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Owen “Owen” / オーウェン『オーウェン』


Owen “Owen”

オーウェン 『オーウェン』
発売: 2001年9月18日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)、アメリカン・フットボール(American Football)での活動を経て、2001年から始動したマイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの1stアルバム。

 今やエモの伝説となったキャップン・ジャズ。穏やかなボーカルと、歌心のある各楽器のフレーズが、有機的なアンサンブルを織りなすアメリカン・フットボール。その後に続く、オーウェンの1stアルバムは、アコースティック・ギターと、柔らかな電子音を中心に、穏やかなサウンド・プロダクションを持った作品となっています。

 ゆるやかに各楽器が絡み合うアンサンブルは、アメリカン・フットボールの延長線上と言える部分もありますが、本作の方がより音数を絞り込み、音響が前景化。サウンドの面でもアンサンブルの面でも、より楽器の音やメロディー自体にスポットを当てたアルバムと言えるでしょう。

 1曲目「That Which Wasn’t Said」は、アコースティック・ギターと電子音が溶け合い、全てを包みこむヴェールのような音像を作り上げるインスト曲。

 2曲目「Most Days And」は、アコースティック・ギターのナチュラルな響きと、穏やかなボーカル、エフェクトのかかった弾むような電子音がリズムを刻んでいく1曲。電子音と生楽器が溶け合い、穏やかなサウンドを作り上げていきます。再生時間2:33あたりからドラムが入ってくると、立体的でソリッドなアンサンブルへと展開。

 3曲目「Most Nights」は、ゆっくりと流れる川のように、静かに波打つバンド・アンサンブルが展開される1曲。アコースティック・ギターを中心に据えながら、随所に用いられる電子音がアクセント。

 4曲目「Accidentally」は、アコースティック・ギターの紡ぎ出すフレーズと、鼓動のように低音で響くリズムが絡み合うインスト曲。徐々に楽器と音数が増え、多層的なサウンドへと展開。

 8曲目「Places To Go」は、ギターの軽快なコード・ストロークに主導される、ゆるやかな躍動感のあるギターポップ。

 9曲目「Think About It」は、アルバムのラストにして、個人的にはベスト・トラックだと思う1曲。轟音ギターで全てを押し流すシューゲイザーとは全く異なるサウンドながら、アコースティック・ギターとクリーン系の音作りのエレキ・ギターが幾重にも重ねられ、厚みのある音の壁を構築しています。

 前述したとおり、生楽器と電子音が共存した、穏やかなサウンド・プロダクションが本作の特徴。多くの曲でアコースティック・ギターが中心的な役割を担っていますが、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージック色は薄く、現代的な耳ざわりに仕上がっています。

 その理由は、電子音を効果的に融合させていることに加えて、フレーズの面でも意外性のある音の動きが、ほのかにアヴァンギャルドな空気を漂わせているからでしょう。

 





Pele “Enemies” / ペレ『エネミーズ』


Pele “Enemies”

ペレ 『エネミーズ』
発売: 2002年10月15日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの5thアルバム。本作リリースから2年後の2004年に解散するため、現在のところ最後のアルバムとなります。

 2009年には、B面の曲などを収録したコンピレーション・アルバムを発売。2014年には再結成も果たしていますが、2018年6月現在、本作以降に新たな音源のリリースはありません。

 解散前のラスト・アルバムとなる本作では、清涼感あふれるクリーントーンのギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合い、躍動するアンサンブルが繰り広げられます。ポストロックにカテゴライズされることの多いペレ。複雑なリズムの切り替えや変拍子を随所に混じえ、時にぎこちなさを感じさせるアンサンブルは、ポストロック的と言えるでしょう。

 また、ジャズからの影響もたびたび指摘されるペレ。前作『The Nudes』は、スムースジャズを彷彿とさせる、ゆるやかなスウィング感と、爽やかなサウンド・プロダクションを持ち合わせていましたが、本作では分かりやすいジャズ色は薄れ、よりジャンルレスで実験的な色が濃くなっています。

 1曲目「Crisis Win」では、小節線をはみ出すように、前のめりなリズムのドラムとハンド・クラップによるイントロから、各楽器とも前のめりに疾走していく1曲。各楽器ともタイトで、キレのある演奏。

 2曲目「Safe Dolphin」は、電子音やノイズ的な音が飛び交うイントロから始まり、ベースを中心にした躍動感の溢れるパートと、音数を絞ったアンビエントなパートが、交互に訪れる1曲。

