2曲目「PINK」は、バウンドするような音色とリズムのギター、タイトなリズム隊が一体となって疾走する、コンパクトなロック。イントロからしばらくは各楽器とも、はみ出すようなフレーズが無く、塊となって疾走しますが、徐々に揺らぎと立体感が増していく展開。

 4曲目「BLAME KIT」は、各楽器のフレーズが、まとまるのか、バラバラになるのか、絶妙なバランスで躍動的なアンサンブルが展開する、ギターポップ調の1曲。音を詰め込みすぎず、スペースを活かすバランス感覚も秀逸。パッと聴いたサウンドと曲調はポップですが、ところどころアヴァンギャルな音色とフレーズが顔を出し、他のバンドを例に出すなら、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)に近いです。

 5曲目「BAPTIST TRAUMA」では、ドラムがタメをたっぷりと取って、打ちつけるようにリズムを刻み、ギターとベースは一定の間を取りながらフレーズで隙間を埋めます。ボーカルはメロディー感の希薄な、ロングトーンを多用。ぶっきらぼうにも思えるアンサンブルと、アンビエントな空気を漂わせるボーカルが融合する、やや実験的な1曲。しかし、難しい音楽というわけではなく、躍動感あふれる演奏です。

 9曲目「MOTHER AND WIFE」は、イントロから電子的な持続音が鳴り響く、音響が前景化したアンビエントな曲。ボーカルもゆったりとメロディーを紡ぎ、神秘的な空気を演出。

 全体のサウンドは柔らかく聴きやすいのに、ところどころ意外性のあるアレンジと音色が散りばめられ、違和感と心地良さのバランスが絶妙。気がついたら底なしの沼に、引きこまれていくような感覚があります。

 いかにもアンタイらしく、実験性を持ちながら、ポップ・ミュージックとしても良質なアルバムです。

 2018年12月現在、SpotifyとAmazonでは配信されていますが、Apple MusicおよびiTunesでのデジタル配信は無いようです。

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Ava Luna “Moon 2” / アヴァ・ルナ『ムーン2』


Ava Luna “Moon 2”

アヴァ・ルナ 『ムーン2』
発売: 2018年9月7日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する、男女混合の5ピース・バンド、アヴァ・ルナの4thアルバム。

 オリジナル・アルバムとしては4作目ですが、2015年にはレア音源集『Takamatsu Station』を、レーベルを通さずにデジタル・リリース。

 2018年には、セルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)の『Histoire de Melody Nelson』(邦題:メロディー・ネルソンの物語)をアルバム1枚まるごとカバーした作品を、食と音楽をテーマにしたレーベル、ターン・テーブル(Turntable Kitchen)よりリリースしています。

 デビュー当初は、インディーロックとR&Bの融合と言われることの多かったアヴァ・ルナですけど、アルバムを重ねるごとに多様なジャンルを取り込み、音楽性がカラフルに進化。

 さらに、シンセサイザーのフェリシア・ダグラス(Felicia Douglass)が、ダーティー・プロジェクターズ(Dirty Projectors)に参加。ギターとボーカルを担当し、バンドのリーダー格のカルロス・ヘルナンデス(Carlos Hernandez)はソロ・アルバム『On Folly』をリリースするなど、各メンバーの活動も活発化。

 それぞれが課外活動で培った要素が、アヴァ・ルナにフィードバックされたということなのか、彼らのアルバムの中でも最も実験的。しかし、同時にポップさも兼ね備えた1作となっています。

 これまでの作品でも、例えば2ndアルバム『Electric Balloon』では、シンプルなインディーロックとソウルフルな歌唱が融合。ノイズやフリージャズの要素も散りばめられるなど、多彩な音楽を繰り広げてきたのですが、本作では多様なジャンルを自分の中に取り込み、より地に足の着いた音楽へと進化しています。

 多様なジャンルの参照は、ともすると折衷的で没個性的な音楽を生みだす危険性をはらみます。しかし、前述のとおり本作では、サウンドとアレンジの両面で、アヴァンギャルドとポップさが両立。おそらく、メンバーがこれまで積み上げてきたアイデアと技術が、ひとつの完成形に達した作品なのでしょう。

