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Liz Phair “Exile In Guyville” / リズ・フェア『エグザイル・イン・ガイヴィル』


Liz Phair “Exile In Guyville”

リズ・フェア 『エグザイル・イン・ガイヴィル』
発売: 1993年6月22日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 コネチカット州ニューヘイヴン生まれ、イリノイ州シカゴ育ちのシンガーソングライター、リズ・フェアのデビュー・アルバム。

 1990年にオハイオ州にあるオーバリン大学を卒業した後、サンフランシスコで音楽活動を開始。その後、地元シカゴに戻り、 ガーリー・サウンド(Girly Sound)名義で、何本かのデモテープを自主リリース。デモテープがきっかけとなり、ニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドールと契約してリリースされたのが本作『Exile In Guyville』です。

 大学卒業後から本格的に音楽活動を始めたこともあり、本作をリリースする1993年の時点で、リズ・フェアは26歳。10代でデビューすることも珍しくないインディーズ・シーンにおいて、やや遅いデビューと言えます。

 プロデューサーを担当するのは、ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)の前進となったバンド、シュリンプ・ボート(Shrimp Boat)ドラマーでもあった、ブラッド・ウッド。プロデュースだけでなく、ベース、ドラム、オルガンなどでミュージシャンとしてもレコーディングに参加しています。

 アルバムのタイトルにある「Guyville」とは一般的な辞書には載っていないので、「guy」と「ville」を合わせた造語でしょう。全体としては「男の国の亡命者」といった意味でしょうか。

 アルバムのタイトルも象徴的ですが、赤裸々な歌詞も本作の大きな魅力。1曲目の「6’1″」は、歌詞にも「six-feet-one」と出てきますが、身長を表しているようです。「5フィート1インチ(約158cm)の代わりに、6フィート1インチ(約185cm)で、立ち尽くしてる」と歌われていますが、男性に対して、性別で私をナメるな、というメッセージのように感じられます。サウンドとアレンジも、飾り気のないシンプルなもので、良い意味でのインディー感、オルタナティヴ感が充満しています。

 アルバム全体をとおして、ハードな轟音ギターが出てくるわけではなく、むしろローファイ感のあるサウンド・プロダクションを持った作品です。しかし、オーバー・プロデュースでない、むき出しのサウンドが、彼女の言葉とクールでややざらついた声とマッチしていて、歌の魅力がよりダイレクトに伝わるのではないでしょうか。

 また、音数を絞り、無駄を削ぎ落としながら、ゆるやかに躍動するバンド・アンサンブルも魅力的。ほのかにアメリカのルーツ・ミュージックの香りが漂い、アルバムに奥行きを与えています。

 マタドールから3枚のアルバムをリリースした後、メジャー・レーベルのキャピトル(Capitol)に移籍するリズ・フェア。メジャーが無条件にダメとは思いませんが、やっぱり個人的にはこの1stアルバムが好き。

 自分の好みもありますが、1stアルバムらしい虚飾のない魅力があって、彼女の作品の中で、最も歌の強度を感じます。ちなみに1994年の春までに20万枚以上を売り上げ、インディーズとしては異例の大ヒットとなったアルバムでもあります。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Orange” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『オレンジ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Orange”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『オレンジ』
発売: 1994年10月14日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Jim Waters (ジム・ウォーターズ)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に、1991年に結成された、ギター2人とドラムからなるベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの4thアルバム。

 ブルースを下敷きにしながらジャンクなギターが随所で鳴り響き、プッシー・ガロアの残り香をわずかに感じる前作『Extra Width』と比較すると、サウンドもアンサンブルもソリッドになったのが本作『Orange』。

 ブルースやガレージ・ロックを基本に、前述したとおりベースレスの3ピースによる、躍動感あふれるアンサンブルが展開されていきます。ジャンク成分は後退し、アンサンブルが前景化したアルバムと言えます。

 1曲目「Bellbottoms」は、3ピースのタイトなアンサンブルに、ストリングスが重なり、楽曲に立体感を加えています。ストリングスは、壮大でオーケストラルな雰囲気も漂わせていますが、アングラ感のあるコーラスワークをバランスを取り、ジャンクな空気も共存。

 2曲目「Ditch」は、2本のギターが絡みあうように躍動し、ドラムは手数は少ないながら、フックを随所に作りながらリズムを刻んでいく、グルーヴ感抜群の1曲。

 7曲目「Orange」は、物憂げなボーカルと、緩やかに躍動するアンサンブルが溶け合う、ミドル・テンポの1曲。ブルージーな空気を持ちながら、この曲でもストリングスが効果的に用いられ、奥行きのある楽曲に仕上がっています。

 10曲目「Blues X Man」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが展開される1曲。基本的なリズムとコード進行は循環ですが、音の縦への重ね方が、楽曲を立体感をもたらしています。

