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Veruca Salt “IV” / ヴェルーカ・ソルト『フォー』


Veruca Salt “IV”

ヴェルーカ・ソルト 『フォー』
発売: 2006年9月12日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Rae DeLio (レイ・ディレオ)

 イリノイ州シカゴ出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、ヴェルーカ・ソルトの4thアルバム。

 1992年に結成され、1994年に1stアルバム『American Thighs』をリリースしたヴェルーカ・ソルト。それから12年の月日が経ち、4作目となる本作には、ギター・ボーカルのルイーズ・ポスト(Louise Post)以外のオリジナル・メンバーは残っていません。

 デビュー当時は、まだグランジ旋風の残る90年代前半。ヴェルーカ・ソルトも、グランジらしいざらついたギターを、前面に出したサウンドを鳴らしていました。彼らの音楽を、特別なものにしていたのは、ルイーズ・ポストの表現力豊かなボーカル。

 ロック的なエモーショナルな歌唱と、アンニュイな魅力を併せ持つ彼女のボーカルは、グランジーなバンド・サウンドに、フレンチ・ポップを彷彿とさせる多彩さを加えています。

 さて、それから12年を隔てた通算4作目のアルバムとなる本作。音圧の高いパワフルなサウンドに、やはりルイーズ・ポストの声の魅力が融合した1作となっています。

 1曲目「So Weird」では、複数のギターが折り重なり、厚みのあるアンサンブルを構成。その上を軽やかに泳ぐように、ボーカルがメロディーを紡いでいきます。

 2曲目「Centipede」は、タイトなドラムのイントロから始まり、立体的で躍動感に溢れたアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 3曲目「Innocent」は、激しく歪んだギターの波が、次々と押し寄せる1曲。

 4曲目「Circular Trend」は、うねるようにギターが暴れるアンサンブルに合わせ、コケティッシュなボーカルがメロディーをかぶせる1曲。アンサンブルには、ロックのかっこいいと思うツボが、たっぷりと含まれ、否が応でもリスナーの耳を掴んでいきます。

 5曲目「Perfect Love」は、過度にダイナミックなアレンジを控え、タイトなアンサンブルが展開する1曲。

 6曲目「Closer」は、同じ音を繰り返すシンプルなイントロから始まり、各楽器が絡み合うように塊感のあるアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 7曲目「Sick As Your Secrets」は、クリーン・トーンのギターがフィーチャーされた穏やかなアンサンブルと、轟音ギターの押し寄せるパートを行き来する、コントラストの鮮やかな1曲。

 8曲目「Wake Up Dead」は、ピアノとストリングス、アコースティック・ギターが用いられたメロウなバラード。柔らかなバンドのサウンドに比例して、ボーカルも穏やかにメロディーを紡ぎます。

 9曲目「Damage Done」は、激しく歪んだギターが折り重なる、グランジ色の濃い1曲。

 11曲目「The Sun」は、ピアノとストリングスを前面に出した穏やかなアンサンブルから始まり、ドラムとディストーション・ギターが立体感とダイナミズムを増していく展開を持った曲。

 13曲目「Save You」は、イントロからパワフルにドラムが鳴り響き、立体的なアンサンブルが展開する曲。中盤からのジャンクなアレンジも魅力。

 14曲目「Salt Flat Epic」は、かすかな音量の電子音が漂うイントロから始まり、透明感あふれるギターとボーカルが絡み合う穏やかなアンサンブル、さらにドラムやギターが立体感と躍動感をプラスしたアンサンブルへと展開する、8分近くに及ぶ大曲。

 まず一聴したときの感想は、音がいいな! 音圧が高く、パワフルで臨場感に溢れたサウンドで録音されています。

 クレジットを確認すると、プロデュース、エンジニア、ミックスを担当するのは、フィルター(Filter)やロリンズ・バンド(Rollins Band)を手がけるレイ・ディレオという人物。

 パワフルなサウンド・プロダクションに、前述のルイーズ・ポストの声の魅力が加わり、初期のグランジ色から比較して、現代性と多彩さを増したアルバムとなっています。

 





Iron & Wine “The Shepherd’s Dog” / アイアン・アンド・ワイン『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』


Iron & Wine “The Shepherd’s Dog”

