「ディスクレビュー」カテゴリーアーカイブ

Songs: Ohia “The Magnolia Electric Co.” / ソングス・オハイア『ザ・マグノリア・エレクトリック・カンパニー』


Songs: Ohia “The Magnolia Electric Co.”

ソングス・オハイア 『ザ・マグノリア・エレクトリック・カンパニー』
発売: 2003年3月3日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 オハイオ州オバーリン出身のシンガーソングライター、ジェイソン・モリーナのソロ・プロジェクトである、ソングス・オハイアの7枚目のアルバムであり、最後のアルバムです。レコーディング・エンジニアは、スティーヴ・アルビニ。

 このあとジェイソン・モリーナは、ソロ名義と並行し、本作のアルバム・タイトルにもなっているマグノリア・エレクトリック・カンパニー(Magnolia Electric Co.)というバンドを結成し、作品を発表していきます。

 カントリーやブルースの要素も感じさせながら、バンドのサウンドとアンサンブルはルーツ・ミュージックの焼き直しではなく色彩豊か。バンドのカラフルでいきいきとしたグルーヴの感じられる1作です。

 1曲目「Farewell Transmission」は、ゆったりとしたテンポで始まり、緩やかにグルーヴ感が生まれていく1曲。牧歌的な雰囲気の、穏やかなカントリー風の曲ですが、エレキ・ギターのフレーズとサウンドが、彩りを加えています。

 3曲目「Just Be Simple」。にじむような柔らかなギターとキーボードの音が、空間に染み渡っていくイントロ。再生時間0:28あたりでボーカルとフルバンドが入ってきても、イントロで聞こえたギターとキーボードは、ヴェールのように優しく全体を包んでいます。

 7曲目の「John Henry Split My Heart」は、イントロから立体的で生命力に溢れたアンサンブルが構成される1曲。ドラムの迫力ある響きは、大地が躍動するような印象。6分を超える曲ですが、次々と展開があり、飽きさせません。

 ルーツ・ミュージックへのリスペクトが感じられるサウンドを持った1作。ですが、アレンジとサウンド・プロダクションには、現代的な響きが感じられます。

 ルーツ・ミュージックを、オルタナティヴ・ロックやポストロックの手法で再解釈する、というのはUSインディーロックに散見される方法論ですが、本作はルーツ・ミュージックのフォームはそのままに、現代的なフレーズやサウンドを散りばめた1枚、という印象です。

 





The Good Life “Album Of The Year” / ザ・グッド・ライフ『アルバム・オブ・ザ・イヤー』


The Good Life “Album Of The Year”

ザ・グッド・ライフ 『アルバム・オブ・ザ・イヤー』
発売: 2004年8月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 カーシヴ(Cursive)などの活動でも知られる、ティム・カッシャー(ケイシャー)が率いるバンドの3枚目のアルバム。

 ラウドなサウンドと、エモーショナルなボーカルが全面に出たカーシヴとは異質の、アコースティック・ギターを中心とした、穏やかで暖かいサウンドを持ったバンドです。

 1曲目「Album Of The Year」は、アコースティック・ギターとメロディーが、穏やかな空気と共にみずみずしく流れ出る1曲。感情を抑えつつ、奥には熱いエモーションを予感させるボーカルが、淡々とメロディーを紡いでいきますが、再生時間2:23あたりからドラムとパーカッションがトライバルなリズムを刻み始めると、途端に立体的な雰囲気に。

 3曲目「Under A Honeymoon」は、ゆったりとしたテンポの、牧歌的な空気が漂う1曲。ですが、再生時間1:02あたりからの開放的でグルーヴィーな展開、ストリングスの導入など、徐々に心地よくテンションを上げていきます。

 7曲目の「October Leaves」は、イントロから、空間を満たすようなふくよかなベースと、スペーシーなギターが漂う、音響が前景化した1曲。そこから少しずつ音数が増え、ビート感とバンドの躍動感も比例して増していきます。

 8曲目「Lovers Need Lawyers」は、電子的なキーボードのサウンドと、ソリッドで立体的なドラム。アルバムの中では、音像のはっきりした、ロック色の濃い1曲。

