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Don Caballero “What Burns Never Returns” / ドン・キャバレロ『ワット・バーンズ・ネヴァー・リターンズ』


Don Caballero “What Burns Never Returns”

ドン・キャバレロ 『ワット・バーンズ・ネヴァー・リターンズ』
発売: 1998年6月9日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの3rdアルバム。プロデューサーは前作に引き続き、アル・サットンが担当。

 過激なまでにハードなサウンドと緻密なアンサンブルが聴き手を圧倒した1st『For Respect』、ラウドなサウンドはやや抑え目によりアンサンブルを磨き上げた2nd『Don Caballero 2』。その2作に続く、3作目が本作『What Burns Never Returns』です。

 前作『Don Caballero 2』は、すべてを押し流すように轟音ギターを用いるのではなく、適材適所で効果的に用いられていたのですが、本作ではさらにサウンドの選び方、アンサンブルの精度の向上を感じます。

 1曲目の「Don Caballero 3」では、イントロから全ての楽器がシンプルで、無駄を省いたようなサウンド。その生々しいサウンドを用いて、手数多く、タイトなアンサンブルを築き上げていきます。ヴァース-コーラス形式のような進行感のある楽曲ではありませんが、再生時間2:06あたりからのドラムがシフトを切り替えるように、一瞬で景色が変わる展開など、次になにが起こるかわからない緊張感と期待感の続く1曲です。

 2曲目の「In The Abscence Of Strong Evidence To The Contrary, One May Step Outof The Way Of The Charging Bull」(タイトル長いですね…)は、細かく刻まれたギターのフレーズから始まり、粒のような細かい音が、結集して音楽を作り上げるような1曲。いわゆるグルーヴ感というのとは違う、不思議なトリップ感があります。

 5曲目「Room Temperature Suite」は、イントロのドラム、そこに折り重なってくるギターと、各楽器のリズムが複雑にかみ合っていく1曲。設計図を見てみたい複雑なアンサンブルですが、こちらに伝わる聴感は極めてポップです。

 前作同様、圧倒的な轟音ギターと変拍子で押しまくるのではなく、アンサンブルをさらに極めた1作であると思います。前作以上に、各楽器のサウンドは耳なじみが良く、ポップで聴きやすいサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 しかし、複雑で変態的なアンサンブルは、もちろん健在。非常にテクニカルで、技巧的には難しいことをやっていると思うのですが、それを感じさせず、さらりと聴かせてします作品です。

 





Don Caballero “Don Caballero 2” / ドン・キャバレロ『ドン・キャバレロ2』


Don Caballero “Don Caballero 2”

ドン・キャバレロ 『ドン・キャバレロ2』
発売: 1995年9月15日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの2ndアルバムです。プロデューサーが前作のスティーヴ・アルビニから、アル・サットンに交代しています。

 暴力的なまでにハードなサウンドで、変態的かつ緻密なアンサンブルを作り上げたデビュー作『For Respect』に続く2作目。本作では、ハードなサウンドはやや抑え目に、複雑怪奇なアンサンブルを構成しています。

 しかし、ただおとなしくなったというわけではなく、音量のみに頼るのではなく、リズムとコントラストによって、緊張感や迫力を演出した1作です。

 1曲目「Stupid Puma」では、イントロからシンプルなギターの音色が響き、ハードな轟音で押し切った前作との、明らかな違いを予感させます。ただ、緻密で複雑怪奇なアンサンブルは健在。この曲も各楽器が複雑に絡み合い、いわゆるロック的なグルーヴ感とは違う、瞑想的な雰囲気を生み出していきます。

 2曲目「Please Tokio, Please This Is Tokio」は、こちらもイントロから、ギターの音が軽く歪んだクランチ的なサウンド。各楽器が絡まるような、バラバラにくずれ落ちるような、緊張感のあるバランスで進行していく1曲です。

 4曲目「Repeat Defender」は、クランチ気味のギターと、手数の多いドラム、その隙間を埋めるようにベースが躍動するイントロから、時空を切り裂くように耳障りなギターが乱入してくる展開。10分を超える曲ですが、展開が目まぐるしく飽きさせません。

 6曲目「Cold Knees (In April)」は、イントロから不穏な空気が漂う1曲。複雑なリズムと、絡み合うようなアンサンブルに耳が向かいがちですが、ハーモニーとフレーズの音の運びにおいても、相当に変わったことをしています。

 前述したとおり、前作に比べるとハードなサウンドは後退し、代わりにアンサンブルやヴォイシングで不穏な空気やスリルを演出したアルバムであると思います。ただ、前作で聴かれた攻撃的なディストーション・ギターは、本作でも随所に効果的に挿入されています。

