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The Afghan Whigs “Congregation” / アフガン・ウィッグス『コングリゲーション』


The Afghan Whigs “Congregation”

アフガン・ウィッグス 『コングリゲーション』
発売: 1992年1月31日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Ross Ian Stein (ロス・イアン・ステイン)

 オハイオ州シンシナティで結成されたバンド、アフガン・ウィッグスの3rdアルバム。前作『Up in It』に続き、シアトルを代表するレーベル、サブ・ポップからのリリース。この後の4枚目『Gentlemen』からは、メジャー・レーベルのエレクトラ(Elektra Records)に移籍します。プロデュースは、ロス・イアン・ステインと、ギター・ボーカルのグレッグ・デュリ(Greg Dulli)が担当。

 アフガン・ウィッグスの音楽性をシンプルに説明するなら、ブラック・ミュージックの要素を、オルタナティヴ・ロックの形式に落とし込んだ音楽、ということになるでしょう。前作『Up in It』も、基本的には当時のオルタナ・ブームの範疇におさまる音でありながら、随所にソウルやブルースの香りを漂わせるアルバムでした。3作目となる本作は、前作にも増して、ブラック・ミュージック色が濃くなったアルバムだと言えます。

 アルバムは、50秒足らずのイントロダクション的な1曲「Her Against Me」で幕を開けます。ミス・ルビー・ベル(Miss Ruby Belle)という女性ボーカルがフィーチャーされ、彼女の幻想的なボーカルと、激しく歪んだギターをはじめとした生々しいバンド・サウンドが、ゆったりとしたテンポで溶け合う1曲。

 2曲目「I’m Her Slave」は、ところどころ足がもつれるようにリズムのフックを作りながら、立体的なアンサンブルが構成される1曲。

 3曲目「Turn On The Water」は、ワウのかかったギターと、細かくリズムを刻むピアノが、ファンクの香りを漂わせる1曲。全体のリズムも、直線的な8ビートではなく、リズムが伸縮するような躍動感があります。

 4曲目「Conjure Me」。こちらも3曲目に続いて、ワウが効果的に使用されています。弾むようなドラムと、低音域を動きまわりながら支えるベース、その上に乗る2本のギターが、機能的に絡み合い、アンサンブルを構成します。

 6曲目「Congregation」は、コード進行とメロディーが、明らかに一般的なロックとは異なる1曲。「ブラック・ミュージック的」という一言で終わらせるのは忍びないぐらい、奥行きのある楽曲です。やや不穏なイントロに続いて、ボーカルが重力から解放されたように、ソウルフルにメロディーを絞り出していきます。

 9曲目「The Temple」は、2本のギターとリズム隊が、複層的に重なるイントロが印象的。ボーカルが入ってからも、スポークン・ワードのような雰囲気のメロディーと、歌うように動きまわるベース、隙間を埋めるようにかき鳴らすギター、全体を引き締まるドラムと、各楽器が適材適所で有機的にアンサンブルを作り上げていきます。

 10曲目「Let Me Lie To You」は、テンポを落とし、サイケデリックな雰囲気が漂う1曲。ボーカルも、感情を排して囁くような歌い方で、ギターもドラッギーにフレーズを紡いでいきます。

 12曲目「Miles Iz Ded」は、回転するような小刻みなギターのフレーズが、ボーカルよりも前面に出てくるようなバランスのサウンド・プロダクション。

 アルバム全体を通して「ブラック・ミュージック的」、というよりむしろ「ロック的ではない」という印象が強い1枚です。もちろん、ソウルやファンク、R&Bといったブラック・ミュージックの要素は随所に感じられるのですが、少なくとも僕には、いわゆる普段聴き慣れたロックとは違う、という印象が前面に出てきます。

 ブラック・ミュージックを愛聴かつリスペクトしつつ、自分たちで消化した上で音楽を作り上げている、とも言えるでしょう。オリジナリティに溢れた作品であると思います。

 





The Afghan Whigs “Up In It” / アフガン・ウィッグス『アップ・イン・イット』


The Afghan Whigs “Up In It”

アフガン・ウィッグス 『アップ・イン・イット』
発売: 1990年4月
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 1986年にオハイオ州シンシナティで結成されたバンド、アフガン・ウィッグスの2ndアルバム。1988年の1stアルバム『Big Top Helloween』は、彼らの自主レーベルUltrasuedeからのリリースでしたが、本作『Up In It』は、シアトルを代表するインディー・レーベル、サブ・ポップからのリリース。レコーディングも、当時サブ・ポップのバンドを数多く手がけたジャック・エンディーノが担当。

