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The Faint “Media” / ザ・フェイント『メディア』


The Faint “Media”

ザ・フェイント 『メディア』
発売: 1998年3月24日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス(モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの1stアルバム。このバンドは、1995年にノーマン・ベイラー(Norman Bailer)という名前で結成され、最初期のごく短い期間ではありますが、ブライト・アイズのコナー・オバーストが参加していました。

 2ndアルバム以降は、シンセをフィーチャーし、ダンス・パンク色が濃くなっていくザ・フェイント。1stアルバムである本作『Media』にもシンセサイザーは使用されており、ダンス・パンクやポストパンク・リバイバルの雰囲気もわずかに持っているものの、ディストーション・ギターが前面に出たソリッドなサウンドを響かせています。

 ドラムも立体感のあるドラムらしい音色。この作品以降は、ドラムも打ち込み的な無機質なビートを用いることが増加します。3rdアルバムの『Danse Macabre』と比較すると、サウンド・プロダクションの違いがよくわかると思います。本作にダンス・パンク色は、ほぼ感じられないと言ってもいいぐらいです。

 本作『Media』で聴かれるのは、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴに影響を受けたポスト・ハードコア、といったバランスのサウンド。スピード重視のハードコアではなく、キーボードも用いて、立体的なアンサンブルを構築したアルバムです。

 2曲目「Some Incrininating Photographs」は、ドラムとギターが立体的に絡み合い、シンセも効果的にアンサンブルに参加する、ミドル・テンポの1曲。ギターとドラムが、特に臨場感あふれる生々しい音で響きます。

 5曲目「Repertoire Of Uncommon Depth」は、ノイジーなギター、硬質でハリのあるベース、手数を絞ったドラムが、イントロから複雑なアンサンブルを構成。全体的に生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションです。ギターの音とフレーズからは、アヴァンギャルドな空気も漂う1曲。インディーズらしい質感のかっこよさ。

 前述したとおり、ザ・フェイントはこの作品以降はシンセが多用され、ダンス色を強めていきますが、本作はソリッドで生々しい音像を持った1枚です。

 アンサンブルも、実験的な要素もありながら、ロック的なかっこよさも備えています。リアルな音像と相まって、非常にかっこいい1枚。

 一般的には3rdアルバム『Danse Macabre』の方が、その後のダンス・パンク系バンドへの影響も含めて、代表作と目されることが多いですが、個人的にはこの1stの方が好きです。

 





Fugazi “Red Medicine” / フガジ『レッド・メディスン』


Fugazi “Red Medicine”

フガジ 『レッド・メディスン』
発売: 1995年6月12日
レーベル: Dischord (ディスコード)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの4枚目のスタジオ・アルバムです。

 フガジのアルバムは安定してクオリティが高いのですが、本作『Red Medicine』も例外ではありません。生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションと、タイトに絞り込まれたグルーヴ感抜群のアンサンブルは、この作品にも健在。

 1曲目の「Do You Like Me」のイントロから、ノイジーでざらついた質感のギターが響き渡ります。このままノイズをかき鳴らすイントロダクション的な1曲かと思いきや、再生時間0:53あたりから、突然バンドのタイトなアンサンブルがスタート。十分にかっこいい曲ですが、バンドもボーカルも、まだ1曲目でやや抑え気味の印象。

 2曲目「Bed For The Scraping」は、イントロの硬質なサウンドのベースに、まず耳を奪われます。ドラムも臨場感あふれる音質でレコーディングされており、迫力満点。イアン・マッケイのボーカルも、聴いていて怖くなるぐらいのテンションです。

 この曲は、ギターのサウンドが特にすばらしい。音圧が特別高いというわけではないのに、独特の倍音を含んだ広がりのあるサウンドで、バンド全体の音を華やかに彩っています。再生時間0:29あたりからの短い間奏は、シンプルなフレーズを繰り返しているだけなのに、それだけで成立する説得力があります。

 4曲目の「Birthday Pony」は、アングラ臭の充満するイントロから、轟音ギターをトリガーにして、音数を絞り、緊張感とスリルを演出するようなアンサンブルが展開されます。

 8曲目「By You」は、静かなサウンドの各楽器が絡み合うアンサンブルからスタートし、轟音に切り替わるコントラストが鮮烈。ノイジーに弾きまくるギターに、グルーヴしながらタイトにリズムを刻むリズム隊、感情を抑えたボーカルのバランスも、絶妙な1曲。直線的に突っ走るだけではなく、一歩引いたアレンジで、多様なエモーションを描くところもフガジの魅力です。