 サウンド的には、コンピューターを大々的に導入し、やわらかな電子音が前景化。バンドのアンサンブルを中心に据えながら、シンセのサウンドが多彩な色をプラスしています。

 1曲目「Accessible」は、電子音がシンプルなフレーズを紡いでいく、ミニマルなイントロから始まり、徐々に音数が増殖。電子音と声を中心にした柔らかなサウンド・プロダクションが、幻想的な空気を演出します。後半に出てくる、高音域を使ったピアノがアクセントとなり、電子音楽的なサウンドにフリージャズの要素をプラス。

 2曲目「Centerline」は、電子的な持続音が響く、アンビエントなイントロから始まり、タイトかつファンキーなリズム隊を中心に、ゆるやかな躍動感のある1曲。飾り気のない簡素なサウンドのなかで、伸びやかなボーカルのソウルフルな歌唱が、対比的に浮かび上がっています。

 6曲目「Moon 2」では、イントロからピコピコ系の電子音が用いられ、メロディアスに動きまわるベース、アンビエントな持続音など、様々な要素が組み合わさり、アンサンブルを構成。ボーカルはアンサンブルの上に、軽やかにメロディーを紡いでいきます。

 7曲目「Deli Run」は、打ち込みによるものと思われるビートがイントロから鳴り響く、ゆるやかにスウィングする1曲。どの楽器もリズムがタイトで、揺らぎを生む要素は少ないはずなのですが、ソウルフルなボーカルに先導されるように、いつの間にか躍動感が生まれています。

 アルバム全体をとおして、電子音がサウンドの主軸を担い、エレクトロニカ的な音像を持っています。しかし、音楽の核には、バンドの躍動感やボーカルのエモーションが感じられ、クールなサウンドでありながら温もりのある、絶妙なバランスのアルバム。

 アコースティック楽器ではなく、いかにも電子的なサウンドを用いることで、逆にグルーヴ感やバンド感を際立たせているのでは、とすら思います。音響的なアプローチを用いることで、フレーズ自体を前景化させるとでも言ったらいいでしょうか。

 リズムもシンプルで反復も多く、ミニマル・ミュージック的なアプローチも感じられるのですが、ファンク的なグルーヴも共存。先述したとおり、実験性とポップさが両立し、新たなポップ・ミュージックを感じさせる1作です。

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Tim Hecker “Konoyo” / ティム・ヘッカー『この世』


Tim Hecker “Konoyo”

ティム・ヘッカー 『この世』
発売: 2018年9月28日
レーベル: Kranky (クランキー)
プロデューサー: Ben Frost (ベン・フロスト), 葛西 敏彦 (Toshihiko Kasai)

 カナダ、バンクーバー出身のエレクトロニック・ミュージシャン、ティム・ヘッカーの通算9枚目のスタジオ・アルバム。

 はっきりとした裏は取れなかったのですが、1曲目のタイトルが「This Life」であることからも想像できるとおり、アルバム・タイトルの『Konoyo』とは、日本語の「この世」のことなのでしょう。

 雅楽の演奏団体「東京楽所」と共に、東京都練馬区の「慈雲山曼荼羅寺 観蔵院」にて、レコーディングを実施。ヘッカーの生み出すドローン・ノイズと、日本伝統の雅楽が融合する、異色のアルバムです。

 エンジニアを務めるのは、レイキャビク拠点のエクスペリメンタル系ミュージシャンであり、これまでもヘッカーの作品に数多く携わっているベン・フロストと、蓮沼執太フィルのメンバーとしても知られる葛西敏彦。

 僕は折衷的な音楽があまり好きではなくて、例えば「三味線でビートルズの曲を弾いてみました」みたいな音楽は、短絡的でクリエイティヴィティが無いなと感じることが多いのです。

 そんなわけで、ティム・ヘッカーの新作が「日本の雅楽との共演」と聞いたときも、ティム・ヘッカー得意の電子ノイズに、雅楽の楽器のサウンドを合わせただけの音楽なんだろうなぁ、とほとんど期待していませんでした。

 しかし、実際に聴いてみると、予想を遥かに上回るアルバム。クリエイティヴィティとオリジナリティに溢れた音楽が繰り広げられており、自分の浅はかな予想を恥じるばかりです。

