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Extra Golden “Hera Ma Nono” / エクストラ・ゴールデン『ヘラ・マ・ノノ』


Extra Golden “Hera Ma Nono”

エクストラ・ゴールデン 『ヘラ・マ・ノノ』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 2004年に結成された、ケニア人とアメリカ人による混成バンド、エクストラ・ゴールデンの2ndアルバム。

 結成当時のメンバーは、ワシントンD.C.拠点のポストロック・バンド、ゴールデン(Golden)のイアン・イーグルソン(Ian Eagleson)。同じくワシントンD.C.拠点のインディー・ロック・バンド、ウィアード・ウォー(Weird War)のアレックス・ミノフ(Alex Minoff)。そして、ケニアのベンガ(Benga)と呼ばれるポピュラー音楽のグループ、オーケストラ・エクストラ・ソーラー・システム(Orchestra Extra Solar Africa)のオティエノ・ジャグワシ(Otieno Jagwasi)の3人。

 2004年に1stアルバム『Ok-Oyot System』が完成しますが、2005年にジャグワシが肝不全のため死去。アルバムは2006年にリリースされ、バンドはオーケストラ・エクストラ・ソーラー・システムのドラマーであり、ジャグワシの兄弟でもあるオンヤゴ・ウウォド・オマリ(Onyago Wuod Omari)と、ベンガの著名なミュージシャンであるオピヨ・ビロンゴ(Opiyo Bilongo)を新メンバーに迎え、本作を制作しています。

 上記のメンバー交代を経て、アメリカ人2名と、ケニア人2名の4人編成となったエクストラ・ゴールデン。前作でも、直線的ではない飛び跳ねるリズムが、コンパクトなインディー・ロックのフォーマットに落とし込まれ、ゆるやかな多幸感を持った音楽を響かせていました。

 2作目となる本作では、ベンガとロックがより自然なかたちで溶け合い、一体感と躍動感を増したアンサンブルが展開しています。

 1曲目「Jakolando」は、小気味いいギターのカッティングから始まり、ベース、ドラム、ピアノが立体的に折り重なり、ゆるやかに躍動しながら進行します。

 2曲目「Obama」は、細かくポリリズミックなプレイを見せるドラムの上に、トロピカルで軽やかな歌と、バンド・アンサンブルが乗る1曲。この曲は、1人で変幻自在にリズムを刻む、ドラムが聴きどころです。

 4曲目「Night Runners」では、キレのあるベースと、細かくタイトにリズムを刻むドラムから、ファンクのノリも感じられるアンサンブルが展開。しかし、もちろんリズム構造がファンクと完全一致するわけではありません。ファンク的な、糸を引く粘っこいリズムではなく、鋭く時間を刻みながら、折り重なるようにポリリズムが形成されていきます。

 5曲目「Street Parade」は、エフェクターのかかったギターがフィーチャーされた、ジャンクなサウンドを持った1曲。音はオルタナティヴ・ロックに近いのですが、リズムはロック的な8ビートや16ビートではなく、波打つように躍動的。

 6曲目「Brothers Gone Away」は、空間系エフェクターを用いた複数のギターが、絡み合うようにフレーズを重ね、ドラムはトライバルで立体的にリズムを刻む、インディー・ロックとアフリカ音楽が溶け合った、このバンドらしい1曲。

 8曲目は、アルバム表題曲の「Hera Ma Nono」。各楽器とも、そこまで手数は多くないものの、お互いがリズムを喰い合うように、穏やかなスウィング感を伴って進行。南国を感じさせる、楽しくリラクシングな雰囲気ですが、演奏が徐々に熱を帯びていき、多様なリズムを聞かせる展開はスリリングです。

 アクセントの位置を変えながらダンサブルに弾むリズムはファンクのようでもあるし、穏やかに揺らめくアンサンブルは、レゲエのようにも響きます。しかし、両者の折衷的な音楽というわけではなく、より自由にリズムが伸縮する、リラクシングなアンサンブルが展開するアルバムです。

 ドラムを担当するのは、ケニア人のオンヤゴ・ウウォド・オマリ。僕はベンガという音楽について、ほとんど知識を持ち合わせてはいませんが、いわゆる画一的なロックのリズムとは、異なるリズム構造を持った音楽であることはわかります。





Extra Golden “Ok-Oyot System” / エクストラ・ゴールデン『オク-オヨト・システム』


Extra Golden “Ok-Oyot System”

