「ディスクレビュー」カテゴリーアーカイブ

Shellac “At Action Park” / シェラック『アット・アクション・パーク』


Shellac “At Action Park”

シェラック 『アット・アクション・パーク』
発売: 1994年10月24日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 レコーディング・エンジニアとして高名な、スティーヴ・アルビニ率いるバンド、シェラックの1stアルバムです。

 レコーディング・エンジニアとしてのアルビニは、生々しく臨場感あふれるサウンドを記録することで知られます。そんなアルビニ率いるシェラックの1作目は、彼の理想の音が閉じ込められた、ロックが持つサウンドのかっこよさが凝縮されたようなアルバムです。

 音数を絞り、ストイックなまでに無駄のないアンサンブルが、生々しく臨場感あふれる音で展開されます。

 1曲目「My Black Ass」では、金属的なざらついたサウンドのギターが、空気を切り裂くように鋭く響きます。硬質でハリのあるサウンドのベース、立体的に録音されたドラムも迫力満点。ロックのダイナミズムが凝縮されたような1曲。

 2曲目の「Pull The Cup」は、少し鼻にかかったような歪みのギターが、イントロからぎこちなく、しかし鋭くフレーズを弾き、空気まで揺らすようなドラムが空間の広さを伝え、ベースが全体を引き締める絶妙のバランス。スリルと緊張感が溢れる1曲です。

 3曲目「The Admiral」。低音が響きわたるドラム、呪術的にリフを繰り返すギター、両者をつなぐように淡々とリズムを刻むベース。全てが絡み合うアンサンブルは、マスロックを連想させる機能性を持ちながら、難解な印象は全くなく、とにかくかっこよさの凝縮された1曲です。

 5曲目「Song Of The Minerals」は、イントロからメタリックな響きのギターが暴れまわります。ボーカルが入ってくると、今度はタイトなリズム隊が場を引き締め、メリハリのある展開。

 8曲目の「Dog And Pony Show」ドラムの残響音まで生々しく記録された、サウンド・プロダクションが素晴らしい1曲。ギターとベースも、贅肉を削ぎ落としたタイトでストイックなサウンド。

 とにかく音自体がかっこいい、そういう意味では音響が前景化されたアルバムです。数多くの作品でレコーディング・エンジニアを務めるスティーヴ・アルビニですが、シェラックで聴かれる音像とサウンド・プロダクションは、彼の理想のひとつなんでしょう。

 シェラックの作品の中でも、フォームのはっきりした聴きやすい曲が多く、アルビニ入門の1枚としても、タッチ・アンド・ゴーの名盤の1枚としても、オススメできます。

 





Antony And The Johnsons “The Crying Light” / アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ『ザ・クライング・ライト』


Antony And The Johnsons “The Crying Light”

アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ 『ザ・クライング・ライト』
発売: 2009年1月19日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)

 イギリス生まれのシンガー、アノーニ(ANOHNI)を中心にニューヨークで結成されたグループ、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの3rdアルバムです。

 圧倒的な個性と支配力を持つアノーニの、ビブラートの深くかかったボーカルと、柔らかく壮大なサウンド・プロダクションが溶け合う1作。

 英語圏では、クラシックとロックやポップスが融合した音楽のことを「バロック・ポップ」(Baroque pop)と呼ぶことがありますが、本作はまさにバロック・ポップ的な作品です。一般的なロックやポップスとは、一線を画した音像を持っています。

 1曲目「Her Eyes Are Underneath The Ground」。余裕のあるゆったりとしたスローテンポのなか、ビブラートを効かせながら、響きわたる楽器のようにすら聞こえるボーカル。そんなボーカルを引き立てるように、少ない音数でアンサンブルを構成していくピアノやストリングス。荘厳かつ穏やかな雰囲気の1曲。

 4曲目の「Kiss My Name」は、ドラムが軽快にリズムを刻み、アルバム中でビート感と躍動感の強い1曲。グルーヴしながら全体を支えるベース、バンドを包み込むように入ってくるストリングスも良い。

 7曲目「Daylight And The Sun」は、ストリングスとピアノ、ボーカルが溶け合う美しい1曲。再生時間1:48あたりから、ボーカルのフレーズがきっかけとなって、全体に躍動感が生まれる展開も秀逸。

 ピアノとストリングスを中心に据えたアンサンブルの上に、ハイトーンの個性的なボーカルが乗るアルバムです。聴きどころはやはりボーカリゼーションであると言えます。とにかく、すごい声。ビョークやエンヤを彷彿とさせるような、絶対的な個性です。

 曲によっても雰囲気が変わるのですが、荘厳であったり、幻想的であってり、深い霧のようであったり、昔の宗教音楽のようであったり、様々なイメージが浮かぶ音楽が詰まったアルバムです。

 前述したように人の声とは思えないほど、遠くまで届きそうな音色を持っています。心が洗われるような美しさと、厳かな雰囲気を持った1枚。

 





LCD Soundsystem “LCD Soundsystem” / LCDサウンドシステム『LCDサウンドシステム』


LCD Soundsystem “LCD Soundsystem”

LCDサウンドシステム 『LCDサウンドシステム』
発売: 2005年1月24日
レーベル: DFA

 ニューヨーク市ブルックリン出身のダンス系ロックバンド、LCDサウンドシステムの1stアルバムです。

 独特のドタバタ感、親しみやすいジャンクな耳ざわりもありながら、躍動感あふれるダンス・ミュージックが展開する1作。

 アルバムの幕を開ける1曲目は「Daft Punk Is Playing At My House」。まずタイトルが最高(笑) そのタイトルどおりと言うべきなのか、家でダフト・パンクがプレイしているかのごとく、ダンサブルかつグルーヴ感あふれる音楽が溢れ出します。