アイアン・アンド・ワイン 『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brian Deck (ブライアン・デック)

 サウスカロライナ州チャピン出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)のソロ・プロジェクト、アイアン・アンド・ワインの3rdアルバム。前作『Our Endless Numbered Days』から、およそ3年半ぶりのリリース。

 フォークやカントリーを下敷きにした音楽を展開するサム・ビーム。前作では、アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、各種パーカッションの多様なサウンドで、ほのかにオルタナティヴな香りを振りかけた音楽を作り上げていました。

 上記のとおり3年半ぶりのアルバムとなる本作では、エレキ・ギターが多用され、より雑多でオルタナティヴ色を増したアンサンブルが展開されています。

 1曲目「Pagan Angel And A Borrowed Car」は、多様な音が飛び交う、にぎやかでカラフルなアンサンブルに、流麗なメロディーが溶け合う1曲。時折はさまれる、ピアノの流麗な高速フレーズなど、多彩なアレンジが散りばめられています。

 2曲目「White Tooth Man」は、立体的に打ち鳴らされるトライバルなビートに、伸びやかなギターのフレーズが絡み合い、複雑なアンサンブルが構成されていきます。リズムが何層にも重なり、聴き方によって様々な表情を見せる1曲。

 3曲目「Lovesong Of The Buzzard」は、軽やかなドラムのビートに、流れるような歌のメロディーが重なる、ゆるやかなスウィング感のある曲。奥の方から聞こえる、ギターやキーボードの持続音が、楽曲にさらなる厚みをもたらしています。

 4曲目「Carousel」は、全体に空間系エフェクターをかけたような、酩酊的なサウンドを持った1曲。ボーカルも、あからさまにエフェクト処理され、ミドルテンポの穏やかな曲ながら、同時にサイケデリックな空気が充満します。

 5曲目「House By The Sea」は、電子的なサウンドがフィーチャーされた、ポストロック色の濃い1曲。エレクトロニカを彷彿とさせる音像と、軽快なビート、生楽器のオーガニックな音色が合わさり、カラフルな楽曲を作り上げます。

 6曲目「Innocent Bones」は、軽やかにスウィングするアンサンブルに、ささやき系のボーカルが重なる、ボサノヴァを彷彿とさせるメロウな1曲。

 7曲目「Wolves (Song Of The Shepherd’s Dog)」では、粒になった音が飛び交うイントロから始まり、音数が少なく隙間は多いのに、揺らめく躍動感を持った演奏が展開します。各楽器には、エコーやワウなどのエフェクターが用いられ、ダブの要素も併せ持った1曲。

 8曲目「Resurrection Fern」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えた、穏やかで牧歌的な1曲。

 9曲目「Boy With A Coin」は、躍動的なリズム隊と、エフェクトのかかった音響的なギターとボーカルが溶け合う1曲。歌心の溢れる穏やかなメロディーと、ポストロック的なアレンジが共存しています。

 10曲目「The Devil Never Sleeps」は、細かくリズムを刻むピアノを先頭に、ダンサブルで躍動感あふれるアンサンブルが展開する1曲。多様な楽器が用いられ、色彩豊かなサウンド。

 11曲目「Peace Beneath The City」では、音がポツリポツリと置かれるミニマルなイントロから、徐々に音が増え、ブルージーな演奏へと発展。ギターとボーカルにはエフェクターがかけられ、音響的なアプローチ。トライバルなドラムのリズムと、音響を前景化したポストロック的な音像が溶け合っています。

 12曲目「Flightless Bird, American Mouth」は、ボーカルを中心に据え、楽器の暖かなサウンドを活かし、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開する1曲。

 フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴ・ロックやポストロック的な意外性のあるアレンジを散りばめた1作。

 曲によってエレクトロニカのようであったり、ブルース・ロックのようであったり、非常に多彩なアレンジとサウンドが用いられた、カラフルなアルバムです。

 「オルタナ・カントリー」と言うと一言で終わってしまいますが、生楽器を活かしたカントリー的な躍動感と、エフェクターを駆使したポストロック的な意外性が、巧みに溶け合った名盤!