 3曲目「Hooves」は、ギターと電子音を用いて、音響を前景化させたアンビエントな1曲。

 4曲目「Hospital Sports」は、手数は少ないながら立体的なドラム、メロディアスに動くベース、クリーントーンの複数のギターが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルを繰り広げる1曲。激しく歪んだギターと電子音もアクセントになり、楽曲の奥行きを増しています。

 5曲目「Hummingbirds Eat」は、ギターとベース、手数を絞ったタイトなドラムが、絡みながら疾走していく1曲。同じ型のリズムをピッタリと合わせるのではなく、各学区がリズムを噛み合うように構成されるアンサンブルは、全員一致で8ビートを刻むよりも、疾走感と躍動感を生んでいます。

 6曲目「Super Hate」は、柔らかな電子音で作り上げれらた、ミニマルでアンビエントな1曲。

 7曲目「Sepit」は、穏やかでナチュラルなギターのサウンドと、キレ味の鋭いドラム、上下に動き回るベースが、グルーヴ感溢れるアンサンブルを展開する1曲。

 8曲目「Cooking Light」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ドラムは余裕を持って変幻自在にリズムを刻み、ベースはアンサンブルの隙間を自由に泳ぐようにフレーズを弾き、ギターは細かい音符の早弾きからコード弾きまで、多様なプレイを聴かせています。

 清涼感のあるサウンドを用いたアンサンブルを中心にしながら、一部の楽曲では音響を前景化し、エレクトロニカのような音像を作りあげています。

 前述したとおり、本作を最後に一旦解散するペレ。ラスト・アルバムということもあるのか、ここまでの5作のアルバムの中で、最も音楽的な語彙の豊富さを感じる作品になっています。

 





Pele “The Nudes” / ペレ『ザ・ヌーズ』


Pele “The Nudes”

ペレ 『ザ・ヌーズ』
発売: 2000年9月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの4thアルバム。前作『Emergency Room Egg』は、CD-Rでのリリースとなったリミックス・アルバムなので、純粋なスタジオ・アルバムとしては3作目。

 「ポストロック」と一口に言っても、言葉の射程が広すぎて、音楽性が掴みにくいのがこのジャンル。(ポストロックに限ったことでもありませんが…)

 ペレの4作目となる本作では、清涼感のあるクリーントーンのギターを中心に、随所に変拍子を取り入れたポストロックらしい一面を持ちながら、同時に流れるように爽やかで、耳馴染みのいいアンサンブルが展開されています。

 ジャズからの影響も指摘されるペレ。本作でも確かに、サウンド・プロダクションの面ではスムースジャズを思わせる清潔感があり、アンサンブルには即興演奏で徐々に加速して行くような感覚があります。ジャズの文法もある程度取り込みながら、ロック的な躍動感や疾走感を目指したアルバム、とも言えるのではないかと思います。

 1曲目「Nude Beach. Pin Hole Camera」では、各楽器のポツリポツリとした音が有機的に絡み合い、徐々に躍動感が増していく1曲。その感覚は、音を「紡ぎ出す」という表現がぴったり。タイトに小気味よくリズムを刻むドラムは、表情豊かで、ドラムを追っているだけでも十分に楽しめるアンサンブルが展開されます。

 2曲目「The Mind Of Minolta」は、各楽器ともタイトでキレが良く、軽快なアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 3曲目「Therapists」は、ゆったりとしたリラクシングなイントロから始まり、ドラム、続いてベースが入ると、立体感と躍動感が増していきます。各楽器がリズムをわずかに追い越し合うように、ゆるやかな疾走感のある1曲。

 4曲目「Visit Pumpy」は、ギターとベースのフレーズ、ドラムのリズム共に、幾何学的というべきなのか、ひとまとまりの練習フレーズのような各パートが折り重なり、アンサンブルを構成。正確かつ複雑なフレーズが絡み合い、通常のロックとは異なる躍動感を生んでいく演奏は、マスロック的と言ってもいいでしょう。

 5曲目「Total Hut」が、個人的にはこのアルバムのベスト・トラック。アコースティック・ギターによるイントロから、断片的なピアノのフレーズが両チャンネルから飛び交い、ドラムとヴィブラフォンらしき鉄琴が、ミニマルかつタイトなリズムを刻んでいきます。