 いちいちリズムにフックしかないような、耳と体が楽曲につかまれる1曲です。再生時間2:51あたりからのローファイな空間を漂わせる鉄筋のような音も、アクセントになっていて良いです。

 2曲目の「Too Much Love」は、バウンドするようなリズムが、イントロから気持ちいい1曲。ボーカルは感情を排したような淡々と歌い方ですが、楽曲自体は次々と音が増え、立体的なリズムを形成していきます。再生時間3:30あたりからの多層的なリズムがたまらない。

 6曲目「On Repeat」は、ミニマルなリズムからスタートし、次々と音色とリズムが増殖していく展開。LCDサウンドシステムのひとつの得意なフォームですが、段階的に音が重なり、音楽にフックが増えていく流れが、本当に秀逸。

 7曲目「Thrills」は、ややアンビエント色の強い音像を持った1曲。しかし、持続していく音とドラムのビートが重なり、加速感を演出していく展開はさすがだと思います。

 8曲目の「Disco Infiltrator」は、サウンドとリズムが一体化して、音楽を加速させていくような曲。音響とリズムが等価であるような、不可分であるような、有機的なリズム感があります。

 ドラムだけではなく、アンサンブル全体でリズムを作り上げていくところが、このアルバムの魅力だと思います。加速感やグルーヴ感の生み出し方が斬新で、本当に新しいダンス・ミュージックと言えるんじゃないでしょうか。

 サウンドにはインディーらしさを感じる、ジャンクな要素も入っているところがいいと思います。

 





Sam Prekop “Who’s Your New Professor” / サム・プレコップ『フーズ・ユワ・ニュー・プロフェッサー』


Sam Prekop “Who’s Your New Professor”

サム・プレコップ 『フーズ・ユワ・ニュー・プロフェッサー』
発売: 2005年3月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ザ・シー・アンド・ケイクのギター・ボーカル、サム・プレコップの2枚目のソロ・アルバムです。

 穏やかな歌ものアルバムでもあり、同時にカラフルで奥深いアンサンブルが展開される、スリル・ジョッキーの作品らしいアルバムと言えます。

 1曲目「Something」は、歌とギターを中心にした、穏やかなギター・ポップのような聴感。多種多様な楽器の音が控えめに入ってきて、サウンドも鮮やか、アンサンブルにも奥行きがあります。アルバム全体を通して言えることですが、全てのサウンドが有機的に絡み合う、カラフルでポップな1曲です。

 2曲目「Magic Step」。独特のハネたリズムのパーカッションから、ボサノバのような雰囲気も漂うイントロ。各楽器が折り重なり、緩やかにグルーヴしていきます。再生時間0:26あたりからのジャズを感じさせる、細かくリズムを刻むドラムも加速感を演出しています。いわゆるポリリズムとは少し違う感覚で、各楽器のリズムがレイヤーのように重なる1曲。

 6曲目の「Little Bridges」は、鼻声のようにワウのかかったギターが耳に引っかかる、かわいらしい雰囲気の1曲。

 10曲目「Density」は、ジャズやボサノバを感じさせる…というより、ロックを感じさせないアンサンブルが心地よい1曲。ドラムのタイム感が絶妙です。

 非常にポップなのに、音楽の情報量が多く、聴きごたえのある1作だと思います。ワウを使ったギターや、ウッドベースと思われるふくよかなサウンドのベース、ミュートを使用したコルネットなど、全体のサウンドはキュートで穏やか。

 しかし展開される音楽には、多種多様なジャンルやアプローチが含まれ、長く付き合えるアルバムだと思います。

 





The Promise Ring “Nothing Feels Good” / ザ・プロミス・リング『ナッシング・フィールズ・グッド』


The Promise Ring “Nothing Feels Good”

ザ・プロミス・リング 『ナッシング・フィールズ・グッド』
発売: 1997年10月11日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のエモ・バンド、ザ・プロミス・リングの2ndアルバムです。

 疾走感とエモーションの溢れる、若さはじける1枚。なのですが、単にスピード重視で加速していくだけでなく、ギターのフレーズやアンサンブルに、効果的に曲を加速し、前進させていく技巧がいくつも見つかります。

 エモいボーカルと、疾走感あふれるリズムにのるだけでも十分に楽しめるアルバムですが、アンサンブルにも工夫が見られるところが本作の、そしてこのバンドの魅力です。

 1曲目は「Is This Thing On?」。感情が吹き出したかのような、疾走感のあるイントロ。ボーカルが入ってきてからのドラムの絶妙なタメ、再生時間0:26あたりからの両チャンネルに振り分けられた2本のギターなど、段階的にスピード感を増していくアレンジが、随所に仕掛けられています。

 4曲目の「Why Did Ever We Meet」は、バンド全体がぴったりと縦を揃えたイントロから、曲が進むにつれて、各楽器がはみ出したり、またピタリと合わせたり、コントラストが鮮やかな1曲。

 7曲目「A Broken Tenor」。立体的に響くドラム、高音が耳に刺さるギター、硬質なサウンドのベース。まず各楽器のサウンドがかっこよく、それら全てが有機的に絡み合うアンサンブルも秀逸な1曲。

 前述したように、感情そのままに突っ走る部分と、機能的なアンサンブルが両立したアルバムです。若さ溢れるエモーショナルなボーカルと疾走感、緻密さを感じるアレンジがバランスよく共存しています。

 まずは彼らのエモさに身を任せ、それからアレンジをじっくり堪能しましょう。