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Love Battery “Dayglo”/ ラヴ・バッテリー『デイグロー』


Love Battery “Dayglo”

ラヴ・バッテリー 『デイグロー』
発売: 1992年1月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ), John Auer (ジョン・オーアー)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、ラヴ・バッテリーの2ndアルバム。グランジ全盛の1992年にリリースされた本作、プロデュースは当時サブ・ポップの作品を多数手がけたコンラッド・ウノと、ザ・ポウジーズ(The Posies)のジョン・オーアーが務めています。

 前述のとおり、1992年に発売された本作。グランジにカテゴライズするサウンドを持った、というよりグランジというシーンの一部を作ったバンドと言ってもいいでしょう。ラヴ・バッテリーのサウンドは、いわゆるグランジにカテゴライズされるざらついた耳ざわりを持ちながら、サイケデリックな空気も持ち合わせているところが特徴です。

 下品に歪んだギター、物憂げなボーカルといったグランジ的要素と、ドラッギーに同じフレーズを繰り返すギター、ゆるやかにグルーヴするアンサンブルなどサイケデリックな要素が溶け合った、彼ら特有のサイケ・グランジを響かせています。

 1曲目「Out Of Focus」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、激しく歪んだ2本のギターがそれぞれコード弾きと単音でのフレーズを繰り返し、エモさと憂鬱さを併せ持ったボーカルの歌唱が、さらにサイケデリックな空気をプラスします。ざらついたグランジ的サウンドと、リフレインの多いサイケデリックなアレンジが共存しているのが、このアルバム全体を通しての特徴。

 2曲目「Foot」は、各楽器とボーカルが複雑に絡み合いながら、疾走していく1曲。アレンジにもハーモニーにも濁りがあり、アングラな空気が漂います。

 4曲目「See Your Mind」は、切れ味鋭いギターが、楽曲を加速させていく1曲。左チャンネルの激しくコードをかき鳴らすギターと、右チャンネルのスライド・ギターのように糸を引くフレーズのバランスが秀逸。

 5曲目「Side (With You)」は、アコースティック・ギターと、原音がわからないぐらいまで歪んだディストーション・ギターが。それぞれコードを弾く厚みのあるイントロからスタート。その後も音色の異なるギターが絡み合う、音楽的にもサウンド的にも奥行きのある1曲。

 8曲目「Blonde」は、伸びやかなサウンドの単音弾きのギターと、ジャンクに歪んだコード弾き担当のギターが重なる1曲。やや奥から聞こえるボーカルは、酩酊感のあるフレーズを歌い、シューゲイザー色も感じます。

 9曲目「Dayglo」は、イントロの臨場感溢れる音でレコーディングされたドラムに、まず耳を奪われます。立体的で、各楽器が絡み合う、アンサンブル重視の1曲。

 10曲目「23 Modern Stories」は、独特の濁りと揺らぎのあるギターから、サイケデリックな香りがたちこめる1曲。ボーカルも伴奏に引っ張られるように、不安定トリップ感のあるメロディーを紡ぎます。

 グランジ的なソリッドでざらついたサウンドと、揺らぎのあるサイケデリックなアレンジが、分離することなく融合しているのが、このアルバムの魅力。ブームに乗っただけのバンドではなく、独自の音楽性を持ったバンドです。

 





Yo La Tengo “I Can Hear The Heart Beating As One” / ヨ・ラ・テンゴ『アイ・キャン・ヒア・ザ・ハート・ビーティング・アズ・ワン』


Yo La Tengo “I Can Hear The Heart Beating As One”

ヨ・ラ・テンゴ 『アイ・キャン・ヒア・ザ・ハート・ビーティング・アズ・ワン』
発売: 1997年4月22日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Roger Moutenot (ロジャー・ムジュノー)

 ニュージャージー州ホーボーケンで結成されたバンド、ヨ・ラ・テンゴの8枚目のスタジオ・アルバム。スタジオ・アルバム以外だと、7th『Electr-O-Pura』と本作の間に、レア・トラックや別テイクを収録したコンピレーション・アルバム『Genius + Love = Yo La Tengo』をリリースしています。

