「ディスクレビュー」カテゴリーアーカイブ

Brainiac “Hissing Prigs In Static Couture” / ブレイニアック『ヒッシング・プリッグス・イン・スタティック・クチュール』


Brainiac “Hissing Prigs In Static Couture”

ブレイニアック 『ヒッシング・プリッグス・イン・スタティック・クチュール』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ), Eli Janney (イーライ・ジャニー)

 オハイオ州デイトンで結成されたバンド、ブレイニアックの3rdアルバムです。バンド名は、通常は「Brainiac」という表記ですが、本作では「3RA1N1AC」と表記。

 このアルバムが発売された翌年の1997年に、ボーカル、キーボード、ギターを担当するティム・テイラーが交通事故死。バンドは解散し、本作が彼らの最後のアルバムとなってしまいます。

 ノイジーでジャンクなサウンドと、時にパンキッシュな、時にパーティー感のあるボーカルが融合した1作です。2000年代以降のポスト・パンクやシンセ・ポップのような、80年代の音楽を現代的に解釈したバンドとは、明らかに異質なサウンドを持っています。

 本作で聴かれるのは、ジャンクでローファイな色が濃く、しかしアングラ過ぎるということもない、オリジナリティ溢れる音楽です。

 1曲目「Indian Poker (Part 3)」は、極限まで圧縮されたようなディストーション・ギターのサウンドから始まる、50秒ほどのイントロダクション的な1曲。この時点でかなり特異な音を発しています。

 2曲目「Pussyfootin’」は、ざらついた耳ざわりのローファイ色の強いギターに、パンキッシュなボーカルが絡む1曲。レコードのスクラッチのような音など、多種多様なサウンドが飛び交い、アングラ臭も強いのにカラフルな印象の1曲。

 5曲目の「Strung」は、ささやくようなボーカルの奥で、耳障りなノイズやアンビエントなサウンドが鳴り続ける1曲。

 10曲目の「70 Kg Man」は、アルバムの中でも、特にジャンクなサウンド・プロダクションの1曲。立体的でパワフルなドラム、硬い音色のベースなど、ロック的なダイナミズムも持ち合わせています。ギターなのかも、もはや分かりませんが、イントロからリフを弾くギターらしき音は、歪ませ過ぎ圧縮し過ぎて音痩せしたようなノイジーな響き。

 ジャンクでローファイな音質。アンダーグラウンドを思わせる音楽でありながら、全体としては比較的聴きやすくポップに仕上がっている1作です。

 僕もリアルタイムではなく後追いなので、当時どれぐらい注目されていたバンドなのか分かりませんが、隠れた名盤とはいかないまでも、隠れた良盤とは言えるクオリティの作品だと思います。

 





Loose Fur “Born Again In The USA” / ルース・ファー『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』


Loose Fur “Born Again In The USA”

ルース・ファー 『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』
発売: 2006年3月21日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 ジム・オルークとグレン・コッチェ、ウィルコのジェフ・トゥイーディによるバンドの2ndアルバムであり、最後のアルバム。グレン・コッチェは、後にウィルコに加入することになります。

 『Born Again In The USA』という示唆的なタイトルを持った本作。その名のとおり、古き良きロックンロールや、フォークやカントリー等のルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないアレンジとアンサンブルが展開されるアルバムです。ジム・オルークとウィルコが融合した作品だと思えば、納得できる音楽性。

 1曲目の「Hey Chicken」は、イントロからディストーション・ギターが鳴り響き、シンプルなロックンロールが炸裂する1曲です。しかし、縦のぴったり揃ったアンサンブルや、フックとなる効果的な楽器の重ね方など、ウィルコっぽさを感じさせる部分もあり。

 2曲目「The Ruling Class」は、緩やかにグルーヴしていくカントリー風味の1曲。口笛の音色も牧歌的な空気を色濃くしています。

 4曲目「Apostolic」は、ポストロックやマスロックを思わせる、リズムが周期的に切り替わる、緻密なアンサンブルが特徴の1曲。インストでもおかしくない雰囲気ですが、歌が入ってきて、ポップ・ミュージックの枠組みも備えています。再生時間0:56あたりからのメロディアスなベースと、流れるようなアコースティック・ギターなど、聴きどころとなるフックが、続々と放たれます。

