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Black Dice “Creature Comforts” / ブラック・ダイス『クリーチャー・コンフォーツ』


Black Dice “Creature Comforts”

ブラック・ダイス 『クリーチャー・コンフォーツ』
発売: 2004年6月22日
レーベル: DFA

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ニューヨックのブルックリンを拠点に活動するバンド、ブラック・ダイスの2ndアルバムです。

 ジャンルとしては、エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックに分類されることの多いブラック・ダイス。2枚目のアルバムとなる本作『Creature Comforts』でも、展開されるのは明確な形式を持たない、実験的で自由な音楽です。

1stアルバム『Beaches & Canyons』は、ノイズ色、アンビエント色の濃い作品でしたが、それと比較すると本作は、遥かにポップで聴きやすい音楽になっていると思います。

 前作は音響が前景化され、素材となる音もノイジーなものが多用されていましたが、本作ではビートやアンサンブル(のようなもの)が前面に出てくる曲もあり、音の種類も多彩になっています。カラフルな印象のサウンド・プロダクションを持った1作です。

 1曲目の「Cloud Pleaser」から、奇妙な音も入っていますが、多様な音がカラフルに響き、サウンドも立体的な1曲です。

 2曲目「Treetops」は、イントロからシンセの音なのか、太くうねるようなサウンドによって、ビートが形成されます。そのサウンドをベースに、ギターや人の声のような音など、雑多な音が加わっていき、徐々にカラフルに賑やかになっていく1曲。再生時間3:03あたりから入る音は、一般的な感覚からしたらノイズでしかない音色ですが、ハード・ロックのリフのようにかっこよく響くから不思議。

 6曲目の「Skeleton」は、15分を超える大曲。中盤はクリーントーンのギターと電子音が増殖していき、美しく壮大なサウンドスケープ。目まぐるしく展開があるわけではなく、エレクトロニカのように音響が前景化した曲です。

 アルバム全体を通して聴いても、前作よりも遥かにポップで聴きやすくなった1作だと思います。

 ヴァースとコーラスが循環するような形式を持った楽曲群ではなく、サウンドにもノイズ色はありますが、いきいきとした音楽的な躍動感にも溢れたアルバムです。

 ノイズ然としたノイズよりも、少しチープでジャンクな音を多用しているところも、親しみやすさを増していると思います。

 誰にでもおすすめ!という作品ではないですが、エレクトロニカやポストロックを聴く人には、受け入れられる1作ではないかと思います。

 





Black Dice “Beaches & Canyons” / ブラック・ダイス『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』


Black Dice “Beaches & Canyons”

ブラック・ダイス 『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』
発売: 2002年7月29日
レーベル: DFA

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ニューヨックのブルックリンを拠点に活動するバンド、ブラック・ダイスの1stアルバムです。

 エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックにカテゴライズされることの多いブラック・ダイス。本作も実験的で、時にノイジー、時にアンビエントなサウンドが鳴り響く1枚です。

 1曲目の「Seabird」から、鳥の鳴き声のような高音と、多種多様なノイズが重なり合い、独特の音空間を作り出します。一般的なヴァース=コーラス形式を備えた楽曲ではなく、そういう意味ではポップではありませんが、再生時間2分を過ぎるあたりから、叩きつけるようなビートが登場するなど、展開はあります。

 2曲目の「Things Will Never Be The Same」は、ノイジーで雑多な1曲目「Seabird」から一変して、アンビエントで穏やかな1曲。波の音のようなノイズが押し寄せては引き、中盤以降はビートが入ってくるなど、こちらの曲もミニマルながら展開があります。しかし、音響を重視した曲であるのも事実。

 3曲目「The Dream Is Going Down」は、イントロから多種多様な音が飛び交います。一般的にはノイズとしか言えない音の数々ですが、音の種類が多く、カラフルな印象の1曲。

 4曲目の「ndless Happiness」は、タイトルのとおり穏やかで、優しいサウンドを持った1曲。いつ耳障りなノイズが飛び出してくるのか、と身構えていると、再生時間5:30ぐらいから、躍動感あふれるいきいきとしたドラムがきます。アンビエントな音とドラムのビートが重なり、これは分かりやすくかっこいい!

