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Portastatic “The Nature Of Sap” / ポータスタティック『ザ・ネイチャー・オブ・サップ』


Portastatic “The Nature Of Sap”

ポータスタティック 『ザ・ネイチャー・オブ・サップ』
発売: 1997年3月11日
レーベル: Merge (マージ)

 スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マッコーン(Mac McCaughan)のソロ・プロジェクトとして始動したバンド、ポータスタティックの3rdアルバム。レコーディングにサポート・メンバーを招いてはいますが、マック以外のメンバーは流動的かつ部分的で、実質マックのソロ・ユニットです。

 1stアルバムは、ほぼマック1人により演奏、2ndアルバムでは数曲でバンド編成でレコーディングを実行していたポータスタティック。3作目となる本作では、1stアルバムと同じくほぼマック1人のオーバーダビングによって演奏され、曲のよってドラムやパーカッションにゲストを招く、という体制がとられています。

 過去2作は、ソロ・プロジェクトらしい宅録的雰囲気と、アイデアをそのまま放出させたようなリラクシングな空気に溢れた作品でしたが、3作目となる本作でも、マック・マッコーンのクリエイティヴィティがダイレクトの感じられる、ゆるやかな音楽が展開されています。音楽的には、多様なジャンル、サウンドを参照しながら、コンパクトで穏やかなインディーロックが鳴り響きます。

 1曲目「You Know Where To Find Me」は、軽やかなピアノが印象的な、グルーヴしながらいきいきと進行していく1曲。シンセサイザーで出していると思われる、電子音とピアノとの音質上のバランスも絶妙。遠くからトランペットらしき音も聞こえ、カラフルでポップな雰囲気と、室内楽的な空気が同居した、おしゃれな曲です。

 2曲目「A Lovely Nile」は、電子音とクラリネット、パーカッションのリズムが折り重なる、民族音楽のような空気の充満した1曲。スーパーチャンクにはそぐわない、このような曲が聴けるのも、別プロジェクトの良いところ。

 3曲目「Hurricane Warning (Ignored)」は、エフェクトの深くかかった倍音豊かなギターと、爽やかな歌のメロディーが鳴り響く、開放的な雰囲気の1曲。音をわざとぶつけるようなピアノが、アヴァギャルドな香りを振りまき、楽曲のフックとなっています。

 5曲目「Flare」は、スローテンポの乗せて、不協和なピアノと、トレモロのかかったギター、手数の少ないドラムなどが重なる、ミニマルで実験音楽のような雰囲気の漂う1曲。多様な音がレイヤーのように重なっていき、音響が前景化されるような要素もあり、深みのある1曲です。

 6曲目「Jonathan’s Organ」は、アコースティック・ギターのナチュラルな響きと、オルガンの倍音たっぷりのサウンドが溶け合う1曲。

 7曲目「Before You Sailed Around The World」は、テクノ的な耳ざわりのビートと、録音後に加工されたようなアコースティック・ギターとボーカルが絡み合う、電子音とオーガニックなサウンドが融合した1曲。

 10曲目「Spying On The Spys」は、アコギを中心に据えた、カントリー色の濃い、穏やかで牧歌的な1曲。しかし、随所のシンセサイザーと思しき電子音が用いられ、ただのルーツ・ミュージックの焼き直しにはなっていません。

 11曲目「Bjjt」は、電子音を主体に構成された、アンビエントでエレクトロニ色の強い1曲。

 13曲目「If You Could Sing」は、立体的なドラムとピアノから、ジャズの空気が溢れる1曲。テンポは遅めですが、躍動感とグルーヴ感に溢れた、曲です。

 ルーツ・ミュージックの要素を持ったコンパクトなインディーロックといった趣の過去2作と比べると、電子音が多用され、曲によってはかなりテクノ色、エレクトロニカ色が濃くなっています。かといって、無理をしている印象や、折衷的な印象は無く、今までどおり地に足の着いたかたちで、一貫性のあるリラクシングな音楽が奏でられます。

 裏スーパーチャンクのような様相もあり、個人的にはかなりお気に入りのバンドであり、アルバムです。

 





Portastatic “Slow Note From A Sinking Ship” / ポータスタティック『スロー・ノート・フロム・ア・シンキング・シップ』


Portastatic “Slow Note From A Sinking Ship”