 ギター・ボーカル担当のグレッグ・デュリ(Greg Dulli)と、ギター担当のリック・マッコラム(Rick McCollum)は、共にR&Bなどのブラック・ミュージックを好んで聴いており、アフガン・ウィッグスを結成して初めて演奏したのは、テンプテーションズの「Psychedelic Shack」とのこと。

 そんなバックボーンもあり、アフガン・ウィッグスの音楽性は、ブラック・ミュージックの要素を持ったロック、ブラック・ミュージックとオルタナティヴ・ロックの融合、などと説明されることがあります。本作も、グレッグ・デュリのソウルフルなボーカルを筆頭に、ブラック・ミュージックからの影響が随所に感じられます。

 当時は、グランジ・オルタナ・ムーヴメントの勃興期。前述したとおり、本作のレコーディングは、ニルヴァーナ『Bleach』やマッドハニー『Mudhoney』を手がけたジャック・エンディーノが担当しており、サウンドは当時のオルタナに近いものです。オルタナ・ブームにおいては、文字通り掃いて捨てるほど多くのバンドがデビューし、そして消えていったのですが、アフガン・ウィッグスは確固とした音楽的志向を持っており、3rdアルバム以降は、よりブラック・ミュージック色を強めた作品をリリースしていきます。

 1曲目「Retarded」は、やや引きずるような、糸を引くようなギターが印象的な1曲。ドラムは比較的シンプルな8ビート、ベースは小節のアタマの音を強調。言語化すると、ブラック・ミュージックからは程遠い音楽のようですが、そこまで強くはないもののファンク色を感じるアレンジです。ボーカルも、抑える部分と感情を解放する部分がはっきりとしていて、ソウルフルに響きます。

 2曲目の「White Trash Party」は、イントロから各楽器が絡み合い、グルーヴ感に溢れた1曲。左チャンネルのワウのかかったギター、右チャンネルの小気味いいディストーション・ギター、メロディアスなベース、タイトなドラムが、立体的なアンサンブルを作り上げていきます。その上に乗るボーカルも、シャウトをしながら雑にはならず、メロディーを紡いでいきます。

 5曲目「Amphetamines And Coffee」は2分弱の短い曲ですが、イントロから段階的に波のようにバンドが躍動し、テンポはそこまで速くはないのに、疾走感があります。だんだん加速していくようにも感じます。

 6曲目「Hey Cuz」は、各楽器がタイトにリズムを刻み、走り抜ける1曲。ギターの小刻みなカッティングと、タイトで正確なリズム隊が、疾走感あふれる演奏を展開します。特にギターのリズムがフックになっており、リスナーの耳を掴んでいきます。

 8曲目「Son Of The South」というタイトルも示唆的ですが、ブルースのスライドギターを思わせるイントロから、立体的なリズムのノリの良いロックンロールが展開されます。リズムを止めてためるところが随所にあり、進行感を強めています。

 本作はレコードとCDで収録曲数が異なり、レコードでは9曲、CDでは13曲収録となっています。1曲目から9曲目までは、前述したとおりジャック・エンディーノによるレコーディング。10曲目から12曲目はウェイン・ハートマン(Wayne Hartman)、13曲目はポール・マハーン(Paul Mahern)によるレコーディングで、おそらく録音時期が違うので、10曲目以降はボーナス・トラック的な意味合いなのでしょう。

 サウンド的には、当時のいわゆるオルタナやグランジの範疇に入る、歪んだギターを用いた、生々しい耳ざわりを持っていますが、リズムにはところどころブラック・ミュージック的な粘り気を感じるアルバムです。当時の他のグランジ・バンドと比較すると、一線を画したオリジナリティを持ったバンドであると言えるでしょう。

 前述したとおり、この後の3枚目以降では、さらにブラック・ミュージックの要素を強めていきます。どちらを好むかは、リスナーの好みによるとしか言えませんが、R&Bやソウルをオルタナティヴ・ロックの枠組みのコンパクトに落とし込んだ本作も、魅力的で優れた作品であると思います。

 





Band Of Horses “Cease To Begin” / バンド・オブ・ホーセズ『シーズ・トゥー・ビギン』


Band Of Horses “Cease To Begin”

バンド・オブ・ホーセズ 『シーズ・トゥー・ビギン』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 ワシントン州シアトルで結成されたバンド、バンド・オブ・ホーセズの2ndアルバム。1stアルバム「Everything All The Time」に続き、シアトルを代表するインディペンデント・レーベル、サブ・ポップからのリリース。しかし、この2ndアルバムを最後に、彼らはサブ・ポップを離れます。

