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Fleet Foxes “Helplessness Blues” / フリート・フォクシーズ『ヘルプレスネス・ブルース』


Fleet Foxes “Helplessness Blues”

フリート・フォクシーズ 『ヘルプレスネス・ブルース』
発売: 2011年5月3日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、フリート・フォクシーズの2ndアルバムです。流麗なメロディーと、多彩なコーラスワークが響き渡る、非常に完成度の高い1stアルバム『Fleet Foxes』に続く、2作目。

 「無力のブルース」というタイトルがつけられた本作。前作よりも輪郭のはっきりしたソリッドなサウンドで、躍動感あふれるアンサンブルを響かせます。暖かみのあるオーガニックな楽器の響きと、華麗なコーラスワークも健在。

 アンサンブルとコーラスワークの完成度はそのままに、各楽器の主張が増した、よりタイトでソリッドなバンド・サウンドが聴けるアルバムです。

 2曲目「Bedouin Dress」は、アコースティック・ギターを中心にしたアンサンブルから始まり、徐々にレイヤーが重なるように楽器が増え、厚みのあるアンサンブルを形成していく1曲。バイオリンの音色も楽曲に彩りをプラスし、心地よく響きます。

 4曲目「Battery Kinzie」は、イントロから、バンドが塊になってこちらに迫ってくるような、圧倒的な躍動感が響きます。

 6曲目は、アルバム・タイトルにもなっている「Helplessness Blues」。複数のアコースティック・ギターによるコード・ストロークが、音の壁を構築するような1曲です。ラウドなエレキ・ギターや多数のエフェクターは使用せずに、アコースティック・ギターのナチュラルな音色で、時間と空間を埋め尽くすアレンジは斬新。

 厚みのあるアコースティック・ギターの響きが支配する1曲かと思いきや、再生時間2:48あたりでドラムが入ってくると、途端に立体的なアンサンブルが形成されます。このコントラストも鮮烈。

 10曲目「The Shrine / An Argument」は、2曲がつながっていることを差し引いても、展開が多くスケールの大きなトラックです。そよ風が吹き抜けるようなイントロから、再生時間2:20過ぎからの大地が躍動するようなパワフルなアンサンブル、3:25あたりからの嵐が吹き荒れるようなアレンジなど、壮大でドラマチックな進行。

 前作『Fleet Foxes』と比較すると、音がソリッドでパワフルになり、バンドのアンサンブルがより前景化されたアルバムだと思います。

 色彩豊かなコーラスワークが全面にあらわれた前作も素晴らしいアルバムでしたが、本作もアプローチの幅をさらに広げ、完成度の高いアルバムになっています。こちらの2ndアルバムも、心からオススメできます。

 





Fleet Foxes “Fleet Foxes” / フリート・フォクシーズ『フリート・フォクシーズ』


Fleet Foxes “Fleet Foxes”

フリート・フォクシーズ 『フリート・フォクシーズ』
発売: 2008年6月3日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、フリート・フォクシーズの1stアルバムです。流麗なメロディーと、カラフルで壮大なコーラスワーク、いきいきと躍動する有機的なバンドのアンサンブルが響きわたる1作。1枚目のアルバムから、すばらしい完成度です。

 わずかに輪郭が丸みを帯びたような柔らかいサウンド・プロダクションも、牧歌的な空気を演出し、暖かい温度感を持ったアルバム。

 アコースティック・ギターを中心に据えた、フォークやカントリーに近い耳ざわりを持ちながら、各楽曲が持つ世界観はよりファンタスティックというべきなのか、カラフルなサウンドが鳴り響きます。

 1曲目の「Sun It Rises」は、イントロからクリスマスの合唱のような、家庭的な暖かみのある、分厚いコーラスが響きます。「声も楽器」という言葉が似合う1曲。

