「2000年代」タグアーカイブ

At The Drive-In “Relationship Of Command” / アット・ザ・ドライヴイン『リレーションシップ・オブ・コマンド』


At The Drive-In “Relationship Of Command”

アット・ザ・ドライヴイン 『リレーションシップ・オブ・コマンド』
発売: 2000年9月12日
レーベル: Grand Royal (グランド・ロイヤル), Fearless (フィアレス)
プロデュース: Ross Robinson (ロス・ロビンソン)

 テキサス州エルパソ出身のポスト・ハードコア・バンド、アット・ザ・ドライヴインの3rdアルバム。

 1998年リリースの前作『in/CASINO/out』は、カリフォルニア州拠点のポップ・パンク系インディー・レーベル、フィアレスからのリリース。

 同作が高い評価を受け、3作目のアルバムとなる本作は、ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)が立ち上げたメジャー・レーベル、グランド・ロイヤルから2000年にリリース。その後、2004年には古巣のフィアレスからも再発されています。

 高度な演奏テクニックと、刃物のように鋭利なサウンド。爆発的なエモーションを併せ持つのが、このバンドの魅力。

 本作では、テンションの高さはそのままに、より複雑さを増した演奏を展開。休符を生かして緊張感を演出するアプローチも前作から引き継ぎ、音作りはさらに多様になっています。

 1曲目「Arcarsenal」は、エフェクターのかかった摩訶不思議なギター・サウンドと、タイトなリズム隊によるアンサンブルからスタート。アルバム冒頭から、不穏と奇妙が入り混じった空気が漂ってます。各楽器が競い合うように前のめりに疾走し、ボーカルは絶叫する、テンション高い演奏が展開。

 2曲目「Pattern Against User」は、糸を引くように粘っこいギターのフレーズと、鋭く刻まれるベースとドラムのリズムが重なる、疾走感あふれる1曲。

 3曲目「One Armed Scissor」では、タテがぴったり揃った塊になったパートと、各楽器が絡み合うパートが交互に訪れる、メリハリのきいたアンサンブルが展開。絶叫するボーカルも相まって、すさまじい疾走感を生んでいます。

 4曲目「Sleepwalk Capsules」では、地中にたまったマグマが噴き出すように、前のめりに音が飛んでいきます。マシンガンのように高速ではじき出されるボーカルの声も、緊張感と疾走感を演出。

 5曲目「Invalid Litter Dept.」は、ギターの増殖するようなサウンドのイントロから始まる、妖艶な空気を持った1曲。サウンドの攻撃性は抑えられ、代わりに幾何学的なアンサンブルと、ギターの奇妙な音作りが前景化。

 6曲目「Mannequin Republic」は、ギターの甲高いフィードバックから始まり、パンキッシュに駆け抜ける曲。このバンドにしては、ビートが比較的シンプルですが、再生時間0:42あたりからの各楽器が絡み合うアレンジなど、ただ直線的に走るだけではありません。

 8曲目「Rolodex Propaganda」は、イントロから各楽器がねじれながら絡み合う、複雑なアンサンブルが展開。その後は複雑さの中から秩序が生まれ、正確無比に演奏を続けます。彼らのテクニックの高さが凝縮された楽曲。

 10曲目「Cosmonaut」は、坂道を転がるような、疾走感と煩雑さが同居した1曲。ボーカルも含めたバンドが塊となり、こちらへ迫ります。

 11曲目「Non-Zero Possibility」のイントロは、不気味な電子音が響くなか、ピアノが加わるミステリアスな雰囲気。ボーカルは情緒的にメロディーを綴り、ギターはわざと音をぶつけるようなフレーズを弾き、テンポと音量は抑えめながら、奇妙な空気が充満。このアルバムの世界観に則しています。

 インディーズで評判になったバンドがメジャーに進出し、魅力を損なうこともあります。しかし、このバンドに関しては前作からサウンドの変態性とダイナミズムが増し、純粋進化を遂げたと言えるでしょう。