 『The Shepherd’s Dog』というタイトルのとおり、犬の絵のジャケットも好きです。

 





Iron & Wine “Our Endless Numbered Days” / アイアン・アンド・ワイン『アワ・エンドレス・ナンバード・デイズ』


Iron & Wine “Our Endless Numbered Days”

アイアン・アンド・ワイン 『アワ・エンドレス・ナンバード・デイズ』
発売: 2004年3月23日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brian Deck (ブライアン・デック)

 サウスカロライナ州チャピン出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)のソロ・プロジェクト、アイアン・アンド・ワインの2ndアルバム。前作に引き続き、シアトルの名門インディー・レーベル、サブ・ポップからのリリース。

 通常は「Iron & Wine」という表記ですが、本作のジャケット上では「Iron + Wine」と綴られています。

 4トラックのレコーダーを使用して、サム・ビーム個人で製作したデモテープが元となった前作『The Creek Drank The Cradle』。レコーディングも含め、全ての楽器をビーム自身が演奏し、宅録らしいチープな音質と、楽器数の少ないシンプルなアンサンブルを持つ1作でした。

 約1年半の間隔を置いてリリースされた本作では、バック・バンドを従え、シカゴのエンジン・スタジオ(Engine Studios)にてレコーディングを実施。サウンド・プロダクションとアンサンブルの両面で、前作よりも洗練されています。

 チープな音質を好むという方もいらっしゃるでしょうし、簡素なサウンド・プロダクションによって、歌や演奏が前景化されるといった効果もあるでしょう。そのため、音楽において何を「向上」と呼ぶべきかは、難しいところ。

 しかし、少なくとも前作と比較して、各楽器の音質がくっきりとし、音圧も高まっているのは確かです。多くの人が、前作よりも音質が向上したと感じるであろうサウンドで、レコーディングされています。

 音楽面でも、ビーム個人で全ての楽器をこなしていた前作に対して、本作ではプロデューサーを務めるブライアン・デックを含め、ビーム以外に6人のミュージシャンが参加。ギターと歌を中心に構成された前作と比較して、格段に厚みを増したアンサンブルが展開されています。

 フォークやカントリーの色が濃い作風は、前作と共通。しかし、無駄を削ぎ落としたシンプルなサウンドとアンサンブルによって、歌が前景化された前作に対して、本作では前述のとおり多くのミュージシャンを迎え、立体感と多彩さが格段に増しています。

 歌心は変わらず持ち続けていますが、よりアンサンブル志向の高まった1作とも言えます。

 1曲目「On Your Wings」では、イントロからギターがチクタクチクタクとフレーズを刻み、歌も含めて、各楽器がカッチリと組み合うアンサンブルが構成。そこまで音数は詰め込まれていないものの、多様なパーカッションの音色が、楽曲をカラフルに彩っていきます。

 2曲目「Naked As We Came」は、流れるように紡がれるギターのフレーズに、ボーカルのメロディーが重なり、穏やかな川のようなアンサンブルを構成する1曲。

 3曲目「Cinder And Smoke」は、音数が少ないながらも、立体的なアンサンブルを作り上げていく1曲。パーカッションの個性的なサウンドがアクセントとなり、耳を掴みます。途中から入ってくる、隙間を埋めるような野太いベース、低音でパワフルに響くバスドラなど、適材適所で音が置かれる、機能的なアンサンブル。

 4曲目「Sunset Soon Forgotten」は、みずみずしく、はじけるような音色のギターが躍動する1曲。ギターとボーカルのみで構成される曲ですが、不足は感じず、いきいきとした躍動感に溢れた演奏が繰り広げられます。

 5曲目「Teeth In The Grass」は、タイトなアンサンブルでありながら、前への推進力を持った、カントリー色の濃い1曲。

 6曲目「Love And Some Verses」では、前半はギターとボーカルが折り重なるようにフレーズを紡ぎ、再生時間1:24あたりでドラムが入ると、途端に躍動感が増加。ミドルテンポに乗せて、ゆるやかなグルーヴ感が生まれる、牧歌的な雰囲気の1曲。

 9曲目「Free Until They Cut Me Down」は、各楽器が絡み合うように、躍動的なアンサンブルが展開する、ブルージーな1曲。

 11曲目「Sodom, South Georgia」では、一定のリズムで揺れる伴奏をバックに、ボーカルが囁くようにメロディーを紡いでいきます。
 
 アルバム全体をとおして、生楽器のオーガニックな響きを活かした1作。サウンドにもアンサンブルにも、決して派手さはないのですが、音の組み合わせによって、多彩な世界観を描き出しています。