 2曲目の「White Winter Hymnal」は、このアルバム中でも、フリート・フォクシーズのキャリアの中でも、屈指の名曲だと思います。イントロから輪唱のように次々と声が重なっていき、牧歌的でありながら、リフレインするフレーズがサイケデリックな空気も醸し出します。バンドのアンサンブルも緩やかに躍動していて、この上なく心地よい。大地を揺るがすようなバスドラの響きも、ダイナミズムをさらに広げています。

 3曲目の「Ragged Wood」は、イントロの伸びやかなボーカルが、山頂で叫んでいるかのように響きわたります。聴いているこちらも声をあげたくなるような1曲。その後のバンドの躍動感は、自然の中を駆け抜けていくよう。自然の厳しさではなく、壮大さを讃えたような、大自然が思い浮かぶ曲。

 6曲目「He Doesn’t Know Why」は、穏やかなイントロから、徐々に躍動感が増していきます。再生時間1:42あたりからの、音のストップ・アンド・ゴーが鮮やかなアレンジも良い。2:23あたりから、細かくリズムを刻むライド・シンバルも良い。

 7曲目「Heard Them Stirring」は、アコースティック・ギターの繊細なアルペジオと、柔らかなキーボードの音色、壮大なコーラスワークが溶け合い、神話の世界に入り込んだかのような1曲。

 10曲目の「Blue Ridge Mountains」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心にしたシンプルな前半から、再生時間2:03あたりでフルバンドが加わりスイッチが切り替わるところが鮮烈。

 オーガニックな響きを持ったサウンド・プロダクションと、多層的なコーラスワークが融合するアルバムです。アコースティック・ギターを主軸にした曲も多いため、耳ざわりはカントリーやフォークに近い部分もあります。

 しかし、彼らの音楽は、メルヘンチックであったり、サイケデリックであったり、大自然が躍動するようにパワフルであったり、神話的な雰囲気であったり、非常に多彩な世界観を持っています。

 デビュー・アルバムとは思えぬ、完成度の高いアンサンブルとコーラスワークが、濃密に詰まったアルバムです。非常におすすめ!

 





Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender” / ジョアンナ・ニューサム『ザ・ミルク・アイド・メンダー』


Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender”

ジョアンナ・ニューサム 『ザ・ミルク・アイド・メンダー』
発売: 2004年3月23日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Noah Georgeson (ノア・ジョージソン)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムのデビュー・アルバムです。

 シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティから発売。この作品のリリース前にも、2枚のEPを自主リリースしています。

 一部の曲で、ピアノとハープシコードも弾いていますが、ほぼ全編にわたってハープの弾き語りによるアルバムです。

 チャイルディッシュかつ独特のクセのある声を持つジョアンナ・ニューサム。ハープの穏やかなサウンドにのせて、彼女の声の魅力を堪能できる1作です。

 また、ハープの弾き語りを基本としているため、サウンドの種類は少ないアルバムですが、思いのほか多彩な世界が表現されていて、彼女の表現者としてのポテンシャルを感じさせます。

 1曲目の「Bridges And Balloons」は、ハープのリズミカルな演奏にのせて、ジョアンナの無邪気な声が、いたずらっぽくメロディーを紡いでいく1曲。

 2曲目「Sprout And The Bean」は、アクセントが移動したリズムに、どこかボサノバの香りも漂う、リラクシングな1曲。

 5曲目「Inflammatory Writ」は、ピアノを使った、躍動感あふれる1曲。ハープと比較すると、ソリッドな音質のピアノに合わせているのか、ジョアンナの声にもハリがあり、力強い。声色の巧みなコントロールも、彼女の武器のひとつ。

 8曲目「Cassiopeia」は、ギターのハーモニクスのような高音のハープと、ベース(キーボードで出しているのかもしれない)の低音によるアンサンブルが、心地よく響く1曲。流れるようにアルペジオを奏でる高音と、ロングトーンを繰り返す低音のコントラストも鮮やか。

