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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

Two Gallants “We Are Undone” / トゥー・ギャランツ『ウィー・アー・アンダン』


Two Gallants “We Are Undone”

トゥー・ギャランツ 『ウィー・アー・アンダン』
発売: 2015年2月2日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Karl Derfler (カール・ダーフラー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの通算5枚目のスタジオ・アルバム。前作に引き続き、ニューヨーク拠点のインディー・レーベル、ATOからのリリース。

 トゥー・ギャランツの音楽性をざっくりと説明するならば、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを、パンクやオルタナティヴ・ロックと融合し、現代性を持たせた、ということになるでしょう。しかし、一口にそうは言っても、アルバムごとに質は変化しています。

 1stアルバム『The Throes』から、3rdアルバム『Two Gallants』までは、アコースティック楽器を中心に据えたフォーキーなサウンドで、ロック的なグルーヴ感やダイナミズムを実現した作風となっていました。

 その後、4年間の活動休止期間を挟み、レーベルもサドル・クリークからATOへと移籍してリリースされた前作『The Bloom And The Blight』は、エレキ・ギターを多用し、ルーツ・ミュージックを下敷きにしたオルタナティヴ・ロック、とでも呼ぶべき質を持っています。

 3年ぶりにリリースされる本作『We Are Undone』でも、前作の音楽性を引き継ぎ、ブルースやフォークを思わせる要素が、エレキ・ギターを用いたオルタナティヴ・ロック的なサウンド・プロダクションとアレンジに融合。ルーツ・ミュージックを現代的に解釈した音楽が、展開しています。

 1曲目「We Are Undone」は、粘っこいギターのフレーズと、ほどよく枯れたボーカルが、ブルージーな香りを振りまく1曲。しかし、倍音たっぷりの歪んだギター、立体的でパワフルなドラムの音作りは現代的。ルーツと現代性が融合した、トゥー・ギャランツらしいサウンドが、早速鳴らされています。

 2曲目「Incidental」は、エフェクターを多用した、厚みのあるギター・サウンドが主軸になった、疾走感あふれるブルース・ロック。再生時間1:29あたりからのギターソロは、糸を引くようなフレーズを、ジャンクな音作りがさらに際立たせています。

 3曲目「Fools Like Us」は、ギターとドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいく、タイトなアンサンブルが展開する1曲。

 4曲目「Invitation To A Funeral」は、ピアノがフィーチャーされ、「葬儀への招待」という曲名のとおり、メロウで寂しげな1曲。しかし、ドラムはパワフルかつ立体的に響き、躍動感も併せ持った楽曲です。

 5曲目「Some Trouble」は、滑らかに振り下ろすようなドラムのイントロから始まり、そのドラムに絡みつくように、ブルージーで引きずるようなギター・プレイが繰り広げられます。音符が糸を引くような、粘っこいグルーヴ感を持った、ミドルテンポの1曲。

 6曲目「My Man Go」は、全体的にリヴァーブがかかったような、反響音たっぷりのサウンド・プロダクション。ゆったりとしたリズムに乗せて、前述の空間を感じるサウンドと共に、メロディーが紡がれていきます。

 8曲目「Heartbreakdown」は、イントロからパーカッションが立体的なサウンドでレコーディングされ、飛び道具的なサウンドと、透明感のあるサウンドが溶け合った、アヴァンギャルドかつポップな1曲。実験性とポップさのバランスが絶妙で、個人的に大好きな曲です。

 10曲目「The Strange Is Gone」は、音数を絞ったシンプルなピアノと、コーラスワークが前面に出たバラード。楽器の数は多くないものの、アンサンブルには躍動感があります。

 ギターやボーカルのフレーズには、ブルースやフォークの要素が強いのですが、音作りとアレンジには、オリタナティヴ・ロックや音響系ポストロック的な色が濃く出たアルバムです。

 単純化して言うならば、ルーツ・ミュージックのパーツを、現代的な手法で再構築したインディー・ロック。アメリカが持つルーツ・ミュージックの歴史と、実験精神が溶け合っているようでもあり、実にアメリカらしい1作であるとも思います。

 





Two Gallants “The Bloom And The Blight” / トゥー・ギャランツ『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』


Two Gallants “The Bloom And The Blight”

トゥー・ギャランツ 『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』
発売: 2012年9月4日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの前作から5年ぶりとなる4thアルバム。

 前作『Two Gallants』を2007年にリリースしたのち、バンドは2008年から2012年まで活動休止。この間、アダム・スティーヴンス(Adam Stephens)はソロ・アルバムを制作、タイソン・ヴォーゲル(Tyson Vogel)はディボーショナルズ(Devotionals)というバンドを結成してアルバムを制作するなど、メンバーはそれぞれ音楽活動を重ねていました。