 ひたすらアグレッシヴに押し寄せる前作と、アレンジと音量の両面でコントラストを作り出し、より緊張感を与える本作、といった感じの差違があります。

 個人的にドン・キャバレロは大好きなバンドで、本作も完成度の高いアルバムであるのは事実ですが、他の作品と比べると過渡期の1作といった印象で、1番にはすすめないかな、というのが正直なところ。

 もちろん僕の主観ですから、このアルバムが1番好きという方もいらっしゃるでしょうし、気になったらこのアルバムも、ぜひ聴いていただきたいです。

 





Don Caballero “For Respect” / ドン・キャバレロ『フォー・リスペクト』


Don Caballero “For Respect”

ドン・キャバレロ 『フォー・リスペクト』
発売: 1993年10月10日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの1stアルバムです。(当人たちは「マスロック」にカテゴライズされるのを好んでいないようですが…) のちにバトルスを結成する、イアン・ウィリアムスが在籍していたことでも知られます。

 本作『For Respect』は、レコーディング・エンジニアにスティーヴ・アルビニを迎え、シカゴの名門タッチ・アンド・ゴーよりリリース。この情報だけでも、期待が高まります。

 前述したとおり、マスロックに定義されることの多いバンドですが、本作でも変拍子を多用した、緻密で複雑なアンサンブルが、硬くヘヴィーなサウンドで繰り広げられます。

 1曲目の「For Respect」は、イントロから、音のストップ・アンド・ゴーがはっきりした、メリハリのきいた演奏。再生時間0:07あたりで、バンドはピタリと止まるなか、ドラムだけはみ出すところなど、コントラストの演出も巧み。

 非常に硬質で、ハードロック的なサウンドの1曲目。アンサンブルは緻密でストイックですが、随所に遊び心も感じられる1曲です。例えば、1:15あたりからのバンドがブレイクを繰り返すところで、ドラムだけ「だるまさんがころんだ」で動いてしまうようなアレンジだとか、同じ部分1:27あたりのコントで使用されそうなとぼけた効果音の挿入など、シリアスになりすぎず、カラフルな印象を楽曲に加えています。

 2曲目「Chief Sitting Duck」は、前のめりに暴走するようなドラム、堅くハリのあるサウンドのベース、制御できずに暴発するようなギターが絡み合う1曲。冒頭から、ロックのラフな魅力と、緻密なアンサンブルが高次元で融合しています。

 5曲目「Rocco」は、上から叩きつけるような手数の多いドラムと、サウンドと音数の両面で押し寄せるようなギターが、聴き手に迫ってくる1曲。アルバムを通してですが、サウンドにも臨場感があります。

 8曲目「Our Caballero」は、ハードなサウンド、複雑なリズムで各楽器が絡み合う、マスロックかくあるべし!な1曲。再生時間1:32あたりからの、段階的に波が押し寄せるようなアレンジも迫力満点。

 1stアルバムですが、すでに音楽性とアンサンブルの精度は、かなりの完成度に達しています。その後のアルバム群に比べると、サウンドも展開もやり過ぎと思うぐらい、ハードでエッジが立ったアルバムだと思います。

 この後、さらに音楽性を広げていく彼らですが、デビュー作である本作も十分おすすめできるアルバムです!

 





Jim O’Rourke “Eureka” / ジム・オルーク『ユリイカ』


Jim O’Rourke “Eureka”

ジム・オルーク 『ユリイカ』
発売: 1999年2月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる2枚目のアルバム。

 フリー・インプロヴィゼーションや音響的な作品、ノイズや現代音楽など、実に多種多様な音楽を生み出すジム・オルーク。とっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップです。

 しかし、耳にやさしく聴きやすい音楽であるのと同時に、ジム・オルークの音楽的教養の深さ、知識の豊富さが感じられる、広大な世界観を持った作品でもあります。

 本作『Eureka』は、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、古き良きアメリカン・ポップス、さらに電子音を使った音響的なアプローチやフレンチ・ポップまで、多種多様な音楽が、現代的な手法で再構築した1枚です。

 言語化すると、なんだか小難しそうですが、できあがった音楽はどこまでも優しく、音楽の心地いい部分だけを素材として使い、凝縮したようにポップです。

 アルバム1曲目の「Prelude To 110 Or 220 / Women Of The World」では、イントロからフィンガー・ピッキングによる、ナチュラルなアコースティック・ギターの音が響きます。しかし、ギターが鳴っているのは主に右チャンネル。左チャンネルからは、電子音のような響きが近づいてきます。両者は絶妙に溶け合い、全体として、とても心地よい響きを生み出すから不思議。

 さらに再生時間0:20あたりで、視界が大きく開けるように、楽器の数が増え、カラフルで開放的なアンサンブルとサウンドを構成します。このあとも、ジムの優しい歌声が加わったり、1:48あたりからギターと電子音が絡み合うように旋律を紡いだりと、次々と風景が変わるように、展開していく1曲です。8分を超える曲ですが、全く冗長な印象はありません。

