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Phosphorescent “Pride” / フォスフォレッセント『プライド』


Phosphorescent “Pride”

フォスフォレッセント 『プライド』
発売: 2007年10月23日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

  1980年、アラバマ州ハンツビル生まれ。2001年から、ジョージア州アセンズを拠点に音楽活動を開始し、現在はニューヨークを拠点にするシンガーソングライター、マシュー・フック(Matthew Houck)のソロ・プロジェクト、フォスフォレッセントの3rdアルバム。

 1stアルバム『A Hundred Times 0r More』は、アセンズのウォーム・エレクトロニック・レコーディングス(Warm Electronic Recordings)、2ndアルバム『Aw Come Aw Wry』は、ピッツバーグのミスラ・レコード(Misra Records)からのリリースでしたが、本作からインディアナ州ブルーミントンのインディー・レーベル、デッド・オーシャンズと契約しています。

 フォークを基調とした前作から比較すると、よりサウンドが多彩になり、オルタナティヴ・ロック色が増した本作。前作から引き続き、ソング・ライティングと音作りは、フォークを下敷きにしていて穏やか。

 しかし、スローテンポに乗せて展開される、ロングトーンを活かしたバンドのアンサンブルとコーラスワークは、音響系ポストロックのような響きも持ち合わせています。フォークやカントリーを下敷きにしながら、ドローンやサイケデリック・ロックの要素も感じられる1作です。

 1曲目「A Picture Of Our Torn Up Praise」は、音数の少ないアンサンブルの隙間を漂うように、ボーカルのメロディーが浮遊する、穏やかながら、どこかサイケデリックな空気も漂う1曲。ゆったりと打ち鳴らされるバスドラが、鼓動のように響き、ゆるやかな躍動感を生んでいきます。

 2曲目「Be Dark Night」は、イントロから厚みのあるコーラスワークが、教会音楽のようにも響く、幽玄な1曲。

 4曲目「At Death, A Proclamation」は、奥の方で鳴り続けるメトロノームのクリックらしき音と、せわしなくリズムを刻むドラムに、ボーカルと他の楽器が、覆いかぶさるように重なる1曲。やや、ざらついたサウンドでレコーディングされており、ドラムの細かいリズムも相まって、独特の殺伐とした空気を演出しています。

 5曲目「The Waves At Night」には、ジョージア州アセンズを拠点に活動するシンガーソングライター、リズ・デュレット(Liz Durrett)がボーカルで参加。男女混声による、穏やかなコーラスワークが響き渡る曲。デュレットの柔らかく、耳に刺さらない高音を筆頭に、全体のサウンド・プロダクションも、ほの暖かく、ソフト。

 6曲目「My Dove, My Lamb」は、アコースティック・ギターとキーボードの音が溶け合う、穏やかなイントロから始まり、ハーモニカのロングトーンと、厚みのあるコーラスワークによる、荘厳なサウンドが響き渡る1曲。

 8曲目は、アルバム表題曲の「Pride」。イントロから、聖歌隊を思わせる、厚みのあるコーラスワークが展開。その後は、四方八方から様々な音が飛び交い、穏やかで神秘的な空気と、オルタナティヴなアレンジが、共存して進行します。

 基本的には、歌を中心に据えた楽曲が並びますが、ラストに収録されるアルバム表題曲「Pride」には、わかりやすい歌のメロディーはありません。その代わりに、コーラスによるハーモニーと、それを取り囲むように断片的なフレーズが重なる、音響を前景化したアレンジが施されています。

 この曲に象徴されるように、歌モノのアルバムでありながら、意外性のあるアレンジが共存し、音響へのこだわりも感じられるアルバムとなっています。

 2018年10月現在、Spotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは未配信です。





Phosphorescent “Aw Come Aw Wry” / フォスフォレッセント『アー・カム・アー・ライ』


Phosphorescent “Aw Come Aw Wry”

フォスフォレッセント 『アー・カム・アー・ライ』
発売: 2005年6月7日
レーベル: Misra (ミスラ)

 アラバマ州ハンツビル生まれ。2001年からジョージア州アセンズを拠点に活動し、現在はニューヨークを拠点にするシンガーソングライター、マシュー・フック(Matthew Houck)のソロ・プロジェクト、フォスフォレッセントの2ndアルバム。

