「オルタナティヴ・ロック」カテゴリーアーカイブ

The Thrown Ups “Seven Years Golden” / ザ・スローン・アップス『セヴン・イヤーズ・ゴールデン』


The Thrown Ups “Seven Years Golden”

ザ・スローン・アップス 『セヴン・イヤーズ・ゴールデン』
発売: 1997年1月28日
レーベル: Amphetamine Reptile (アンフェタミン・レプタイル)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 1984年に、ベーシストのジョン・ビーザー(John Beezer)を中心に結成されたザ・スローン・アップス。のちにマッドハニー(Mudhoney)を結成することになる、マーク・アーム(Mark Arm)とスティーヴ・ターナー(Steve Turner)が在籍したことでも知られています。

 ジャンクなバンドが多く在籍した個性的(言い換えれば変態的)なレーベル、アンフェタミン・レプタイルから、1枚のアルバムと3枚の7インチ盤シングルをリリースした彼ら。本作『Seven Years Golden』は、彼らがアンフェタミン・レプタイルに残した音源を網羅した、ディスコグラフィ盤です。

 14曲目を除いて、レコーディング・エンジニアはジャック・エンディーノが担当。14曲目の「Be Correct」は、ビート・ハプニング(Beat Happening)のメンバーであり、Kレコーズの設立者でもある、キャルヴィン・ジョンソン(Calvin Johnson)が手がけています。

 リリースは1997年ですが、収録されている音源は、1987年から1990年にリリースされたもの。全てLPおよび7インチのレコードでの発売だったので、これがザ・スローン・アップス単独作品の初CD化でもありました。結成の1984年から1990年までの7年ということで、『Seven Years Golden』というアルバム・タイトルなのでしょう。

 1988年にサブ・ポップがリリースしたコンピレーション盤『Sub Pop 200』には、ザ・スローン・アップスの「You Lost It」が収録されていますが、こちらの盤は1989年にCD化されています。ちなみに「You Lost It」は、本作には未収録。

 この曲も、彼らのジャンクな糞バンドぶりが、遺憾なく発揮されたトラックですし、『Sub Pop 200』も当時のインディー・シーンを垣間見るのに最適なアルバムですので、気になった方はこちらも併せてチェックしてみてください。(2018年8月現在、残念ながらデジタル未配信のようです。)

 「誰も楽器を触ったことがなく、誰も曲を書いたことがない」というアイデアから始まった、このバンド。初ライブは1985年2月のハスカー・ドゥ(Hüsker Dü)の前座としての出演で、オーディエンスのウケが悪かったときに投げつけるため、生牡蠣を用意。結果は、なかなかの盛り上がりを見せたのに、結局カキを投げつけるなど、イかれたエピソードを多数持っています。

 そんなコンセプトどおりに、本作で聴かれるのも、型を意図的にはみ出た、アングラ臭の充満するジャンクなロック。演奏がウマイ、ヘタ以前に、チューニングをちゃんとしてください!と言いたくなるような、そもそもチューニングなんてどうでも良いと思えるような音楽が展開されます。

 あまりハードルを上げ過ぎる(むしろ下げ過ぎる?)と、「思ったより全然クソじゃなかった」と感じられるかもしれません。曲によっては、ハードに歪んだギターが疾走していく、普通のロックに近いかっこよさを持ち合わせています。

 1曲ごとにどうこう語るようなアルバムではありませんが、電子的なノイズや、下品に歪んだギター、ブチ切れ気味にシャウトするボーカル、自由に叩きつけるようなドラムなど、一本調子ではなく、楽曲により多様なサウンドが響き、思いのほかカラフルな印象のアルバムでもあります。

 セバドーやペイヴメント、前述のキャルヴィン・ジョンソン率いるビート・ハプニングなどが奏でる、いわゆるローファイとも違った、下品なサウンドと演奏を繰り広げるバンドです。感情のほとばしりを感じるのもいいですし、どれぐらい糞バンド(褒め言葉)なのか聴いてみたいという方が、話のネタとして聴くのも良いでしょう。

