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The Skygreen Leopards “Disciples Of California” / ザ・スカイグリーン・レパーズ『ディサイプルス・オブ・カリフォルニア』


The Skygreen Leopards “Disciples Of California”

ザ・スカイグリーン・レパーズ 『ディサイプルス・オブ・カリフォルニア』
発売: 2006年10月24日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 2001年にカリフォルニア州サンフランシスコで結成された、グレン・ドナルドソン(Glenn Donaldson)とドノヴァン・クイン(Donovan Quinn)からなる2ピース・バンド、ザ・スカイグリーン・レパーズの2006年発売のアルバム。

 メンバー2人は、ジュエルド・アントラー・コレクティヴ(The Jewelled Antler Collective)というミュージシャン・グループの一員でもあります。

 本作には、ザ・スカイグリーン・レパーズと同じくサンフランシスコ出身のシェイディー・サーティン(Shayde Sartin)、ペーパーカッツ(Papercuts)ことジェイソン・クイヴァー(Jason Quever)らも参加。

 牧歌的なカントリーロードの先に置かれたドクロが、不釣り合いなようで、まわりに溶け込んでいるようにも見えるジャケット。この印象的なジャケットに対応するように、本作もサイケデリックな雰囲気を醸し出すフォーク、といった趣のアルバムです。

 たびたび、彼らと同じくカリフォルニア州出身のフォーク・ロック・バンド、ザ・バーズ(The Byrds)が引き合いに出されることがあるザ・スカイグリーン・レパーズ。確かに、フォークやカントリーを下敷きにしながら、ザ・バーズを思わせる揺れるようなサウンドを持っています。

 アルバム表題曲でもある、1曲目の「Disciples Of California」から、アコースティック・ギターのコード・ストロークを基本にしたカントリー色の濃い音楽が鳴らされています。しかし、アコギの音にも若干の濁りがあり、それを取り囲むエレキ・ギターとリズム隊も有機的にアンサンブルを構成。緩やかなグルーヴ感と、サイケデリックな空気を併せ持った1曲です。

 4曲目「Egyptian Circus」は、複数のギターが多層的に重なっていき、音のヴェールを生み出すようなサウンド・プロダクション。エフェクターに頼らず、幻想的な空気を演出しています。

 6曲目「William & The Sacred Hammer」は、トレモロのかかった震えるようなギター・サウンドが、ゆったりとしたテンポに乗って、牧歌的かつサイケデリックな雰囲気を醸し出す1曲。ドラムもタメをたっぷり作って、音が遅れて出てくるようにリズムを刻み、サイケデリックな空気をさらに盛り上げます。

 一聴するとカントリー色が強く、そこまでサイケデリアや実験性が前面に出ているわけではありませんが、穏やかなサウンドの中に、わずかに壊れた部分が隠されている、といった感じで、違和感がアクセントとして、音楽のフックになったアルバム。

 やり過ぎてないし、わざとらしくもないけど、静かに壊れてる、というバランス感覚が良いと思います。

 iTunes StoreおよびApple Musicでは、今のところデジタル配信はされていないようです。アメリカ国内では配信されているので、将来的には可能性がありそうですが。





Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables” / デッド・ケネディーズ『暗殺』


Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables”

デッド・ケネディーズ 『暗殺』
発売: 1980年9月2日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ), Cherry Red (チェリーレッド)

 カリフォルニア州サンフランシスコのパンク・バンド、デッド・ケネディーズのデビュー・アルバムです。最初はイギリスのCherry Redレーベルから発売され、その後メンバーのジェロ・ビアフラが設立したレーベル、Alternative Tentaclesからもリリースされています。

 英語のアルバム・タイトルは『Fresh Fruit For Rotting Vegetables』ですが、日本盤には『暗殺』という邦題がつけられていました。

 現代的なハイファイ・サウンドと比較すれば、やや奥まった印象のあるサウンドですが、そんなことは気にならなくなるほど、初期衝動で突っ走るアルバムです。あまりアンサンブルがどうこうとか、サウンド・プロダクションがどうこうとか言うアルバムではなく、エモーションと疾走感が溢れた1作。