 ホーン・セクションとペダル・スティール・ギターに、ゲスト・ミュージシャンを迎えてはいますが、大半の楽器をマシュー・フックが担当。彼のソロ・プロジェクトなので、当然と言えば当然ですが、個人によって作り上げられた宅録感と、パーソナルな空気が充満したアルバムになっています。

 音楽性は、フォークを基調としながら、楽曲によって多様な楽器を使い分け、古き良き時代のアメリカン・ポップスを彷彿とさせる部分もあります。しかしながら、前述のとおりマシュー・フック個人が、大半の楽器を自ら演奏しているため、個人が頭の中で作った、箱庭感があるのも事実。

 ただ、それは必ずしもネガティヴな要素ではなく、僕はむしろマシュー・フックという人の頭の中を覗いているような気分になり、どこまでも個人的な音楽であることに、魅力を感じました。

 1曲目「Not A Heel」は、イントロからスローテンポに乗せて、複数の楽器のロングトーンが、折り重なるように響く、穏やかな音像を持った1曲。ペダル・スティール・ギターの伸びやかなサウンドが、全体をヴェールのように包み込んでいきます。

 2曲目は、アルバムと同じタイトルを持つ「Aw Come Aw Wry #5」。ゆったりとしたテンポの中に、丁寧に音が置かれる、牧歌的な雰囲気のインスト曲。2曲目に収録されたこの「#5」以外にも、「#6」と「#3」が収録されていますが、いずれも1分前後のインタールード的な役割の曲となっています。

 3曲目「Joe Tex, These Taming Blues」は、これまでの2曲と同じく、ゆったりとしたテンポを持った、カントリー色の濃い1曲。ホーンが導入され、オーケストラルなサウンドと、ダイナミズムを併せ持っています。

 4曲目「Aw Come Aw Wry #6」は、イントロから電子音が用いられ、キュートで騒がしいアンサンブルが繰り広げられる1曲。1分10秒ほどの短い曲ですが、アルバムの流れを変える役割を、十分に果たしています。

 5曲目「I Am A Full Grown Man (I Will Lay In The Grass All Day)」は、イントロから立体的かつ躍動感あふれるアンサンブルが展開する1曲。フォーキーなサウンドが支配的だったアルバム前半に比べると、多様な音が飛び交い、オルタナ・カントリー的な音像を持っています。

 6曲目「Dead Heart」は、幽玄なコーラスワークと、エフェクターのかかったギター・サウンドが鳴り響く、音響を重視した1曲。やはりアルバム前半とは違い、音響系ポストロックに近いサウンド・プロダクション。

 7曲目「Aw Come Aw Wry #3」は、コーラスワークが、バンドのアンサンブルと一体となり、ゆっくりと深呼吸するような、膨らみのあるサウンドを作り上げる1曲。

 8曲目「South (Of America)」では、前曲の続きのような、厚みのあるコーラスワークが、空間を満たしていきます。バンドのアンサンブルは、ゆったりとリズムにタメを作り、サウンドも穏やか。

 アルバム・ラストの12曲目は「Nowhere Road, Georgia, February 21, 2005」。タイトルのとおり、ジョージア州の路上でレコーディングされたのでしょうか。フィールド・レコーディングと思われる、雨が降る音や、カミナリの鳴る音、車の走り去る音などが、およそ19分に渡って収録されています。

 アルバムを通して、フォークを基調にしたポップな楽曲が収録されているのに、アルバムの最後で意外性のあるアプローチを見せています。これが、音響系のポストロック・バンドならば、全く驚かないのですが。

 先述したとおり、基本的にはフォークを基調とした、ポップな楽曲が並ぶ本作。しかし、最後に収録された「Nowhere Road, Georgia, February 21, 2005」が象徴的ですが、ところどころに実験性を感じるアルバムでもあります。

 2018年10月現在、SpotifyとAmazonでは配信されていますが、Appleでは未配信です。





Kevin Morby “City Music” / ケヴィン・モービー『シティー・ミュージック』


Kevin Morby “City Music”