エクストラ・ゴールデン 『オク-オヨト・システム』
発売: 2006年5月9日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ケニア人とアメリカ人による混成バンド、エクストラ・ゴールデンの1stアルバム。シカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 バンドの始まりは2004年。ワシントンD.C.を拠点に活動するポストロック・バンド、ゴールデン(Golden)のメンバーだったイアン・イーグルソン(Ian Eagleson)は、大学でケニアのポピュラー音楽、ベンガ(Benga)の研究をしていました。

 博士論文用の研究のため、オーケストラ・エクストラ・ソーラー・システム(Orchestra Extra Solar Africa)というベンガ・バンドで活動する、ケニア人のオティエノ・ジャグワシ(Otieno Jagwasi)の協力を得ます。イーグルソンは、アフリカを訪れて、ジャグワシと共に研究を継続。

 そんな時に、イーグルソンの友人であるウィアード・ウォー(Weird War)のアレックス・ミノフ(Alex Minoff)が、ケニアに滞在中のイーグルソンを訪問。ジャグワシを加えた3人で、レコーディングに臨み、完成したのが本作『Ok-Oyot System』です。

 一部の曲では、ジャグワシが在籍するオーケストラ・エクストラ・ソーラー・システムのドラマーであり、ジャグワシの兄弟でもあるオンヤゴ・ウウォド・オマリ(Onyago Wuod Omari)が、ドラムを担当しています。

 アルバム・タイトルは、正確にどのように発音するのか分かりません。ただ、「Ok-Oyot」は、ルオ語(Luo)で「it’s not easy」を意味するとのこと。ルオ語とは、ケニアを中心に、南スーダンやタンザニアにも居住する民族・ルオ族が話す言語。

 また、確定的なソースを発見することができなかったのですが、バンド名の「エクストラ・ゴールデン」は、イーグルソンが在籍するバンド、ゴールデンと、ジャグワシが在籍するバンド、オーケストラ・エクストラ・ソーラー・システムの一語ずつを組み合わせたものではないかと思います。

 上記の経緯で結成された、エクストラ・ゴールデン。僕はベンガについては、全く知識を持ち合わせていませんが、アフリカ的なリズムと、ロックの方法論が、融合した1作となっているのは確かです。すなわち、多層的で複雑なリズムが、コンパクトなヴァース=コーラス構造に収まった、ポップ・ミュージックが展開されています。

 1曲目の「Ilando Gima Onge」は、ギター、ベース、ドラムのロックバンド的な編成ながら、回転するようなギターのフレーズと、手数は少ないながらも、立体的にリズムを刻むドラムが絡み合い、グルーヴ感が生まれていきます。

 2曲目は「It’s Not Easy」。前述のとおり、アルバム・タイトルにある「Ok-Oyot」を英訳すると、「It’s Not Easy」になります。ゆったりとしたテンポに乗せて、揺らめくようなアンサンブルが展開される1曲。

 3曲目は、アルバム表題曲の「Ok-Oyot System」。楽器の数も、音数も多くはないですが、軽やかなリズムが折り重なり、自然と体が動き出す1曲。各楽器が、お互いを追い越し合うように、推進力を持った演奏を展開していきます。

 4曲目「Osama Ranch」は、ギターのなめらかなフレーズと、タイトに絞り込まれたリズム隊が合わさり、心地よい風のように、ゆるやかに躍動する演奏が繰り広げられます。

 5曲目「Tussin And Fightin’」は、イントロから臨場感あるサウンドで録音されたドラムが、タイトにリズムを刻み、サイケデリックな空気を感じさせるギターとボーカルが重なる1曲。

 6曲目「Nyajondere」は、ゆったりとしたテンポに乗って、各楽器がゆるやかに絡み合う、穏やかな曲想とサウンド・プロダクションの1曲。長めの音符を使ったボーカルのメロディーも、バンドに溶け込むように、穏やかな空気を演出します。

 前述のとおり、僕はベンガの知識を持ちわせていませんが、少なくとも本作で聴かれる要素から想像すると、大量の打楽器を使ったポリリズムというより、ゆるやかにスウィングするリズムを持ち味としているようです。