ポータスタティック 『スロー・ノート・フロム・ア・シンキング・シップ』
発売: 1995年6月20日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Jerry Kee (ジェリー・キー)

 スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マッコーン(Mac McCaughan)のソロ・プロジェクト、ポータスタティックの2ndアルバム。1stアルバム『I Hope Your Heart Is Not Brittle』は、オーバーダビングによって、ほぼマック1人による演奏で作り上げられましたが、2作目となる本作では、曲によってソロとバンド編成が使い分けられています。

 バンドのメンバーとして、前作にも参加していたエレクトス・モノトーン(Erectus Monotone)のベース、ジェニファー・ウォーカー(Jennifer Walker)をはじめ、ドラムにクレア・アッシュビー(Claire Ashby)、ギターにベン・バーウィック(Ben Barwick)などが参加。

 前作はソロ作品らしいリラクシングな雰囲気を持ちながら、実に多彩な楽曲群がおさめられていました。音楽性としては、ルーツ・ミュージックの要素を取り込みながら、無理せずコンパクトにまとまったインディーロックと言えるでしょう。本作は前作同様に、いい意味で力の抜けたリラクシングな空気を持ち、音楽性とサウンド・プロダクションはさらなる広がりを見せています。

 ギターのサウンドを例にとると、前作はアコースティック・ギターとシンプルに歪んだエレキ・ギターが中心に据えられていましたが、本作では空間系のエフェクターの使用頻度が増え、よりオルタナティヴな音像を持っています。

 ちなみに、CD版とレコード版では曲順が異なっており、現在サブスクリプションで配信されているものはCDと同じ曲順です。本記事では、CD版および配信版の曲順に合わせました。

 1曲目「When You Crashed」は、流れるようなスライド・ギターと、柔らかな電子音、耽美なコーラスワークが溶け合う、サイケデリックかつ穏やかな1曲。

 2曲目「Skinny Glasses Girl」は、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが展開される1曲。ナチュラルなアコースティック・ギターと、シンプルなクランチ気味のサウンド、ジャンクに歪んだサウンドと、音色の異なる複数のギターが、機能的に重なります。

 ここまでの2曲はマック・マッコーンが、全ての楽器を担当していますが、3曲目「San Andreas」はバンド編成によるレコーディング。そんな先入観を抜きにしても、疾走感に溢れ、バンドらしいアレンジになっています。複数のギターが厚みのあるサウンドを構築し、エフェクトの深くかかったそのサウンドからは、シューゲイザーの香りも漂います。

 4曲目「Taking You With Me」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ギターの音が空間を埋めていく1曲。アコースティック・ギターのコード・ストロークと、エフェクトのかかったドローン的なギター、電子的な持続音が重なり、音響系のポストロックのようにも聞こえます。

 5曲目「The Angels Of Sleep」は、電子音が前面に出たジャンクで、アヴァンギャルドな雰囲気の1曲。かなりノイジーなサウンドも用いられているのですが、コンパクトな歌モノのロック・ソングにまとまっており、敷居の高さは感じません。

 6曲目「A Cunning Latch」は、イントロで響きわたる高音域のキーボードがアクセントになった、躍動感のあるロックンロール。立体的でドタバタしたドラムも良い。

 7曲目「Spooky」は、電子音とギターノイズが溶け合う、アンビエントで不穏な空気を醸し出す1曲。

 8曲目「The Great Escape」は、バンド編成でレコーディングされており、いきいきとしたグルーブ感のあるミドルテンポの1曲。

 9曲目「Running Water」は、アコースティック・ギターのオーガニックな響きと、キーボードのファニーな音色が、絡み合う、牧歌的でかわいらしい雰囲気の1曲。ボーカルの歌唱もリラックスしていて、ローファイで親しみやすい空気にも溢れています。

 12曲目「On Our Hands」は、立体的で躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。音場が広く臨場感あるドラム、チープでかわいいキーボードの音色、伸びやかに歪んがエレキ・ギター、浮遊感のあるコーラスワークなど、サウンド的にも音楽的にもレンジの広い1曲。

