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Meat Puppets “Up On The Sun” / ミート・パペッツ『アップ・オン・ザ・サン』


Meat Puppets “Up On The Sun”

ミート・パペッツ 『アップ・オン・ザ・サン』
発売: 1985年3月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの3rdアルバム。レコーディング・エンジニアは、1stアルバムから3作連続となる、スポットが担当。

 1stアルバム『Meat Puppets』では高速のハードコア・パンクを鳴らし、2ndアルバム『Meat Puppets II』ではテンポを落とし、フォークやカントリーを取り込んだロックへと、音楽性を変化させたミート・パペッツ。

 3作目となる本作『Up On The Sun』は、ミドル・テンポの楽曲が多いところは前作と共通しているものの、ルーツ・ミュージック色は後退。代わりに、サイケデリック・ロックを思わせる意外性のあるアレンジや、プログレッシヴ・ロックを思わせる複雑かつ整然としたフレーズが増加。音楽性を、またブラッシュ・アップしています。

 1曲目は、アルバム表題曲の「Up On The Sun」。回転するような小刻みなギターのフレーズと、歯切れの良いカッティング、だらっとしたボーカルが重なり、1stアルバムのハードコアとも、カントリー色の濃い2ndアルバムとも、異なるロックを展開しています。

 2曲目「Maiden’s Milk」は、各楽器が正確に組み合い、複雑なアンサンブルを構成する、プログレッシヴ・ロックを彷彿とさせるインスト曲。しかし、途中から口笛が導入され、牧歌的な雰囲気もプラス。様々なジャンルを飲み込んだ、カラフルな1曲です。

 3曲目「Away」も、2曲目に引き続き、各楽器が有機的に絡み合い、複雑なアンサンブルを作り上げていきます。リズムはタイトで、演奏の精度が高く、とても1stアルバムで勢い重視のハードコアをやっていたバンドとは思えません。

 4曲目「Animal Kingdom」は、イントロの高速ギターが、マスロックを思わせる1曲。キレのいいカッティング、スライド・ギターのように揺れ動くフレーズなど、ギターの多彩なアレンジが前面に出てきます。

 6曲目「Swimming Ground」は、空間系エフェクターを用いたギターと、タイトなリズム隊が躍動する、疾走感のある1曲。爽やかなサウンドとコーラスワークからは、ギターポップの香りが漂いますが、ギターの揺れ動くフレーズはサイケデリック・ロックも感じさせます。

 7曲目「Buckethead」は、歯切れの良いギターのカッティングをはじめ、バンド全体がタイトに疾走していく1曲。

 9曲目「Enchanted Pork Fist」は、イントロからバンド全体が一体となって走り抜ける、ハイテンポの1曲。随所でリズムの切り替えが挟まれ、1曲の中での緩急も鮮やか。再生時間1:15あたりからの、ギターの音が増殖していくようなアレンジなど、変幻自在のアレンジも魅力。

 12曲目「Creator」は、各楽器が別々のことをやっているようで、歯車で動くマシーンのようにバンド全体がぴったりと噛み合い、躍動する1曲。テンポが速く、疾走感もあります。各楽器のフレーズは、テクニカルで複雑なのに、完成するアンサンブルは整然としていて、まさに機械でコントロールされているかのように正確無比。

 過去2作と比較して、格段にテクニカルで、演奏の精度が増したアルバムと言っていいでしょう。ニルヴァーナを筆頭に、多くのグランジ・オルタナ世代のバンドに影響を与えたミート・パペッツ。本作を聴けば、その事実も納得です。

 ハードコア・パンクの1st、ルーツ・ミュージックを取り入れた2ndに続いて、3作目となる本作では、ジャンルを折衷した音楽性を超えて、独自の音楽を作り上げています。

 シンプルなロックやパンクをスタート地点としながら、どこか違ったオリジナリティ溢れる音楽を作り出すその手法は、オルタナティヴ・ロック的とも言えます。

 1985年にリリース当初は、12曲収録。その後、1999年にワーナー傘下のレーベル、ライコディスク(Rykodisc)からCDがリイシューされる際、ボーナス・トラックを5曲追加し、計17曲収録へ。

 現在、各種サブスクリプション・サービスで配信されているのも、17曲収録のバージョンです。

 





Meat Puppets “Meat Puppets II” / ミート・パペッツ『ミート・パペッツ・ツー』


Meat Puppets “Meat Puppets II”