 前作『Electr-O-Pura』では、ノイジーなギターを効果的に使用しながら、ポップな枠組みの中でギターロックを組み上げていたヨ・ラ・テンゴ。今作では、さらに多種多様な音楽ジャンルおを取り込みつつ、彼ら得意のギターを中心としたアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Return To Hot Chicken」は、各楽器が緩やかに絡み合い、グルーヴが生まれる、イントロダクション的な曲。歌の無いインスト曲ですが、目の前に風景が広がるようなイマジナティヴな音楽で、インストのポストロック・バンドとしてもイケるのでは?と思わせます。

 ベースラインが印象的な2曲目の「Moby Octopad」は、若干ジャズの香りが漂う1曲。穏やかに流れるようなボーカル、全体を包み込むようなギターのフィードバック、少し跳ねたようなドラムが溶け合い、ゆったりと躍動感のあるアンサンブルを展開。再生時間2:52あたりからのアヴァンギャルドな空気満載の間奏も、楽曲に深みを与えています。

 4曲目「Damage」は、全体のサウンド・プロダクション、各楽器の音作りともに、アンビエントな耳ざわりの1曲。物憂げなボーカルも全体のサウンドとマッチし、ドラッギーで幻想的な音世界を作り上げます。奥ではギターの持続音が鳴り響く、音響を前景化させるようなアレンジですが、ドラムは手数が少ないながら立体的で奥行きのある音を鳴らし、アンサンブルにも聴きごたえがあります。

 8曲目「Autumn Sweater」は、臨場感あふれる生々しいドラムに、電子音が絡み合う1曲。シェイカーの音もアクセントになっていて、電子音を用いながら、生楽器感を強く感じる全体のサウンドです。

 9曲目「Little Honda」は、ビーチ・ボーイズのカバー。厚みのあるサウンドの、ディストーション・ギターを中心に、ビーチ・ボーイズのオリジナルとは一風変わった、ローファイ風味のある演奏を展開します。再生時間1:24あたりからの間奏も、音の壁と呼べるような、分厚いサウンドを構築。

 13曲目「Center Of Gravity」は、パーカッションとギターのリズムが軽快な、ボサノヴァ調の1曲。いや、ボサノヴァ調というより、ほとんどボサノヴァそのままの1曲です。ささやくような、穏やかなボーカルも、リラクシングな雰囲気を演出。この曲に限らず、ヨ・ラ・テンゴは、ささやき系の歌い方をすることがありますが、思いのほかボサノヴァとマッチしています。

 15曲目「We’re An American Band」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、歪んだギターと柔らかな電子音、流れるようなメロディーが溶け合う、サイケデリックな空気が漂う1曲。厚みのあるギターサウンドと、男女混声のコーラスワークは、シューゲイザーも感じさせます。

 常に一定以上のクオリティの作品を生み出すヨ・ラ・テンゴのアルバムの中でも、特に評価の高い1枚が本作『I Can Hear The Heart Beating As One』です。様々な音楽ジャンルを飲み込みながら、それらを消化し、ロック・バンドの枠組みに落とし込むセンスは、見事というほかありません。まさに名盤と呼ぶべき1枚であり、実にインディーらしいクオリティを備えたアルバムであると思います。

 





Yo La Tengo “Electr-O-Pura”/ ヨ・ラ・テンゴ『エレクトロピューラ』


Yo La Tengo “Electr-O-Pura”

ヨ・ラ・テンゴ 『エレクトロピューラ』
発売: 1995年5月2日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Roger Moutenot (ロジャー・ムジュノー)

 ニュージャージー州ホーボーケンで結成されたバンド、ヨ・ラ・テンゴの7枚目のアルバム。6枚目となる前作『Painful』で、USインディーを代表する名門レーベル、マタドールに加入し、本作も含めて、以降はマタドールから作品をリリースし続けます。

 ノイジーなギター・サウンドと、実験的なアレンジを、ポップソングの枠組みに落とし込むのが絶妙にうまいヨ・ラ・テンゴ。マタドール1作目となった前作では、電子音を大胆に導入し、アンビエントな雰囲気もプラス。7作目となる今作では、電子音の使用は控えられ、再びギターを中心としたアンサンブル重視のアルバムを作り上げています。