 そして、前述のとおり5年の月日を経て、レーベルをサドル・クリークからATOへと移籍し、リリースされたのが本作『The Bloom And The Blight』。

 トゥー・ギャランツの魅力を端的に表すなら、ブルースやフォークなどルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、パンキッシュな攻撃性を持ち合わせているところ。アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーなサウンドを持ちながら、ロックやパンクに負けないダイナミズムを持っています。

 前作『Two Gallants』では、ややダイナミックなサウンドは抑えめに、アンサンブルを重視した音楽を志向していましたが、5年ぶりのアルバムとなる本作では、再び尖ったサウンドが戻ってきています。

 1曲目の「Halcyon Days」は、メロウなギターのイントロから始まりますが、再生時間0:26あたりから、早速ダイナミックな音の波が押し寄せます。感情を絞り出すようなボーカリゼーションは、パンキッシュともブルージーとも呼びたくなるもの。タメをたっぷりと取ったミドルテンポに乗せて、立体的なアンサンブルが展開します。

 2曲目「Song Of Songs」は、ギターの流れるようなフレーズと、メロウなボーカルから始まり、フルバンドになると激しいサウンドへと一変します。リズムが伸縮するように躍動する1曲。

 3曲目「My Love Won’t Wait」は、大地を踏みしめるような雄大なリズムと、ざらついた歪みのギターが重なる、ミドルテンポの1曲。

 4曲目「Broken Eyes」は、アコースティック・ギターとハーモニカ、パーカッション、歌のみで構成された、オーガニックな響きを持った1曲。牧歌的で親しみやすい雰囲気と、歌の魅力が、前面に出ています。

 6曲目「Decay」の前半は、アコースティック・ギターとボーカル、ストリングスが、ヴェールのような音の壁を作り上げていきます。再生時間2:17あたりでドラムが加わると、立体感も伴い、穏やかながらパワフルな音像へ。荘厳な雰囲気と、ダイナミズムを併せ持ったアレンジ。

 9曲目「Cradle Pyre」は、チクタクチクタクと、各楽器が有機的に噛み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。疾走感の溢れるビートや、ゆったりとタメを作ったリズムが、次々と入れ替わり、色彩豊か。

 以前は、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドでありながら、ハードロックにも劣らないダイナミズムを持っていたのが特徴だったのですが、本作ではエレキ・ギターが多用され、よりオルタナティヴ・ロックやガレージ・ロックに近い音像となっています。

 しかし、歌のメロディーやギターのフレーズには、ブルースやカントリーの要素が、以前と変わらず色濃くにじみ、ルーツ・ミュージックと現代性が融合した音楽となっています。4曲目「Broken Eyes」や、10曲目「Sunday Souvenirs」のように、アコースティック楽器が、主軸に据えられた楽曲も健在です。

 僕はトゥー・ギャランツが大好きなのですが、こういう音楽を聴くと、アメリカという国の懐の深さを感じますね。豊かなルーツ・ミュージックの文化と、巨大な社会システムが融合した、力強さに溢れています。

 2018年10月現在、AmazonとSpotifyでは配信されていますが、Appleでは未配信です。





Two Gallants “Two Gallants” / トゥー・ギャランツ『トゥー・ギャランツ』


Two Gallants “Two Gallants”

トゥー・ギャランツ 『トゥー・ギャランツ』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Alex Newport (アレックス・ニューポート)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの3rdアルバム。2人とも複数の楽器をこなしますが、基本編成はギター・ボーカルとドラム。

 前作『What The Toll Tells』では、アコースティック・ギターを主軸にした2ピースとは思えぬ、荒々しく躍動的なサウンドを響かせていたトゥー・ギャランツ。その音楽性は、フォークとブルースとパンクが融合した、とでも言いたくなるものでした。

 およそ1年半ぶりとなる本作では、ダイナミズムは抑えめに、よりフォーク色の濃い、牧歌的な演奏が展開されています。パンクやオルタナティヴ・ロックの要素よりも、ルーツ・ミュージックが前景化されたアルバムとも言えるでしょう。

 1曲目「The Deader」は、空気に染み入るようなギターのイントロに続いて、ゆるやかな躍動感を伴った立体的なアンサンブルが展開する1曲。バンド全体が、一体の生き物のように、いきいきと進行します。

 2曲目「Miss Meri」では、コミカルなギターのイントロから始まり、ドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいきます。この曲は、とにかくドラムが素晴らしく、歌うように表情豊か。

 4曲目「Trembling Of The Rose」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、ストリングスが随所でヴェールのように、全体を包み込む1曲。

 6曲目「Ribbons Round My Tongue」は、ギターとハーモニカが織りなす穏やかなイントロに導かれ、ブルージーなボーカルがメロディーを紡いでいく1曲。音数を絞った隙間の多いアンサンブルですが、スカスカという感覚は無く、一音一音が染み入るように響きます。再生時間2:39あたりから始まる、泣きのハーモニカも聴きどころ。