 テンポが速いことに加えて、バンド全体が塊になって迫ってくるような一体感があります。また、直線的に突っ走るだけではなく、演奏には確かな技術力も感じられるバンドです。

 1曲目は「Kill The Poor」。「ボーカルの声が唯一無二」と言われることが多いこのバンド、確かにやや演説っぽいというべきなのか、絶妙にビブラートがかかり、聴き手をアジテートするような魅力のある声です。ハイテンポではないものの、各楽器のプレイには随所に推進力となるようなフックがあり、アンサンブルも機能的にまとまった1曲だと思います。

 2曲目「Forward To Death」は、1分20秒ほどの長さの、疾走感あふれる1曲。と言っても、このアルバムに収録の14曲中6曲は2分未満です。イントロからドラムがリズムを刻み、ギターとベースが追いかけっこをするように走り抜け、聴き手をハイテンポな曲に引きずり込んでいきます。

 7曲目「Chemical Warfare」は、再生時間1:56あたりで3拍子に切り替わる部分にも意外性があります。当該部分のユーモアたっぷりのボーカルの歌い方もアクセント。曲のラストはカオスになってから、カウントを取り直してきっちり終わるなど、展開が多彩。

 8曲目の「California Über Alles」は、イントロから、立体的なドラムが響きわたり、ギターとベースも鋭くリズムを刻んでいきます。声の奥からビブラートをかけたようなボーカルも印象的。

 勢いを重視した、疾走感あふれるアンサンブルが展開される1作です。しかし、前述したとおり、全て8ビートの直線的な曲が続くわけではなく、演奏力の高さをうかがわせます。

 また、ロカビリーやカントリー、ロックンロールなど、彼らのルーツと思われる音楽の要素も隠すことなく感じられ、パンク一辺倒ではない多彩さもある作品です。ボーカルの声も魅力的。リスナーの背中を押すような、アジテートするような空気を持った声です。

 現代的な音圧高め、レンジ広め、輪郭くっきりのサウンドから比較すると、音圧不足でモヤっとしたサウンドと感じる方もいるかもしれません。しかし、そんな意識を吹き飛ばすぐらいの気合いと勢いの充満したアルバムです。

 





The Dodos “Individ” / ザ・ドードース『インディヴィッド』


The Dodos “Individ”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『インディヴィッド』
発売: 2015年1月25日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの6thアルバム。前作に引き続き、イリノイ州シャンペーンのレーベルPolyvinylよりリリース。

 1stアルバム『Beware Of The Maniacs』では、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたフォーキーなサウンドで、ロック的な躍動感とダイナミズムを実現させたドードーズ。その後、作品を重ねるごとに、音楽性とサウンド・プロダクションの幅を広げていきました。

 前述したように初期の作品ではオーガニックな耳ざわりの生楽器を、アンサンブルの中心に据えていた彼らですが、徐々にエレキ・ギターなどの使用も増え、前作『Carrier』も、様々なサウンドを効果的に融合し、アンサンブルを作り上げていました。

 今作『Individ』も、ルーツ・ミュージックの香りも漂いつつ、オルタナティヴで現代的なサウンドを持った作品に仕上がっています。

 1曲目「Precipitation」では、イントロからエレキ・ギターの音なのか、アンビエントなサウンドが鳴り響きます。そのまま、エレクトロニカのような音像を持ったサウンドが50秒ほど続きますが、躍動感あふれるドラムが加わり、流れるような美しいメロディーを歌うボーカルが入ってくると、音楽が途端に表情豊かになります。

 歌が中心にあるポップな曲ではあるのですが、まわりでは多種多様な音が鳴っており、しかもノイズに近いジャンクなサウンドも含まれているのですが、全ての音がタペストリーのように折り重なり、不思議と心地よい音楽になっています。(もし聴いてみて「うるさい」「気持ち悪い」と感じる方がいらっしゃったら、すいません…)