 アコースティック・ギターを中心に、カントリーやフォークを感じさせる耳ざわりでありながら、適度にオルタナ性も忍ばせる1曲。予定調和的に、安易に轟音ギターや実験的アプローチを用いない、バランス感覚に優れたアルバムだと思います。

 





Cursive “The Ugly Organ” / カーシヴ『ジ・アグリー・オルガン』


Cursive “The Ugly Organ”

カーシヴ 『ジ・アグリー・オルガン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 現在のネブラスカ州オマハのインディーズ・シーンの源流的な人物、ティム・カッシャー(ケイシャー)(Tim Kasher)が率いるバンドの4枚目アルバム。

 エモーションが爆発するボーカルと、直線的に突っ走るだけではないアレンジとサウンドが融合した1枚。疾走感があり、エモーショナルでありつつも、ストリングスやオルガンの使用など、それだけにとどまらない音楽的なレンジの広さがあるアルバムです。

 2曲目の「Some Red Handed Sleight Of Hand」では、イントロからバンドが波のように上下しながら躍動します。バンドだけでも十分に疾走感とグルーヴがあるのに、ストリングスがさらなる厚みをプラス。歌が入ってきてからも、緊張感を煽るように迫るストリングス、不安を醸し出すようなフリーなキーボードなど、様々なサウンドが塊となって押し寄せます。

 しかし、音楽の中心はあくまでエモーショナルなボーカル。そのボーカルを、さらに後押しすよるように分厚いアンサンブルが形成されています。2分弱しかないのに、情報量が多くスケールの大きい1曲です。

 4曲目「The Recluse」は、クリーントーンのギターとバイオリンが絡み合うメローな1曲。再生時間1分過ぎからの間奏の、音数を絞り、弾きすぎないエレキ・ギターも良い。

 6曲目「Butcher The Song」。立体的に響きわたるドラムと、フレーズにもハーモニーにも、不協和な響きを持つギターによるイントロ。その後はバイオリンも入り、ポストロックやマスロックを思わせる違和感たっぷりのアンサンブルを聞かせます。個人的に、かなりお気に入りの曲。こういう違和感を魅力に転化させるような曲が好きです。

 9曲目の「Harold Weathervein」は、スリルと緊張感を演出するストリングスのフレーズと、フィールド・レコーディングされた音源、感情を抑えた陰鬱なボーカル、バンドの演奏が、レイヤー上に重なり、溶け合っていく1曲。再生時間0:50あたりからの壮大でドラマチックな展開が、めちゃくちゃかっこいいです。

 エモーショナルなボーカルを中心にした歌ものでありながら、ストリングスが大活躍、バンドのアンサンブルにはメタルやプログレ、エモ、ポストロック、カントリーやフォークの要素まで感じられる、多彩なアルバム。

 こんなバンドが大都市ではない街で、インディペンデント・レーベルと共に活動しているというのがまた、USインディーズの奥深さです。

 





Hüsker Dü “New Day Rising” / ハスカー・ドゥ『ニュー・デイ・ライジング』


Hüsker Dü “New Day Rising”

ハスカー・ドゥ 『ニュー・デイ・ライジング』
発売: 1985年1月31日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 ミネソタ州セントポール出身のバンド、ハスカー・ドゥの1985年リリースの3rdアルバムです

 ハードコアの伝説的なバンド、ハスカー・ドゥ。本作『New Day Rising』は、疾走感とエモーション溢れるバンドのアンサンブルと、空間系のエフェクターを使用した、独特の厚みのあるディストーション・ギターが特徴の1枚。

 おそらくギターは、コーラスかディレイを使ったのだろうと思いますが、激しく歪みながらも、開放的で爽やかな音色も併せ持つ、魅力的なサウンドを響かせています。

 現代的なハイファイな音から比較すると、音圧不足に感じる部分はあるものの、疾走感あふれるバンドのアンサンブルと、唯一無二のボーカルは今聴いても刺激的です。これが1985年のインディーズ・シーン!という空気が充満しています。