 Amazonではデジタル配信はなく、一部の中古にはとんでもない価格がついているようですが、SpotifyとApple Musicでは配信されています。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Acme” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『アクメ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Acme”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『アクメ』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Calvin Johnson (カルビン・ジョンソン), Steve Albini (スティーヴ・アルビニ), Suzanne Dyer (スザンヌ・ダイアー), Greg Talenfeld (グレッグ・タレンフェルド)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に結成されたバンド、ベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの6枚目のスタジオ・アルバム。

 バンド名が示唆するとおり、ブルースをモダンな形で再解釈するこのバンド。ブルースを下敷きにして、ガレージ・ロック、パンク、ローファイなど、多様な音楽の要素が合わさり、コンパクトにまとめ上げるのが、このバンドの魅力であり特徴と言えます。

 6作目となる本作でも、ブルージーなフレーズが、ガレージ的なざらついた歪みのギター・サウンド、ファンクを彷彿とさせる粘っこいグルーヴ感、アングラ臭の漂うシャウトなどと溶け合い、ジョンスペ特有のロックが展開。

 初期の頃に聞かれた、プッシー・ガロアを彷彿とさせるジャンクな音色も健在ですが、楽曲はコンパクトに、グルーヴ感を持って、まとまっています。

 基本的には「進化」「洗練」とポジティヴに捉えるべき変化だと思いますが、プッシー・ガロア時代の愛すべき糞ロックといった音楽性を求める方には、「落ち着いてしまった」「つまらなくなった」と感じられるかもしれません。実を言うと、僕もそのクチです(笑)

 とはいえ、3人で作り上げる糸を引くようなグルーヴ感は健在…というより、ますます機能的で、気持ちよくなってきていて、音楽としてのクオリティが低いわけでは、決してありません。

 アルバム6枚目ともなれば、ある程度のマンネリ化や、落ち着きも仕方ないと思いますが、このバンドは本作に至っても、悪ふざけ感を持っていて、シリアスになりすぎないところが魅力。

 ミュージック・ビデオも制作された5曲目の「Talk About The Blues」を例に取ると、シンプルなアンサンブルの中に、ノイジーなギターと、ジャンクなボーカルが乗り、ロックが持つグルーヴ感と、アンダーグラウンドな空気が、程よくミックスされて充満しています。

 





Goon Moon “Licker’s Last Leg” / グーン・ムーン『リッカーズ・ラスト・レッグ』


Goon Moon “Licker’s Last Leg”

グーン・ムーン 『リッカーズ・ラスト・レッグ』
発売: 2007年5月8日
レーベル: Ipecac (イピキャック)

 マリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズに参加していたベーシストのジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)でギターとボーカルを務めるクリス・ゴス(Chris Goss)から成るバンド、グーン・ムーン。

 2005年に、デビュー作となるミニアルバム『I Got A Brand New Egg Layin’ Machine』をリリース。本作は、そのミニアルバムに続き、2007年にリリースされた1stフル・アルバムです。前作はスーサイド・スクイーズからのリリースでしたが、本作はレーベルを変え、イピキャックからリリース。

 前作では、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーであるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジットされていましたが、本作ではレコーディングに参加しているものの、ゲスト扱いとなっています。

 前作でもジャンル分けに困る、アヴァンギャルドで、バラエティに富んだ音楽を鳴らしていたグーン・ムーン。歌を中心に置かない曲も多かった前作に比べて、本作の方が歌メロのある構造のはっきりした楽曲が増加しています。

 アレンジとサウンドには、前作に引き続き実験的な要素もありますが、本作の方が歌メロに沿って曲を追いやすく、その点では聴きやすくなったと言えます。

 前作は、ザック・ヒルも含めた3人の個性がぶつかり合う演奏が主要な聴きどころでしたが、本作ではバンド全体のグルーヴ感や躍動感が前景化。個人プレーから、全体の有機的なプレーへと優先順位が移ったような印象を受けるアルバムです。