ミート・パペッツ 『ミート・パペッツ・ツー』
発売: 1984年4月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1980年に、アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの2ndアルバム。レコーディング・エンジニアは前作に引き続き、当時SSTの多くのレコード制作に関わった、スポットことグレン・ロケット(Glen Lockett)が担当。

 ニルヴァーナのカート・コバーンがお気に入りのバンドに挙げるなど、後続のバンドに多大な影響を及ぼしたミート・パペッツ。ニルヴァーナをはじめ、影響を受けたバンドの多くは、いわゆるグランジやオルタナティヴ・ロックに分類されますが、結成当初のミート・パペッツは、スピード重視のハードコア・バンドとしてスタートしています。

 その後、徐々に音楽性を変え、後のオルタナティヴ・ロック勢に支持されるバンドとなっていきます。1stアルバムでもある前作『Meat Puppets』では、テンポの速い曲が収録され、シャウト気味の激しいボーカルがアジテートするように歌う、ハードコア・サウンドが展開。

 しかし、盲目のブルーグラス・ギタリスト、ドク・ワトソン(Doc Watson)のカバーを収録するなど、その後の音楽性の変化を示唆する要素も、いくつか見受けられました。2年ぶりのアルバムと本作は、前作のハードコア的な高速ビートは、ほとんど鳴りを潜め、フォークやカントリーの色を濃くした1作となっています。

 1曲目の「Split Myself In Two」は、前作を彷彿とさせるハイテンポな1曲。アルバムの幕開けにふさわしく、疾走感あふれる演奏が展開されます。この1曲目を聞いた時点では、前作からの違いはあまり感じないでしょう。

 しかし、2曲目の「Magic Toy Missing」では、テンポは速いものの、ハードコアというより、ブルーグラスに近い曲芸的な演奏が展開。タイトなリズム隊に乗って、流れるようなギターソロが披露される、インスト曲となっています。

 3曲目「Lost」は、馬がギャロップするような躍動感に溢れた、カントリー色の濃い1曲。ボーカルも、前作までの力強く、しゃがれたシャウトとは異なり、朗々としていて、どこか牧歌的。ここまでのアルバム冒頭3曲を聴けば、前作との方向性の違いに気づくはずです。

 4曲目「Plateau」は、ギターを中心としたサイケデリックなアンサンブルと、呪術的なボーカルが合わさる、スローテンポの1曲。ゆったりと余裕を持ったテンポと、ギターの不安定なフレーズが、1960年代のサイケデリック・ロックを思わせます。

 7曲目「Climbing」は、穏やかなギターが厚みのあるサウンドを作り上げる、カントリー色の濃い曲。

 8曲目「New Gods」は、ギターのジャンクな音作りが印象的な、疾走感のあるコンパクトなロック・チューン。クリーン・トーンの音作りが多い本作のギターの中で、エフェクターを多用しているであろう、この曲のギターのサウンドは、かなり異質。

 10曲目「Lake Of Fire」は、歪んだギターによる引きずるようなフレーズと、ハイトーンを織り交ぜたボーカルが重な理、ブルージーでありながら、アングラ感も漂う1曲。

 12曲目「The Whistling Song」は、タイトルのとおり間奏で口笛がフィーチャーされる、ミドル・テンポのロック。ほどよく歪んだギターを用いて、ゆるやかにグルーヴするアンサンブルが展開される、オルタナティヴ・ロック風味の1曲です。

 ハイテンポなハードコア・パンクで疾走した前作と比較すると、テンポは概ね抑えめ。スピード感よりも、アンサンブルを重視した演奏がくり広げられるアルバムです。

 ただテンポを落とすだけではなく、ルーツ・ミュージックを取り入れたアレンジや、グランジを感じさせるざらついたギターの音色など、非常に幅広く多彩な音楽性。前述したとおり、多くのグランジ・オルタナ勢に影響を与えたというのも、頷ける内容です。

 1984年にLPとカセットで発売された当初、および1987年にCD化された際は、12曲収録。1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)からリイシューされる際、ボーナス・トラックが7曲追加され、全19曲収録となっています。ちなみにライコディスクの「ライコ」は、日本語の「雷光」に由来するとのこと。





Meat Puppets “Meat Puppets” / ミート・パペッツ『ミート・パペッツ』


Meat Puppets “Meat Puppets”

ミート・パペッツ 『ミート・パペッツ』
発売: 1982年
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1980年1月に、アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの1stアルバム。