ケヴィン・モービー 『シティー・ミュージック』
発売: 2017年6月16日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Richard Swift (リチャード・スウィフト)

 ウッズ(Woods)や、ザ・ベイビーズ(The Babies)の元メンバーとしても知られる、シンガー・ソングライターでありギタリスト、ケヴィン・モービーの4thアルバム。

 プロデューサーを務めるのは、ザ・シンズ(The Shins)やジ・アークス(The Arcs)の元メンバーとしても知られる、リチャード・スウィフト。

 これまでの3作は、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックを下敷きに、エレキ・ギターやシンセサイザーによってオルタナティヴな色をプラスする、というのが特徴でした。4作目となる本作は、ルーツ色がかなり薄まり、インディー・ロック色の濃くなった1作と言えます。

 1曲目の「Come To Me Now」では、イントロからオルガンの荘厳なサウンドが響きわたり、そこに感情を抑えたボーカルが重なります。音響を重視したサウンドに、徐々にベースやドラムなどが、リズムや厚みを足していきますが、最後までオルガンを中心にした演奏が続きます。

 2曲目「Crybaby」は、循環するコード進行に乗せて、どこか呪術的なボーカルがメロディーを紡ぐ、サイケデリックな空気を醸し出す1曲。

 3曲目「1234」は、タイトルのとおり「one two three four」という歌詞が印象的な、疾走感あふれるシンプルなロックンロール。ラモーンズ(Ramones)に敬意をあらわすため、「#1234」というタイトルの曲を作ろうと思い立ったことが、この曲の始まりとのこと。メロディーは、ジム・キャロル(Jim Carroll)の「People Who Died」を部分的に借り、ラモーンズと並んでジム・キャロルにも捧げられています。

 7曲目「City Music」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、2本のギターの回転するようなフレーズとリズム隊が有機的に組み合い、一体感のあるアンサンブルが構成される1曲。再生時間2:10あたりからボーカルが入ると、徐々に演奏が立体的になり、テンポが上がり、躍動感も増していきます。後半はさらにテンポが高速になり、疾走感あふれる演奏が展開。

 9曲目「Caught In My Eye」は、ロサンゼルス出身のパンク・バンド、ジャームス(The Germs)のカバー。本家のがなりたてるようなボーカルと荒削りな演奏と比較すると、カントリー風味の穏やかなサウンドと演奏。しかし、雰囲気は穏やかながら、演奏からは緩やかな躍動感が溢れ、本家とは違った魅力を持った曲に仕上がっています。

 12曲目「Downtown’s Lights」は、ギターと歌を中心に据えた、穏やかな1曲。リズム隊が加わると、アンサンブルが立体的になり、スウィング感も伴います。スローテンポのメロウな曲ですが、雰囲気は牧歌的なカントリーというよりも、曲名のとおり都会の夜を感じさせる1曲。

 最初にも述べたとおり、前作までと比較すると、フォーク色は薄くなり、都会的でインディーロック色の濃くなった1作です。

 前作からの相違点をもうひとつ挙げると、プロデューサーがサム・コーエン(Sam Cohen)から、リチャード・スウィフトへ交代。バークリー音楽大学(Berklee College of Music)で、オーディオ・エンジニアリングやレコード・プロダクションを学んだコーエンに対して、音楽一家に生まれ幼少期から教会で歌い、バンドマンやソロ・ミュージシャンとしての色も強いスウィフト。

 職人的にケヴィン・モービーの音作りを助ける前者に対して、レコーディングではドラムやピアノなど複数の楽器でプレイヤーとしても参加する後者が、バンド感を強め、新たなサウンドに向かわせるきっかけとなったのかもしれません。

 ただ、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、リチャード・スウィフトは2018年7月3日に、帰らぬ人となってしまいました。本当に残念…。

 





Kevin Morby “Singing Saw” / ケヴィン・モービー『シンギング・ソウ』


Kevin Morby “Singing Saw”

ケヴィン・モービー 『シンギング・ソウ』
発売: 2016年4月15日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Sam Cohen (サム・コーエン)

