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Sonic Youth “EVOL” / ソニック・ユース『EVOL』


Sonic Youth “EVOL”

ソニック・ユース 『EVOL』
発売: 1986年5月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Martin Bisi (マーティン・ビシ)

 ニューヨーク出身のバンド、ソニック・ユースの3枚目のスタジオ・アルバム。

 ダークでアンダーグラウンドな空気が、充満したアルバムです。その空気を生み出しているのは、変則チューニングを駆使したギターを筆頭に、不協和音や奇妙なアレンジを用いて構成される、バンドのアンサンブル。

 ソニック・ユースの特異な点は挙げればキリがないですが、ひとつには音圧や速度に頼るのではなく、音響で攻撃性や緊張感を表現するところ。本作でも、その特徴が存分に発揮されています。

 テンポを上げて直線的に疾走するのでも、音圧と音量を上げたディストーション・ギターで押し流すのでもなく、音の響きと組み合わせで、なんとも言えぬ不安感や違和感を演出するのがソニック・ユースです。

 速度や音量に頼った攻撃性よりも、狂気を隠し持って、静かにリスナーに忍び寄るぶん、たちが悪いとも言えます。不協和音が美しいハーモニーに変わり、ノイズが快感になる…リスナーの音楽観まで変える可能性を持ったアルバムです。

 1曲目「Tom Violence」のイントロから早速、緩くチューニングされたような、独特の不安定なギターが、不穏な空気を演出します。たたみかけるように、ドタバタとリズムを刻み続けるドラムが、アンサンブルを引き締め、中盤以降はギターのノイズ合戦へ。

 6曲目の「Death To Our Friends」は、アルバムの中ではビートがはっきりしたロックな曲。しかし、コード進行にもヴォイシングにも、違和感しかないぐらいの奇妙でアングラなサウンドが展開されます。

 9曲目の「Madonna, Sean And Me」は、7分を超える曲で、ゆるやかにグルーヴする平和な部分と、ノイズまみれのカオスな部分のコントラストが鮮烈な1曲。この曲は「Expressway To Yr. Skull」と記載されることもあります。

 全ての曲に何かしらの違和感が含まれ、知性と狂気が共存したアルバムです。これはこのアルバムに限ったことではない、ソニック・ユースの特徴ですが、その違和感が耳に引っかかり、やがて魅力へと転化することがあります。

 誰にでも起こりうるかと問われれば断言はできませんが、少なくとも僕はソニック・ユースに出会って、確実に音楽の聴き方が変わりました。

 ノイズや実験音楽の要素も取り込みながら、あくまで4人編成のロックバンドとして、ロックの延長線上にクールで革新的な音楽を作り上げたことが、彼らの魅力です。本作『EVOL』も、そんな革新的な1枚。

 





Mission Of Burma “ONoffON” / ミッション・オブ・バーマ『オン・オフ・オン』


Mission Of Burma “ONoffON”

ミッション・オブ・バーマ 『オン・オフ・オン』
発売: 2004年5月4日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 マサチューセッツ州ボストン出身のバンド、ミッション・オブ・バーマの2ndアルバム。ミックスとレコーディング・エンジニアを務めたのは、シェラック(Shellac)やヴォルケーノ・サンズ(Volcano Suns)の活動でも知られるボブ・ウェストン。

 1979年に結成され、1982年に1stアルバム『Vs.』をリリース。しかし、翌年にギター担当のロジャー・ミラー(Roger Miller)の耳鳴り悪化のため、解散してしまったミッション・オブ・バーマ。彼らが再結成し、22年ぶりにリリースされたアルバムが、本作『ONoffON』です。

 1枚のアルバムのみを残し、なかば伝説化していたミッション・オブ・バーマ。22年ぶりのリリースとなる本作ですが、攻撃性と知性の同居するアンサンブルとサウンドを持った、良盤です。

 激しく歪んだギターや、初期衝動を吐き出すようなボーカルには、アングラ感も漂うものの、フレーズやアレンジの端々には知性と緻密さも感じさせます。

 すべての楽器の音が、テンション高く荒削りかつ、独特の濃密な耳ざわりを持った作品なのですが、特にギターは激しく歪んだサウンドでコードをかきならし、時間と空間を埋めていきます。

 前述したようにギタリストの耳鳴りの悪化が解散の原因となったわけですが、このテンションとサウンドを実現させるには、相当な音量でライブやレコーディングに臨んでいたことが、想像できます。