 10曲目「Target」は、フガジにしてはポップで聴きやすい1曲。他の曲がポップではない、というわけではありませんが、この曲は切迫感や爆発的なエモーションは抑え目に、歌メロがやや前景化していると思います。とはいえ、フガジらしい機能的でグル―ヴィーなアンサンブルは健在。

 フガジのアルバム全般に言えることですが、まず各楽器のサウンドとボーカルの声が素晴らしいです。前述したようにギターの音を例にとっても、エフェクターでゴージャスに音作りしたサウンドとは一線を画す、生々しく鬼気迫るサウンドをしています。

 臨場感あふれる各楽器のサウンドが、立体感のある無駄のないバンド・アンサンブルを展開していきます。さらに、そのバンドと共に、エモーションを振る絞るイアン・マッケイのボーカル。全ての音が耳と心に突き刺さるような、切れ味鋭いアルバムだと思います。

 





Fugazi “In On The Kill Taker” / フガジ『イン・オン・ザ・キル・テイカー』


Fugazi “In On The Kill Taker”

フガジ 『イン・オン・ザ・キル・テイカー』
発売: 1993年6月30日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ted Niceley (テッド・ニスリー)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 世代的にこのアルバムを聴いたのはリアルタイムではありません。これは僕の個人的な嗜好の話ですが、アメリカのインディーズを意識的に聴き始めたころ、ソニック・ユースやアニマル・コレクティブなど分かりやすくアート性を持ったバンドが好きで、ある時期までハードコアというジャンルに偏見があり、自分には必要ない音楽なんだろうと思い込んでいました。

 そんな意識を一変させ、「ディスコード」というレーベルのマークを、光り輝くメダルに見えるぐらいの変化をもたらしてくれたのが、フガジであり、このバンドを率いるイアン・マッケイ先生です。

 前口上が長くなりましたが、フガジのアルバムはどれも好きです。今作が特に好き、というわけではないですが、自分が初めて聴いたアルバムということで、思い入れはあります。

 ハードコアというとパワーコードを多用した速さを競うようなジャンルだという先入観があったのですが、まず今作は速さを追求したアルバムではありません。代わりに、音数を絞ったタイトで機能的なアンサンブルが、残響音まで聞こえるぐらい生々しく臨場感のあるサウンドで、展開されています。

 1曲目は「Facet Squared」。一聴すると、各楽器のサウンドもフレーズもシンプルで、すぐに耳コピできそうな曲に聞こえますが、とにかく迫力とコントラストが鮮烈で、かっこいい1曲。イントロのギターは単音を弾いているだけなのに、なんでこんなにかっこいいんだろう。

 再生時間0:47あたりからの、切れ味鋭いギターのサウンドも、鳥肌ものです。もっと音圧の高い、迫力のあるギター・サウンドっていくらでもあると思うんですが、シンプルに歪ませた音でジャカジャカとコードを弾いているだけなのに、これ以上ないぐらいの迫力。ロックのエキサイトメントを凝縮して抽出したような、純度の高さを感じる1曲。イアン・マッケイ先生のボーカルにも、鬼気迫るものがあります。。

 2曲目「Public Witness Program」は、テンション高く疾走する1曲。すべての楽器の音が硬質で、全体のサウンド・プロダクションにも、独特のざらついた質感があります。

 5曲目の「Rend It」は、イントロからバンドが塊になって聴き手に迫ってくる1曲。静寂と轟音のコントラストも鮮烈です。

 6曲目「23 Beats Off」は、6分を超えるアンサンブル重視の1曲。1曲の中でのギターのサウンド、全体の音量のレンジが広く、展開も多彩。

 アルバムを通して、臨場感のある生々しいサウンドと、エモーション溢れる演奏が、充満した1枚です。ボーカルの歌唱からも、もちろんエモーションが溢れていて迫力満点ですが、この作品の優れたところは、各楽器の音にも、怒りや苛立ちといった感情があらわれ、聴き手に迫ってくるところです。

 フガジのアルバムはどれも素晴らしい完成度で、この作品も安心してオススメできる1作です。

 





Fugazi “The Argument” / フガジ『ジ・アーギュメント』


Fugazi “The Argument”

フガジ 『ジ・アーギュメント』
発売: 2001年10月16日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの6枚目のスタジオ・アルバムであり、現在のところ最後のアルバムです。

 フガジのアルバムからは、常にストイックな空気が漂います。サウンドとアレンジの両面において、無駄を極限まで削ぎ落とした、むき出しの音を発しているのがその理由と言えるでしょう。