 最大でも4人編成の本作。使用される楽器も、ギター、ベース、ドラムと、通常のロックバンドと変わらぬもの。しかし、そこから鳴らされるのは、ロックらしい画一的な強いビートではなく、巧みにシンコペートする伸縮性のあるリズムを持ち、多幸感のある音楽。

 多幸感と言っても、多数の音が飛び交う祝祭的な音楽ではなく、そよ風や川のせせらぎのように、日常的な心地良さを感じさせるものです。コンパクトなインディー・ロックの枠に、ベンガの要素を落とし込んだ1作となっています。

 2004年にレコーディングされた本作ですが、ケニア人のメンバー、オティエノ・ジャグワシが肝不全のため、2005年に34歳の若さで死去。残されたメンバー2名は、本作にも参加しているドラマーのオンヤゴ・ウウォド・オマリと、ベンガの著名なミュージシャンであるオピヨ・ビロンゴ(Opiyo Bilongo)を加え、4人編成でさらに2枚のアルバムを制作します。





Pavement “Terror Twilight” / ペイヴメント『テラー・トワイライト』


Pavement “Terror Twilight”

ペイヴメント 『テラー・トワイライト』
発売: 1999年6月8日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Nigel Godrich (ナイジェル・ゴッドリッチ)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの5thアルバムであり、最後のスタジオ・アルバム。プロデューサーを務めるのは、近年はレディオヘッド(Radiohead)との仕事で知られるナイジェル・ゴッドリッチ。

 また、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood)が、ハーモニカで数曲に参加しています。

 ローファイを代表するバンドのひとつに数えられるペイヴメント。ローファイとは、録音状態の悪いサウンド、およびそのようなサウンドを志向する音楽を指します。また、サウンドに比例して、演奏やチューニングにも不安定な要素を含むのが、このジャンルの特徴。

 確かにペイヴメントは、メジャー的なゴージャスなサウンドとは一線を画した、ローファイなサウンドを志向しており、演奏にもアヴァンギャルドな要素を多分に含んでいました。しかし、ただヘタクソで進歩がないバンドだったのかと言えば、全くそんなことはありません。

 言い換えれば、音質と演奏をチープにするのが目的化しているわけではなく、確固たる美学を持って、音楽を作りあげてきたということ。

 バンド全体の弦が伸びきったような、ヘロヘロなサウンドを鳴らしていた1stアルバム『Slanted And Enchanted』から、音楽性を微調整しつつ、一貫してアヴァンギャルドかつポップな音楽を作り上げてきました。

 音質面ではなく、演奏面に目を移すと、チューニングの怪しい不協和音や、コードをはみ出すような意外性のあるフレーズが、たびたび用いられています。しかし、それらが耳障りで、ハードルの高い音楽を作ることになっているかというと、結果は逆。

 一般的には単なるノイズや、実験的と思われるアレンジが、むしろフックとなり、ポップでクセになる音楽を作り上げていきます。ペイヴメントは、通常は不純物として排除される要素を、表現の中に取り込み、新しいポップ・ミュージックを作り上げようとしてきたバンドなのではないかと思います。

 さて、前述のとおりラスト・アルバムとなる本作でも、メロウでミドルテンポの曲が並び、穏やかな空気感の中に、実験性を含んだ、ペイヴメントらしい音楽を展開しています。

 1曲目「Spit On A Stranger」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開されます。実験性は控えめで、アンサンブルもサウンド・プロダクションも穏やか。

 2曲目「Folk Jam」は、イントロからバンジョーが用いられ、ゆるやかな躍動感を伴って進行する、カントリー色の濃い1曲。あからさまなノイズや不協和音は出てきませんが、再生時間1:15あたりからの間奏では、ギターが絡み合うアンサンブルの中に、浮遊感のあるサウンドが織り交ぜられ、サイケデリックな空気が漂います。

 5曲目「Major Leagues」は、ゆりかごが揺れるような、穏やかなスウィング感と、サウンド・プロダクションを持った1曲。ボーカルの歌唱も優しく語りかけるようで、子守唄にも聞こえます。

 6曲目「Platform Blues」には、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドがハーモニカで参加。フリーキーなプレイを聴かせています。穏やかな空気が支配的な本作において、ジャンクなサウンドを併せ持った1曲。

 8曲目「Billie」にも、ハーモニカでジョニー・グリーンウッドが参加。イントロは、アコースティック・ギターのストロークを中心に据えた、牧歌的な雰囲気。しかし、再生時間0:54あたりでフルバンドになると、歪んだエレキ・ギターが唸りをあげ、オルタナティヴな音像へと一変します。