 1曲目の「New Day Rising」。独特のドタバタ感と立体感のあるドラム、前述したようにコーラスとディストーションのバランスが良いギター、飾り気ないベースの音とフレーズ。そして、若さ溢れるエモーショナルなボーカル。その全てが一丸となって駆け抜けていく、アルバムの幕開けにふさわしい1曲です。

 今聴くとチープに感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはどうでもいいんだよ!と言わんばかりのパワーをほとばしっています。

 2曲目「The Girl Who Lives On Heaven Hill」は、こちらも独特な厚みのあるギター・サウンドが響く1曲。初期衝動を制御できず、勢いで突っ走るような、再生時間1:28あたりからのギター・ソロも最高。

 7曲目「Perfect Example」は、イントロからクリーントーンのギターがフィーチャーされ、バンド全体にコーラスかショート・ディレイがかかったような音像の1曲。バンドのサウンドは爽やかなギター・ロックのようでありながら、ボーカルは感情を抑えたように低音で歌い、物憂げな空気を醸し出しています。

 現代的な音圧の高いサウンドから比較すると、チープでローファイな印象を持つのは事実ですが、この時代にしかない空気感を閉じこめた1作だと思います。僕も世代的にリアルタイムではなく後追いですが、音圧の低さなど気にならなくなるぐらいの魅力があります。

 むしろ、このサウンドでないと、この独特の厚みのある音は表現できないよな、とも思います。とにかくフレッシュな、音楽を愛する気持ちがそのままサウンドに変換されたかのような1作です!

 





Jeff Hanson “Jeff Hanson” / ジェフ・ハンソン『ジェフ・ハンソン』


Jeff Hanson “Jeff Hanson”

ジェフ・ハンソン 『ジェフ・ハンソン』
発売: 2005年2月22日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス (モジス, モーギス))

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のシンガーソングライター、ジェフ・ハンソンの2ndアルバムです。アルバムのタイトルも『ジェフ・ハンソン』。上の記載は、間違いではありません(笑)

 初めてジェフ・ハンソンを聴いたとき、女性ボーカルを招いているのかと思いましたが、彼自身の声です。女声と聞き間違えるほどの高音ヴォイスで、繊細にメロディーを紡いでいきます。まさに透き通るような、透明感の高い声でありながら、同時にエモーションを歌に乗せる表現力も備えたボーカリストです。

 本作も、思わず聴き惚れてしまうほど心地よい、彼のハイトーンが響きわたります。アコースティック・ギターやピアノを中心に据えたアンサンブルに、時としてラウドなサウンドも同居し、歌を前景化しながらも決して歌だけではない、幅広い音楽性を持ったアルバムでもあります。

 1曲目「Losing A Year」は、たっぷりと余裕を持ったスローテンポで、アコースティック・ギターと声が染み渡っていくような1曲。自分の部屋で聴いていても、異世界に迷いこんだかと錯覚するような、幻想的で雰囲気のある声です。再生時間3:54あたりからバンドが加わり、暖かくいきいきとした躍動感あふれるアンサンブルを形成します。

 3曲目の「Welcome Here」は、決して激しく歪んだギターを全面に押し出した曲ではないものの、アルバムの中ではラウドでソリッドな耳ざわりの1曲。しかし、うるさいということではなく、生命力に溢れたグルーヴ感のある曲です。

 7曲目「This Time It Will」は、晴れた日に森の中をスキップするような、楽しくいきいきとした空気を持った1曲。緩やかにグルーヴしながら加速するアンサンブルが心地いい。

 このアルバムの聴きどころは、なんといってもジェフ・ハンソンの繊細で表現力あふれる声であることは、間違いありません。彼の声の支配力、多彩な表現力は、それだけで音楽が成立してしまうほどのオリジナリティです。

 また、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えながら、多種多様なサウンドを効果的に用いて、いきいきとしたバンドのアンサンブルが楽しめるアルバムでもあります。

 ジェフ・ハンソンは2009年に31歳の若さで亡くなってしまうため、本作を含めて残したアルバムはたったの3枚。本当に残念です。僕たちは、彼が残した美しい音楽を、大切に聴きましょう。