 特に前作では大暴れしてたザック・ヒルのドラムが、本作では楽曲の構造に寄り添ったかたちで、あまり冒険する場面がありません。このあたりは、やはりホワイトとゴスが制作の主導権を握っているということなのでしょう。ゲスト扱いになったのも、関係しているのかもしれません。

 1曲目「Apple Pie」は、イントロから、ストリングスによる金切り声のような音が響きわたり、不穏な空気を持ったまま曲が始まります。しかしその後は、各楽器が有機的に絡み合い、穏やかにグルーヴするアンサンブルが展開。ボーカルとコーラスワークも立体的で、アンサンブルに奥行きをプラスしています。

 2曲目「My Machine」は、ドラムとギターの音がノイジーに響く、アヴァンギャルドな雰囲気でスタート。その後、コンパクトのまとまった、疾走感あふれるロックが展開されます。

 3曲目「An Autumn That Came Too Soon」は、打ち込み的な小粒でタイトなドラムと、ギターの幾何学的なフレーズが重なり、タペストリーのように音楽が編み込まれていきます。途中から入ってくるギターのロングトーン、長めの音符を用いた漂うようなボーカルも、音楽を多層的にしています。再生時間1:53あたりからの間奏が現代音楽のようで、楽曲にさらなる深みをプラス。

 5曲目「Pin Eyed Boy」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、緩やかにグルーヴするアンサンブルが展開される1曲。穏やかなボーカル、空間に浸透していくように響くギターが、その場を埋め尽くすように、優しく広がります。

 11曲目「The Golden Ball」は、9分を超える曲で、クレジット上は「a」から「h」まで8つに分けられ、それぞれにタイトルが付されています。ミニマルなイントロから、カントリーのような穏やかな歌モノ、ノイジーなサウンドへと次々と多彩に展開があり、情報量の多い1曲です。

 勢いと攻撃力重視の前作と比較すると、楽曲の構造を重視し、より大人になったアンサンブルが展開される1作と言えます。一聴した時には、前作のアグレッシヴで変態的なアンサンブルの方が好きでしたが、聴き込んでいくほどに、本作の奥の深さに引かれていきました。

 





They Might Be Giants “Lincoln” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『リンカーン』


They Might Be Giants “Lincoln”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『リンカーン』
発売: 1988年9月25日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 1982年に結成され、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの2ndアルバム。タイトルの「リンカーン」とは、彼らが育ち出会った、マサチューセッツ州の街の名前です。

 前作『They Might Be Giants』では、2人のメンバーが多重録音と打ち込みを駆使して、ほぼ全ての楽器を演奏していましたが、2作目となる本作でもその方針は変わりません。

 主な担当楽器は、ジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)が、ギター、トランペット、グロッケンシュピール、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)。ジョン・リネル(John Linnell)が、アコーディオン、キーボード、オートハープ、サックス、クラリネット。ボーカル、作曲、打ち込みのプログラミングは、2人とも務めます。唯一のサポート・ミュージシャンは、3曲目の「Lie Still, Little Bottle」でドラムを担当するケネス・ノーラン(Dr. Kenneth Nolan)。

 ややローファイなサウンドで、ギターポップ色が強く、カラフルで親しみやすい音楽を作り上げた前作。本作では、カラフルで雑多な部分が引き継ぎつつ、アンサンブルはよりタイトに、深みと精度を増しています。

 先ほど挙げたとおり、アコーディオンやメロディカなど、一般的なロック・バンドがあまり使わない楽器を用いて、実験性とポップさを持ち合わせた、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げます。

 1曲目「Ana Ng」は、ギターとドラムがタイトにリズムを刻んでいく1曲。イントロはストイックに音数が絞られていますが、再生時間0:36あたりから軽快に疾走するところや、アクセントのように絶妙に差し込まれるアコーディオンなど、1曲目から彼らの音楽の深さが十分に感じられます。

