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Beach House “Thank Your Lucky Stars” / ビーチ・ハウス『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』


Beach House “Thank Your Lucky Stars”

ビーチ・ハウス 『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』
発売: 2015年10月16日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Chris Coady (クリス・コーディ)

 フランス出身のヴィクトリア・ルグランと、メリーランド州ボルチモア出身のアレックス・スカリーからなる2ピース・バンド、ビーチ・ハウスの6枚目のアルバム。

 柔らかなウィスパーボイスのボーカルを筆頭に、全体のサウンド・プロダクションもソフトで幻想的。音響を前景化させた…というより、ボーカルと全ての楽器が溶け合って、心地よいひとつのハーモニーになったような作品です。

 かといって、全ての曲が類似した金太郎飴的なアルバムかといえば、そうではありません。楽曲ごとに異なる響きを持っていますが、共通した空気がアルバム全体に充満しているということ。

 アンサンブルもビートも認識できるのですが、それ以上に音の響き自体が心地よく、自分も音楽のなかを漂っているような気分になります。

 2曲目「She’s So Lovely」は、ミニマルなドラムのリズムと、アンサンブルの隙間を埋め尽くす、種々のエレクトリックな持続音が心地よい1曲。そのなかに溶け込むように、メロディーを紡ぐ耽美なボーカルは、幻想的かつサイケデリック。

 3曲目の「All Your Yeahs」は、淡々と8分音符を刻むギターとドラムの上で、ボーカルがゆったりとしたテンポで漂う1曲。ドラムとギターが一定のテンポを守り続けていて、トリップ感覚もあります。そのコントラストのためか、再生時間2:37あたりからのシンセと思われるソロが、ひときわメロディアスに感じられます。

 4曲目「One Thing」は、ギターとドラムの音がソリッドで、ビートも強く感じる1曲。ギターをフィーチャーしつつ、エレクトリックな持続音も加えて空間を満たすところは、シューゲイザーのようにも聞こえます。

 7曲目「Elegy To The Void」は、柔らかな音の波が上下に揺れる1曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようなメロディーを歌っています。音響とバンドのアンサンブルが、不可分なほど一体化していて、この演奏にはこのサウンドしかない、という絶妙なバランス。

 ビーチ・ハウスは、ジャンルとしてはドリーム・ポップのフォルダに入れられることが多いのですが、本作もドリーミーなサウンドで満たされたアルバムであると言えます。

 では、本作の「ドリーミーなサウンド」とは、具体的にどのような音が鳴っているのかと言えば、まず輪郭がぼやけた、非常にソフトなサウンド・プロダクションを持っています。その柔らかなサウンドによって、リズムやメロディーよりも、音響が前景化され、音楽の響きに身を委ねる気持ち良さに溢れたアルバムです。

 まさに夢の世界を漂うような音を持った作品だと思います。僕はこのアルバムに没頭すると、トリップしそうにもなりますが(笑)





Les Savy Fav “Let’s Stay Friends” / レ・サヴィ・ファヴ『レッツ・ステイ・フレンズ』


Les Savy Fav “Let’s Stay Friends”

レ・サヴィ・ファヴ 『レッツ・ステイ・フレンズ』
発売: 2007年9月18日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身のバンド、レ・サヴィ・ファヴの4枚目のアルバム。ベースのシド・バトラーは、本作をリリースしているレーベル、フレンチキスの創設者です。

 立体的なアンサンブル、オルタナティヴな香りを振りまくディストーション・ギター、実験的なアレンジ等々、インディーロックの魅力が多分につまった、USインディーの良心のようなアルバムです。

 ルーツ・ミュージックからガレージ、オルタナ、インディーロックまで、多種多様なジャンルが顔を見せ、実験的な要素もありながら、全体としてはカラフルでポップ。バランス感覚が抜群だと思います。

 1曲目の「Pots & Pans」から、臨場感あふれるドラム、オーバー・プロダクションになっていない地に足のついた音色のギター、それらを用いた多層的なアンサンブルが展開。早速、素晴らしい1曲です。再生時間1:02あたりからの立体的なドラミングも最高。

 2曲目の「The Equestrian」は、ギター、ベース、ドラム、そしてボーカルまで、全ての楽器がエモーションの表出のようなサウンドを響かせる1曲。「エモい」という言葉では片付けられないほどエモーションが充満しています。