 3曲目「Bubble」は、空間系のエフェクターのかかったギターと、ラフに打ちつけるようなサウンドのドラムが、お互いにかみ合うようにリズムを形成する1色。こちらも、サウンドといいリズムといい、サイケデリックな空気が漂いますが、ボーカルのメロディーをはじめ、全体としてはポップな印象。

 4曲目「Competition」は、イントロから、もつれるようなドラムのリズムが、耳に引っかかります。ギターのサウンドにもローファイ感がありますが、聴いているうちに最初は違和感だったものが、音楽のフックへと転化していくのがわかる1曲。

 9曲目「Pattern / Shadow」は、7分を超える大曲。イントロから、毛羽立ったように歪んだサウンドをはじめ、複数の音色の異なるギターが交じり合い、複雑なアンサンブルを構成します。単純に静寂と轟音、ヴァースとコーラスを循環するのではなく、次々に展開のある曲です。再生時間3:25あたりから雰囲気が一変するので、これより前が「Pattern」、これ以降が「Shadow」ということなのでしょう。

 前述したように、初期ドードーズの特徴のひとつは、アコースティック楽器を用いながら、圧倒的な躍動感を響かせていたところですが、今作ではサウンドの実験性が格段に増しています。しかし、彼らの美しいメロディーとコーラス・ワーク、グルーヴ感あふれるアンサンブルも健在。

 また、実験的で違和感を覚えるようなサウンドやアレンジを使いながらも、それらを音楽的なフックに転化し、ポップ・ミュージックに仕立てるセンスにも、舌を巻きます。

 個人的には1stアルバム時の、カントリー色の強いサウンドなのに演奏はパワフル、というのも好きですが、今作も非常に好きなアルバムです。

 





The Dodos “Carrier” / ザ・ドードース『キャリアー』


The Dodos “Carrier”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『キャリアー』
発売: 2013年8月27日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Jay Pellicci (ジェイ・ペリッチ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの通算5枚目のスタジオ・アルバム。2ndアルバム『Visiter』から4thアルバム『No Color』まではニューヨークのレーベルFrenchkissからのリリースでしたが、本作からイリノイ州シャンペーンと、カリフォルニア州サンフランシスコに居を構えるPolyvinylへ移籍しています。

 また、本作ではバンド名の表記から「The」が外され、「Dodos」と表記されています。このあとの6作目『Individ』では、「The Dodos」標記へ戻っています。

 ドードーズの特徴といえば、アコースティック楽器をアンサンブルの中心に据えながら、色彩豊かなサウンドと、パワフルでいきいきとした躍動感を響かせるところです。立体的で、空間の広さを感じさせる、ドラムのサウンドも魅力。

 今作『Carrier』は、パワフルで立体的なドラムはやや抑え目に、アンサンブルでコントラストとグルーヴを丁寧に組み上げた印象の1作。また、今まではアコースティック・ギターがサウンドの中核でしたが、今作ではエレキ・ギターが多用されているのも特徴です。

 1曲目は「Transformer」は、リズムの異なる2本のギターによるイントロから、徐々に音楽が躍動していきます。再生時間0:49あたり、再生時間1:40あたりなど、ドラムがシフトの切り替えを担い、バンド全体もドラムと共にコントラストを演出するアレンジも秀逸。

 4曲目の「Stranger」は、4分間の曲なのに、展開が実に多彩な1曲。細かくリズムを刻むドラムとギターが、音数の多さで壁を作るようなイントロ。再生時間1:49あたりからの、立ちはだかる壁のような厚みのあるディストーション・サウンド。さらに再生時間2:18あたりから、手数を増やし、一気にシフトを上げるドラム。そのドラムが先導者となって、バンド全体が躍動を始める展開も、鳥肌ものです。