 テキサス州ラボック出身のシンガーソングライターでありギタリスト、ケヴィン・モービーの3rdアルバム。

 インディー・フォークバンド、ウッズ(Woods)への参加でも知られ、前作まではウッズのメンバーであるジェレミー・アールが設立したレーベル、ウッドシストからのリリース。しかし、本作からはインディアナ州ブルーミントン拠点のレーベル、デッド・オーシャンズへ移籍しています。

 アコースティック・ギターと牧歌的なボーカルを主軸にしたフォーキーなサウンドに、電子楽器を散りばめて、現代的な空気も併せ持つアンサンブルが展開される1作。

 フォークやカントリーを下敷きに、コンパクトにまとまった躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。サウンド面でも、楽曲によってエレキ・ギターやキーボード、フルート、トランペット、ストリングスなどが導入され、派手さは無いものの、多彩さと奥行きを持っています。

 1曲目「Cut Me Down」は、イントロから揺れる高音の電子音と、アコースティック・ギターが溶け合い、柔らかなサウンドを作り上げていきます。各楽器ともシンプルで手数は少ないものの、隙間を感じさせない有機的なアンサンブルを構成。イントロから、所々で聞こえる電子音が、フォークだけにとどまらないオルタナティヴな空気を、効果的に演出しています。

 2曲目「I Have Been To The Mountain」は、タイトかつ躍動感の溢れる演奏が展開される1曲。各楽器ともリズムが正確で、輪郭のくっきりした無駄のない音を綴っていきます。トランペットと女声コーラスが楽曲を華やかに彩り、再生時間1:37あたりからのギター・ソロの音作りにはオルタナティヴ・ロックの香りが漂う、カラフルな印象の1曲です。

 3曲目「Singing Saw」は、足を引きずるように、タメをたっぷりと取ったギターに、穏やかな歌のメロディーが乗り、徐々に楽器が加わって、立体的なアンサンブルへと発展していく1曲。再生時間1:24あたりからは、ブルージーなギターと、トレモロのかかったキーボードの音が向き合い、ルーツ・ミュージックとオルタナティヴ・ロックが融合するように、音楽がさらに深みを増していきます。

 4曲目「Drunk And On A Star」では、電子的な持続音と、ギターのオーガニックな響き、ストリングスのロングトーンが重なり、多層的なサウンドを作り上げていきます。ボーカルの穏やかなメロディーも秀逸ですが、サウンド面は音響系のポストロックのようで、歌が無くとも成立しそうな1曲。

 5曲目「Dorothy」は、ジャンクな音色のギターが印象的な、ビートのはっきりしたノリの良い1曲。ギター以外にも多様なサウンドが飛び交う、カラフルなサウンド・プロダクションと、賑やかな雰囲気を持っています。

 6曲目「Ferris Wheel」は、やや不穏なアンビエントなイントロから始まり、その後はピアノと歌のみで展開される1曲。ピアノと歌のみですが、両者ともにリズムのメリハリをはじめとした表現力が豊かで、メロディーが際立つ、いきいきとした演奏が繰り広げられます。

 7曲目「Destroyer」は、一定のリズムで波が揺れるような、ゆったりとしたスウィング感を持った1曲。サウンドも、ピアノとストリングスがフィーチャーされ、生楽器をいかした穏やかなもの。しかし、レコーディング後に編集を施したのか、断片的に入ってくるドラムのリズムが、楽曲に立体感とオルタナティヴな空気をプラスしています。

 8曲目「Black Flowers」は、イントロからドラムとパーカッションが立体的に響く、楽しげで軽快な1曲。各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構成し、手数は決して多くはないのに、音楽の情報量が非常に多く感じられます。

 9曲目「Water」は、長めの音符が重なり合う伴奏に、歌のメロディーが乗り、多層的なサウンドを作る前半から、ゆるやかに躍動するアンサンブルの後半へと展開する1曲。

 アルバム全体をとおして、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックへの愛情とリスペクトを感じる、牧歌的な雰囲気が充満。同時に、随所にエレキ・ギターやキーボードによる現代的なサウンドが加えられ、新しさも感じる1作です。

 ルーツと現代性の融合が、わざとらしくおこなわれるのではなく、あくまでさりげなく、メロディーを引き立たせるかたちで実現されているところに、ケヴィン・モービーという人のバランス感覚の秀逸さを感じます。