 4曲目の「Patty Lee」は、タイトなリズム隊と、高音を使ったギターのコントラストが鮮やかな1曲。コーラスワークと歌メロも色彩豊かでポップ。

 8曲目「Slugs In The Shrubs」は、縦ノリのリズムがかっこいい1曲。イントロのトライバルな雰囲気のかけ声、エモーショナルなボーカルも、カラフルかつ雑多な空気感を演出しています。

 一聴するとわかりやすいロックな曲のように思えても、ちょっと奇妙な部分を持っている、実にインディーロックらしいアルバムです。

 アンサンブルも良いし、立体的で臨場感あふれるサウンド・プロダクションも良いです。日本ではいまいち地味な印象のバンドですが、積極的にオススメしたいバンドであり、作品。

 





Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String” / ビショップ・アレン『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』


Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String”

ビショップ・アレン 『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』
発売: 2007年7月24日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの2ndアルバムです。

 個人的に大好きなバンド、ビショップ・アレン。彼らの魅力は、楽曲もサウンドもポップで親しみやすいのに、アンサンブルは立体的でグルーヴ感も抜群なところ。

 本作も曲によってキュートだったり、ローファイ風だったり、カラフルなサウンドと共に躍動感あふれるバンド・サウンドを響かせています。

 2曲目「Rain」は、テンポも速めで、疾走感のある1曲。ドラムのドタバタ感が絶妙にローファイの香りを漂わせていて良い。各楽器のリズムの組み合わせで、加速感を出していて、本当に素晴らしいアンサンブル。エレキ・ギターは、音作りもフレーズもシンプルなのに、いちいち耳に残ってしまう。

 3曲目「Click, Click, Click, Click」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まり、徐々に音が増えていく展開。再生時間1:05あたりからフルバンドになり、いきいきと躍動を始めるところのコントラストも秀逸。

 このバンドは、本当にムダな音を使わず、鮮やかにコントラストや疾走感、躍動感を演出できるバンドだと思います。言い換えれば、引き算のできるバンド。再生時間1:51あたりから、もう一段シフトが上がるところも、カッコ良すぎて泣ける。

 6曲目「Like Castanets」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、音色的にはカントリーに近いのですが、パーカッションやトランペットが曲に色彩を足し、彼ら特有のポップスに仕上がっています。この曲もアンサンブルが素晴らしい。

 10曲目「Middle Management」は、歪んだエレキ・ギターとパワフルなドラムが、ハイテンポで駆け抜けていく、ガレージ風味のロックな1曲。とはいえ、このバンドが持つポップでカラフルな魅力は、全く損なわれていません。

 今作も本当に素晴らしいアルバムです。カントリーやガレージを感じさせる要素もありながら、決して特定のジャンルに染まることはなく、オリジナリティを保ったまま、カラフルなサウンドと、躍動感あふれるアンサンブルを響かせます。

 このアルバムを含めて、ビショップ・アレンの作品は全て高いクオリティを保っていると思います。個人的に、心からオススメしたいバンド。

 





Bishop Allen “Grrr…” / ビショップ・アレン『Grrr…』


Bishop Allen “Grrr…”

ビショップ・アレン 『Grrr…』
発売: 2009年3月10日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの3rdアルバムです。

 日本での知名度はいまいちですが、僕はこのバンドがめちゃくちゃ好きなんです。彼らの魅力を一言であらわすと、楽曲とサウンド・プロダクションはポップでカラフル、アンサンブルは立体的で躍動感とグルーヴ感もある、本当に聴きどころばかりの素晴らしい音楽をクリエイトし続けています。(一言で終わらなかった…)

 本作『Grrr…』も、キュートでカラフルな極上のポップスでありながら、アレンジやサウンドには実験的な要素もあり、素晴らしいバランス感覚で作られたアルバムです。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がありますが、本作はまさにおもちゃ箱をひっくり返したように、煩雑かつカラフルで、子供のおもちゃ箱だと思っていたら、ガチなモデルガンとか鉄道模型も出てきた!みたいなアルバムです。

 1曲目「Dimmer」では、耳元で歌っているかのような音のボーカルに、次々と楽器が加わり、立体的でグルーヴ感あふれるアンサンブルが展開されます。再生時間1:20からの、バンド全体で前進していくような、各楽器が絡み合い、追い越し合うようなリズム・デザインもたまらない。再生時間1:58あたりからの展開も、コントラストを演出していて、楽曲の世界観を著しく広げています。