 シングアロングできるメロコアが持つ爽快感や、スピード重視のハードコアが持つ疾走感とは、全く異質の魅力が本作『The Argument』、そしてフガジの音楽にはあります。(メロコアやハードコアが劣っている、という意味ではありません。念のため。)

 前述したとおり、とにかくストイック。切れ味鋭いむき出しの音が、こちらに迫ってくるアルバムです。圧倒的に音圧や音量が高いというわけではないのに、臨場感あふれる鬼気迫るサウンドが、充満したアルバムです。

 2曲目「Cashout」は、アンビエントなイントロから始まり、再生時間0:53から混じり気のない音色のドラムとギターが、響きわたります。前半は感情を抑えたように淡々と進み、再生時間2:55あたりからエモーションが爆発。3:13あたりから始まるサビでの、イアン・マッケイのボーカルは鳥肌ものです。

 3曲目「Full Disclosure」は、役割のはっきりした2本のギター、硬質なベース、臨場感あふれるドラム、感情むき出しのボーカル、その全ての音が生々しく、かっこいい1曲。

 8曲目の「Oh」は、ざらついた音色のギターとベースが、複雑に絡み合う1曲。

 9曲目「Ex-Spectator」は、イントロからドラムの立体的な音像がかっこいいです。ボーカルが入るまでのイントロが1分ぐらいありますが、いつまでも聴いていたいぐらいアンサンブルが良い。しかし、イアン・マッケイ先生のボーカルがこれまた良い!

 再生時間1:42あたりからの間奏も、立体的なアンサンブルが非常にかっこいいです。4分20秒ぐらいの曲ですので、まずは黙ってこの曲を聴いてください!と言いたくなるレベルの楽曲です。

 アルバムを通して聴いてみると、音を絞ることで緊張感を演出し、いざ音が鳴らされたときの迫力を増幅させていると感じました。

 また、フガジのアルバムの中でも、特に間を大切にしたアルバムであるとも思います。フガジのアルバムは、どれもクオリティ高く良盤揃い。この作品が、今のところラストなのが残念です。

 





Shellac “Excellent Italian Greyhound” / シェラック『エクセレント・イタリアン・グレイハウンド』


Shellac “Excellent Italian Greyhound”

シェラック 『エクセレント・イタリアン・グレイハウンド』
発売: 2007年6月5日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 僕が敬愛する、大好きなレコーディング・エンジニア、スティーヴ・アルビニ先生が率いるバンド、シェラックの4枚目のアルバムです。

 エレクトロニカやポストロックには、サウンド自体を前景化させた、音響にこだわった作品がありますが、シェラックの音楽も、サウンドのかっこよさにフォーカスした音楽であると思います。

 ロックが持つかっこよさを、ロックのクリシェを使わずに表現するような、あるいはクリシェだけを凝縮して抽出したような、ストイックなかっこよさがあります。

 本作も無駄を削ぎ落とした、生々しくリアルなサウンドで、実験的でクールなアンサンブルが構成される1枚です。

 1曲目の「The End Of Radio」は、ミニマルなフレーズやパターンを繰り返す、隙間の多いバンドのアンサンブルに、スポークン・ワードが侵入する1曲。再生時間2:29あたりで満を持して登場するギターが、この上なくかっこいいです。

 2曲目「Steady As She Goes」は、イントロから、サウンドもリズムもタイトな、疾走感あふれるロックな1曲。硬く金属的な響きを持った各楽器のサウンド・プロダクションにも、むき出しのかっこよさがあります。

 6曲目「Kittypants」は、立体的な音像を持った1曲。イントロのドラムの一音目から、臨場感あふれるサウンドが響き渡ります。2分に満たない短い曲ですが、再生時間1:40あたりからのギターのサウンドは、生々しく本当にかっこいいです。

 シェラックの作品の中でも、一般的なポップ・ミュージックが持つ明確なフォームを持った曲が少なく、ちょっと敷居の高いアルバムだと思います。初めてシェラックを聴くならば、1stアルバム『At Action Park』の方が曲のフォームがはっきりしている分、聴きやすいので、まずはそちらをオススメいたします。

 しかし、このアルバムが劣っているというわけではなく、音もアンサンブルもストイックに絞りこまれた最高の1枚だと思ってます!

 アルビニ先生信者の方は、既に聴いているに決まっているアルバムですが、もしアルビニ先生が気になる、アルビニ録音の音が最高にいい!と思い始めた方は、ぜひこのアルバムも聴いてみてください。