 プッシー・ガロア以来のジャンクな魅力も持ちつつ、よりソリッドなサウンド・プロダクションとアンサンブルを持ったアルバム。グルーヴ感は本当に素晴らしく、いつの間にか、耳が音楽にとらわれてしまうような感覚に陥ります。

 1994年に発売された当初は13曲収録でしたが、2010年に再発された際にはCD2枚組で合計34曲収録となっています。このデラックス版は、現在ではデジタル配信でも聴けます。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Extra Width” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『エクストラ・ウィドゥズ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Extra Width”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『エクストラ・ウィドゥズ』
発売: 1993年5月24日
レーベル: Matador (マタドール)

 ニューヨークを拠点に活動していたジャンク・ロックバンド、プッシー・ガロア。プッシー・ガロア解散後、メンバーだったジョン・スペンサーを中心に、1991年に結成されたバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの3rdアルバム。

 ニューヨークに居を構える名門インディペンデント・レーベル、マタドールからのリリース。

 「ジャンク・ロック」や「ノイズ・ロック」なんてジャンル名で呼ばれていたプッシー・ガロア。その表現どおり、ノイジーでアヴァンギャルドな要素を多分に含んだバンドでした。

 そんなプッシー・ガロアを通過したジョン・スペンサーが結成したこのバンド。「ブルース・エクスプロージョン」という名前が象徴的ですが、ブルースを下敷きにしながら、ガレージ的なざらついたギター・サウンドと、エモーショナルな歌が、まさに爆発するように暴れまわります。

 多種多様なジャンクな音を詰め込んだ、ゴミ箱をひっくり返したようなプッシー・ガロアに対して、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンは、曲の構造がよりはっきりしており、コンパクトにまとまっています。

 言い換えれば、ジャンクなサウンドを随所に含みつつも、構造がはっきりしている分、ポップになっているということ。

 1曲目の「Afro」を例に取れば、イントロから循環するコード進行に沿って、各楽器が絡み合うような有機的なアンサンブルが展開され、ロック的なグルーヴを多分に持った、普通にかっこいい曲です。しかし、再生時間1:54あたりから、唸りをあげるようなノイジーなギターが登場し、一気にプッシー・ガロアを彷彿とさせるアヴァンギャルドな雰囲気へ。

 5曲目の「Soul Typecast」も、シンプルかつタイトなドラムに、エモーショナルなボーカルと、フリーな雰囲気のギターとキーボードが乗り、アンサンブルが構成。ギターとキーボードが徐々にシフトを上げていき、ブルージーな空気と、ジャンクな空気が、絶妙にミックスされていきます。

 アルバム全体をとおして、ジャンクな要素も持ちつつ、構造はコンパクトに保たれていることで、音楽の裾野が広く、よりキャッチーになっていると言えるでしょう。

 ちなみにオリジナル盤は11曲収録ですが、2010年にCD2枚組で出たデラックス版は合計46曲収録、現在は、この46曲のバージョンもデジタル配信されています。

 





Japancakes “If I Could See Dallas” / ジャパンケイクス『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』


Japancakes “If I Could See Dallas”

ジャパンケイクス 『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』
発売: 1999年10月13日
レーベル: Kindercore (キンダーコア), Darla (ダーラ)
プロデュース: Andy Baker (アンディ・ベイカー)

 ギタリストのエリック・バーグ(Eric Berg)を中心に、ジョージア州アセンズで結成されたバンド、ジャパンケイクスの1stアルバム。

 1999年に彼らの地元アセンズのレーベル、キンダーコアからリリースされ、その後2008年2月にダーラ・レコーズより再発されています。

 エリック・バーグは、リハーサル無しでDコード上で45分間演奏を続ける(!)、というアイデアを実行するためにバンドを組んだとのことで、結成のコンセプトからしてぶっ飛んでいます。

 しかし、本作で展開されるのは、アヴァンギャルドな要素もほのかに含みつつ、緩やかに風景を描き出すようなインスト・ポストロック。ハードルが高い、難解な音楽ではありません。

 当時のジャパンケイクスは、ペダルスチールギター奏者とチェリストをメンバーに含む6人編成。スチールギターとチェロの音色が、楽曲に奥行きと柔らかさを与え、ギターを中心にしたポストロック・バンドとは一線を画したサウンドを獲得する要因になっています。

 1曲目「Now Wait For Last Year」は、全ての楽器の輪郭が丸みを帯びていて柔らかく、全体としても穏やかな空気が充満した1曲。

 2曲目「Elevator Headphone」は、チェロがフィーチャーされ、電子音と生楽器が重なり、立体的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Vocode-Inn」では、柔らかな電子音が幻想的な雰囲気を作り出し、ストリングスが荘厳な雰囲気をプラス。ロック的ではない、レイヤー状に折り重なる音の壁が、立ち上がります。