 両作の差異をあえて挙げるなら、前作は鋭利なサウンドと、研ぎ澄まされたアンサンブル。本作は音圧を増した鈍器のようなサウンドと、複雑さを増したアンサンブル。

 どちらも、アグレッシヴなサウンドには変わりないのですが、微妙に質は異なります。作品としてのクオリティは甲乙つけがたく、あとは好みの問題でしょう。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





Asobi Seksu “Hush” / アソビ・セクス『ハッシュ』


Asobi Seksu “Hush”

アソビ・セクス 『ハッシュ』
発売: 2009年2月17日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの3rdアルバム。前作までのFriendly Fireに代わり、本作よりイリノイ州のインディー・レーベル、Polyvinylからのリリース。

 過去2作に比べると、ギターによる量感を重視したサウンドは控えめ。代わりにドラムのビートと、エレクトロニカを思わせる柔らかな電子音が、前景化したアルバムとなっています。

 ファルセットを多用した高音ボーカルと、ソフトなサウンド・プロダクションが相まって、幻想的な雰囲気も漂います。

 前作からリズム隊が、またもや交代。ベースのハジ(Haji)と、ドラムのブライアン・グリーン(Bryan Greene)に代わり、ドラムはグンナー・オルセン(Gunnar Olsen)が加入。ベースは、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が兼任しています。

 1曲目「Layers」は、クリスマスでもやってきたのかと思う鈴の音が、イントロから「シャンシャン」と響きわたり、その上に透明感のあるギター、神秘的なボーカルが重なっていきます。教会で響きわたる宗教音楽のようにも聞こえる荘厳な1曲。

 2曲目「Familiar Light」は、ぎこちなく前のめりにリズムを刻むドラムに覆い被さるように、柔らかな電子音やボーカルが重なっていく、厚みのあるサウンドを持った1曲。

 3曲目「Sing Tomorrow’s Praise」では、立体的かつパワフルに響くドラムに、電子的な持続音と、伸びやかなボーカルが重なります。圧倒的な量感で押し流す、という感じではないのですが、柔らかな電子音が四方八方から押しよせ、空間を埋めていきます。

 4曲目「Gliss」は、前曲に引き続き、低音のきいたドラムのビートと、ソフトな電子音が溶け合う1曲。奥で聞こえるアコースティック・ギターのコード・ストロークが、サウンドにさらなる厚みをもたらすアクセント。

 5曲目「Transparence」は、軽やかにバウンドするリズムを持った、疾走感のある1曲。各楽器の輪郭がつかみやすく、シューゲイザー色は薄め。その代わりに、さわやかなギターポップのような響きを持っています。

 8曲目「Meh No Mae」は、エフェクターが多用された複雑なサウンドから浮かび上がるように、浮遊感のあるウィスパー系ボーカルが、メロディーを紡いでいきます。ボーカルはバックのサウンドと溶け合い、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 10曲目「I Can’t See」では、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、透明感のあるエレキ・ギターと電子音と共に、ソフトで穏やかなサウンドを作り上げていきます。全体的にはソフトなサウンド・プロダクションですが、ドラムの音量は大きめ。音響を重視したアプローチでありながら、ドラムが躍動感を加えるアクセントになっています。

 11曲目「Me & Mary」は、このアルバムの中では珍しく、各楽器の輪郭がくっきりとし、ビートもノリが良いコンパクトなロック。轟音ギターも唸りをあげます。

 12曲目「Blind Little Rain」は、男女混声のコーラスワークと、空間系エフェクターを駆使したバックのサウンドが溶け合う、幻想的で穏やかな1曲。

 前述のとおり、これまでの作品に比べると、激しく歪んだギターは控えめ。代わりに柔らかな電子音が前に出て、より幻想的な雰囲気を持ったアルバムになっています。

 ただ、ギターは控えめなのですが、ドラムの音量は大きく、ビートは強め。これまでの作品とは、違った立体感を持っています。

 音が空気を埋めつくす感覚はシューゲイザー的と言えますが、より音響系ポストロックあるいはエレクトロニカ色が濃いサウンド・プロダクションの1作です。

 