 7曲目「Despite What You’ve Been Told」は、チクタクチクタクと軽やかにリズムを刻むギターに、パワフルなバスドラが重なり、徐々に立体感と躍動感を増していきます。

 9曲目「My Baby’s Gone」は、ギターとボーカルを中心とした、ゆっくりと音が広がるパートと、バンドが躍動感たっぷりにスウィングするパートが交互に訪れる、コントラストが鮮やかな1曲。

 躍動感とダイナミズムにおいては、前作より控えめ。しかし、いきいきとした躍動的なアンサンブルは健在です。音量や音数は抑えめに、音の組み合わせによってダイナミズムを演出する、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムとも言えます。

 個人的には、パワフルな音像と、パンキッシュな疾走感を持った、前作の方が好みですが、本作も優れた質を持った作品であることは、間違いありません。

 





Two Gallants “What The Toll Tells” / トゥー・ギャランツ『ホワット・ザ・トール・テルズ』


Two Gallants “What The Toll Tells”

トゥー・ギャランツ 『ホワット・ザ・トール・テルズ』
発売: 2006年2月13日(イギリス), 2006年2月21日(アメリカ)
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Scott Solter (スコット・ソルター)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの2ndアルバム。バンド名の由来は、アイルランドの小説家・ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の短編小説集『ダブリン市民』(Dubliners)に収録の小説タイトルから。

 「フォーク・デュオ」というと、ゆずやコブクロを想像する方も、いらっしゃるでしょう。トゥー・ギャランツも、アコースティック・ギターを主軸にした2人組であり、フォーク・デュオと呼んでも差し支えありません。しかし、ギターに合わせて、爽やかにハモるグループを想像すると、見事に予想を裏切られます。

 しばしば「パンクとブルースを注入したフォーク・ロック」と形容されるぐらい、パワフルで躍動感に溢れた演奏を展開するのが、トゥー・ギャランツの特徴。本作も、サウンドの面では、アコギやハーモニカを用いて、フォーク的でありながら、ロックが持つ高揚感とダイナミズムを、多分に含んだ音楽を繰り広げています。

 1曲目の「Las Cruces Jail」は、木枯らしが吹きぬける中を、ブルージーなギターと笛が鳴り響くイントロから始まります。その後、ボーカルが入ってきて、バンドによる演奏が始まるのですが、アコースティック楽器を主軸にしながらも、ドタバタと躍動するアンサンブルと、かすれながらもパワフルにシャウトするボーカルに、圧倒されることでしょう。

 2曲目「Steady Rollin’」は、ギターのアルペジオを中心にした、牧歌的なサウンドを持った1曲。穏やかな雰囲気ながら、ボーカルはパワフルで、ドラムは立体的。リズムが伸縮するように躍動します。

 4曲目「Long Summer Day」では、各楽器とも飛び跳ねるように躍動し、立体的でいきいきとしたアンサンブルが展開。フォーキーなサウンドと、パンクの攻撃性、ブルースの土臭さが溶け合った、カラフルな1曲です。

 5曲目「The Prodigal Son」は、ギターとドラムを中心に、全ての楽器がリズムを噛み合い、ゆるやかなグルーヴ感を持った演奏が展開する1曲。

 6曲目「Threnody」は、9分を超えるスローテンポのバラード。前半はボーカルとギターが、丁寧に音を紡いでいき、再生時間1:45あたりからドラムが入ってくると、アンサンブルが立体的に広がっていきます。

 7曲目「16th St. Dozens」は、本作には珍しく、激しく歪んだギター・サウンドが用いられた1曲。アコースティック楽器のみでも十分パワフルで、ダイナミズムの大きいトゥー・ギャランツですが、この曲ではノイジーでジャンクなギターの歪みが、サウンドにさらなる厚みをもたらしています。

 8曲目「Age Of Assassins」では、みずみずしい音色のギターと、立体的なドラムが、飛び跳ねるように躍動していきます。テンポを随所で切り替え、サウンドとリズムの両面でコントラストの鮮やかな1曲。

 9曲目「Waves Of Grain」では、いつにも増して、ボーカルがエモーショナル。ドラムが叩きつけるようにリズムを刻み、ギターはその間を埋めるように音を紡いでいきます。リズムが次土と変化し、色彩豊かな展開を見せる1曲。

 オーガニックな楽器の響きを使いながら、パンクやハードロックにも負けないダイナミズムを実現しているアルバムです。

 アコースティック・ギターとドラムがアンサンブルの中心ですが、エレキを用いたロックバンドにも負けない、パワフルなサウンドと躍動感を持っています。また、適度にざらついたボーカルの声にも、ブルースとパンクを合わせた魅力があります。

 トゥー・ギャランツが結成されたサンフランシスコというと、同じくフォークを基調とした2人組・ドードース(The Dodos)の出身地でもありますが、サンフランシスコにはフォークをダイナミックに響かせる土壌があるのでしょうか?

