Sunny Day Real Estate “Diary”
サニー・デイ・リアル・エステイト 『ダイアリー』
発売: 1994年5月10日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)
1992年にワシントン州シアトルで結成されたバンド、サニー・デイ・リアル・エステイトの1stアルバム。
いわゆる「エモ」を代表するバンドと目される、このバンド。エモ、あるいは「エモーショナル・ハードコア」や「エモコア」とも呼ばれるこのジャンルは、その名のとおりエモーショナルな心の動き、感情を音楽であらわしたもの。
では、その「エモさ」や「エモーショナル」とは何か。疾走感あふれるビートに乗せて、起伏のはっきりしたメロディアスな歌メロが、溢れ出す感情を表現し、リズムとメロディーの両面の親しみやすさから、リスナーに「エモい」と感じさせるのでしょう。
また、シングアロングできる音楽面の親しみやすさに加えて、個人的な感情を吐露することの多い歌詞も、このジャンルの共感性を高めていると言えます。
サニー・デイ・リアル・エステイトの1stアルバムである本作『Diary』は、エモの名盤と称えられる評価を受けており、実際に僕も「エモい」作品であると思います。
しかし、前述したようなビートの強さやメロディーよりも、アンサンブルを優先し、バンド全体で感情を表すような複雑性も持ち合わせており、エモの要素もありつつ、ポスト・ハードコア的にジャンルの先を目指す実験性も共存。フックが多く、情報量の多い1作です。
1曲目の「Seven」は、うなりを上げるギターと、高らかにメロディーを歌い上げるボーカルに耳が行きますが、その下で動き回るベースが、楽曲の躍動感を増しています。この曲以外も、ベースはメロディアスに動くプレイが多く、このアルバムに立体感を加えていると言えるでしょう。
2曲目「In Circles」でも、厚みのあるギターのサウンドの下で、ベースが激しく動き回っています。手数を絞りながらも、タイトかつ立体的にリズムを刻んでいくドラムが、アンサンブルを引き締めています。
3曲目「Song About An Angel」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、丁寧に音が置かれていきます。穏やかなバンドのアンサンブルに合わせて、ボーカルも優しく丁寧に歌い上げていきます。再生時間1:30あたりで、分厚いディストーション・ギターが入ると、徐々にバンド全体もシフトを上げ、演奏とボーカルが熱を帯びていきます。
4曲目「Round」は、細かくリズムを刻むドラムのイントロに導かれ、小気味よいスウィング感のあるアンサンブルが展開する1曲。
5曲目「47」は、タイトなアンサンブルと、ボーカルの歌唱をはじめ穏やかな空気が充満する、ミドル・テンポの1曲。時折、差し挟まれる、高らかに歌い上げるようなギターのフレーズと音色が、楽曲をエモーショナルに彩っています。
7曲目「Pheurton Skeurto」は、ピアノがフィーチャーされた、3拍子のミドル・テンポの1曲。楽器はピアノとベースのみで、ピアノに絡みつくようにベースがフレーズを繰り出し、ゆるやかに揺れ動く躍動感を生んでいます。
8曲目「Shadows」は、2本のギターが絡み合う、穏やかなイントロから、轟音のアンサンブルへとなだれ込み、静と動を行き来するコントラスト鮮やかな1曲。
9曲目「48」は、ドラムの小刻みなリズムをはじめ、各楽器が細かい音を持ち寄り、有機的にアンサンブルを作り上げていく1曲。前半は物静かに進みますが、再生時間1:25あたりで轟音ギターが登場し、ハードな音像へ。その後は轟音と静寂が交互に入れ替わるアンサンブルが展開します。
11曲目「Sometimes」は、ゆったりとしたテンポの基本的には穏やかな1曲。ですが、轟音ギターと高らかに歌い上げるエモーショナルなボーカルがところどころに顔を出し、楽曲にコントラストを与えています。
「Seven」「47」「48」と、数字のみの曲タイトルがありますが、これはもともとバンドがデモを作り始めたときに、作曲順を示すタイトルが付けられており、その名残りのようです。ちなみに2009年に発売されたリイシュー盤には、ボーナス・トラックとして「8」と「9」が収録されています。
「エモ」と言うと、直線的なノリのいいビートに乗せて、起伏の激しいメロディアスなボーカルが疾走する音楽を想像する方が多いのではないかと思います。かくいう自分も、その一人です。
しかし、本作はテンポを抑えた曲も多く、強靭なビートでグイグイと引っ張っていく場面は、それほどありません。その代わりに、メリハリの効いたコントラストの鮮烈なアンサンブルによって、感情の起伏や爆発を表現している、そんなアルバムではないかと思います。
また、1990年代のシアトル、そしてサブ・ポップというと、グランジとオルタナティヴ・ロック旋風が吹き荒れていたんじゃないかと思いますが、本作にも少なからずその影響を感じます。
いずれにしても、ジャンルの型にハマらず、オリジナリティと創造性を備えたバンドであり、作品であることは確かです。