 しかし、前作が失敗で今作で以前に戻ったということではなく、本作でも随所でキーボードのサウンドが効果的に用いられ、楽曲に奥行きを与えています。前作での新しい試みを踏まえた上で、自分たちの長所を確認した作品と言えるでしょうか。実験性とポップさが、親しみやすい形で融合した、インディーロックかくあるべし!というアルバムです。

 1曲目「Decora」は、シンプルにゆったりとリズムをキープするドラムとベースに、2本のギターが自由に遊びまわる曲。トレモロのかかったギターと、唸りをあげるようなギターが重なり、多層的なサウンドを作り上げます。

 2曲目「Flying Lesson (Hot Chicken #1)」は、音数の少ないイントロから、徐々に音が増え、ゆるやかにグルーヴしながらシフトが上がっていく展開の曲です。奥の方で響き続けるギターのフィードバックも、楽曲に厚みを加えています。中期以降のソニック・ユースに近い雰囲気の曲。

 4曲目「Tom Courtenay」は、厚みのあるサウンドの歪んだギターと、爽やかなボーカルが心地よく響く1曲。ギターのサウンドはノイジーですが、非常に耳なじみが良く、「爽やかなノイズ」とでも呼びたくなります。

 6曲目「Pablo And Andrea」は、クリーントーンのギターとリズム隊が絡み合い、立体的かつ一体感のあるアンサンブルを構成する1曲。

 7曲目「Paul Is Dead」は、ドリーミーなコーラスワークが印象的で、ややサイケデリックで幻想的な空気が漂います。シンセサイザーのよるものと思われる電子音の響きが、ローファイな空気をプラスしていて、このあたりのバランス感覚が秀逸で、実にヨ・ラ・テンゴらしいと思います。

 8曲目「False Alarm」でも、シンセサイザーと思われる音色が活躍しています。イントロから、エフェクトのかかった独特の揺らぎのあるギターも前面に出てきていて、アヴァンギャルド色の濃い1曲と言えます。しかし、リズムはわかりやすい8ビートで、カラフルで楽しい曲に仕上がっているところはさすが。

 14曲目「Blue Line Swinger」は、9分を超える大曲。ドラムが立体的に響き、ギターとシンセサイザーが、セッティング中のように自由な雰囲気で音を出すイントロから、徐々にグルーヴが生まれ、圧巻のアンサンブルが繰り広げられます。躍動感あふれる演奏と、ノイジーなのに心地よいサウンド、美しいメロディーが同居するこの曲は、アルバムのベスト・トラックと言っていい、素晴らしいクオリティです。

 USインディーロックを聴いていると、ギターノイズを効果的に用いるバンド及びアルバムにたびたび出会いますが、このアルバムもまさにノイジーなギターで、爽やかなギターロックを鳴らしています。このアルバムに限らず、ヨ・ラ・テンゴは実験性と大衆性のバランス感覚が本当にすばらしいのですが、今作は特に多種多層なギターのサウンドが、効果的に使われた作品です。

 また、前作ほどではないものの、シンセサイザーによると思われるサウンドも効果的に用いられ、アルバムに彩りと奥行きを与えています。名盤の呼び声が高い前作『Painful』と、次作『I Can Hear The Heart Beating As One』に挟まれた本作ですが、こちらも負けず劣らず素晴らしいアルバムであると思います。

 





Yo La Tengo “Painful” / ヨ・ラ・テンゴ『ペインフル』


Yo La Tengo “Painful”

ヨ・ラ・テンゴ 『ペインフル』
発売: 1993年10月5日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Fred Brockman (フレッド・ブロックマン), Roger Moutenot (ロジャー・ムジュノー)

 ニュージャージー州ホーボーケンで結成されたバンド、ヨ・ラ・テンゴの6枚目のスタジオ・アルバム。1stアルバムから5thアルバムまでの間に、コヨーテ・レコード(Coyote Records)、バーナン(Bar/None)、エイリアス(Alias)と、レーベルを渡り歩いてきたヨ・ラ・テンゴですが、6枚目となる本作から、USインディーを代表する名門レーベル、マタドールに移籍しています。