 前述のとおり、アコースティック・ギターが主軸に据えられ、フォーキーなサウンドを持った本作。しかし、随所で用いられる各種パーカッションの意外性のあるサウンドが、本作に色を足し、オルタナティヴな空気をもたらしています。

 音数を詰め込み過ぎず、適材適所に効果的なサウンドを用いた本作は、オルタナ性とルーツ・ミュージックが、巧みにブレンドされたアルバムであると思います。個人的に、かなりお気に入りの1作!

 





Iron & Wine “The Creek Drank The Cradle” / アイアン・アンド・ワイン『ザ・クリーク・ドランク・ザ・クレイドル』


Iron & Wine “The Creek Drank The Cradle”

アイアン・アンド・ワイン 『ザ・クリーク・ドランク・ザ・クレイドル』
発売: 2002年9月24日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 サウスカロライナ州チャピン(Chapin)出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)。ステージ・ネームと、レコーディング・ネームとして、「アイアン・アンド・ワイン」を名乗る彼の1stアルバム。

 1974年、サウスカロライナ州チャピンに生まれたサム・ビーム。地元の高校を卒業後、バージニア・コモンウェルス大学へ進学。さらに同大卒業後、フロリダ州立大学大学院へ進学し、映画を専攻して修士号を取得しています。

 90年代中頃から、作曲を開始。2002年には、友人から4トラックのレコーダーを借り、デモテープの制作を開始します。完成したデモテープの1本を、友人のマイケル・ブリッドウェル(Michael Bridwell)に渡し、彼はそのテープをイエティ・マガジン(YETI magazine)というカルチャー雑誌の編集者をしている友人に渡します。

 ちなみにブリッドウェルは、のちにバンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)を結成することになる、ベン・ブリッドウェル(Ben Bridwell)。

 ビームのデモテープは、イエティ・マガジンのまとめるコンピレーションCDに収録。それがシアトルのインディー・レーベル、サブ・ポップの運営者ジョナサン・ポーンマン(Jonathan Poneman)の耳に入り、サブ・ポップとの契約に至りました。

 本作がリリースされたのは2002年。サム・ビームが、28歳のときです。10代でデビューするバンドもいるなか、遅いデビューと言って良いでしょう。

 サム・ビームが、個人でレコーディングしたデモテープが元となった本作。そのため、音質はお世辞にも良いとは言えません。そんな飾り気のないサウンド・プロダクションの中で浮かび上がるのは、彼の紡ぐメロディーと歌心。

 サウンドと比例するように、むき出しのメロディーと歌が前景化されたのが本作です。他に前に出すものが無い、とも言えるのですが…。ただ、歌唱とソングライティングが、本作の中心に置かれているのは事実。伴奏もアコースティック・ギターを中心にした、穏やかでシンプルなもの。

 1曲目の「Lion’s Mane」から、アコースティック・ギターの粒だったフレーズに、ささやき系のボーカルが重なり、穏やかな空気を演出しています。奥の方ではスライド・ギターらしき音も聞こえ、牧歌的な空気に立体感をプラス。

 2曲目「Bird Stealing Bread」も、さざ波のように穏やかに揺れるギターのリズムに乗って、高音を用いたメロディーが漂う、流麗な1曲。

 3曲目「Faded From The Winter」は、ギターの軽やかで小刻みなフレーズに、長めの音符を多用したボーカルのメロディーが、対比的に重なる1曲。再生時間2:08あたりから始まるギターソロも、ボーカル以上に歌心があり、心地よく響きます。

 7曲目「Southern Anthem」は、穏やかに流れるような曲想の多い本作において、やや縦ノリのリズムを持った曲。とはいえ、もちろんゴリゴリのビートで進行するわけではなく、ギターと歌のメロディーが、ゆったりと揺らぎを持って、リズムを刻んでいきます。

 9曲目「Weary Memory」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、コード・ストロークとスライド・ギター、歌のメロディーが、丁寧に音を置いていく1曲。各フレーズは「有機的に組み合う」という感じではないのですが、空間を音で満たすように、互いに
干渉することなく、広がっていきます。