 幸運なことに音源で聴く場合には、自分の好きな音量で再生できますが、小さい音で再生したとしても、彼らのテンションは感じることができるでしょう。

 このアルバムも良い作品だと思いますが、個人的には3作目の『The Obliterati』の方が好きです。『The Obliterati』の方が、より厚みのあるサウンド・プロダクションを実現しています。





Mission Of Burma “The Obliterati” / ミッション・オブ・バーマ『ジ・オブリテラティ』


Mission Of Burma “The Obliterati”

ミッション・オブ・バーマ 『ジ・オブリテラティ』
発売: 2006年5月23日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 マサチューセッツ州ボストン出身のバンド、ミッション・オブ・バーマの3rdアルバムです。

 1979年に結成され、1982年に1stアルバム『Vs.』をリリースするものの、翌年にギタリストのロジャー・ミラー(Roger Miller)の耳鳴り悪化のため、解散するミッション・オブ・バーマ。彼らが2002年に再結成後、『ONoffON』のリリースに続き、2枚目のリリースとなるのが本作『The Obliterati』です。

 音圧が圧倒的に高いというわけではないのに、とにかく音が濃密で、迫力ある音像を持ったアルバムです。空気を揺るがすように響くドラム、ファットでコシのある音色のベース、曲によって変幻自在のディストーション。サウンドを聴かせるギター。各楽器の音が、どれも生々しく、臨場感を持って響きます。

 いわゆるドンシャリなサウンドではなく、全音域にわたって音が埋め尽くされているような、分厚いサウンドをバンド全体で作り上げていきます。演奏もスピード重視の直線的なものではなく、随所に知性を感じるアンサンブル。

 1曲目の「2Wice」。イントロのドラムの音がパワフルかつ立体的で、スタジオの空気の揺れまで伝わってくるかのよう。アルバムの幕開けにぴったりの1曲です。その後に入ってくるギターとベースの音にも、分厚い量感があり、バンドの音が時間と空間を埋め尽くします。

 3曲目の「Donna Sumeria」は、各楽器が分離して絡み合うイントロから、やがてひとつの塊のようなサウンドを形成。バンドのリズムと、ボーカルのメロディーが連動するような構造も、楽曲の躍動感を増幅しています。

 9曲目の「Careening With Conviction」は、ラフさとタイトさのバランスが抜群のリズム隊に、ギターが絡みつく1曲。最初はそれぞれ分離して認識できたいた各楽器のサウンドが、いつのまにか混じり合い、ひとつの塊のように感じられる展開も、かれらの音楽の特徴だと思います。

 とにかく音がかっこいいアルバムです。前述したとおり、僕は1曲目「2Wice」のドラムの音でノックアウトされます。

 ギターの音作りも、基本的には歪んでいるのですが、実に多彩なサウンド・カラーを使い分けています。アンサンブルも、ロックのダイナミズムと知性が共存した、非常にクオリティの高いものだと思います。

 日本での知名度はいまいちですが、もっと評価されていいバンドであり、アルバム。

 





Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise” / スフィアン・スティーヴンス『イリノイ』


Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise”

スフィアン・スティーヴンス 『イリノイ』
発売: 2005年7月4日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの5枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Illinois』とのみ表記されることもあります。

 アメリカ全50州それぞれのコンセプト・アルバム制作をうたった、スフィアン・スティーヴンスの「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)。前作『Greetings From Michigan The Great Lake State』(ミシガン)に続く、プロジェクト2作目が本作『Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise』(イリノイ)です。

 しかし、50枚のアルバムを完成させることなく、プロジェクトは今作で終了。スフィアンは、このプロジェクトはジョークだったと認めています。

 ミシガンをテーマにした前作は、多種多様な楽器とジャンルを組み合わせた、スフィアン・スティーヴンスのポップセンスが光るアルバムでした。本作も、彼のポップセンスがいかんなく発揮された1作であることは間違いないです。

 前作と比較すると、より楽器の音色がカラフルに、実験性の増したアルバムと言えます。ミニマル・ミュージックや実験音楽を感じさせる要素や、前作以上にオルタナティヴなアプローチが目立つアルバムですが、できあがった音楽はどこまでもポップです。

 1曲目「Concerning The UFO Sighting Near Highland, Illinois」は、流れるような躍動感のあるピアノを、オーボエとフルートと思われる笛の音が追いかける1曲。

 2曲目「The Black Hawk War, Or, How To Demolish An Entire Civilization And Still Feel Good About Yourself In The Morning, Or, We Apologize For The Inconvenience But You’re Going To Have To Leave Now, Or, “I Have Fought The Big Knives And Will Continue To Fight Them Until They Are Off Our Lands!”」は、イントロから様々な楽器と人の声が、不思議なハーモニーを作り上げます。