 近年では「カート・コバーンが好んで聴いていた」という文脈で、語られることの多いミート・パペッツ。初期SSTを代表するバンドであり、ニルヴァーナ(Nirvana)をはじめ、サウンドガーデン(Soundgarden)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr)など、数多くの後続バンドに、影響を与えたと言われています。

 ここで挙げたのは、いわゆるグランジとオルタナティヴ・ロックに括られるバンドたち。1980年に結成、1982年に本作でアルバム・デビューを果たすミート・パペッツは、1980年後半から沸き起こるグランジ・オルタナ・ブームを、準備したバンドのひとつと言っていいでしょう。

 しかし、1stアルバムである本作で鳴らされるのは、グランジやオルタナと言うよりも、疾走感の溢れるハードコア・サウンド。ここから彼らは音楽性を少しずつ熟成し、オルタナティヴ・ロックのプロトタイプとなる音楽を作り上げていきます。

 パンク旋風が過ぎ去り、ポストパンクやハードコアなど、パンクの先をバンドが急増し、各地でインディーレーベルが立ち上がっていく1980年代前半。そんな時代にデビューした、ミート・パペッツの音楽の変遷を追うことは、パンクからグランジまでの流れを把握する上でも、非常に有意義です。

 1970年代のオリジナル・パンクの延長線上にあると言える、スピーディなハードコア・パンクが展開される本作。1982年のオリジナル盤は、14曲収録で、時間はおよそ22分弱。速い、短い、アツい、と三拍子そろった1作です。

 しかし、直線的に初期衝動に任せて突っ走るだけかと思いきや、随所にその後の音楽性の拡大を感じさせる要素はあります。例えば、4曲目の「Walking Boss」は、アメリカのフォークシンガーであり、ブルーグラス・ギターの名手、ドク・ワトソン(Doc Watson)のカバー。ルーツ・ミュージックからの影響を、隠すこと無くあらわしています。

 次作『Meat Puppets II』では、よりルーツ・ミュージックを取り込んだロックを志向するミート・パペッツ。疾走感を重視したパンキッシュな曲が並ぶ本作ですが、次作へ繋がるヒントが、いくつも散りばめられています。

 とはいえ、それは次作以降の話。本作は、1stアルバムらしい荒々しい疾走感を、まずは楽しむべきでしょう。

 ちなみに前述のとおり、オリジナルのLP盤は14曲収録ですが、1999年にCDがリイシューされる際に、ボーナス・トラックを18曲(!)も追加。合計32曲収録となっています。

 このボーナス・トラックには、1981年にリリースされたEP『In A Car』や、イギー&ザ・ストゥージズのカバー「I Got A Right」、グレイトフル・デッドのカバー「Franklin’s Tower」などを含み、彼らの音楽性を探る上でも、興味深い内容。

 現在、各種サブスクリプション・サービスで配信されているのも、こちらの32曲収録バージョンです。





Caroline Rose “Loner” / キャロライン・ローズ『ローナー』


Caroline Rose “Loner”

キャロライン・ローズ 『ローナー』
発売: 2018年2月23日
レーベル: New West (ニュー・ウエスト)
プロデュース: Paul Butler (ポール・バトラー)

 ニューヨーク州ロングアイランド生まれ、同州センター・モリシェズ育ちのシンガーソングライター、キャロライン・ローズの3rdアルバム。

 3作目のアルバムとなりますが、2012年の1stアルバム『America Religious』は、自主リリース。2014年の2ndアルバム『I Will Not Be Afraid』も、リトル・ハイ・レコード(Little Hi! Records)という、彼女の2ndアルバムのみをリリースしているレーベルからの発売。

 初期2作は、共にジャー・クーンズ(Jer Coons)がプロデューサーを務め、フォーク、カントリー、ロカビリーなど、アメリカのルーツ・ミュージックに根ざした音楽を志向していました。

 しかし、慣習的なジャンルの限定に不満を感じたローズは、2ndアルバム後に、新たな音楽性を追求し始めます。3年の月日をかけて、作曲とレコーディングを続け、初めて本格的なレーベルとなるニュー・ウエストと契約し、リリースされたのが本作『Loner』。

 アメリカーナやオルタナ・カントリーを扱う、名門レーベルとして知られるニュー・ウエストからのリリースではありますが、一聴するとルーツ・ミュージック色は薄く、シンセサイザーとエレキ・ギターが用いられ、ポストパンク色の濃い音楽が展開されています。