 





Ryley Walker “Deafman Glance” / ライリー・ウォーカー『デフマン・グランス』


Ryley Walker “Deafman Glance”

ライリー・ウォーカー 『デフマン・グランス』
発売: 2018年5月18日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: LeRoy Bach (リロイ・バック)

 イリノイ州ロックフォード出身のシンガーソングライター兼ギタリスト、ライリー・ウォーカーの4thアルバム。前作『Golden Sings That Have Been Sung』に引き続き、元ウィルコ(Wilco)のリロイ・バック(LeRoy Bach)がプロデュースを担当。

 フォークを主なルーツに持ち、フィンガー・スタイルのギター・プレイを得意とするライリー・ウォーカー。これまでのソロ作品も、フォークやカントリーを根底に持つ音楽性であり、彼のギター・プレイがアンサンブルの中核を担っていました。

 しかし、デビュー以来まったく変わらぬ音楽性でアルバムを作り続けてきたかというと、もちろんそんなことはありません。1作目から本作に到るまでの音楽性の変化を単純化して言うならば、フォーク色の濃い1作目から、徐々にジャズ色やオルタナティヴ・ロック色を導入。音楽性がより多彩かつ現代的になっています。

 4作目となる本作でも、基本的には前作までの流れを踏襲。ゆったりとしたテンポと、生楽器の音色をいかした穏やかなサウンドの楽曲が多く、ややフォークやカントリーの要素が色濃く戻ってきた感もありますが、随所にオルタナティヴなアレンジも顔を出します。前述のとおり、プロデュースを元ウィルコのリロイ・バックが担当しており、彼の参加がオルタナ色を帯びる、大きな要因になっているのではと思います。

 1曲目の「In Castle Dome」は、遅めのテンポに乗せて、ブルージーなギターと歌を中心に据えた、穏やかなアンサンブルが展開される1曲。フルートらしき音色が、楽曲に彩りを加えています。

 3曲目「Accommodations」は、不穏なハーモニーのイントロから始まり、再生時間0:52あたりからの音が散らばっていくようなアレンジなど、アヴァンギャルドな空気を持った曲。

 4曲目「Can’t Ask Why」は、電子音が広がっていく、エレクトロニカのような音像のイントロからスタート。その後、歌とアコースティック・ギターが電子音と溶け合い、ソフトで穏やかなサウンドを作り上げていきます。

 5曲目「Opposite Middle」は、ビートがはっきりとしたノリの良い1曲。ゆるやかなスウィング感を持った演奏が繰り広げられます。

 7曲目「Expired」は、電子的な持続音と、みずみずしいアコースティック・ギターの音色が溶け合った、柔らかなサウンド・プロダクションを持った1曲。ボーカルが無ければ、音響系のポストロックかエレクトロニカとしても成立しそうな音像。

 8曲目「Rocks On Rainbow」は、アコースティック・ギターのいきいきとした演奏が展開されるインスト曲。1stアルバムでは、このようにギターがフィーチャーされた曲が多かったのですが、バンドの編成が拡大した本作では、新鮮に響きます。

 9曲目「Spoil With The Rest」は、各楽器が折り重なるようにアンサンブルを構成する、いきいきとした躍動感と立体感のある1曲。歪んだギターも用いられており、このアルバムの中ではハードな音像を持った曲ですが、一般的には穏やかなサウンド・プロダクションと言えます。バンドがひとつの生命体をなすような、あるいは機械のようにぴったりと歯車が合うような、有機的なアンサンブルは、聴いていて体が自然に動き出してしまうような心地よさがあります。

 アルバム全体をとおして、フォークやカントリーが下敷きにあるのは分かるのですが、ルーツの焼き直しではない、実験的なアレンジや意外性のあるサウンドも散りばめられています。前作『Golden Sings That Have Been Sung』の方が、よりわかりやすくオルタナティヴ・ロック的なアレンジが導入されていたので、本作ではライリー・ウォーカーが折衷的ではなく、より自分自身の音楽性を追求できたアルバムなのでは、と思います。

 いずれにしても、ルーツへのリスペクトと、自分自身のオリジナリティをしっかりと両立させた良盤です。