 生楽器の音色をいかしたオーガニックなサウンド・プロダクションと、アヴァンギャルドなリズムとフレーズの組み合わせが、未来の音楽を感じさせます。言い換えれば、聴いたことがある音を使って、聴いたことがない音楽を作り上げているということ。僕が「ポストロック」にカテゴライズされる音楽を聴き続ける理由は、このような音楽に出会えるからです。

 6曲目「Black Socks」は、流れるようなギターのフレーズと、立体的に絡み合うリズム隊が、穏やかな波のように、段階的にじわじわと押し引きを繰り返す1曲。

 7曲目「Gugi」は、ややテンポが速く、激しく動きまわるベース、タイトに鋭くリズムを刻むドラムが、疾走感を生んでいく曲。

 8曲目「Monkey Monkey Las Vegas」は、細かく刻まれた各楽器の音符が、ひとつの生命体を形づくるように一体となり、躍動していく1曲。各楽器をそれぞれ別に聴いていくと、バラバラとズレる部分と、ぴったりと合わさる部分があり、ズレる部分が音楽のフックとなり、同時に躍動感と進行感を生んでいます。

 アルバム全体を通して、昼下がりのカフェで流れていそうな清涼感のあるサウンドを持ちながら、さらりと複雑なアンサンブルを聴かせてしまうアルバムです。

 ポストロックと呼ばれる音楽の一部は、この手の音楽を聴かない人には正直ハードルが高いものもありますが、本作はロック的な躍動感、ジャズ的なグルーヴ感も持ち合わせており、間口の広い作品に仕上がっていると思います。

 





Anna Burch “Quit The Curse” / アンナ・バーチ『クイット・ザ・カース』


Anna Burch “Quit The Curse”

アンナ・バーチ 『クイット・ザ・カース』
発売: 2018年2月2日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ミシガン州デトロイト出身のバンド、フロンティア・ラッカス(Frontier Ruckus)の元メンバーであり、フェイルド・フラワーズ(Failed Flowers)での活動でも知られる、アンナ・バーチの初ソロ・アルバムです。アメリカ国内ではPolyvinyl、イギリスとヨーロッパではHeavenly Recordingsからのリリース。

 フォークやカントリーからの影響がわかりやすく、オルタナ・カントリー色の濃いフロンティア・ラッカスの音楽性から比較すると、アンナ・バーチのソロ作は、よりルーツを感じさせない音楽になっています。あえてジャンル名を使って表すなら、ギター・ポップ風味のあるインディーロックといったバランスの作品です。

 Polyvinylのウェブサイトでは、クリスタル・クリア・ボーカル・ハーモニー(crystal clear vocal harmonies)と表現されるアンナ・バーチの歌声は、透きとおるように繊細で、このアルバムの大きな魅力のひとつです。

 1曲目の「2 Cool 2 Care」は、透明感のあるギター・サウンドと、アンナの透き通るようなウォームな声が、空間に優しく沁みわたる1曲。再生時間2:28あたりからのギターのフレーズと、全体の有機的なアンサンブルも聴きどころ。

 2曲目「Tea-Soaked Letter」は、バンド全体が波打つように緩やかにグルーヴしていくのが心地よい1曲です。間奏での流れるようなギターのフレーズも、曲に彩りを添えています。一聴するとシンプルな耳ざわりの曲ですが、複数のギターが絡み合うアンサンブルは、なかなか複雑です。

 4曲目はアルバム表題曲の「Quit The Curse」。ゆったりとしたテンポで、バンド全体でたっぷりとタメを作った演奏を展開します。

 5曲目「Belle Isle」は、みずみずしいサウンドのギターと、柔らかなボーカルが溶け合い、ヴェールに包まれたような音像を作り上げる1曲。

 9曲目「With You Every Day」は、シンプルな伴奏に、多層的なコーラスワークが溶け合う1曲。各楽器のフレーズはシンプルですが、再生時間1:59あたりからのわずかに躍動感が生まれるようなアレンジなど、リズムの違いで楽曲の展開を多彩にしています。

 アルバム全体を通して、各楽器とも飾り気が無くナチュラルな音質が多用されていますが、耳に心地よく響くサウンドばかりです。オーバー・プロデュースにはならず、丁寧に音作りがなされているのがわかります。

 特にギターの音は、空間系のエフェクターをやり過ぎにならない程度に、効果的に使った透明感のあるサウンドが多く、そのサウンドをもって組み上げれらるアンサンブルも素晴らしいです。