 前述したとおり、前作と比較するとサポート・メンバーも増え、サウンドの幅が広がっています。しかし、ゆるやかな空気感は失われていません。

 メイン・バンドではなく、ソロ・プロジェクトらしいリラックスした雰囲気、言い換えれば宅録的な空気に溢れたアルバムですが、決してクオリティが低いというわけではありません。自分の鳴らしたい音、思いついたアイデアを、その場で音にしているような、力の抜けた伸び伸びとしたサウンドが充満するアルバムです。

 





Portastatic “I Hope Your Heart Is Not Brittle” / ポータスタティック『アイ・ホープ・ユア・ハート・イズ・ノット・ブリトル』


Portastatic “I Hope Your Heart Is Not Brittle”

ポータスタティック 『アイ・ホープ・ユア・ハート・イズ・ノット・ブリトル』
発売: 1994年2月14日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Jerry Kee (ジェリー・キー)

 スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マッコーン(Mac McCaughan)のソロ・プロジェクト、ポータスタティックの1stアルバム。

 本作は、数曲でゲストを迎えてはいるものの、ほぼ全ての演奏をマック・マッコーン自身が1人で担当しています。そのため、宅録的、箱庭的な雰囲気を持ったアルバムです。しかし、音楽性は思いのほか多彩で、1人で殻に閉じこもった息苦しさではなく、何にも縛られず思いのままに作り上げた、リラクシングな空気を持った作品になっています。

 1曲目「Mute2」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、クリーン・トーンのギターと、ミュートを装着したトランペットらしき音が漂う、音響的な1曲。ミュートを使用しているから、「Mute2」というタイトルなのでしょうか。

 2曲目「Polaroid」は、程よく歪んだギターと、シンプルなリズム隊が、ミドル・テンポに乗って緩やかにグルーヴしていく1曲。再生時間1:20あたりからの、うなりを上げるようなギターなど、シンプルでむき出しのかっこよさに溢れたロック・チューン。

 3曲目「Gutter」は、タイトルのとおり楽器はギターのみが使用され、ボーカルと共に絡み合うように、ゆるやかに疾走する1曲。

 4曲目「Naked Pilseners」には、スーパーチャンクと同じくマージ所属のバンド、エレクトス・モノトーン(Erectus Monotone)のジェニファー・ウォーカー(Jennifer Walker)が、ベースとボーカルで参加。緩やかにグルーヴしていく演奏に、男女混声のコーラスワークが重なり、幻想的な空気を醸し出す1曲。

 5曲目「Tree Killer」は、歪んだギターと、ブチギレ気味のボーカルが疾走するガレージ・ロック風の1曲。ピコピコ系のキーボードの音色もローファイかつカラフルな空気を演出し、アクセントになっています。

 6曲目「Creeping Around」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、弾き語りに近い編成の、穏やかな1曲。

 8曲目「Silver Screw」は、激しく歪んだ2本のギターを主軸に、個人によるオーバーダビングらしからぬ、バンド感の強いアンサンブルが展開される曲。

 9曲目「Beer And Chocolate Bars」には、ニュージーランド出身のロックバンド、ザ・バッツ(The Bats)のケイ・ウッドワード(Kaye Woodward)がボーカルで参加。アコギとクリーントーンのエレキ・ギター、ドラムがゆったりと絡み合うアンサンブルに、穏やかなコーラスワークが重なる、牧歌的な雰囲気の1曲。

 11曲目「Memphis」は、立体的なサウンドを持った、古き良きロックンロールを彷彿とさせる疾走感に溢れた曲。

 12曲目「Receiver」は、スローテンポに乗せて、トレモロのかかった揺れるギターのサウンドと、ささやき系のボーカルが溶け合う、幻想的な1曲。再生時間1:33あたりから入ってくる、歌心の溢れたエモーショナルなエレキ・ギターが、楽曲に奥行きを与えています。

 前述したとおり、本作はマック・マッコーンがほぼ全ての楽器を1人で演奏しているのですが、実に多彩な楽曲とアレンジが詰め込まれたアルバムです。しかし、カラフルなアルバムと言うのとは違う、ゆるやかな一貫した空気も同時に持っていて、聴く人によってはやや地味な印象を受けるかもしれません。

 スーパーチャンクには消化しきれない部分を、ポータスタティックで放出しているということなのでしょうか。いずれにしても、メインのバンドと並行して、ここまでのクオリティのアルバムを作り上げるところに、マック・マッコーンのクリエイティヴィティの充実を感じます。