 3曲目「Movie On The Way Down」は、音数が少なく、レコード針のノイズのような音が持続する、アンビエントなイントロから、徐々に音楽が姿をあらわしていきます。様々な音が重なり合い、幻想的な音世界を作り上げていく1曲。

 4曲目の「Through The Night Softly」は、スティール・ドラムの響きがかわいらしい1曲。音の配置を変えれば、もっとアヴァンギャルドな印象の曲になりそうですが、一般的なヴァース-コーラス形式とは違うものの、進行感も感じられ、ポップな曲に仕上がっています。

 6曲目の「Something Big」は、ピート・バカラックのカバー。こんなところにも、ジムの過去の音楽への深いリスペクトが感じられます。

 前述したように、非常にポップで、楽しいアルバムです。しかも、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、新しさにも溢れた1作。

 様々な音楽を、再解釈し組み上げるセンスからは、ジム・オルークの音楽的語彙の豊富さと、音楽への深い愛情が伝わります。深い意味で、ポップな作品です。こういう作品が、もっと売れる世界になってほしい。(世界中で十分に売れた作品ですが…)





Jim O’Rourke “Bad Timing” / ジム・オルーク『バッド・タイミング』


Jim O’Rourke “Bad Timing”

ジム・オルーク 『バッド・タイミング』
発売: 1997年8月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルーク。彼の音楽活動は非常に多岐にわたり、ジャンルを特定するのは不可能…というより、彼のような音楽家を前にすると、あらためてジャンル分けの難しさを痛感します。

 本作『Bad Timing』は、ジム・オルークがDrag Cityからリリースした1作目のアルバム。これ以前の彼は、フリー・インプロヴィゼーションやミニマル・ミュージックなど、一般的に敷居が高いと思われる音楽をクリエイトしており、本作が普段ロックやポップスを聴いているリスナーにも受け入れられるであろう初の作品です。

 それでは実際にこの作品で、どんな音が鳴っているのかと言えば、カントリーなどアメリカのルーツ・ミュージックと、インプロヴィゼーションや実験音楽が溶け合い、ポップ・ミュージックとして結実しています。

 オーガニックな音色のアコースティック・ギターを中心に据え、ジム・オルークの幅広い音楽的教養が、随所に顔を出すアルバムです。…と書くと、なにやら難しいイメージを持たれるかもしれませんが、重要なのはこの作品が、大変にポップだということ。

 1曲目の「There’s Hell In Hello But More In Goodbye」は、これもジムの代名詞のひとつであるフィンガー・ピッキングによる、アコースティック・ギターの流れるような美しい旋律から始まります。(ちなみにフィンガー・スタイルのギター・ミュージック「American primitive guitar」というジャンルが存在し、ジムはその名手です。)

 時間が伸縮するように、自由にメロディーを紡いでいくギター。そこにはインプロヴィゼーションの香りも漂います。再生時間0:45あたりから加速し、1:16あたりでまたイントロのフレーズに戻る展開など、どこまでが予定調和で、どこまでが即興なのか、そんな疑問が意味をなさないほどに自由で、いきいきと躍動する音楽が溢れでてきます。

 2曲目の「94 The Long Way」も、哀愁を漂わせるイントロのギターから、徐々に楽器が増え、目の前に次々に風景が広がる1曲。アコースティック・ギターとペダル・スティール・ギターの響きが牧歌的な空気を作りながらも、いくつもの楽器が重層的に加わっていき、ジャンルレスでポップなアンサンブルを編み込んでいきます。

 3曲目「Bad Timing」も、フィンガー・ピッキングによるギターから幕を開けます。再生時間3:13あたりから、音が拡散するように増加し広がっていく展開は、サイケデリックかつ多幸感が溢れる音世界を作り出していきます。

 4曲目の「Happy Trails」は、イントロから重層的で厚みのあるサウンドが押し寄せ、眼前に音の壁が立ちはだかるかのよう。ノイズ的な持続音と、ナチュラルなギターの音色がレイヤー状に重なり、全体としては非常に心地いい耳ざわりになっているのが不思議。

 4曲収録で、およそ44分。ヴァース-コーラス形式を持った、いわゆる歌モノのアルバムではありませんが、耳自体に直接染み入ってくるような、ポップな音が満載の1作です。前述したとおり、敷居の高いと思われるジャンルの要素も含むものの、できあがった音楽はどこまでもポップ。

 聴いていると、風景が目に浮かび、音楽と共に変化していくような、実にイマジナティヴな音楽です。美しく楽しい音楽が詰まっていますから、難しく考えず、自由な気持ちで味わっていただきたい1枚です。