 また、本作は2014年にデモ・バージョンやライブ・トラックを加えた『Extra Painful』として、再発されています。配信でも、青いジャケットの通常の『Painful』と、赤いジャケットの『Extra Painful』の両方が存在しますので、ご注意ください。

 アルバムによって、音楽性を変えつつも、芯にあるヨ・ラ・テンゴらしさはブレないところが、このバンドの良いところです。本作『Painful』は、前述のとおりマタドール移籍後の最初のアルバムであり、音楽的にもこれまでのヨ・ラ・テンゴらしい実験性を残しつつ、電子音を用いたアンビエントな雰囲気がプラスされていて、音楽性の広がりを感じる1枚。

 1曲目「Big Day Coming」は、アンビエントな電子音が漂い、これまでのヨ・ラ・テンゴからは異質な耳ざわりの1曲。アルバム冒頭から、早速バンドの新しいモードを提示します。しかし、アンビエントな音像の中に、響き渡るギターのフィードバックなど、バンドの躍動が徐々に立ち現れてきます。ゆったりとしたテンポで、音響を重視したようなサウンドからは、幻想的な雰囲気が漂います。

 2曲目「From A Motel 6」は、基本的には穏やかに進行しますが、随所に挟まれるノイジーで不安定なギターのフレーズが、アクセントになった1曲。例えば、再生時間1:53あたりからの間奏部分のフレーズは、アヴァンギャルドな空気を振りまき、楽曲に奥行きを与えています。

 5曲目「Nowhere Near」は、ささやくようなボーカルと、弾力性のあるサウンドのギター、ヴェールのような電子音が溶け合う、穏やかな1曲。前半は、リズム隊があまり前に出てきませんが、徐々にドラムの手数が増え、立体的にリズムを刻み始めます。音響的な前半から、ゆるやかなグルーヴ感が生まれる後半という展開。

 6曲目「Sudden Organ」は、トレモロがかったキーボートに、圧縮されたような歪みのギター、立体的なドラムが折り重なる1曲。アレンジにもサウンドにも実験性が感じられますが、ドライヴするギター、親やすいメロディーと歌唱が、ポップな空気をプラスし、バランスをとっています。ヨ・ラ・テンゴは、このあたりの実験性と大衆性のバランスが、本当に秀逸。

 7曲目「 A Worrying Thing」は、アコースティック・ギターのようにも聞こえるクリーントーンのギターがフィーチャーされ、カントリー色の濃い1曲。ですが、奥の方で鳴っている柔らかな電子音が、カントリーだけにはとどまらないオルタナティヴな空気を足しています。

 10曲目は「Big Day Coming」。1曲目と同じタイトルで、歌詞も共通していますが、アレンジと全体のサウンド・プロダクションは大幅に異なり、まるで別の曲のように聞こえます。僕も、タイトルを確認するまで気がつきませんでした。電子音がフィーチャーされ、音響的でアンビエントな1曲目に対して、10曲目に収録されたバージョンは、トレモロをかけたジャンクな響きのギターがフィーチャーされ、リズムもくっきり。バンドの有機的なアンサンブルが前面に出たアレンジです。

 1曲目と10曲目に異なるアレンジで収録された「Big Day Coming」が象徴的ですが、決して頭でっかちにはならず、自分たちの音楽を誠実に突き詰めていることがわかるアルバムです。「Big Day Coming」のアレンジを例にとると、音響的なアプローチの1曲目と、バンドのアンサンブルを重視した10曲目では、サウンドもアレンジも全く異なるのですが、どちらからも実験性とポップさのバランスにおいて、ヨ・ラ・テンゴらしさが溢れています。

 様々なジャンルの音楽を愛聴し、アイデアを吸収し、それを借り物ではなく消化して、自分たちの音楽に取り込む、インディーロックの魅力を多分に持ったバンドであり、本作もバランス感覚に優れた素晴らしいアルバムであると思います。





Scud Mountain Boys “Massachusetts” / スカッド・マウンテン・ボーイズ『マサチューセッツ』


Scud Mountain Boys “Massachusetts”