 





Of Montreal “The Gay Parade” / オブ・モントリオール『ゲイ・パレード』


Of Montreal “The Gay Parade”

オブ・モントリオール 『ゲイ・パレード』
発売: 1999年2月16日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 音楽コミュニティ「エレファント6」の一員でもある、ジョージア州アセンズ出身のバンド、オブ・モントリオールの3rdアルバム。前作『The Bedside Drama: A Petite Tragedy』は、彼らの地元アセンズのレーベル、Kindercoreからのリリースでしたが、本作は1stアルバムと同じく、ニュージャージー州のレーベル、Bar/Noneからリリース。

 1stアルバムと2ndアルバムでは、アヴァンギャルドな空気を持ったポップ・ミュージックを展開していたオブ・モントリオール。3作目となる本作でも、彼ら特有のバランス感覚を武器に、適度にねじれた、アヴァンギャルドでカラフルな音楽を奏でています。

 実験性の点では、前2作と比較して格段にアヴァンギャルドな要素が増しているのに、同時にカラフルでポップな魅力も比例して増加。実験的であるのに、難しさを全く感じさせず、アヴァンギャルド・ポップと言うべき、音楽を展開しています。

 1曲目「Old Familiar Way」は、ピアノがフィーチャーされた、ミドル・テンポの1曲。穏やかなボーカルと、厚みのあるコーラスワークが、心地よいサウンドを作り上げますが、部分的にフレーズを繰り返すコーラスからは、ドラッギーでサイケデリックな空気も漂います。

 2曲目「Fun Loving Nun」が、60年代のサイケデリック・ロックを連想させるキーボードの音色と、エモーショナルに歌い上げるボーカル、タイトなリズム隊が絡み合う、疾走感あふれる1曲。

 3曲目「Tulip Baroo」は、多種多様な音が四方八方から聞こえる、カラフルでサイケデリックな1曲。アヴァンギャルドな雰囲気でありながら、極上にポップでもあり、おもちゃ箱にダイブしたような気分にさせられるサウンド。

 4曲目「Jacques Lamure」は、ピアノが楽曲を先導していく、躍動感と疾走感のある曲。この曲でも、随所でジャンクな音が飛び交い、アヴァンギャルドな空気を演出。

 5曲目「The March Of The Gay Parade」は、耳障りなノイズと、ピアノのリズム、民族音楽的なメロディーが溶け合う、なんとも不思議な1曲。しかも、敷居の高い楽曲ではなく、思わず口ずさみたくなるようなポップさにも溢れています。

 6曲目「Neat Little Domestic Life」は、ピアノとコーラスワークを中心に、積木かブロックのおもちゃで城を作り上げるような、ポップさとチープな壮大さを持ち合わせた1曲。

 8曲目「Y The Quale And Vaguely Bird Noisily Enjoying Their Forbidden Tryst / I’d Be A Yellow Feathered Loon」は、サイケデリックなコーラスワークのイントロから始まり、カラフルでポップな演奏が繰り広げられる1曲。いたるところでファニーなサウンドが飛び交い、アヴァンギャルドな空気とポップな空気が共生し、充満した曲です。

 9曲目「The Autobiographical Grandpa」は、やや不穏な空気を醸し出すアコースティック・ギターと、おもちゃのようなドタバタしたドラムが絡み合う、ローファイかつポップな1曲。

 10曲目「The Miniature Philosopher」は、中期ビートルズを感じさせる、カラフルで多層的なコーラスワークと、サイケデリックな雰囲気の融合した1曲。

 14曲目「A Man’s Life Flashing Before His Eyes While He And His Wife Drive Off A Cliff Into The Ocean」は、歌を中心としながらも、頻繁にリズムとアレンジを切り替え、リズムが伸縮するような感覚のあるサイケデリックなポップ。ストリングスから、飛び道具的なファニーな音まで、多種多様なサウンドが効果的に用いられた、カラフルで楽しい楽曲です。

 15曲目「Nickee Coco And The Invisible Tree」は、民謡のようなコーラスワークから、スポークン・ワード、サイケデリアまで、多様な音楽が1曲の中に詰め込まれた、カラフルでポップな1曲。5分20秒ほどの曲ですが、展開が多彩で、このアルバムを象徴する1曲と言えます。

