Chicago Underground Duo “Age Of Energy”
シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『エイジ・オブ・エナジー』
発売: 2012年3月13日
レーベル: Northern Spy (ノーザン・スパイ)
コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)からなる実験的なジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの通算6枚目のスタジオ・アルバム。
前作までの5枚のアルバムは、全てシカゴのスリル・ジョッキー(Thrill Jockey)からのリリースでしたが、本作からはフリージャズやエクスペリメンタル系の音楽を扱うニューヨーク拠点のレーベル、ノーザン・スパイへとレーベルを移籍しています。
トータスとその周辺のバンドが所属し、ポストロックのイメージが強いスリル・ジョッキー。シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの音楽の特徴は、単純化してしまうとジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な手法で再構築するところにあるので、スリル・ジョッキーらしい音楽性を持ったグループと言えるでしょう。
レーベルの移籍が音楽性に直接の影響を与えるわけではありませんが、前述したとおり本作からはノーザン・スパイへと移籍。音楽的には、これまでのシカゴ・アンダーグラウンド・デュオを引き継いでいます。強いて相違点を挙げるなら、電子音がやや前面に出てきて、エレクトロニカ色が強まったところ。
1曲目「Winds And Sweeping Pines」は、19分を超える長尺の曲。イントロからコルネットとドラムではなく、電子音が鳴り響き、前半はおよそジャズとは思われない、アンビエントで電子音楽色の濃いサウンドになっています。再生時間5分過ぎあたりからドラムが入ってくると、リズムが立体的に。その後は、音響が前景化したエレクトロニカ的なアプローチと、ジャズの即興性が溶け合った音楽が展開していきます。
2曲目「It’s Alright」も、1曲目に続いて10分を超える曲。イントロから、電子的な持続音が全体を埋め尽くし、その中からエフェクト処理された声が響きます。全編を通して、音響系ポストロックかエレクトロニカとしか呼べない音楽が展開。
3曲目「Castle In Your Heart」では、カリンバのような音色の隙間を、コルネットのフレーズが縫うように進み、ここまでの2曲と比較すると、生楽器のナチュラルな響きを持った1曲です。クレジットを確認すると、カリンバのように聞こえるのは、ジンバブエに住むショナ族の民族楽器、ムビラ(Mbira)だそうです。調べてみると、カリンバもムビラも共にサムピアノ(親指ピアノ)と呼ばれる楽器で、地域によって名称が異なるとのこと。
4曲目「Age Of Energy」は、ノイズのようにも聞こえる電子音と、立体的なドラムが重なり、アヴァンギャルドかつ躍動的な音楽が展開する1曲。中盤以降は、マイクを通してエフェクト処理されたと思しきコルネットも加わり、ますます実験的でカラフルなサウンドへ。電子ノイズと生楽器、ポストロックの音響的アプローチとジャズの肉体性が融合し、ジャンルレスで躍動感に溢れた演奏が繰り広げられます。これは本当にかっこいい。
アルバム前半は、ビート感に乏しく、音響を重視したエレクトロニカ色の濃い印象ですが、後半になると肉体性と電子音がブレンドされ、いきいきとした躍動感とアヴァンギャルドなサウンドが両立した、スリリングな音楽が展開されます。
特にアルバム表題曲でもある4曲目の「Age Of Energy」は、実験性とジャズのエキサイトメントが高次元で溶け合った、めっちゃくちゃかっこいい1曲。1曲目から聴き始めて「ちょっとこれは…」と思った方には、まず4曲目の「Age Of Energy」を聴いていただきたいです。
ちなみにCD版およびLP版では全4曲収録ですが、デジタル配信版ではボーナス・トラックとして「Moon Debris」が追加され、全5曲収録となっています。