 随所に違和感のあるアレンジなのに、完成された音楽は、ポップでカラフルに響きます。スフィアンのこのあたりのポップ感覚は本当に見事。あと、タイトルがとにかく長いですね…。

 3曲目は「Come On! Feel The Illinoise!」。この曲は1トラック扱いですが、クレジットでは「Part I: The World’s Columbian Exposition」と「Part II: Carl Sandburg Visits Me In A Dream」、ふたつのパートのタイトルも記載されています。

 イントロから、ピアノなのかオルガンなのか、ふくよかな音色の鍵盤が響きます。多くの楽器が参加し、有機的でノリのいいアンサンブルを展開していきますが、様々なジャンルの香りがするのに、ひとつのジャンルに特定するのは難しい、不思議な魅力にあふれたポップ・ソングです。

 クラシックの香りもするし、ジャズのようなスウィングもあり、ロック的なダイナミズムも感じる。そして、できあがっている音楽は、心地よい極上のポップス。そんな1曲だと思います。

 9曲目の「Chicago」は、ヴィブラフォンの柔らかなサウンド、壮大なストリングス、躍動感あふれるバンドのアンサンブルが融合する、生命力を感じるいきいきとした1曲。曲名は、CDでは前述のとおり「Chicago」、アナログ盤では「Go! Chicago! Go! Yeah!」という表記になっています。

 22曲、74分収録のボリュームたっぷりのアルバムですが、無駄に長いわけではなく、多種多様なジャンルを消化し、スフィアン自身のポップ・ミュージックを作り上げた、すばらしい作品です。

 雑多なサウンドやジャンルを、極上のポップ・ミュージックに仕上げるセンス。しかも、聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、彼独自のオリジナリティを持った曲に仕上げるセンスには、脱帽です。





Sufjan Stevens “Greetings From Michigan The Great Lake State” / スフィアン・スティーヴンス『ミシガン』


Sufjan Stevens “Greetings From Michigan The Great Lake State”

スフィアン・スティーヴンス 『ミシガン』
発売: 2003年7月1日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの3枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Michigan』とのみ表記されることもあります。

 「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)と称して、アメリカ50州それぞれをコンセプトにしたアルバムを制作すると宣言したスフィアン・スティーヴンス。本作『Greetings From Michigan The Great Lake State』は、50州プロジェクトの記念すべき1作目であり、彼の故郷であるミシガン州をテーマにしたアルバムです。(結果的には、2枚のアルバムのみリリースし、終了してしまうプロジェクトなのですが…)

 アコースティック・ギターを中心にした、フォーキーなサウンドを基本としながら、多種多様な楽器の音が色合いをプラスし、実験的なアレンジも忍ばせた、インディーらしい音楽が展開されます。非常に優れたポップ・センスで完成された1枚。

 また、スフィアンはマルチ・インストゥルメンタリスト(マルチプレイヤー)としても知られ、本作でもギター、ベース、ピアノ、バンジョー、オーボエ、フルートなど、実に多種におよぶ楽器を操っています。

 1曲目「Flint (For The Unemployed And Underpaid)」は、ピアノとボーカルの染み入るような1曲。間奏を彩るトランペットの音色が、曲に広がりをもたらしています。

 2曲目「All Good Naysayers, Speak Up! Or Forever Hold Your Peace!」は、音数はそこまで詰め込まれていないのに、イントロから各楽器が、折り重なるように立体的なアンサンブルを構成する1曲。ヴィブラフォンの音色が心地いい。

 3曲目「For The Widows In Paradise, For The Fatherless In Ypsilanti」は、バンジョーを使ったノスタルジックな雰囲気。しかし、カントリー1色の曲というわけではなく、再生時間2:03あたりからホーンが入ってくる部分では、多層的にロングトーンが重なる、音響的なアプローチも感じられます。

 8曲目「Detroit, Lift Up Your Weary Head! (Rebuild! Restore! Reconsider!)」は、イントロから多種多様な楽器が用いられ、カラフルでキュートなアンサンブルが繰り広げられる1曲。非常にポップで楽しい曲ですが、アンサンブルと展開には緻密さが溢れ、聴きごたえもあります。

 アルバム全体を通して、バラエティに富んだ楽曲が揃った作品です。フォークやカントリーをはじめ、クラシックやインディ-・ロックなど様々なジャンルの音楽が混じり合い、極上のポップ・ミュージックに結実しています。

 スフィアン・スティーヴンスという人のたぐいまれな才能、ポップセンスが溢れた1作。