 11曲目「Carrot Rope」は、サウンドもボーカルの歌唱も能天気で、アヴァンギャルドかつキュートな1曲。再生時間1:22あたりでリズムが切り替わり、軽快に疾走していくアレンジも鮮やか。

 テンポを落とした曲が多く、牧歌的でカントリー色の濃い1作。しかし、随所にペイヴメントらしい意外性のあるアレンジが散りばめられ、アヴァンギャルド・ポップとでも呼びたい質の音楽が展開されます。

 ラスト・アルバムだから、というわけでもないのでしょうが、アルバム・タイトルのとおり黄昏を感じさせる曲想が多く、バンドのアンサンブルも成熟を感じさせます。

 これまでのアルバムは、よりバラエティに富んだ楽曲が収録され、おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルさがあったのですが、本作はアルバムの色とコンセプトが定まっている印象。

 ただ、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが、ハーモニカでゲスト参加した6曲目「Platform Blues」と8曲目「Billie」は、カオティックなアレンジを含み、オルタナティヴ・ロック色の濃い仕上がりとなっています。

 アルバムとしての完成度は高いのですが、何が飛び出すか分からないワクワク感は、やや後退。このあたりからも、このバンドでなすべき音楽はやり切った、という感じなのかな、と思います。

 





Pavement “Brighten The Corners” / ペイヴメント『ブライトン・ザ・コーナーズ』


Pavement “Brighten The Corners”

ペイヴメント 『ブライトン・ザ・コーナーズ』
発売: 1997年2月11日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Mitch Easter (ミッチ・イースター), Bryce Goggin (ブライス・ゴギン)

 カリフォルニア州ストックトンで結成されたインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの4thアルバム。

 ローファイを代表するバンドの一つに数えられるペイヴメント。ローファイというジャンルを大まかに定義するなら、チープな音質と不安定な演奏によって、メロディーやアンサンブルが前景化した音楽、といったところでしょうか。

 1stアルバム『Slanted And Enchanted』では、ローファイ感の溢れる緩い演奏とサウンドを展開していたペイヴメントですが、2ndから3rdへとアルバムを追うごとに、音質は一般的な意味では向上。

 演奏においても、不安定なチューニングや、アヴァンギャルドなアレンジは散在するものの、実験性とポップさが共存した、良質なオルタナティヴ・ロックとでも呼ぶべき音楽が鳴らされていました。

 しかし、4作目となる本作は、ゆるやかなリズムに乗せて、弦が伸びきったような脱力ポップが展開する、ローファイ感の強い1作となっています。

 1曲目「Stereo」は、シンプルなドラム、ポツポツと音を刻むベース、壊れたバネのように意外性のあるギター、物憂げなボーカルが重なる、脱力ポップ。ギターが激しく歪み唸りをあげ、ボーカルはエモーショナルにシャウトする部分もあり、1曲の中でのコントラストも鮮烈。

 2曲目「Shady Lane / J Vs. S」は、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構成し、ゆるやかなグルーヴ感を伴って進行するミドルテンポの1曲。

 3曲目「Transport Is Arranged」。シンセサイザーで出しているのでしょうが、メロトロンのフルートのようなサウンドが、全体を包み込む、柔らかな音像の1曲。

 4曲目「Date With IKEA」は、ゆったりとしたテンポながら、ギターの音を中心に、ドライヴ感があり、前への推進力を感じる演奏。「イケアとのデート」というタイトルも示唆的ですが、物質主義への皮肉とも、単なる個人的な出来事とも取れる歌詞も秀逸。

 8曲目「Blue Hawaiian」は、音質を絞ったミニマルなアンサンブルに、バンドの演奏に流される脱力系のボーカルが乗る、ゆるゆるのポップ。

 10曲目「Passat Dream」は、タイトなリズム隊に、ギターやコーラスワークが多層的に合わさり、バウンドするような躍動感と共に進行する1曲。時折、挟まれるキーボードやギターによるものと思われる、奇妙なサウンドもアクセントになっています。

 アルバムを通して、随所で奇妙な音が飛び交い、チューニングやハーモニーにも怪しいところが多い演奏。ボーカルとギターは、物憂げでやる気が無さそう。しかし、全体としてはポップな耳ざわりを持った1作です。