Asobi Seksu “Citrus” / アソビ・セクス『シトラス』


Asobi Seksu “Citrus”

アソビ・セクス 『シトラス』
発売: 2006年5月30日
レーベル: Friendly Fire (フレンドリー・ファイア)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの2ndアルバム。前作『Asobi Seksu』に引き続き、ブルックリンのインディーズ・レーベル、Friendly Fireからのリリース。

 音楽性も前作の延長線上と言える、シューゲイザーともドリームポップとも呼べるもの。すなわち、量感のある轟音ギターと、ウィスパー系の幻想的なボーカルが、不可分に溶け合った音楽が展開しています。

 また、前作のアルバム・ツアー後に、ベースのグレン・ウォルドマン(Glenn Waldman)と、ドラムのキース・ホプキン(Keith Hopkin)が脱退。今作では、ベースはハジ(Haji)、ドラムはブライアン・グリーン(Bryan Greene)が、その穴を埋めています。

 1曲目「Everything Is On」は、20秒弱のイントロダクション的役割のトラック。電子音を逆再生したような、アンビエントなサウンドが響きます。

 2曲目「Strawberries」が、実質アルバムの1曲目。軽快なギターのイントロに続き、リズム隊がハッキリとリズムを刻んでいきます。各楽器とも手数は少なく、リズムも比較的シンプルですが、バンドが一体の生き物のように有機的に組み合い、アンサンブルを作り上げていきます。

 3曲目「New Years」は、前のめりに疾走していく、パンキッシュな1曲。荒々しいアンサンブルと比例して、サウンド・プロダクションもノイジー。そのなかで、ささやき系のボーカルが浮かび上がります。

 4曲目「Thursday」は、4つ打ちを基本としたリズムの上に、音がレイヤー上に重なっていく1曲。音が増えたり減ったり、ビートが強くなったり、基本の4つ打ちを守りながら、メリハリのきいた展開。

 5曲目「Strings」は、ベースが中心となった隙間の多いアンサンブルの部分と、ビートの強い部分とのコントラストが、あざやかな1曲。

 6曲目「Pink Cloud Tracing Paper」は、イントロからノイズ的なサウンドが鳴り響く、アヴァンギャルドなポップ・ソング。

 7曲目「Red Sea」は、浮遊感と重層感が両立した、シューゲイザーらしい1曲。厚みのあるサウンドの中を漂うように、心地よいファルセットのボーカルがメロディーを紡ぎます。

 8曲目「Goodbye」は、押し寄せるドラムから始まる、ビートのハッキリしたロック・チューン。アンサンブルはシンプルかつコンパクトで、このバンドにしてはドラムの音量が大きく、ノリやすい演奏。

 9曲目「Lions And Tigers」は、ギターのフィードバックから始まり、段階的に楽器と音数が増加。大音量のギターが入るか、入らないかによって、巧みにコントラストを演出する1曲。

 10曲目「Nefi + Girly」は、唸りをあげるギターと、柔らかな電子音が溶け合う1曲。

 11曲目「Exotic Animal Paradise」は、おそらくシンセサイザーか打ち込みによるものだと思いますが、ストリングスのサウンドから始まる曲。その後もゆったりしたリズムに乗せて、柔らかなサウンドが空気を満たす、音響的なアプローチ。再生時間2:40あたりからは、分厚いギター・サウンドが押しよせます。

 12曲目「Mizu Asobi」は、激しく歪んだギターと、コンパクトなリズム隊、柔らかなキーボードの音色が溶け合い、リズムとサウンドの両面でメリハリのある1曲。

 アルバム全体をとおして、ところどころでメロディーが演奏に飲み込まれる、あるいは一体となります。メインの歌のメロディーよりも、サウンドが前景化する点は、圧倒的な量感のサウンドが押しよせる、シューゲイザーらしいアプローチと言えるでしょう。