 2曲目「Cowtown」は、イントロからサックスが鳴り響き、アヴァンギャルドな雰囲気を持った1曲。しかし、難しい曲というわけではなく、ジャンクなパートと、カラフルに緩やかにグルーヴするパートが交互の訪れ、全体の耳ざわりは非常にポップです。

 3曲目「Lie Still, Little Bottle」では、前述のとおりサポート・メンバーがドラムを担当。ドラムの立体的なリズムを筆頭に、歩き回るようなベース・ライン、アクセント的に挿入されるトランペットとサックスなど、ジャズの香りが漂う1曲です。

 4曲目「Purple Toupee」は、ほどよく歪んだギターとシンセサイザーが前面に出た、疾走感あふれるギターポップ。

 5曲目「Cage & Aquarium」は、下の方からパワフルに響くフロアタムと、ファニーな音色のギター、カラフルなコーラスワークが重なる、1分ほどの曲。

 8曲目「Mr. Me」は、様々な音が飛び交うカラフルでポップな1曲。アコーディオンや口笛のような音など、一般的なロックでは使用されない音が、楽曲を親しみやすく、鮮やかにしています。

 9曲目「Pencil Rain」は、行進曲のようなリズムに乗せて、ボーカルがダンディーにメロディーを歌い、まわりではポップかつアヴァンギャルドな音が飛び交う1曲。再生時間1:21あたりから信号音のように聞こえるキーボードらしき音など、実験的な要素も含んでいるのに、全体としては非常にポップな仕上がりなのは、彼らならではのバランス感覚。

 10曲目「The World’s Address」は、ピアノがフィーチャーされ、ラテンの香り漂う1曲。しかし、再生時間1:30あたりからのギター・ソロからは、ジャンクでローファイな空気も漂い、ただジャンルを借りてくるだけではありません。サックスの音色もアクセントになっていて、楽曲を多彩にしています。

 15曲目「Shoehorn With Teeth」は、サックスとアコーディオン、ボーカルがいきいきとしたアンサンブルを繰り広げる、民謡的な耳ざわりの1曲。

 16曲目「Stand On Your Own Head」は、オートハープと思われるサウンドが弾むように鳴り響く、ブルーグラスを彷彿とさせる1曲。躍動感と疾走感もあり、ポップで楽しい空気に溢れています。

 18曲目「Kiss Me, Son Of God」は、ストリングスが導入され、ボーカルと共に、厚みのあるハーモニーを作り上げる1曲。クラシック寄りの荘厳な雰囲気にはならず、ほどよくポップで軽さを持った、曲に仕上がっています。

 多種多様な楽器と音楽ジャンルを参照しながら、オリジナリティを失わず、極上のポップスを聴かせてくれるのが、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツです。2作目となる本作では、前作以上に多くの音楽ジャンルの要素を感じさせながら、カラフルで親しみやすい、そして一貫性のあるアルバムを作り上げています。そのポップ・センス、バランス感覚が、本当に素晴らしいバンドです。





They Might Be Giants “They Might Be Giants” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』


They Might Be Giants “They Might Be Giants”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』
発売: 1986年11月4日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 マサチューセッツ州リンカーンで出会い、10代の頃から仲が良かったジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)とジョン・リネル(John Linnell)により結成された2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。本作は彼らの1stアルバムで、通称「ピンク・アルバム」(The Pink Album)とも呼ばれます。

 また、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneが契約した2つ目のバンドであり、同レーベル2枚目のアルバムでもあります。(1枚目は、レイジ・トゥ・リブ(Rage To Live)の1stアルバム『Rage To Live』)