 2曲目「The Lion & The Teacup」は、イントロから徐々に楽器が増加し、それに比例してリズムが立体的になっていく展開が心地よい1曲。

 5曲目「Oklahoma」は、ギターポップのようなカラフルで甘い耳ざわりのサウンド。ですが、アンサンブルはちょっと複雑で、歌メロ以外の部分にも聴きごたえがあります。このあたりのバランス感覚とポップ・センスには脱帽。

 9曲目の「Shanghaied」は、本作のベスト・トラックです。わずか2分30秒の間に、多種多様な楽器が使われ、サウンドも色彩豊かなのですが、ムダな音がひとつも無い。フックだらけの音楽。

 イントロのドタバタした感じのドラムもいいし、アコギの音とリズムもいい。そのあとに入ってくる「ラーララー…」というコーラスも、その裏で鳴っているマレット系の打楽器の音も、有機的にアンサンブルを構成していて、音楽がいきいきと躍動しています。

 この曲は、エレキ・ギターの音も最高。アンプ直で音作りしたような、シンプルなサウンドですが、ところどころに入ってくるフレーズがアクセントになっていて、耳に残ります。再生時間1;50あたりでは「ジャーン」って弾いただけなのに、この上なくテンションが上がります。

 アルバムを通して聴いても、本当にポップで、奥が深く、長く付き合える素晴らしい1枚だと思います。心からオススメしたい作品です。

 ピッチフォークのレビューでは、10点満点で3.5という低評価。ですが、僕の評価だと、9.2ぐらいはつけたい名盤です!

 残念ながら、このアルバムは今のところデジタル配信されていないようです…。ビショップ・アレンの他のアルバムは配信されてるのに…。





El Guapo “The Phenomenon Of Renewal” / エル・グアポ『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』


El Guapo “The Phenomenon Of Renewal”

エル・グアポ 『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』
発売: 1998年
レーベル: Resin Records (レズン・レコード)

 ワシントンD.C.出身のバンド、エル・グアポの2ndアルバム。このバンドは、後にディスコード、さらにバンド名をスーパーシステムへ変更したのちタッチ・アンド・ゴーと契約しますが、本作はResin Recordsというレーベルから発売されています。

 音には若干のローファイ感が漂い、アンサンブルにも隙間が多いのですが、不思議とスカスカには感じないアルバム。おそらくその理由は、アンサンブルをかっちりタイトに合わせず、適度にラフさがあるからじゃないかなと思います。聴き込んでいくと、適度にやっているわけじゃなく、かなりのスキルを持ったメンバーたちだな、ということもわかります。

 しかも、そのラフさがグルーヴ感や疾走感を生み、欠点ではなく、あきらかに魅力になっています。阿吽の呼吸という言葉がありますが、演奏からバンド全体の一体感あるテンションが伝わってきて、メンバーたちは音楽を通して高度なコミュニケーションを楽しんでいるのかな、とさえ思わせます。

 2曲目「Eighteen Benedictions」は、各楽器がバラバラなようで、複雑に絡み合う1曲。どこまできっちり決めているのか分かりませんが、加速と減速を繰り返すアレンジがクール。荒削りな部分と、ピタリと合わせる部分のバランスが抜群に良いです。

 3曲目「Delia Had A Sickness」は、音数の少ないイントロから、次第に音が増えていき、加速していく展開。各楽器のサウンドは全てシンプルなのに、これしかない!というかっこよさ。

 4曲目「About Two Dreams」は、リズムがやや複雑な1曲。痙攣するように小刻みなドラムに、徐々にギターとベースが絡まり、加速していきます。

 6曲目「An Opener Of Doors: A Friend Of GM Flash」は、サウンドもアンサンブルも立体的。終盤はカオスな展開で、これもめちゃくちゃかっこいい!

 10曲目「Symbol / Object」は、タイトに複雑なリズムを刻むドラムに、ノイジーなギターと、ロングトーンをいかしたベースが重なる1曲。三者がバラバラなようで、絶妙なバランスのアンサンブルが構成されていきます。

 シンプルさと複雑さのバランスが絶妙なアルバムです。音数を絞ったミニマルな部分と、三者が絡み合い複雑なアンサンブルを構成する部分とのコントラストが鮮烈。

 また、生々しく飾り気のないサウンド・プロダクションも、単純にかっこよく、演奏を前景化させる効果もあると思います。

 このアルバムをリリースしたResin Recordsというレーベル、僕は全く知らなかったのですが、1997年から2000年ぐらいのごく短い期間だけ活動していたレーベルのようです。