 ただ、曲によってはビートが強かったり、アンサンブルを重視していたりと、音響のみが前に出ているわけではなく、オルタナティヴ・ロック的なアプローチも、随所で聞こえます。

 2018年12月現在、Amazon、Apple、Spotifyの各種サブスクリプション・サービスでの配信、およびデジタルでの販売はされていないようです。

ディスクレビュー一覧へ移動





Asobi Seksu “アソビ・セクス” / Asobi Seksu『アソビ・セクス』


Asobi Seksu “アソビ・セクス”

Asobi Seksu 『アソビ・セクス』
発売: 2004年5月18日
レーベル: Friendly Fire (フレンドリー・ファイア)
プロデュース: Will Quinnell (ウィル・クィネル)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスのデビュー・アルバム。2002年にセルフリリースされた後、2004年にブルックリンのインディーズ・レーベル、Friendly Fireよりリリースされています。

 バンドの始まりは2001年。ボーカルとキーボードを担当するユキ・チクダテ(Yuki Chikudate)と、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が出会います。その後、ベースのグレン・ウォルドマン(Glenn Waldman)と、ドラムのキース・ホプキン(Keith Hopkin)を加え、4人編成へ。

 当時はアソビ・セクスではなく、スポートファック(Sportfuck)と名乗り、同バンド名義でEPを自主制作。その後アソビ・セクスに改名し、本作をリリースしています。ちなみにバンド名の由来は「play sex」を日本語にしたそうで…。

 ユキ・チクダテは、日本生まれの日本人。4歳のとき家族と共に、南カリフォルニアへ移住し、その後16歳のときに単独でニューヨークへ引っ越しています。

 シューゲイザーあるいはドリーム・ポップに分類されることの多いアソビ・セクス。彼らの奏でる音楽は、すべてを押し流すような分厚いサウンドと、浮遊感のあるボーカルが溶け合い、確かにどちらのジャンルとも言える質を備えています。

 また、前述のとおりボーカルのユキ・チクダテは日本出身。そのため、一部の楽曲は歌詞が日本語で綴られ、日本語ネイティヴの者にとっては親しみやすいでしょう。

 1曲目の「I’m Happy But You Don’t Like Me」では、早速歌詞が日本語で綴られています。トイピアノを思わせるチープでキュートなイントロから始まり、シンプルかつコンパクトな8ビート、さらには押しよせる轟音ギターへと展開する、振れ幅の大きな1曲。

 2曲目「Sooner」は、はずむようなドラムと電子音によるイントロに続き、エフェクターの深くかかったギターサウンドが押し寄せる、マイブラ色の濃いシューゲイザー。厚みのあるギターと溶け合いながら、ささやき系のボーカルが、流れるようなメロディーを紡いでいきます。ボーカルのメロディーと、ギターを中心としたバンド・サウンドが不可分に溶け合い、音楽と一体となるような心地よさがあります。

 3曲目「Umi De No Jisatsu」は、タイトルのとおり、1曲目に続いて日本語詞。ねじれたバネが飛び跳ねるようなギターのイントロに続いて、躍動的なアンサンブルが展開します。イントロ以外も、再生時間0:44あたりからの伸縮するようなサウンドなど、ギターの音作りとフレーズが個性的。

 4曲目「Walk On The Moon」は、ボーカルとバンドサウンドが対等、あるいはバンドの方が前景化したここまでの3曲に比べると、ボーカルのメロディーが前に出た1曲。ボーカリゼーションも、ささやき系ではなく、伸びやかな声を響かせています。