 5曲目「Stupid As The Sun」は、シンプルな縦ノリのリズムと、意外性のあるコード進行が融合した1曲。イントロからの第一印象はシンプルなロック色の強い曲ですが、違和感が耳に引っかかり、クセになっていく曲です。

 8曲目「Thou Shalt Wilt」は、キーボードとベースが前に出た、立体的な音像を持った1曲。

 前述したとおり、一聴するとシンプルなロックンロールに聞こえるような曲にも、いたるところに音楽的なフックが配置されていて、聴けば聴くほどに魅力が増していく作品です。

 僕はジム・オルークもウィルコも大好きなのですが、期待を裏切らない1作。両者のどちらかが好きな方は、聴いておいて損はない作品だと思います。そうではない方にも、十分オススメできる1作!

 





Joan Of Arc “How Memory Works” / ジョーン・オブ・アーク『ハウ・メモリー・ワークス』


Joan Of Arc “How Memory Works”

ジョーン・オブ・アーク 『ハウ・メモリー・ワークス』
発売: 1998年5月12日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: Casey Rice (ケイシー・ライス), Elliot Dicks (エリオット・ディックス)

 シカゴのエモ、ポストロック・バンド、ジョーン・オブ・アークの2ndアルバム。

 オーガニックなアコースティック・ギターと電子音、実験性と歌ものポップ性のバランスが絶妙だった1stアルバム『A Portable Model Of…』。本作は、実験性とポップさのバランスをとりながら、さらに音楽性を広げた1作と言えます。

 1曲目の「Honestly Now」は、電子音のような、マレット系の打楽器のような音が響き、やがて増殖していく1分にも満たない曲。ただのエモ・バンドではないことを、早速認識させられます。

 2曲目「Gin & Platonic」は、つっかえながらも突っ走る、ポストロック的=ロック的でないアンサンブルが構成される1曲。緩やかに絡み合う2本のギターと、独特のタイム感で刻んでいくリズム隊が心地よい。

 4曲目「This Life Cumulative」は、鳥のさえずりのような音域の電子音が鳴り響くイントロから、躍動感あるパワフルなバンド・サウンドが、堰を切ったように入ってきます。エモやパンクを下敷きにしながら、電子音が楽曲に彩りをプラス。

 5曲目「A Pale Orange」は、前半はギターと歌が入っているものの、やがて高音の電子音とノイズが降り注ぐ展開。後半は完全にアンビエント・ミュージックか、エレクトロニカのような音像。

 8曲目「A Name」は、各楽器が前のめりに、お互いを追い抜きあうようなイントロが心地よい。歌もサウンド・プロダクションもポップで聴きやすい曲ですが、アンサンブルは緻密。

 1作目以上に、エモ的な歌唱と疾走感、ポストロック的なアンサンブルや電子音との融合が、高次に実現されている1枚です。エモい声とメロディーに、実験性を忍ばせた知的なアンサンブルが絡む、絶妙なバランスのアルバムだと思います。

 





Low “Drums And Guns” / ロウ『ドラムス・アンド・ガンズ』


Low “Drums And Guns”

ロウ 『ドラムス・アンド・ガンズ』
発売: 2007年3月20日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Dave Fridmann (デイヴ・フリッドマン)

 「スロウコア(Slowcore)」というジャンルに括られることの多い、ミネソタ州ダルース出身のバンド、ロウの通算8枚目のアルバム。

 スロウコアというだけあって、ゆったりとしたスローテンポに、多種多様な音とアレンジが載っていく1作です。このジャンル自体の特徴でもありますが、テンポが遅いために、アンサンブルやメロディーよりも、音響が前景化されるところがあります。

 1曲目「Pretty People」は、ギターと電子音らしきドローンが鳴り響くなか、ボーカルもメロディー感が希薄になるぐらい、ゆったりと長い音符を使って歌っていきます。再生時間1:15あたりからドラムも入ってきますが、こちらもやはりテンポが遅く、音数も絞ってあり、いわゆるビート感やグルーヴ感は希薄です。