 前述したとおり、2人組のバンドであり、レコーディングやライブではサポート・メンバーを迎えることもあるものの、本作ではほとんど全ての楽器を2人で演奏しています。例外は、13曲目の「Boat Of Car」で、マーガレット・セイラー(Margaret Seiler)がリード・ボーカルを、14曲目の「Absolutely Bill’s Mood」では、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーン(Eugene Chadbourne)
がギターを務めています。

 それ以外は、メンバー2人で全ての楽器を担当。本作での主な担当楽器は、フランズバーグが、ギター、ベース、ハーモニカ。リネルが、アコーディオン、キーボード、シンセベース、サックス。作曲とボーカルは2人とも担当し、ドラムとベースは打ち込みも使用されています。

 そんな2人が鳴らすのは、様々な音が散りばめられた、カラフルでポップな音楽。アコーディオンや電子音など、ギター以外の音色が重用され、ややローファイ風味の親しみやすいサウンド・プロダクションも欠点ではなく、魅力に転化してします。

 1曲目「Everything Right Is Wrong Again」から、歪んだギターと、チェンバロのような倍音たっぷりの音色のキーボードが、軽快に疾走する1曲。再生時間0:58あたりからはテンポを落とし、空間系エフェクターのかかったギターがサイケデリックな空気を振りまきます。さらに、再生時間1:40あたりから元のテンポに戻ると、ピコピコ系の電子音が加わって、おもちゃのようなサウンドになり、色鮮やかな展開。

 2曲目「Put Your Hand Inside The Puppet Head」は、ドラムマシーンが刻むタイトなリズムに、テクノポップ的な電子音が絡み合う1曲。軽さを持ったボーカルも、バックのサウンドとマッチしていて、ポップな世界観を作り上げます。

 3曲目「Number Three」は、厚みのあるコーラスワークと、アコースティック・ギターのリズムから、カントリーが感じられる1曲。しかし、良い意味でカントリー色が薄く、ポップ色が色濃く出ています。

 5曲目「Hide Away Folk Family」は、イントロからクリーントーンのギターと、口笛のようなサウンドが響き、ボーカルも穏やかで、牧歌的な雰囲気の1曲。ですが、歌詞をじっくり聞いてみると、「隠れて! さもないと捕まっちゃうよ!」というようなことを歌っていて、ちょっとホラーな内容です。再生時間1:58あたりからハードに歪んだギターが入ってくる部分も象徴的ですが、サウンド的にも歌詞的にも、ちょっとねじれたところがあるのが、このバンドの魅力だと思います。

 8曲目「Rabid Child」は、揺らぎのあるキーボードと、シンセベースと思われる野太いサウンドが、独特の浮遊感あるアンサンブルを構成する1曲。ドラムはイントロからしばらくはシンプルですが、再生時間0:52あたりから立体的にリズムを刻み、アクセントになっています。

 9曲目「Nothing’s Gonna Change My Clothes」は、小刻みにリズムを刻むドラムに、キーボードやギター、ボーカルが立体的に重なり、アンサンブルを作り上げていきます。随所で聞こえるファニーなサウンドも、曲をカラフルに彩っています。

 13曲目「Boat Of Car」には、マーガレット・セイラーがゲスト・ボーカルとして参加。1分ちょっとの短い曲ですが、やや倍音多めのチープなキーボードの音色と、彼女のシリアスなボーカルが、絶妙なバランスで溶け合った1曲です。

 14曲目「Absolutely Bill’s Mood」には、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーンが参加。演劇じみたボーカルに、チャドボーンのフリーなギターが絡み合い、ノー・ウェーブなど、ニューヨークのアンダーグラウンドを思わせる1曲です。

 打ち込みと多重録音を駆使した、2ピースの手作り感あふれる作品です。限られた機材で、一般的な3ピースや4ピース・バンドとは一線を画した、独自のポップな世界観を構築しています。彼らの溢れるクリエイティヴィティが感じられる1作。

 また、ポップなだけではなく、実験性も随所に隠し味のように含まれていて、音楽に深みがあるところも、彼らの魅力だと思います。