 アコースティック・ギターの奏でるフォーキーなサウンドと、穏やかな歌が中心に据えられたアルバムです。伴奏のギターと、歌のメロディー、それにギターソロや副旋律がところどころで足されるシンプルなアンサンブルが、アルバム全編にわたって展開。

 シンプルなアンサンブルの中で、穏やかに流れるメロディーが際立つ1作です。前述のとおり、デモテープが元になった簡素なサウンド・プロダクションを持った本作ですが、それが欠点に感じられることは少なく、むしろメロディーとも相まって、穏やかな空気を演出しています。

 





Phosphorescent “To Willie” / フォスフォレッセント『トゥ・ウィリー』


Phosphorescent “To Willie”

フォスフォレッセント 『トゥ・ウィリー』
発売: 2009年2月2日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 アラバマ州ハンツビル出身のシンガーソングライター、マシュー・フック(Matthew Houck)のソロ・プロジェクト、フォスフォレッセントの4thアルバム。インディアナ州ブルーミントンのインディー・レーベル、デッド・オーシャンズと契約後、2作目となるアルバムです。

 『To Willie』と題された本作。全曲が、テキサス州アボット出身のカントリー系ミュージシャン、ウィリー・ネルソン(Willie Nelson)のカバーで構成された、トリビュート作品となっています。

 フォスフォレッセントの作る音楽は、フォークやカントリーを下敷きにしながら、音響的なアプローチや、オルタナティヴなサウンドも共存。しかし本作は、これまでの彼のアルバムの中で、最もストレートにカントリー色が出たアルバムと言って良いでしょう。

 1曲目の「Reasons To Quit」から、生楽器のオーガニックな響きと、コーラスワークを活かし、ゆるやかにスウィングする、カントリー色の濃いアンサンブルが展開。再生時間1:59あたりからの、複数のギターが絡み合う間奏では、タペストリーのように有機的なサウンドを編み上げていきます。

 2曲目「Too Sick To Pray」は、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開する、牧歌的な1曲。シェイカーの軽快なリズムと音色がアクセント。

 4曲目「It’s Not Supposed To Be That Way」には、ダーティー・プロジェクターズ(Dirty Projectors)に参加していたことでも知られる、エンジェル・デラドオリアン(Angel Deradoorian)がボーカルで参加。音数を絞ったバンド・アンサンブルをバックに、男女混声による穏やかなコーラスワークが紡がれていきます。

 6曲目「I Gotta Get Drunk」は、イントロから躍動感あふれる演奏が展開する、ノリの良い1曲。ピアノはダンサブルにリズムを刻み、エレキ・ギターとハーモニカは、サウンドに多彩さをプラス。

 7曲目「Can I Sleep In Your Arms」は、厚みのあるコーラス・ワークが前景化された、壮大かつ穏やかな空気を持った1曲。ゆったりとしたスローテンポの中で、幾重にも重なったボーカルのハーモニーが響き渡り、音響的なアプローチとも言えます。

 9曲目「Permanently Lonely」には電子音が用いられ、エレクトロニカや音響系ポストロックを思わせる、ソフトで幽玄な音像を持った1曲となっています。

 10曲目「The Last Thing I Needed (First Thing This Morning)」では、ボーカルも含め、全ての楽器がゆったりと長めの音を紡ぎ、1枚のシートのように音楽が作り上げられていきます。

 全曲カバーによるトリビュート・アルバムということで、これまでのフォスフォレッセントのアルバムとは、似て非なるものとも言えるアルバムです。

 具体的には、フォークやカントリーを思わせる、アコースティック楽器を主軸にしたサウンドは共通しています。その一方で、オルタナティヴなサウンドとアレンジも共存する、従来のフォスフォレッセントの音楽性に対して、本作ではよりストレートなカントリー・ミュージックを展開しています。

 もちろん本作でも、ところどころ音響的なアプローチが垣間見え、エレクトロニカを彷彿とさせる電子音が用いられるなど、ウィリー・ネルソン流のカントリーを完全にコピーしているわけではありません。しかし、フォスフォレッセントのこれまでの作品と比較すれば、カントリー色の最も濃い1作と言えるでしょう。

 2018年10月現在、Spotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは残念ながら未配信です。