 プロデュースは、シアトルを中心に活動し、マッドハニーやフリート・フォクシーズも手がけるフィル・エク。

 エモいメロディーと歌唱が前面に出た、インディーロック。と書くと「エモいってなに?」って話なんですが、メロディーに起伏があり、ヴァースとコーラスが循環し盛り上がる構造があり、ボーカルは伸びやかでヴィブラートが多用され、思わずシングアロングしたくなるような楽曲群がおさめられている、ということ。

 このアルバムに限らず、バンド・オブ・ホーセズの奏でる音楽は、起伏の大きいわかりやすいメロディーを持ちながら、仰々しくなり過ぎず、アレンジも秀逸でメロディーばかりが前景化しないバランスが、絶妙だと思います。

 1曲目「Is There A Ghost」のイントロから、エモさ全開のボーカルが高らかにメロディーを歌い上げます。しかし、アレンジにはメジャー的な仰々しさはあまり感じられず、インディーらしい空気が随所に感じられます。

 2曲目「Ode To LRC」は、ところどころスキップするようにタメが作られ、緩やかにグルーヴしながら展開していく1曲。加速するのではなく、再生時間1:15あたりから減速してメロウな雰囲気を演出します。

 5曲目「The General Specific」は、ドラムとハンド・クラップが立体的に響き、みんなで輪になって歌いたくなる1曲です。キャンプファイヤーで歌いそうなポップさがあり、相変わらずボーカルはエモいのですが、モダンなインディーロックに仕上がっています。再生時間2:35あたりからのピアノが、緩やかに転がっていくようで心地よく、アクセントになっています。

 7曲目「Islands On The Coast」は、空間系エフェクターのかかったギターが重なり、厚みのあるサウンドを作り上げる1曲。ややテンポが速く、疾走感があります。ハイトーンのボーカルも、厚みのあるギターと共犯で楽曲を加速させていきます。随所に小刻みなリズムを差し込むドラムも、フックを作っています。

 10曲目「Window Blues」は、スローテンポのゆったりしたアンサンブルに乗せて、ボーカルも穏やかにメロディーを綴っていきます。各楽器が絡み合い、緩やかなグルーヴが形成される1曲。バンジョーの音が、カントリーの香りも振りまきます。

 前述したように、ボーカリゼーションとメロディーはエモいのですが、歌メロが前景化される、あるいは歌メロを盛り立てるための仰々しいアレンジが展開されるわけではなく、アンサンブルも等しく魅力的なインディーロック然としたアルバムです。

 また、収録されている楽曲群もバラエティに富んでいて、バンドの懐の深さを感じさせます。アメリカのインディーズ・バンドというと、カントリーやブルースなどルーツ・ミュージックの香りを漂わせるバンドが少なくないですが、このバンドはルーツ臭がしないのが、オリジナリティになっています。

 言い換えれば、ルーツ・ミュージックを現代的に再解釈するのではなく、自分たちの鳴らしたい音楽を鳴らしている、そしてその音がモダンで、オリジナリティに溢れているところが、このバンドの魅力だと思います。

 





Avi Buffalo “Avi Buffalo” / アヴィ・バッファロー『アヴィ・バッファロー』


Avi Buffalo “Avi Buffalo”

アヴィ・バッファロー 『アヴィ・バッファロー』
発売: 2010年4月27日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 カリフォルニア州ロングビーチ出身、アヴィ・バッファローことアヴィグダー・ベンヤミン・ザーナー・アイゼンバーグを中心にしたグループ、アヴィ・バッファローの1stアルバム。

 今作はセルフ・タイトルとなっており、フロントマンの名前、グループ名、アルバム・タイトルが全て「Avi Buffalo」です。

 ナチュラル・トーンのギターを中心に、丁寧にアンサンブルが組み上げられるアルバムです。サイケデリックな音色と、爽やかなギターポップ的なサウンドがバランスよく溶け合った、サウンド・プロダクション。コーラスワークも、バンドのアンサンブルと有機的に対応していて秀逸です。

 非常に完成度の高い音楽性とアンサンブルを持つアルバムなので、フロントマンのアヴィがこの当時まだ19歳というのは本当に驚きです。早熟の天才というのは、こういう人を言うんですね。また、彼のハイトーンのボーカルも、このバンドの大きな魅力になっています。