 前述したとおり、エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックに分類されるブラック・ダイス。本作も実験的でノイジーな音に溢れ、一般的な意味では全くポップとは言えません。

 しかし、メロディーを追う、リズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、音響が非常に心地いい部分であったり、行き交うノイズかかっこよかったり、と音楽のむき出しの魅力を感じられる部分があります。

 とはいえ、誰にでもすすめられる作品かというと、やはりそうではなく、ある程度リスナーを選ぶ作品であるのは事実です。ノイズやアヴァンギャルドに属する音楽にしては、ポップだと思います。(なんだか矛盾するようですが…)

 僕はけっこう好き!

 





Zombi “Surface To Air” / ゾンビ『サーフェス・トゥ・エア』


Zombi “Surface To Air”

ゾンビ 『サーフェス・トゥ・エア』
発売: 2006年5月2日
レーベル: Relapse (リラプス)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のロック・デュオ、ゾンビの2ndアルバムです。ベースとシンセサイザー担当のスティーヴ・ムーア(Steve Moore)と、ドラムとシンセサイザー担当のA.E.パテラ(A.E. Paterra)からなる2人組。

 このグループが奏でる音楽は、ジャンルとしてはスペース・ロックやシンセウェーブにカテゴライズされることが多いのですが、なぜだかメタル系のレーベルであるリラプスと契約しています。

 本作『Surface To Air』で展開されるのは、うねるようなシンセの音と、タイトなリズム隊が絡む、複雑怪奇なアンサンブル。

 シンセサイザーらしい柔らかな音色が使用されていますが、もしかしたらアナログ・シンセが使用されているのかもしれません。音に独特の暖かみと太さがあります。

 3曲目の「Legacy」を例にとると、同じフレーズを繰り返すシンセを、正確なリズム隊が支え、徐々にアンサンブルが複雑さを増していく展開。

 シンセサイザーの音色にはエレクトロニカ、タイトで複雑なドラムにはポストロック、全体の幾何学的なリズム・デザインにはマスロック…を感じなくもないですが、そういったジャンル分けが無力化されてしまうほど、個性的で意味不明(ほめ言葉です)な音楽が繰り広げられます。

 一部のポストロックやマスロック・バンドが目指す、過激で複雑なアンサンブルを、シンセサイザーの音色を用いて鳴り響かせた。一言で説明するならば、そんな作品だと思います。

 他に似たような音を出しているバンドがいませんし(大量にいても困るけど笑)、個人的にはけっこうお気に入りのグループであり、アルバムです。

 こういうグループと契約するリラプスの柔軟性にも、ちょっと感心しました。

 





Jim O’Rourke “Eureka” / ジム・オルーク『ユリイカ』


Jim O’Rourke “Eureka”

ジム・オルーク 『ユリイカ』
発売: 1999年2月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる2枚目のアルバム。

 フリー・インプロヴィゼーションや音響的な作品、ノイズや現代音楽など、実に多種多様な音楽を生み出すジム・オルーク。とっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップです。

 しかし、耳にやさしく聴きやすい音楽であるのと同時に、ジム・オルークの音楽的教養の深さ、知識の豊富さが感じられる、広大な世界観を持った作品でもあります。

 本作『Eureka』は、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、古き良きアメリカン・ポップス、さらに電子音を使った音響的なアプローチやフレンチ・ポップまで、多種多様な音楽が、現代的な手法で再構築した1枚です。

 言語化すると、なんだか小難しそうですが、できあがった音楽はどこまでも優しく、音楽の心地いい部分だけを素材として使い、凝縮したようにポップです。

 アルバム1曲目の「Prelude To 110 Or 220 / Women Of The World」では、イントロからフィンガー・ピッキングによる、ナチュラルなアコースティック・ギターの音が響きます。しかし、ギターが鳴っているのは主に右チャンネル。左チャンネルからは、電子音のような響きが近づいてきます。両者は絶妙に溶け合い、全体として、とても心地よい響きを生み出すから不思議。