スカッド・マウンテン・ボーイズ 『マサチューセッツ』
発売: 1996年4月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mike Deming (マイク・デミング), Thom Monahan (トム・モナハン)

 マサチューセッツ州ノーサンプトンで結成されたオルタナティヴ・カントリー・バンド、スカッド・マウンテン・ボーイズの3rdアルバム。1st『Dance The Night Away』と2nd『Pine Box』は、共にチャンク・レコード(Chunk Records)というインディー・レーベルからのリリースでしたが、3枚目となる本作はシアトルの名門レーベル、サブ・ポップからリリース。

 ちなみにチャンク・レコードは、スカッド・マウンテン・ボーイズの地元ノーサンプトンで活動するバンド、ザ・マラリアンズ(The Malarians)のフロントマン、JMドビーズ(JM Dobies)が運営していたレーベルで、1986年から2000年まで活動していたようです。

 1991年結成のスカッド・マウンテン・ボーイズは、世代的にはオルタナ・カントリーの第一世代と言っていいバンドです。しかし、多くのバンドも拒絶するように、ジャンル名やムーヴメントで音楽性にレッテルを貼るのは、そのバンドの魅力を捉え損ねることに繋がりかねません。

 では、実際に本作では、どのような音楽が鳴らされているのか。アコースティック・ギター、スティール・ギター、さらにマンドリンも使用され、オーガニックな楽器の響きを用いて構成されるアンサンブルは、まさにカントリー的。同時に、サウンド・プロダクションの面でも、アレンジの面でも、オルタナティヴな要素は薄いと言えます。

 ボーカルのジョー・パーニスの穏やかな声とメロディー・センスも相まって、カントリーだけにとどまらない様々なジャンルの香りを感じる、より広い意味でアメリカーナな作品となっています。

 一般的なオルタナ・カントリーというと、カントリー色の濃い音楽に、ノイジーなギターや実験的なアレンジを織り交ぜる、というのが主流ですが、本作はそのような方法論は取らず、多様なルーツ・ミュージックを、借り物では無い自分のセンスでまとめ上げています。その点では現代的であり、オルタナティヴであるとも言えるでしょう。

 前述したように、生楽器のオーガニックなサウンドを活かしたアルバムであり、カントリーに近いサウンド・プロダクションを持っていのも事実ですが、随所で使用されるエレキ・ギターがカントリー色を薄め、現代的な空気を取り込んでいます。

 1曲目「In A Ditch」から、きわめて穏やかなサウンドとメロディーを持った音楽が展開。複数のギターが心地よく絡み合うアンサンブルが繰り広げられます。

 4曲目「Grudge ****」は、ゆったりとしたテンポの穏やかな曲ですが、随所に差し込まれるエレキ・ギターやピアノの音色が、オルタナティヴな空気を吹き込みます。例えば、再生時間2:19あたりからの伸びやかなソロは、楽曲を俄然カラフルにしていると言っていいでしょう。ちなみにタイトルの「****」には、Fワードが入ります。

 7曲目「Lift Me Up」は、ほどよく歪んだエレキ・ギターのサウンドから、フォークやカントリーというよりも、古き良きアメリカン・ロックの空気が溢れる1曲。

 スカッド・マウンテン・ボーイズは、本作がリリースされた翌年の1997年に解散。しかし、2012年に再結成し、2013年には本作から17年ぶりとなる4thアルバム『Do You Love The Sun』をリリースしています。ちなみのこちらのアルバムは、2000年にフロントマンのジョー・パーニス(Joe Pernice)が立ち上げたレーベル、アッシュモント・レコード(Ashmont Records)からのリリース。

 ジョー・パーニスはスカッド・マウンテン・ボーイズ解散後に、パーニス・ブラザーズ(Pernice Brothers)を結成しますが、このバンドはスカッド・マウンテン・ボーイズよりもインディーロック色の強い音楽を志向しています。ジョー・パーニスは、当初からもう少しカントリー色を薄めた音楽をやりたかったのでは、と考えると、本作の絶妙なバランスの理由が、より強く感じられるのではないでしょうか。