 そのように感じるほど、両者ともフォークを下敷きに、ロック的なダイナミズムに溢れた音楽を鳴らしています。

 日本には似ているバンドがありませんし、ドードースと並んで、心からオススメしたいバンドのひとつです。

 





Kinski “7 (Or 8)” / キンスキー『セブン (オア・エイト)』


Kinski “7 (Or 8)”

キンスキー 『セブン (オア・エイト)』
発売: 2015年6月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Phil Manley (フィル・マンリー)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算8枚目のスタジオ・アルバム。

 アルバムのタイトルは、おそらく本作が7作目、あるいは8作目となるため、付けられたのでしょう。自主リリースだった1stアルバムを含めると8作目、除くと7作目ということではないかと思います。

 アルバムごとに音楽性を、少しずつ変化させるキンスキー。サブ・ポップに残した3枚のアルバムは、いずれもポストロック色の強い作品でしたが、キル・ロック・スターズへレーベルを移籍してリリースした前作『Cosy Moments』は、ボーカル入りの曲が増え、取っつきやすい歌モノの一面も持ったアルバムでした。

 キル・ロック・スターズ移籍後、2作目となる本作。キンスキー史上、最もハードなサウンド・プロダクションの1作となっています。

 収録される7曲中、ボーカルが入るのは、2曲目「Flight Risk」と、6曲目「Operation Negligee」のみ。その2曲に関しても、歌のメロディーが前景化されているわけではなく、バンドのアンサンブルに埋もれるようなバランスで、レコーディングされています。

 1曲目「Detroit Trickle Down」では、アームを使っているのか、エフェクターで音を動かしているのか、イントロから音程が上下に動くギターが用いられています。激しく歪んだギターを筆頭に、全ての楽器は生々しく、タイトに引き締まった音質でレコーディングされています。各楽器が組み合い、パワフルで一体感のある演奏が展開。唸りをあげるギターソロが、楽曲にラフな魅力を加えています。

 2曲目「Flight Risk」は、ざらついた歪みのギターを中心に、各楽器が複雑にもつれ合うアンサンブルの間を、ボーカルがすり抜けるようにメロディーを紡いでいく1曲。ボーカル入りではありますが、音量的にはギターの厚みのあるサウンドが、前面に出てくるバランスです。

 3曲目「I Fell Like A Fucking Flower」は、跳ねたリズムのドラムに、ギターが絡みつき、徐々に音数が増え、アンサンブルが厚みを増していく1曲。リズムやフレーズはシンプルで、ループ・ミュージックの要素も持った楽曲です。

 4曲目「Powder」では、各楽器が絡み合いながら進行していく、グルーヴ感に溢れた演奏が繰り広げられます。この曲でも、シンプルなリズムをひたすら繰り返しながら、徐々に変化があらわれるループ・ミュージック的な手法が垣間見えます。ワウのかかったギターも、楽曲をカラフルに彩るアクセント。

 5曲目「Drink Up And Be Somebody」は、溜め込んだエネルギーが暴発するように、前のめりに音が飛び出していく1曲。タイトかつパワフルなリズム隊に、激しく歪んだ複数のギターが絡みつき、一体感と疾走感があふれる演奏が繰り広げられます。

 6曲目「Operation Negligee」は、ボーカル入りの曲ですが、各楽器の音に埋もれるように、ボーカルが奥の方から聞こえてきます。それぞれ音作りの異なる複数のギターが用いられ、ギターを中心に厚みのあるアンサンブルが展開。

 7曲目「Bulletin Of The International String Figure Association」は、12分近くに及ぶ大曲。音数を極限まで絞ったミニマルな前半部から、再生時間2:32あたりでギターが入り、徐々に音と楽器が増え、丁寧に織物を作り上げるようなアンサンブルを展開します。ドラムが複雑にリズムを刻み、立体感も伴ったアレンジ。

 アルバム全体を通して、激しく歪んだギターを主軸にしたアンサンブルが展開。ハードな音像を持った1作です。

 過去2作は、ボーカル入りの曲を増やし、分かりやすいポップ・ミュージックの枠組みに寄り添った音楽へ移行するのかと思いきや、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 歌モノはダメで、激しいやつ、実験的なやつの方が良い!と、言いたいわけではありません。ただ、キンスキーというバンドの魅力は、やはりその壮大なアンサンブルと実験精神にあると思うんですよね。

 キャリアを重ねてきて、このようなアグレッシヴな作品を作り上げる彼らが好きです。