 アヴァンギャルドかつサイケデリックな要素を多分に持ちながら、それらが全て非常にポップなかたちに消化され、全体のサウンドとしては極上のポップスに仕上がっているのが、このアルバムの魅力。フロントマンのケヴィン・バーンズ(Kevin Barnes)によるところが大きいのだと思いますが、ポップ・センスに非常に優れたバンドだと思います。

 





Of Montreal “The Bedside Drama: A Petite Tragedy” / オブ・モントリオール『ベットサイドの小さな悲劇』


Of Montreal “The Bedside Drama: A Petite Tragedy”

オブ・モントリオール 『ベットサイドの小さな悲劇』
発売: 1998年
レーベル: Kindercore (キンダーコア)

 音楽コミュニティ「エレファント6」の一員でもある、ジョージア州アセンズ出身のバンド、オブ・モントリオールの2ndアルバム。デビュー・アルバムとなった前作『Cherry Peel』は、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneからのリリースでしたが、2作目となる本作は、地元アセンズのレーベル、Kindercoreからリリース。

 ローファイなサウンドで、純粋無垢なギターポップを奏でていた前作から比較すると、本作はサウンド面でも音楽性の面でも、より洗練された音を鳴らしています。チープでローファイな音質は薄まり、よりカラフルでポップ、同時にアヴァンギャルドな空気も漂う音楽が展開されるアルバムです。

 1曲目「One Of A Very Few Other Kind」は、ゆるやかにグルーヴしながら走り抜けていく、カントリー風味のあるギターポップ。再生時間0:48あたりからの間奏で響き渡るファニーなサウンドが、楽曲をより一層カラフルに彩っています。

 2曲目「Happy Yellow Bumblebee」は、各楽器が絡み合い、立体的なアンサンブルが展開される1曲。ドラムのリズムが複雑で、楽曲の中心であると言ってもよいぐらい目立っています。

 3曲目「Little Viola Hidden In The Orchestra」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークによる、意外性のあるコード進行が魅力の1曲。基本的には弾き語りに近いアレンジですが、再生時間0:44あたり、1:50あたりからなど、随所に差し込まれるファニーな音がサイケデリックな香りを振りまきます。

 4曲目「The Couple’s First Kiss」は、イントロから多様な音が飛び交い、おもちゃ箱のような楽しさとカラフルさに溢れた1曲。

 5曲目「Sing You A Love Song」は、ギター、ベース、ドラムが緩やかにグルーヴしていく、牧歌的な雰囲気のギターポップ。

 6曲目「Honeymoon In San Francisco」は、アコースティック・ギターによるアルペジオとボーカルを中心にした、メローな曲ながら、アコーディオンのような音、フィールド・レコーディングされた水の音などが重なり、多層的でサイケデリックな音世界を作り上げます。

 9曲目「Panda Bear」は、各楽器の音とボーカルが、波のようにゆったりと流れ、ゆるやかに合わさる1曲。

 12曲目「My Darling, I’ve Forgotten」は、流れるようなギターから、どことなくハワイアンな空気が漂う1曲。

 14曲目「Just Recently Lost Something Of Importance」は、イントロからトランペットがフィーチャーされ、生楽器のオーガニックな響きが心地よい1曲。ブリッジ部分に顔を出すバイオリンらしき音、アコースティック・ギターの濁りにあるコードの響きもフックとなり、楽曲に深みを与えています。再生時間2:07あたりからのアレンジにも、アヴァンギャルドな空気が溢れ、実にオブ・モントリオールらしい。

 16曲目「It’s Easy To Sleep When You’re Dead」は、疾走感のあるコンパクトなロック・チューン。再生時間2:15あたりから始まるサイケデリックな展開もクセになります。

 おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルなアルバムですが、アヴァンギャルドな音やアレンジを散りばめているところも、このアルバムの魅力です。言い換えれば、実験性がポップな形に昇華されて、溶け込んでいるということ。結果として、実験性がフックとなり、音楽に奥行きを与えると思います。

 ちなみに『ベットサイドの小さな悲劇』という邦題がつけられておりますが、こちらは「ベット」の「ト」が濁らない表記になっています。