 6曲目「Taiyo」は、またまた日本語詞。タイトルは日本語の「太陽」です。ボーカルもアンサンブルも軽やかで、フレンチポップのような趣があります。

 7曲目「It’s Too Late」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、波紋が広がるように音楽が空間を満たしていく1曲。ギターには空間系のエフェクターがかけられ、ボーカルはファルセットを用いた高音ながら、耳に刺さらない心地よさ。前半は透明感のあるサウンド・プロダクションですが、再生時間3:15あたりから折り重なるようにギターが入ってくると、音の壁と呼びたくなる厚みのあるサウンドが立ち上がります。

 8曲目「End At The Beginning」は、やや遅めのテンポに乗せて、だらっとしたアンサンブルが展開。足を引きずるように、すべての楽器が遅れて聞こえる、タメをたっぷりと取った演奏です。音数が少なく、ローファイ感の漂う前半から、徐々にギターが音に厚みを加えていきます。だらっとしたアンサンブルの中で、隙間を縫うように動きまわるベースラインも印象的。

 9曲目「Asobi Masho」は、イントロからギターがノイジーに唸りをあげる、アヴァンギャルドな1曲。音作りはアルバム中でもトップクラスに実験的なのに、同時に脳天気なほどのポップさも共存。「遊びましょ」というフレーズが、耳から離れなくなります。

 アルバムの最後に収録される11曲目「Before We Fall」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされています。さらにユキ・チクダテではなく、ジェームス・ハンナがメイン・ボーカルを務め、その点でも他の曲とは異なる聴感。最後まで轟音ギターが押しよせることもなく、歌が中心に据えられた穏やかな1曲。

 ノイジーなギターも多用されていますが、ファルセットを駆使したボーカルは幻想的。先述したとおり、シューゲイザーとも、ドリームポップとも言えるサウンドを持った1作です。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes” / TV オン・ザ・レディオ『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』


TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes”

TV オン・ザ・レディオ 『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』
発売: 2004年3月9日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Chris Moore (クリス・ムーア), Paul Mahajan (ポール・マハジャン)

 ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するバンド、TV オン・ザ・レディオの1stアルバム。

 北米ではタッチ・アンド・ゴー、ヨーロッパでは4ADと、それぞれ英米の名門インディー・レーベルよりリリース。

 バンドが結成されたのは2001年。当時は、ボーカルを務めるトゥンデ・アデビンペ(Tunde Adebimpe)と、ギターやサンプラーなど複数の楽器を操るデイヴィッド・シーテック(David Sitek)からなる2人組。

 2002年には、このデュオ編成で『OK Calculator』を自主制作でリリースしています。2003年にはギターのカイプ・マローン(Kyp Malone)をメンバーに迎え、3人編成へ。2004年にリリースされた本作が、レーベルを通してリリースされる初アルバムとなります。

 前述の『OK Calculator』というアルバム・タイトル。ピンとくる方も多いと思いますが、90年代後半からのロックを牽引するバンド、レディオヘッド(Radiohead)のアルバム『OK Computer』を意識したタイトルです。

 しかし、音楽的には必ずしもレディオヘッドに近いわけではありません。レディオヘッドの音楽に近いというより、バンドのフォーマットで実現できる音楽の限界へと挑む、その姿勢を参考にしているのでしょう。

 トライバルなリズムや、電子的なサウンドなどをバンドのフォーマットに落としこみ、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げています。

 個人的には、こういう手の届く範囲でクリエイティヴィティを爆発させたバンド・サウンドが大好きです。

 1曲目「The Wrong Way」ではイントロからサックスが用いられ、フリージャズのような雰囲気から始まります。野太くリズムを刻むベース、シンプルながらポリリズミックなドラムが加わり、グルーヴ感と実験性が共存する音楽が展開。多様なジャンルの要素を、バンドのフォーマットに落としこむセンスは、ブラック・ミュージック版のレディオヘッドと呼びたくもなります。

 2曲目「Staring At The Sun」は、幻想的なコーラスワークが印象的な、ハーモニーが前景化した1曲。ですが、厚みのあるハーモニーの奥からは、リズム隊の強靭なビートが響き、立体的なアンサンブルを構成していきます。