 10曲目の「Death」は、タイトルのとおり、寂しけでエレクトロニカのような音響的なイントロ。空間系のエフェクターの深くかかった、幻想的なサウンドのギターと、穏やかに漂うようなボーカルが、アンビエントな雰囲気を醸し出します。ドードーズには、めずらしい音像を持った1曲。

 いきいきとした躍動感と、アンサンブルの巧みさは残しつつ、サウンド・プロダクションの広がりを感じさせる1作。このアルバムも、非常にクオリティが高いのは間違いないのですが、僕個人の好みだと、1枚目から4枚目の、カントリー色の強いサウンドながら、パワフルな躍動感を響かせていた作品の方が好きです。

 このアルバムは2018年3月現在、残念ながらデジタル配信はされていないようです。





The Dodos “No Color” / ザ・ドードース『ノー・カラー』


The Dodos “No Color”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『ノー・カラー』
発売: 2011年3月15日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: John Askew (ジョン・アスキュー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの4thアルバムです。本作には、一部の曲でバッキング・ボーカルとして、ニーコ・ケース(Neko Case)が参加しています。

 アコースティック・ギターとドラムを基本とした2ピース・バンドであるのに、人数の少なさ、音色の少なさを全く感じさせない、パワフルかつカラフルで、変幻自在なアンサンブルを響かせるザ・ドードーズ。

 ナチュラルな響きのアコースティック楽器を中心に据え、フォークやカントリーを思わせる耳ざわりでありながら、ロック的なダイナミズムを持っているのも、彼らの特徴です。

 本作『No Color』でも、使用されるサウンドの種類には限りがあるのに、曲ごとに多彩なアンサンブルを構成し、ロック的な迫力あるグルーヴを聴かせてくれます。アルバムを通して、サウンド的にもアレンジ的にも、単調な印象は全くありません。

 1曲目の「Black Night」のイントロから、早速ドタバタと打ち付けるようなドラムのビートが響き、透明感のある繊細なアコースティック・ギターのサウンドが、それに加わります。サウンドとリズムの両面で、両者が溶け合う絶妙なバランス。さらに、流れるようなボーカルのメロディーが、曲に彩りをプラスします。

 ドラムが入っていなかったら、牧歌的な弾き語りの曲になっていそうですが、パワフルでジャンクな雰囲気も醸し出すドラムが、曲に奥行きを与えています。おそらくオーバー・ダビングで、エレキ・ギターらしき音も重ねられているものの、2ピースとは思えない躍動感あふれる1曲。

 2曲目「Going Under」も、臨場感あふれるドラムと、アコースティック・ギターのみずみずしい音色が絡み合う1曲。この曲では、オルタナティヴな雰囲気を持ったエレキ・ギターが効果的に使われています。

 4曲目「Sleep」は、カントリーの香り立つアコギの速弾きと、前のめりに暴発しそうなドラムが疾走していく1曲。使用されている楽器とサウンド・プロダクションはカントリーに近いのに、楽曲の疾走感、躍動感は、ロックが持つそれです。

 6曲目「When Will You Go」は、アコースティック・ギターの繊細な音と、タイトなドラムがグルーヴを生み出していく1曲。

 1stアルバムで、アコースティック・ギターとドラムの2ピースとは思えない迫力のサウンドを響かせ(しかも自主リリース!)、2nd、3rdとサウンドとアレンジの幅を広げてきたドードーズ。今作は、1stアルバム時代の生楽器によるパワフルな躍動感が、戻ってきたアルバムだと思います。

 2ndと3rdでは、楽器とサウンドの種類を増やし、アレンジメントも着実に洗練されていきました。そんな過去2作がおとなしいアルバムというわけではなく、今作はオーガニックな生楽器のサウンドへと原点回帰し、アンサンブルを再構築しようというアルバムのように感じました。

 僕はドードーズが大好きだというのもありますが、彼らの作品にハズレなしです!