 不協和音や、ジャンクなサウンドを用いながら、カラフルでポップなサウンドに仕上げる手法は、ペイヴメントの一貫した特徴であり、魅力であると言えるでしょう。

 前述したとおり、2ndや3rdのハッキリしたアレンジと比較すると、脱力感が前面に出たアルバムとなっています。

 





Pavement “Wowee Zowee” / ペイヴメント『ワーウィー・ゾーウィー』


Pavement “Wowee Zowee”

ペイヴメント 『ワーウィー・ゾーウィー』
発売: 1995年4月11日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの3rdアルバム。

 アルバム・タイトルの「Wowee Zowee」とは、2ndアルバム前に脱退した元ドラマーのギャリー・ヤング(Gary Young)が、興奮したときに口にしていた言葉。

 ローファイを代表するバンドのひとつに挙げられるペイヴメント。ローファイとは、チープな音質と、それに比例した不安定な演奏が特徴のジャンル。

 1stアルバム『Slanted And Enchanted』では、まさにローファイ的な音楽を鳴らしていたペイヴメントですが、3作目となる本作では音質は向上。

 演奏面には意外性が多分にありますが、ヘロヘロのキュートなアンサンブルというより、より実験性が強調された「真面目なエクスペリメンタル・ロック」といった作風になっています。

 音質のしょぼさが強調され、メロディーやむき出しのアンサンブルが前景化された初期の作品に比べると、より計算された実験性を持ったアルバムと言えます。

 1曲目の「We Dance」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークと、ピアノの単音弾きを中心に据えた伴奏に、メロウなボーカルのメロディーが乗る、スローテンポの1曲。水が流れる音がサンプリングされ、過去2作と比較して、凝ったサウンド・プロダクションを感じさせます。

 2曲目「Rattled By The Rush」では、チクタクチクタクと、歯車が噛み合って機械が動くように、有機的でタイトなアンサンブルが展開します。再生時間0:45あたりからの多様な音が飛び交う間奏など、アヴァンギャルドな空気も持った1曲。

 4曲目「Brinx Job」は、おどけた裏声のボーカルに、ワウ・ギターを筆頭にした、多彩なサウンドが絡み合う、オモチャ箱をぶちまけたような、ジャンクでキュートな1曲。

 8曲目「Father To A Sister Of Thought」は、クリーントーンのギターを中心に組み上げられたバンド・アンサンブルに、やや物憂げなボーカルが重なる、ミドルテンポの1曲。ペダル・スティール・ギターの伸びやかなサウンドも加わり、穏やかで、流れるような演奏が展開します。

 10曲目「Best Friends Arm」は、奇妙な音がたくさん入った、アヴァンギャルドでポップなロック・チューン。チューニングに不安を感じるギターや、多種多様な音が飛び交い、立体的でドタバタした、にぎやかな演奏が繰り広げられます。

 14曲目「Fight This Generation」は、エフェクターの多用されたギターと、チェロの音が融合する1曲。ですが、意外性のあるフレーズが散りばめられ、どこか不安定でアヴァンギャルドな空気を持っています。中盤以降は、さらに実験性が増したサウンドへ。

 17曲目「Half A Canyon」は、ざらついた歪みのギターがフィーチャーされた、ジャンクなサウンドを持った1曲。前半は、引きずるようなリズムで進行し、再生時間2:50あたりからは、シンプルなビートで、疾走感のある演奏が繰り広げられます。ただ、電子音や奇声のようなボーカルなど、意外性のあるアレンジも共存。

 18曲目「Western Homes」は、電子的なサウンドと、エフェクト処理されたボーカルが耳に残る、コンパクトにまとまったロック。サウンドはエレポップ風味ですが、演奏はペイブメントらしい、ドタバタ感があります。

 過去2作と比較して、格段に楽曲の多彩さが増した3作目。前述したとおり、音質は向上していますが、演奏は不安定なチューニングや、ノイジーでジャンクなサウンドなど、色彩を増した実験性が溢れるアルバムになっています。

 音質や演奏のしょぼさを強調したローファイ云々というより、実験性とポップさが高い次元で両立された、一種のオルタナティヴ・ロックとして、非常に上質。

 2006年には、ボーナス・トラックを多数収録した2枚組の「Sordid Sentinels Edition」がリリース。現在は、各種サブスクリプション・サービスでも視聴できます。