 6曲目「Pole Tricks」は、日本語の交通情報がサンプリングされたイントロから、チェロを中心に据えた、シンフォニックなアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 前述したとおり、チェロ奏者とペダルスチールギター奏者を正式メンバーに擁するバンドで、生楽器のナチュラルな響きと、電子的なサウンドが、穏やかに溶け合うアルバムです。

 音響が心地よい、穏やかなサウンドを持ちながら、ゆるやかに躍動するアンサンブルも共存。全編インストですし、ヴァース=コーラスのわかりやすい構造がある楽曲群ではありませんが、間延びして退屈という印象は持ちませんでした。

 このアルバムを聴くと、45分間同じコード上で演奏を続ける、というアイデアさえも、いかにも実行しそうだな、と感じさせるバンド。

 アセンズというと、エレファント6が思い浮かびますが、エレファント6にも繋がる、自由なポップ・センスを持っているとも思います。

 





Bluetip “Join Us” / ブルーチップ『ジョイン・アス』


Bluetip “Join Us”

ブルーチップ 『ジョイン・アス』
発売: 1998年10月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの2ndアルバム。

 プロデューサーは、前作のイアン・マッケイに代わって、J・ロビンスが担当。このJ・ロビンスという人は、本名ジェームス・ロビンス(James Robbins)。ジョーボックス(Jawbox)などで自らもバンド活動をする傍ら、プロデューサーおよびエンジニアとしても有名です。

 前作『Dischord No. 101』に引き続き、実にディスコードらしいポスト・ハードコアなアルバムと言えます。とはいえ、ジャンル名だけでは、実際にどのような音楽が鳴っているのか、何も語っていないのと同然ですから、このアルバムの志向する音楽、個人的に聴きどころだと思う魅力について、書いていきたいと思います。

 単純化が過ぎるのを恐れずに言うなら、ハードコア・パンクは、歌のメロディーやバンドのアンサンブルよりも、スピード感を重視した音楽だと、ひとまず定義できるでしょう。そのため、複雑なリフやアレンジよりも、高速でシンプルなリフやパワーコードが多用される傾向にあります。

 また、限界まで速度を上げたテンポ、過度に歪んだ硬質なギター・サウンドなど、サウンド面で(時には歌詞の面でも)攻撃性が際立っているのも、特徴と言えます。

 ブルーチップの2枚目のアルバムとなる本作では、歪んだギター・サウンドが用いられてはいますが、疾走感やハイテンポよりも、バンドの複雑なアンサンブルの方が重視され、歌のメロディーも起伏があり、コントラストが鮮やか。ハードコアの攻撃性と、グルーヴ感あふれる演奏、歌メロの魅力が、見事に溶け合った1作です。

 複雑なアンサンブルによって、テンポを上げるのみでは表現できない攻撃性や、感情を表しているようにも思え、まさにポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしいクオリティを備えたアルバムであると言えます。

 1曲目の「Yellow Light」から、段階的にシフトを上げていく、多層的で弾むようなアンサンブルに乗せて、流れるようなメロディーが紡がれていきます。躍動感と疾走感、シングアロングしたくなるような親しみやすいメロディーが共存した1曲です。

 2曲目「Cheap Rip」は、ざらついた質感のギターを中心に、タイトなアンサンブルが展開される1曲。随所でリズムを切り替え、伸縮するように躍動しながら、進行していきます。

 3曲目「Join Us」は、金属的な響きのギターが、キレ味鋭くリフを弾き、立体的なアンサンブルが形成。各楽器がお互いにリズムを食い合うように重なり、生き物のように躍動感と一体感のある演奏が、繰り広げられます。

 5曲目「Carbon Copy」は、スローテンポで、音数も少なめ。無駄を削ぎ落とし、一音ごとの重みを増し、ゆっくりと地面に沈んでいくようなアンサンブルが展開。スロウコアが目指すようなアプローチの1曲。

 6曲目「Salinas」は、ハードに歪んだギターと、シャウト気味のボーカルが絡み合う、立体的でパワフルな1曲。

 8曲目「I Even Drive Like A Jerk」は、ギターは毛羽立ったように歪み、ボーカルも感情を叩きつけるように歌い、全体としてアングラな雰囲気を持っています。静と動のコントラストが鮮烈で、ダイナミズムの大きい1曲。

 9曲目「Bad Flat」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器の音数も控えめ。ボーカルも感情を排したかのような歌い方で、随所にスポークン・ワードが挟まれます。しかし、後半になると、歌とギターが、メロディーの起伏ではなく、歌い方とサウンドに感情を込めるように、エモーショナルに音を紡いでいきます。

 1stアルバムと比較しても、楽曲とアレンジの幅が確実に広がったアルバムです。音質はハードでソリッドですが、音量や速度だけに頼ることはなく、テンポを落とし、アンサンブルと各楽器のフレーズを前景化させるように、丁寧に作り上げられたアルバム、という印象。

 特に一部の曲では、スローテンポに乗せて、音数を絞った演奏が展開され、各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成する彼らの志向が、あらわれていると思います。