 9曲目「Peach, Plum, Pear」では、ハープシコード(チェンバロ)が使用され、ここまでのアルバムと耳ざわりが異なります。ハープシコードのメタリックで倍音を豊富に含んだ音に対抗するように、ジョアンナも絞り出すように高音を響かせます。

 再生時間1:35あたりからの、本人の声を何重にもオーバーダビングしたコーラスも圧巻。シューゲイザーで、エフェクトを深くかけたギター・サウンドを「音の壁」と表現することがありますが、ここでは人の声が音の壁のように立ち現れます。

 アルバム全体を通して聴くと、あらためてジョアンナの表現力の豊かさを実感します。同時に、ハープという楽器も、様々な音色を出せる奥の深い楽器なのだな、とも思います。

 ジョアンナ・ニューサムは、2作目の『Ys』をとてもオススメしたいのですが、デビューアルバムである本作『The Milk-Eyed Mender』もなかなかの良盤です。

 





Joanna Newsom “Ys” / ジョアンナ・ニューサム『イース』


Joanna Newsom “Ys”

ジョアンナ・ニューサム 『イース』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Van Dyke Parks (ヴァン・ダイク・パークス)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムの2ndアルバム。タイトルは「ワイエス」ではなく、「イース」と読みます。

 プロデュースとオーケストラのアレンジをヴァン・ダイク・パークス、ミックスをジム・オルーク、レコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当する、この手のインディー好きにはたまらない豪華な布陣。

 本作には、30人を超えるオーケストラが参加しており、非常に立体的かつ厚いサウンドを響かせています。このうち20人以上はバイオリン等のストリングス隊です。

 オーケストラ以外の楽器も、ジョアンナ・ニューサム自身が奏でるハープを筆頭に、バンジョーやアコーディオンなどアコースティック楽器がほとんど。また、マリンバとパーカッションは入っていますが、ドラムセットは使用されていません。

 これは凄いアルバムです。ロックやポップスでストリングスを導入すると、基本的には楽譜に記されたとおりのリズムで旋律を演奏し、いわゆるクラシックのような雰囲気がプラスされます。

 しかし、本作ではヴァイオリンやヴィオラが、完全なフリーフォームで弾いているのかと思わせるぐらい、圧倒的なグルーヴ感と躍動感を響かせます。しかも、前述したとおりストリングス隊は20人を超える人数。その多数のストリングスが有機的に絡み合い、いきいきと生命力あふれるアンサンブルを繰り広げます。

 さらに、ジョアンナ・ニューサムの独特のクセのある、チャイルディッシュな声も唯一無二。童話の世界か、壮大な神話の世界に迷い込んだのかと思うぐらい、メルヘンチックで幻想的な音楽が展開される作品です。

 1曲目の「Emily」から、12分を超える大曲です。ジョアンナのハープの弾き語りから始まり、徐々に楽器が増加。再生時間2分を過ぎる頃には、立体的かつ躍動感あふれる音楽が構成されます。再生時間2:33あたりからの短い間奏の、流れるように盛り上がっていくバイオリンも凄い。

 前述したとおり、このアルバムではドラムが使われていません。しかし、まるでバンド全体が一体の生き物であるかのごとく、呼吸をし鼓動を打つように音楽全体が躍動するため、ビートが足りないという感覚は全くありません。生楽器のオーガニックな音色を用いて、スケールの大きなアンサンブルが展開される1曲です。

 2曲目の「Monkey & Bear」は、1曲目「Emily」とは雰囲気が変わって、童話の世界に迷い込んだかのような、かわいらしい1曲。しかし、かわいいだけではなく、異世界の得体の知れなさも内包した雰囲気があります。

 圧倒的なボリュームでストリングスが迫り来る「Emily」とは違い、ハープが中心に据えられ、それを取り囲むようにトランペットやバイオリンが彩りをプラスします。

 3曲目の「Sawdust & Diamonds」は、ハープの弾き語り。自ずとジョアンナの声とメロディーが前景化されます。9分を超える曲ですが、まるで口から自然と音楽が流れ出るかのように、ハープと声のみで疾走感とダイナミズムを生み出す展開は圧巻。