 聴き始めたときは、まあなかなか良いアルバムだなぐらいに思っていましたが、通しで聴くと良さが、さらに滲み出てきました。

 





Mates Of State “My Solo Project” / メイツ・オブ・ステイト『マイ・ソロ・プロジェクト』


Mates Of State “My Solo Project”

メイツ・オブ・ステイト 『マイ・ソロ・プロジェクト』
発売: 2000年6月15日
レーベル: Omnibus (オムニバス), Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カンザス州ローレンス出身の夫婦デュオ、メイツ・オブ・ステイトの1stアルバム。2000年にOmnibusというレーベルから発売され、その後2003年にPolyvinylから再発されました。メンバーは、ボーカルとキーボード担当のコリ・ガードナー(コリ・ハメル)と、ボーカルとドラム担当のジェイソン・ハメルの2人。

 ポップだけど、サウンドにはジャンクな雰囲気も併せ持ち、多彩なアンサンブルが展開されるアルバムです。いい意味でラフな部分を残したコーラスワークと、キーボードの音色が印象的。楽曲によって鍵盤を、ピアノであったり、シンセサイザーであったりと、巧みに音色を使い分け、作品に彩りをプラスしています。

 非常にポップなアルバムでもあるのですが、ロック的なグルーヴ感とラフな魅力も同居する、良作だと思います。

 2曲目の「Proofs」は、イントロから空間に滲んでいくようなキーボードの音色と、立体的で臨場感あふれるドラムのバランスが絶妙。その後のラフな雰囲気のコーラスワークも良い。その裏でフリーな雰囲気で弾いているキーボードも良いです。

 この曲は、徳島出身の日本のロックバンド、チャットモンチーがライブのオープニングSEに使用し、「夢みたいだ」というタイトルで日本語詞をつけカバーしたこともあります。(シングル『ハテナ/夢みたいだ』に収録)

 3曲目「What I Could Stand For」。この曲も、キーボードの暖かみのある音色が良いです。リズム隊とキーボードが機能的に絡み合うアンサンブルを構成し、その上にコーラスワークが乗ります。再生時間0:58あたりからのキーボードのフレーズと音色もアクセントになり、楽曲を多彩にしています。

 5曲目「Nice Things That Look Good」は、イントロから、どこかノスタルジックなサウンド・プロダクション。どこまでが生楽器で、どこまでが電子楽器なのか分かりませが、サウンドに統一感があります。歌が入ってきてから、奥の方で小刻みにリズムを刻むドラムも、邪魔をせず控えめにアンサンブルを引き締めています。

 6曲目「A Control Group」は、キーボードの音色がジャンクで、ドラムもパワフル。少し前のめりになるようなグルーヴ感もあり、ロック的なノリの良さがある1曲です。めちゃくちゃかっこいい!

 7曲目「Throw Down」。臨場感のあるドラムのサウンドと、高音域のキーボードのバランスが良く、印象的なイントロ。歌が入ってきてからは、随所にキーボードがフレーズを差し込んでくるのですが、それが全てフックになっています。

 8曲目「I Have Space」は、バンド全体が緩やかに躍動していく1曲。それぞれの楽器が少しずつ推進力を持ち寄るような、有機的で心地よいアンサンブル。再生時間1:17あたりからピアノだけになる部分など、1曲の中でのコントラストもあります。

 9曲目「Everyone Needs An Editor」は、倍音たっぷりのキーボードと、立体的に響くドラムが絡み合い、加速と減速を繰り返す緩急が鮮やかな1曲。

 10曲目「Tan/Black」。この曲もキーボードの音が太めで、倍音たっぷり。再生時間2:10あたりからのキーボードの、音程が狂ったようなアレンジも、アクセントになっていてかっこいいです。

 アルバム全体を通して、キーボードの音が曲によって効果的に選択されていて、楽器の数は少ないのに、多彩な印象を与えるアルバムです。

 少し隙があるというか、ラフな魅力を持ったボーカルとコーラスワークも、楽曲に奥行きをもたらしていると思います。ジャンクな雰囲気や実験性を、違和感なく溶け込ませるセンスも抜群。

 2ピース・バンドってたまにいますけど、このメイツ・オブ・ステイトも大好きです! 同じく2ピースのドードースや、2人体制のチャットモンチーも好きなので、僕は2ピースが好きなのかも。