 1曲目「Truth Sets In」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークに続いて、ハーモニクスを用いたギターが重なり、アンサンブルを形成していきます。ハーモニクスの使い方が、非常に効果的で、楽曲をカラフルかつ幻想的にしています。

 2曲目「What’s In It For?」は、イントロから開放的なボーカルが響き渡る1曲。かなり高音域を用いたメロディーですが、耳に刺さらない程度に絞り出すようなボーカルが、エモさを演出しています。

 4曲目「Five Little Sluts」は、ミニマルなイントロのアンサンブルから、徐々にシフトが上がりグルーヴ感が増していく展開。

 6曲目「Summer Cum」は、各楽器が立体的に響くサウンド・プロダクションが心地よい1曲。2本の絡み合うアコースティック・ギターが、特に有機的なアンサンブルを構成。

 7曲目「One Last」は、ドラムとパーカッションがいきいきと響き、音数は少ないながら躍動感あるアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 アルバムを通して聴いてみると、楽曲の多彩さ、サウンド・プロダクションの鮮やかさが、より強く感じられます。各楽器のオーガニックな音色、立体的で緩やかなグルーヴ、ハイトーンのボーカルとコーラスワークなどなど、フックとなる要素も満載で、聴いていて本当に耳の心地よいアルバムです。

 前述したとおり、フロントマンのアヴィはこのアルバムのリリース当時19歳。10代にして、この完成度のアルバムを作り上げるとは末恐ろしいです。しかし、Avi Buffaloというプロジェクトは、2014年に2ndアルバム『At Best Cuckold』をリリース後、翌2015年に活動終了となってしまいました。

 フロントマンのアヴィ君は、本当に天才だと思うので、今後の活躍にも期待したいです。

 





Beach House “Thank Your Lucky Stars” / ビーチ・ハウス『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』


Beach House “Thank Your Lucky Stars”

ビーチ・ハウス 『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』
発売: 2015年10月16日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Chris Coady (クリス・コーディ)

 フランス出身のヴィクトリア・ルグランと、メリーランド州ボルチモア出身のアレックス・スカリーからなる2ピース・バンド、ビーチ・ハウスの6枚目のアルバム。

 柔らかなウィスパーボイスのボーカルを筆頭に、全体のサウンド・プロダクションもソフトで幻想的。音響を前景化させた…というより、ボーカルと全ての楽器が溶け合って、心地よいひとつのハーモニーになったような作品です。

 かといって、全ての曲が類似した金太郎飴的なアルバムかといえば、そうではありません。楽曲ごとに異なる響きを持っていますが、共通した空気がアルバム全体に充満しているということ。

 アンサンブルもビートも認識できるのですが、それ以上に音の響き自体が心地よく、自分も音楽のなかを漂っているような気分になります。

 2曲目「She’s So Lovely」は、ミニマルなドラムのリズムと、アンサンブルの隙間を埋め尽くす、種々のエレクトリックな持続音が心地よい1曲。そのなかに溶け込むように、メロディーを紡ぐ耽美なボーカルは、幻想的かつサイケデリック。

 3曲目の「All Your Yeahs」は、淡々と8分音符を刻むギターとドラムの上で、ボーカルがゆったりとしたテンポで漂う1曲。ドラムとギターが一定のテンポを守り続けていて、トリップ感覚もあります。そのコントラストのためか、再生時間2:37あたりからのシンセと思われるソロが、ひときわメロディアスに感じられます。

 4曲目「One Thing」は、ギターとドラムの音がソリッドで、ビートも強く感じる1曲。ギターをフィーチャーしつつ、エレクトリックな持続音も加えて空間を満たすところは、シューゲイザーのようにも聞こえます。

 7曲目「Elegy To The Void」は、柔らかな音の波が上下に揺れる1曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようなメロディーを歌っています。音響とバンドのアンサンブルが、不可分なほど一体化していて、この演奏にはこのサウンドしかない、という絶妙なバランス。

 ビーチ・ハウスは、ジャンルとしてはドリーム・ポップのフォルダに入れられることが多いのですが、本作もドリーミーなサウンドで満たされたアルバムであると言えます。

 では、本作の「ドリーミーなサウンド」とは、具体的にどのような音が鳴っているのかと言えば、まず輪郭がぼやけた、非常にソフトなサウンド・プロダクションを持っています。その柔らかなサウンドによって、リズムやメロディーよりも、音響が前景化され、音楽の響きに身を委ねる気持ち良さに溢れたアルバムです。

 まさに夢の世界を漂うような音を持った作品だと思います。僕はこのアルバムに没頭すると、トリップしそうにもなりますが(笑)