 4曲目「Only Skin」。イントロから、泉から音楽が湧き出てくるかのように、オーガニックでみずみずしいサウンドが流れ出します。ストリングスとハープが立体的に絡み合うアンサンブルは、高度なコミュニケーションを楽しんでいるかのよう。再生時間7:35あたりからの、巧みに緩急をつけながら前進していく展開にもワクワクします。

 5曲目の「Cosmia」は、独特のハリのある優しいサウンドのハープと、緊張感を演出するようなストリングスが対比的な1曲。ジョアンナのボーカルも、起伏が大きくエモーショナル。このアルバムの中では最も短い曲(それでも7分15秒)ですが、展開が多く、物語を見ているかのような感覚になります。

 5曲収録で、およそ55分。長い曲が多いですが、冗長な印象はなく、この世界観を表現するなら、これぐらいの時間は必要だよね、と思う曲ばかり揃っています。

 前述したとおり、大量のストリングス隊が参加していますが、クラシカルな雰囲気とは異質な、オーガニックで生命力あふれる、全く新しいオーケストラのサウンドが展開されていると思います。

 本当に素晴らしい作品ですし、あまり似ている音楽が無い、という意味でもオススメしたい1枚です。

 





Shellac “Excellent Italian Greyhound” / シェラック『エクセレント・イタリアン・グレイハウンド』


Shellac “Excellent Italian Greyhound”

シェラック 『エクセレント・イタリアン・グレイハウンド』
発売: 2007年6月5日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 僕が敬愛する、大好きなレコーディング・エンジニア、スティーヴ・アルビニ先生が率いるバンド、シェラックの4枚目のアルバムです。

 エレクトロニカやポストロックには、サウンド自体を前景化させた、音響にこだわった作品がありますが、シェラックの音楽も、サウンドのかっこよさにフォーカスした音楽であると思います。

 ロックが持つかっこよさを、ロックのクリシェを使わずに表現するような、あるいはクリシェだけを凝縮して抽出したような、ストイックなかっこよさがあります。

 本作も無駄を削ぎ落とした、生々しくリアルなサウンドで、実験的でクールなアンサンブルが構成される1枚です。

 1曲目の「The End Of Radio」は、ミニマルなフレーズやパターンを繰り返す、隙間の多いバンドのアンサンブルに、スポークン・ワードが侵入する1曲。再生時間2:29あたりで満を持して登場するギターが、この上なくかっこいいです。

 2曲目「Steady As She Goes」は、イントロから、サウンドもリズムもタイトな、疾走感あふれるロックな1曲。硬く金属的な響きを持った各楽器のサウンド・プロダクションにも、むき出しのかっこよさがあります。

 6曲目「Kittypants」は、立体的な音像を持った1曲。イントロのドラムの一音目から、臨場感あふれるサウンドが響き渡ります。2分に満たない短い曲ですが、再生時間1:40あたりからのギターのサウンドは、生々しく本当にかっこいいです。

 シェラックの作品の中でも、一般的なポップ・ミュージックが持つ明確なフォームを持った曲が少なく、ちょっと敷居の高いアルバムだと思います。初めてシェラックを聴くならば、1stアルバム『At Action Park』の方が曲のフォームがはっきりしている分、聴きやすいので、まずはそちらをオススメいたします。

 しかし、このアルバムが劣っているというわけではなく、音もアンサンブルもストイックに絞りこまれた最高の1枚だと思ってます!

 アルビニ先生信者の方は、既に聴いているに決まっているアルバムですが、もしアルビニ先生が気になる、アルビニ録音の音が最高にいい!と思い始めた方は、ぜひこのアルバムも聴いてみてください。