 ヘッカー得意の電子ドローンと、雅楽のサウンドが融合しているのは事実なのですが、まったく相容れないのではないかと思う両者のサウンドが不可分に溶け合い、アナログとデジタルの融合する、独特の世界観を生んでいます。

 考えてみれば、雅楽はリズムやメロディーよりも、調和や音響が前景化した音楽。ドローンやアンビエントとの相性は、思いのほか良いのかもしれません。

 また、ヘッカーは6thアルバム『Ravedeath, 1972』では、レイキャビクの教会でレコーディングを実施し、パイプ・オルガンと電子音を融合。生楽器と電子音、アナログとデジタル、メロディーと音響が錯綜する、見事なアルバムを作り上げており、本作の出色のクオリティも十分に納得できます。

 1曲目の「This Life」から、不穏な電子ドローンと、篳篥(ひちりき)や龍笛と思われるサウンドが融合。各楽器のフレーズと持続音が、お互いに折り重なり、神秘的な空気を作り上げていきます。

 電子音を用いた上質なアンビエント・ミュージックでありながら、雅楽の厳かなサウンドも、パーツとして飲み込まれることなく、自らのサウンドを響かせており、雅楽と電子音楽の融合と呼ぶにふさわしい1曲。

 2曲目「In Death Valley」は、波のように一定の間隔で押しよせる電子音に、雅楽の打物のリズムが重なる1曲。徐々に電子音が増殖し、それに比例してリズムと旋律が溶け合い、全体の躍動感も増していきます。

 3曲目「Is A Rose Petal Of The Dying Crimson Light」では、やわらかな電子音と、雅楽の楽器類のロングトーンが融合。朝靄のかかった大自然のなかを歩くような、幽玄なサウンドに満たされていきます。

 4曲目「Keyed Out」は、不協和な電子ノイズと、雅楽の楽器による演奏が、錯綜する1曲。最初は両者が分離しているように感じますが、徐々にお互いを取り込むように融合していきます。電子音が雅楽アンサンブルの一部のように、雅楽の楽器が電子音のように聞こえる、絶妙なバランス。

 5曲目「In Mother Earth Phase」は、持続音とフレーズが次々と折り重なっていく、音響が前景化した1曲。持続音の上に細かく刻まれたフレーズが重なり、また時には持続音が途切れ、多様なサウンドが、和音とは違った意味での調和を生んでいきます。

 6曲目「A Sodium Codec Haze」は、笛と太鼓が中心に据えられ、雅楽色の濃い1曲です。雅楽のアンサンブルを、電子音が包み込んでいくようなバランス。

 アルバム最後の7曲目に収録されるのは「Across To Anoyo」。「Anoyo」とは日本語の「あの世」のことでしょう。ロングトーンが静かに響くイントロから始まり、太鼓と弦楽器が一定のリズムを刻み続ける、ミニマル・ミュージック的なアレンジへ。その後は、持続音がすべてを覆い尽くす後半へと展開する、15分を超える大曲。

 アルバムをとおして実感するのは、雅楽の楽器とアンビエントな電子音の相性の良さ。楽器にもエフェクトがかけられているのでしょうが、聴いているうちにどこまでが電子音で、どこまでが楽器の音なのか、分からなくなるほどです。

 本作がスタジオ・アルバムとしては9作目。これまでもアルバムごとにアプローチを変え、クオリティの高い作品を作り続けてきたティム・ヘッカーのセンスと表現力には、感嘆せざるを得ません。

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Hop Along “Bark Your Head Off, Dog” / ホップ・アロング『バーク・ユア・ヘッド・オフ、ドッグ』


Hop Along “Bark Your Head Off, Dog”

ホップ・アロング 『バーク・ユア・ヘッド・オフ、ドッグ』
発売: 2018年4月6日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Kyle Pulley (カイル・プリー)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの4thアルバム。

 1stアルバム『Freshman Year』はホップ・アロング、クイーン・アンスレイス(Hop Along, Queen Ansleis)名義でリリースされており、ホップ・アロング名義としては3作目のアルバム。