 さらに再生時間0:20あたりで、視界が大きく開けるように、楽器の数が増え、カラフルで開放的なアンサンブルとサウンドを構成します。このあとも、ジムの優しい歌声が加わったり、1:48あたりからギターと電子音が絡み合うように旋律を紡いだりと、次々と風景が変わるように、展開していく1曲です。8分を超える曲ですが、全く冗長な印象はありません。

 3曲目「Movie On The Way Down」は、音数が少なく、レコード針のノイズのような音が持続する、アンビエントなイントロから、徐々に音楽が姿をあらわしていきます。様々な音が重なり合い、幻想的な音世界を作り上げていく1曲。

 4曲目の「Through The Night Softly」は、スティール・ドラムの響きがかわいらしい1曲。音の配置を変えれば、もっとアヴァンギャルドな印象の曲になりそうですが、一般的なヴァース-コーラス形式とは違うものの、進行感も感じられ、ポップな曲に仕上がっています。

 6曲目の「Something Big」は、ピート・バカラックのカバー。こんなところにも、ジムの過去の音楽への深いリスペクトが感じられます。

 前述したように、非常にポップで、楽しいアルバムです。しかも、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、新しさにも溢れた1作。

 様々な音楽を、再解釈し組み上げるセンスからは、ジム・オルークの音楽的語彙の豊富さと、音楽への深い愛情が伝わります。深い意味で、ポップな作品です。こういう作品が、もっと売れる世界になってほしい。(世界中で十分に売れた作品ですが…)





Azeda Booth “In Flesh Tones” / アゼダ・ブース『イン・フレッシュ・トーンズ』


Azeda Booth “In Flesh Tones”

アゼダ・ブース 『イン・フレッシュ・トーンズ』
発売: 2008年9月28日
レーベル: Absolutely Kosher (アブソリュートリー・コーシャー)

 カナダのエクスペリメンタル・ポップ・バンド、Azeda Boothの1stアルバムであり、唯一のアルバム。カリフォルニア州エメリーヴィルのレーベル、Absolutely Kosherからのリリース。

 輪郭のぼやけた、ふんわりした電子音を多用した、エレクトロニカに近いサウンドを持ったアルバムです。ボーカルも、ささやき系の女声で、柔らかいバックの音色とのバランスが抜群に良い。

 しかし、音響に特化した作品なのかというとそうでもなく、生き生きとした躍動感や、テクノ的なビートも顔を見せる1作です。

 1曲目の「Ram」は、イントロからアンビエントな電子音が響きますが、再生時間0:17あたりでドラムが入ってくると、途端に躍動感が生まれます。

 2曲目の「In Red」は、ドラムの立体的な音に、臨場感がある1曲。各楽器が絡み合いながら網の目のように音楽を織り上げるなか、ウィスパー系のボーカルが自由に漂うようにメロディーを紡いでいきます。電子音を中心にしたサウンドですが、暖かみのあるサウンドで、母親の胎内にいるような気分になります。

 3曲目は「First Little Britches」。こちらも電子音らしい音色で出来上がった1曲。切り刻まれ再構築されたようなリズムの中から、徐々にグルーヴが生まれる展開がスリリング。

 4曲目の「John Cleese」は、さらにビートが前景化された1曲。オウテカを感じさせるリズムとサウンド・プロダクションです。ただ、ボーカルが入っているため、ビートのあるヒーリング・ミュージックのようにも聞こえます。

 5曲目の「Lobster Quadrille」も、複雑なリズムを持った1曲。やや不穏な空気の電子音が、緊張感と不安感を醸し出します。

 6曲目の「East Village」は、イントロから電子音が心地よく持続します。再生時間0:45あたりで高音が入ってくるところで、虚をつかれてちょっとビックリしました(笑)

 10曲目の「Kensington」では、ヴィブラフォンのようなマレット系の打楽器のような音が心地よく響きます。イントロから複数の楽器が8分音符でリズムを刻み続けるんですが、この重層的なサウンドも心地いい。4分弱の曲ですが、展開が多く、情報量の多さを感じる1曲。再生時間1:20あたりから盛り上がるところもかっこいいし、これは名曲だと思います。

 ほとんど予備知識なしに聴いたアルバムですが、思いのほか良い作品でした。最初にも書いた通り、歌の入ったエレクトロニカといった感じですが、ビートが強く、いきいきと躍動感が溢れる曲もあります。