 しかし、聴き込んでいくと、奥底にはフォークやロカビリーの要素も感じられ、ルーツ・ミュージックと現代的なロックとポップスが、絶妙にブレンドされた音楽であることが分かります。

 1曲目「More Of The Same」は、清潔感のある柔らかなシンセサイザーのサウンドからスタート。シンセが前面に出たアレンジですが、いわゆるポストパンク的な躍動感を重視したアレンジではなく、歌と溶け合いながら、ゆったりとグルーヴ感を生んでいくアレンジ。

 2曲目「Cry!」は、倍音たっぷりにうねるシンセのイントロに導かれ、シンプルで整然としたアンサンブルが展開。テンポも基本的なリズム構造も変わらず進行するものの、ギターが加わるなど徐々に音数が増え、ゆるやかにバンド全体がシフトを上げていきます。ボーカルの歌唱もバンドに比例して、ところどころかすれたり、シャウト気味になったりと、表現力豊か。

 3曲目「Money」は、古き良きロックンロールを彷彿とさせる1曲。イントロからはテンションを抑えて進み、再生時間0:30あたりでリズムが浮き上がるに立体的に一変するアレンジは、コントラストが鮮やか。

 4曲目「Jeannie Becomes A Mom」では、高音域を用いたシンセの音色が、清潔感を持って爽やかに響きます。縦の揃ったタイトな演奏が続きますが、シンセの音が多層的に重なり、サウンドがカラフル。

 5曲目「Getting To Me」には、ストリングスが導入され、ベースもコントラバスを使用。シンセの電子的なサウンドと、ストリングスのサウンドが溶け合い、室内楽の香りが漂いつつ、現代的ポップスの香りもする、ジャンル特定のしがたい音楽が鳴らされています。

 6曲目「To Die Today」は、トレモロのかかったギターとヴィブラフォンが、音数を絞った演奏で、緊張感を演出。さらに、シンセが電子的な持続音で全体を包み込み、神秘的な雰囲気を作り出します。

 7曲目「Soul No. 5」は、タイトにリズムが刻まれる、小気味いいグルーブ感のある1曲。

 8曲目「Smile! AKA Schizodrift Jam 1 AKA Bikini Intro」は、曲名のとおり次曲「Bikini」のイントロとなるトラック。50秒ほどの短い曲ですが、イントロからドラムが立体的に鳴り響き、多様な音が飛び交い、賑やかでカラフル。

 9曲目「Bikini」は、厚みのあるシンセによるイントロに続き、ギター、ベース、ドラムが躍動感あふれる演奏を繰り広げる1曲。シンセの音色がポストパンク臭を漂わせますが、ギターがリズムを主導し、パワフルなロック的アンサンブルが展開されています。

 10曲目「Talk」は、シンセを中心とした、細かくパーツを組み上げるようなアンサンブルに、ささやき系のボーカルが重なり、幻想的な雰囲気の1曲。シンセが絶妙にチープな音色を響かせ、ただの清潔感しかないポップスにはならない、オルタナティヴな耳ざわりを楽曲に加えています。

 11曲目「Animal」は、イントロから縦の揃った、タイトなアンサンブルが展開されます。どこでテンションの切り替えがあるのかと、ワクワクしながら聴いていると、再生時間1:14あたりから、ボーカルがロングトーンを用い、バンドもリズムがばらけた奥行きのある演奏へ。

 前述のとおり、キャロライン・ローズの音楽的ルーツにはフォークやカントリーが間違いなくあるのに、本作ではシンセが多用され、一聴すると現代的なポップスのような仕上がりになっています。

 しかし、随所にカントリーやロックンロールを感じる、アレンジとフレーズが散りばめられ、アメリカ音楽の豊かさを再認識できるアルバムです。

 カントリーを基調に、オルタナティヴ・ロック的な激しいギターや、実験的なアレンジを用いた音楽を「オルタナ・カントリー」と呼ぶことがあります。本作も、ルーツ・ミュージックと現代ロックの融合という点では、オルタナ・カントリーと共通しているのですが、その方法論は大きく異なります。

 カントリーをオルタナティヴ・ロックで、アップデートしようという意図はおそらく無く、ごく自然なかたちで、シンセをフィーチャーした現代ポップス的サウンドの中に、カントリーやロカビリーを自然に溶け込ませています。