 しかし、スローテンポのバンドの重力に聴き手が引き寄せられるように、徐々にアンサンブルやグルーヴ感が現れてくるから不思議。アルバムの1曲目で、まずはリスナーの耳をバンドのペースにチューニングさせる1曲、ということなのかもしれません。

 3曲目「Breaker」では、イントロから、ミニマル・テクノのような無機質なビートと、立体感のあるサウンドの手拍子、シンセサイザーの持続音が重なります。この曲もスローテンポで、一般的なバンドの曲に比べれば音数は少ないものの、スカスカな印象は全くなく、むしろ空間が音に埋め尽くされている印象すらあります。中盤からはギターと思われる音も入ってきて、さらにサウンドが厚みを増します。

 6曲目「Always Fade」は、「地を這うような」という表現を思わず使いたくなってしまうベースと、このアルバムの中ではビート感の強いドラムが絡み合う1曲。立体的でソリッドなサウンド・プロダクションもかっこいい。

 10曲目の「Take Your Time」は、イントロからアンビエントな雰囲気が充満し、音響が前景化された、エレクトロニカを連想させる1曲。ここまでアルバムを通しで聴いてくると、彼らのペースに完全に取り込まれているので、十分に展開が感じられます。この種の音楽を聴かない人に聴かせたら「宇宙と交信してるの?」と言われそうな曲ですが(笑)

 スローテンポの上で、音響とアンサンブルをじっくりと味わうアルバムだと思います。遅いからこそ表現できるものがあると、示したような作品。

 スピード感のある速い曲もいいですが、本作のように時間を贅沢に使い、音響とアンサンブルにこだわった作品にも、また違った魅力があります。

 





Brokeback “Looks At The Bird” / ブロークバック『ルックス・アット・ザ・バード』


Brokeback “Looks At The Bird”

ブロークバック 『ルックス・アット・ザ・バード』
発売: 2003年1月21日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスのダグラス・マッカムがスタートさせたプロジェクト、ブロークバックの2枚目のアルバムです。本作『Looks At The Bird』には、シカゴ・アンダーグラウンドのベーシスト、ノエル・クッパースミスも参加しており、2人のベーシストによるベース推しの1作。

 ジャズの世界では、ベーシストが2人揃う作品というのも散見されますが、インディーロック畑で、ベーシスト2人を中心にした作品というのは珍しいのではないでしょうか。ギター中心の音楽を「ギター・オリエンテッドな」と形容することがありますが、本作は言うなれば「ベース・オリエンテッドなポストロック作品」。

 2本のベースが絡む、低音に重心に置いたアンサンブルが、時にアンビエントな音響を携えながら展開されます。

 2曲目「Lupé」は、ジャングルの中で、様々な動物が不意に飛び出してくるように、多種多様なサウンドが飛び交う1曲。一般的な意味でポップな曲ではないものの、各楽器がオーガニックな響きを持っているためか、不思議と実験的で敷居が高いという印象はありません。後半になってトランペットが登場すると、途端にジャジーな空気が漂います。

 3曲目の「Name’s Winston, Friends Call Me James」は、ゆったりとしたベースの上に、ボーカルやシンセのロングトーンが、レイヤーのように重なるイントロ。そこからドラムがリズムを加えると、立体的な音楽が姿をあらわします。

 7曲目の「The Suspension Bridge At Iguazú Falls」は、ギターとシンセが前景化され、今作の中では、ひときわカラフルな印象を与える1曲。トータス色が濃いアレンジとサウンド・プロダクション。

 前述したとおり、ベースをアンサンブルの中心に据えた作品ではありますが、サウンドと展開は思いのほかバラエティに富んでいて、単調な印象はあまりありません。(全くないとは言えない…)

 ジャズの香りもする、ベース主導のポストロック作品、といった趣です。トータスの2ndアルバム『Millions Now Living Will Never Die』あたりが好きな方は、気に入る作品だと思います。