 レコーディング・エンジニアを務めるのはカイル・プリー。ホップ・アロングと同じく、フィラデルフィアを拠点に活動するバンド、シン・リップス(Thin Lips)のベーシストです。

 前作に引き続き、ネブラスカ州オマハの名門インディーズ・レーベル、サドル・クリークからのリリース。

 1stアルバムは、フランシス・クインラン(Frances Quinlan)のソロ・プロジェクトであったので、2ndの『Get Disowned』が、バンド体制になって実質1作目。

 同作では、アコースティック楽器のフォーキーな音色と、激しく歪んだギターの荒々しさが共存。初期衝動をそのまま音に閉じ込めたかのような攻撃的なサウンドは、実にロック・バンドの1stアルバムらしい質とも言えます。

 その攻撃性が、前作『Painted Shut』では後退し、代わりにアンサンブルを重視した音楽を展開。本作でも前作の音楽性を踏襲し、コンパクトに有機的なアンサンブルを組み上げています。

 具体的には、小節線を飛び越えるような自由なフレーズや、耳に突き刺さるアグレッシヴな音作りは鳴りを潜め、各楽器がチクタクチクタクと組み合うアンサンブルが展開。

 ただ、おとなしくなったというわけではなく、随所で意外性のあるアレンジが挟まれますし、アンサンブルからはバンドが一体の生き物であるかのような、ゆるやかで自然な躍動感が溢れています。

 例えばアルバム1曲目の「How Simple」では、各楽器の音作り、リズムともにシンプルながら、バンド全体でスイッチを切り替え、加速感を演出。ところどころで挟まれるギターの奇妙なサウンドや、立体的なドラムがアクセントとなり、楽曲に彩りを加えています。

 2曲目「Somewhere A Judge」は、隙間の多いアンサンブルですが、ボーカルも含めて、すべての楽器がお互いのリズムに食い込むように一体となり、ゆるやかに躍動するアンサンブルを作り上げています。音作りもサウンドもきわめてシンプルですが、再生時間0:59あたりから左チャンネルで聞こえる、声が裏返ったようなギターの音作りが、アヴァンギャルドな空気をプラス。

 3曲目「How You Got Your Limp」は、ハープとストリングスが導入され、室内楽的なサウンドを持った1曲。「バロック・ポップ」って、こういう曲のことを言うんでしょうね。フランシス・クインランのファルセットを織り交ぜた伸びやかな歌唱と、間奏の口笛も相まって、穏やかで牧歌的な雰囲気。

 5曲目「The Fox In Motion」は、粒だった音が四方八方でバウンドするイントロから始まり、リズム隊が入ると、途端に躍動感あふれる演奏へと発展。各楽器が持ち寄るフレーズは断片的なのに、集まったときに一体感を生む、このバンドの良さがあらわれた演奏とも言えます。

 9曲目「Prior Things」は、大々的にストリングスが用いられ、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ストリングスの伸びやかなサウンドを活かし、グラデーションのように音量と雰囲気がコントロールされるアンサンブルが展開します。

 前述のとおり、2ndアルバム『Get Disowned』では、爆音ギターとアコースティック楽器が融合し、オルタナ・カントリーとも言える音楽を鳴らしていたのですけど、本作は爆音要素もルーツ・ミュージック要素も控えめ。

 個人的には、荒々しく躍動する2nd『Get Disowned』の方が好みなのですが、バランス感覚とアンサンブルの精度の点では、本作の方が上と言えるでしょう。

 音作りもアンサンブルもシンプルになり、ちょっと変なサウンドやアレンジが、隠し味のように聞こえるアルバムになっていて、いかにも2000年代以降の良質なインディーロック然としたクオリティです。

 ストリングスの導入の仕方も、絶妙だと思います。アイデアなしに入れると、クラシックからの安っぽい借り物みたいなサウンドにもなりかねませんが、本作ではバンドの躍動感を向上させるエッセンスとして、ストリングスが効果的に響いています。

 また、紅一点のボーカル、フランシス・クインランの歌唱もバンドの大きな魅力にひとつ。彼女の表現力は、アルバムを重ねるごとに向上し、本作でもハスキーにかすれた声から、伸びやかなファルセットまで、楽曲の世界観に合わせて、多様な歌声を聞かせてくれます。

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