 3曲目「Dreams」では、イントロから心臓が鼓動を打つようにドラムがリズムを刻みます。手数は少ないものの効果的にグルーヴを下支えするリズムを構成。

 5曲目「Ambulance」は、バックでかすかに聞こえるフィールドレコーディングと思しきサウンド以外は、声のみで構成される1曲。立体的で凝ったアンサンブルが作り上げられますが、ベース部分を担う「ドゥンドゥンドゥン…」というフレーズなど、コミカルな雰囲気も併せ持っています。

 6曲目「Poppy」は、電子的なサウンドのリズム隊の上に、厚みのあるギターサウンドが重なる1曲。最初は淡々と刻まれていたビートが、徐々に立体的に発展。ギターの分厚いサウンドに、さらにリズム面での立体感が加わります。前曲に続き、再生時間2:30あたりからは声のみのアンサンブルが挟まれ、コントラストも演出しています。

 8曲目「Bomb Yourself」は、地を這うようなベースラインに、他の楽器が絡み合うようにアンサンブルが展開。断片的なフレーズのように聞こえていた各楽器が重なり、いつの間にかグルーヴ感にあふれた演奏へと発展しています。アヴァンギャルドなギターの音作りとフレーズも、アクセントとして楽曲を彩っています。

 9曲目「Wear You Out」では、イントロから鳴り響くトライバルなドラムのリズムに、ボーカルの流麗なメロディーが重なります。音数が少なく、ミニマルな前半から、サックスや電子音が加わり、多様な音が行き交うカラフルな後半へと展開。リズムとメロディーの両者が、じわじわとリスナーの耳をつかんでいく1曲です。

 10曲目「You Could Be Love」。この曲はレコードおよびデジタル版のみに収録。ですが、ボーナス・トラック扱いにしておくには、もったいないぐらいの良曲です。適度に揺らぎのある、立体的なバンドのアンサンブル。徐々に躍動感を増していく展開。ブラック・ミュージックが持つ粘っこいグルーヴ感が、コンパクトなバンドのフォーマットに収められ、インディー・ロックとニューソウルの融合とでも言いたくなる1曲です。

 ちなみにデジタル版には、さらにボーナス・トラックとして11曲目に「Staring At The Sun」のデモ・バージョンを収録。

 デイヴィッド・シーテック以外は、アフリカにルーツを持つメンバーが集ったTVオン・ザ・レディオ。白人男性が多いUSインディーロック界において、それだけでも異彩を放つ存在です。(人口比率から考えて、当然な部分もありますが…)

 もちろん、ただアフリカ系アメリカ人がやっているバンドだという話題性だけでなく、音楽自体もブラック・ミュージックからの影響が、コンパクトにロック・バンドのフォーマットに落とし込まれていて個性的。

 本作でも、ヒップホップやジャズの要素が、あくまでギター、ベース、ドラムを中心としたバンドのかたちに収められ、ファンキーなグルーヴ感と、ロック的なダイナミズムが共存しています。

 もっとカジュアルに説明すると、肉体的な演奏と、音楽を組み立てるクールな知性が、両立しているとでも言ったらいいでしょうか。天然でゴリゴリにグルーブしている部分と、音楽オタクが巧みに組み上げた緻密さが、ともに音楽から溢れ出ています。

 先にレディオヘッドを引き合いに出しましたが、現代音楽やプログレッシヴ・ロックの要素を5人組のバンドの枠組みに落としこむレディオヘッドと同じく、TVオン・ザ・レディオも各種ブラック・ミュージックの要素を、バンド・フォーマットに落としこんでいる、とも言えるでしょう。

 「アート・ロック(art rock)」とも称される彼らの音楽。まさに「アート」の名に恥じない、知性と情熱を備えたバンドです。

ディスクレビュー一覧へ移動