 過去2作では、よりルーツ・ミュージックに近い音楽を鳴らしていたキャロライン・ローズ。そのようなジャンルの限定に、限界を感じた彼女にとって、本作の方がより素に近い音楽であり、触れてきた音楽を放出した結果なのでしょう。

 





Devendra Banhart “Niño Rojo” / デヴェンドラ・バンハート『ニーノ・ロッホ』


Devendra Banhart “Niño Rojo”

デヴェンドラ・バンハート 『ニーノ・ロッホ』
発売: 2004年9月13日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 テキサス州ヒューストン生まれ、ベネズエラのカラカス育ちのシンガーソングライター、デヴェンドラ・バンハートの4thアルバム。

 ヤング・ゴッドからは3枚目のアルバムで、プロデューサーを務めるのは前作に引き続き、同レーベルの設立者でもあるマイケル・ジラ。アルバム・タイトルの「Niño Rojo」とは、直訳すると「Niño」は「男の子」、「Rojo」は「赤」。

 2004年4月にリリースされた前作『Rejoicing In The Hands』から、わずか5ヶ月の期間を空けてリリースされた本作。パーカッションのソア・ハリス(Thor Harris)、チェロのジュリア・ケント(Julia Kent)、ピアノのジョー・マクギンティー(Joe McGinty)など、多くのバンド・メンバーも前作と共通。

 音楽性も前作に近く、アコースティック・ギターと歌を主軸にしたフォーキーなサウンドの中に、ところどころ緩やかにサイケデリックなアレンジが挟まれます。穏やかなのに、どこかが壊れたような、牧歌的なのにアヴァンギャルドな空気も漂わせる音楽性は、アシッド・フォークやフリーク・フォークと呼ぶにふさわしいものです。

 1曲目の「Wake Up, Little Sparrow」は、ミズーリ州セントルイス出身のフォーク・シンガー、エラ・ジェンキンス(Ella Jenkins)のカバー。アコースティック・ギターのゆったりとした伴奏に乗せて、語尾を震わしながら、情緒たっぷりに歌い上げていきます。昔のフォーク・シンガーやブルース・シンガーを彷彿とさせる、歌の力を感じる演奏と歌唱。

 2曲目「Ay Mama」は、ギターが軽やかにリズムを刻み、ボーカルはロングトーン主体で余裕を持ってメロディーを紡いでいく、牧歌的な1曲。ですが、再生時間1:20過ぎあたりから、奥の方でトランペットが鳴り響き、さらに後半ではフルートらしき音も聞こえ、厚みとアクセントを加えます。

 4曲目「Little Yellow Spider」は、ギターとボーカルが絡み合い、一体となって前に転がっていく曲。ギター主体のアンサンブルですが、アレンジとサウンド共に立体的で、ゆるやかなグルーヴ感があります。2007年には、携帯電話のコマーシャルに使用されました。

 6曲目「At The Hop」は、サンフランシスコ出身のフォーク・バンド、ヴェティヴァー(Vetiver)のアンディー・キャビック(Andy Cabic)が書いた曲で、ボーカルとしてレコーディングにも参加。軽やかに踊るようなギターに乗せて、デヴェンドラ・バンハートとアンディーのボーカルが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開。

 7曲目「My Ships」は、もつれるようなギターの伴奏に、ヴィブラートを多用した呪術的なボーカルが合わさり、サイケデリックで、ほのかにアングラ臭も漂う1曲。

 8曲目「Noah」は、スローテンポに乗せて、カントリー色の濃いアンサンブルが展開する、田園風景が眼に浮かぶような、牧歌的な1曲。厚みのあるコーラスワークも、牧歌的な雰囲気をさらに盛り上げています。

 11曲目「Horseheadedfleshwizard」では、小刻みなリズムのギターが走り、ボーカルは長めの音符を使ったフレーズを重ねます。フレーズとハーモニーの両面で、サイケデリックな空気を持った曲。

 フォークやカントリーを基本としながら、意外性のあるフレーズやハーモニーを用い、さりげなく実験性やサイケデリアを漂わせるアルバムです。ただのフォークやカントリーとは呼びがたい違和感が、本作にはあります。

 そのため、一部の人にとっては、受け入れがたい気持ち悪い音楽となるでしょう、しかし一部の人にとっては、最初は居心地が悪く感じていた音色やフレーズが、やがて音楽的なフックとなり、耳から離れなくなるでしょう。