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Don Caballero “American Don” / ドン・キャバレロ『アメリカン・ドン』


Don Caballero “American Don”

ドン・キャバレロ 『アメリカン・ドン』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの4枚目のスタジオ・アルバムです。レコーディング・エンジニアは、1stアルバム『For Respect』以来となる、スティーヴ・アルビニが担当。このアルバムを最後に、ドン・キャバレロは一旦解散してしまいます。

 また、本作『American Don』と、前作『What Burns Never Returns』の間には、7インチのシングル盤を集めたコンピレーション盤『Singles Breaking Up (Vol. 1)』が発売されています。

 ドン・キャバレロの代表作と紹介されることの多いアルバムが、本作『American Don』です。個人的にも、彼らのアルバムのなかで一番好き…どころか、全てのバンドの全てのアルバムのなかでも、上位に入るぐらい大好きな作品です。

 ギターのサウンドは激しい轟音から、空間系のクリーントーンまで多種多様で、全体のサウンド・プロダクションは、彼らのアルバムの中でも最もカラフルに仕上がっています。収録されている楽曲のバラエティも豊かで、アンサンブルも緻密。非の打ち所がない作品だと思います。

 1曲目「Fire Back About Your New Baby’s Sex」から、各楽器が折り重なるように、躍動感あふれるアンサンブルを構成していきます。ベースのメタリックで硬いサウンド、はためくようなギターの音とフレーズなど、音楽の素材ひとつひとつにも、強いこだわりが感じられます。

 再生時間0:45あたりからドラムが躍動感を増すところ、0:58あたりで全体のリズムが一変するところなど、展開がめまぐるしく、5分弱の1曲とは思えないほど、聴くべき情報量の多い1曲です。

 2曲目「The Peter Criss Jazz」は、アンビエントな空気も漂う、透明感のあるイントロから、徐々にリズムと音が増え、複雑に絡み合っていく1曲。

4曲目「You Drink A Lot Of Coffee For A Teenager」は、何拍子かつかみにくい複雑なリズムを、切り刻むように叩くドラムが鮮烈な印象を与えます。

 8曲目「A Lot Of People Tell Me I Have A Fake British Accent」は、トライバルな雰囲気漂うドラムに、ミニマルで幾何学的なギターのフレーズが絡み、緻密なアンサンブルを構成していく1曲です。

 サウンド・プロダクションの面でも、アンサンブルの面でも、彼らの最高傑作と言っていい、すばらしい作品だと思います。「マスロック」という言葉ではくくれないほど、多種多様な音楽の要素を感じさせる1作です。収録楽曲の内容も、実に多彩。

 前述したとおり、個人的にもドン・キャバレロのアルバムのなかで一番のお気に入り。本当に名盤だと思います。

 





Don Caballero “What Burns Never Returns” / ドン・キャバレロ『ワット・バーンズ・ネヴァー・リターンズ』


Don Caballero “What Burns Never Returns”

ドン・キャバレロ 『ワット・バーンズ・ネヴァー・リターンズ』
発売: 1998年6月9日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの3rdアルバム。プロデューサーは前作に引き続き、アル・サットンが担当。

 過激なまでにハードなサウンドと緻密なアンサンブルが聴き手を圧倒した1st『For Respect』、ラウドなサウンドはやや抑え目によりアンサンブルを磨き上げた2nd『Don Caballero 2』。その2作に続く、3作目が本作『What Burns Never Returns』です。

 前作『Don Caballero 2』は、すべてを押し流すように轟音ギターを用いるのではなく、適材適所で効果的に用いられていたのですが、本作ではさらにサウンドの選び方、アンサンブルの精度の向上を感じます。

 1曲目の「Don Caballero 3」では、イントロから全ての楽器がシンプルで、無駄を省いたようなサウンド。その生々しいサウンドを用いて、手数多く、タイトなアンサンブルを築き上げていきます。ヴァース-コーラス形式のような進行感のある楽曲ではありませんが、再生時間2:06あたりからのドラムがシフトを切り替えるように、一瞬で景色が変わる展開など、次になにが起こるかわからない緊張感と期待感の続く1曲です。

 2曲目の「In The Abscence Of Strong Evidence To The Contrary, One May Step Outof The Way Of The Charging Bull」(タイトル長いですね…)は、細かく刻まれたギターのフレーズから始まり、粒のような細かい音が、結集して音楽を作り上げるような1曲。いわゆるグルーヴ感というのとは違う、不思議なトリップ感があります。

 5曲目「Room Temperature Suite」は、イントロのドラム、そこに折り重なってくるギターと、各楽器のリズムが複雑にかみ合っていく1曲。設計図を見てみたい複雑なアンサンブルですが、こちらに伝わる聴感は極めてポップです。

 前作同様、圧倒的な轟音ギターと変拍子で押しまくるのではなく、アンサンブルをさらに極めた1作であると思います。前作以上に、各楽器のサウンドは耳なじみが良く、ポップで聴きやすいサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 しかし、複雑で変態的なアンサンブルは、もちろん健在。非常にテクニカルで、技巧的には難しいことをやっていると思うのですが、それを感じさせず、さらりと聴かせてします作品です。

 





Don Caballero “Don Caballero 2” / ドン・キャバレロ『ドン・キャバレロ2』


Don Caballero “Don Caballero 2”

ドン・キャバレロ 『ドン・キャバレロ2』
発売: 1995年9月15日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの2ndアルバムです。プロデューサーが前作のスティーヴ・アルビニから、アル・サットンに交代しています。

 暴力的なまでにハードなサウンドで、変態的かつ緻密なアンサンブルを作り上げたデビュー作『For Respect』に続く2作目。本作では、ハードなサウンドはやや抑え目に、複雑怪奇なアンサンブルを構成しています。

 しかし、ただおとなしくなったというわけではなく、音量のみに頼るのではなく、リズムとコントラストによって、緊張感や迫力を演出した1作です。

 1曲目「Stupid Puma」では、イントロからシンプルなギターの音色が響き、ハードな轟音で押し切った前作との、明らかな違いを予感させます。ただ、緻密で複雑怪奇なアンサンブルは健在。この曲も各楽器が複雑に絡み合い、いわゆるロック的なグルーヴ感とは違う、瞑想的な雰囲気を生み出していきます。

 2曲目「Please Tokio, Please This Is Tokio」は、こちらもイントロから、ギターの音が軽く歪んだクランチ的なサウンド。各楽器が絡まるような、バラバラにくずれ落ちるような、緊張感のあるバランスで進行していく1曲です。

 4曲目「Repeat Defender」は、クランチ気味のギターと、手数の多いドラム、その隙間を埋めるようにベースが躍動するイントロから、時空を切り裂くように耳障りなギターが乱入してくる展開。10分を超える曲ですが、展開が目まぐるしく飽きさせません。

 6曲目「Cold Knees (In April)」は、イントロから不穏な空気が漂う1曲。複雑なリズムと、絡み合うようなアンサンブルに耳が向かいがちですが、ハーモニーとフレーズの音の運びにおいても、相当に変わったことをしています。

 前述したとおり、前作に比べるとハードなサウンドは後退し、代わりにアンサンブルやヴォイシングで不穏な空気やスリルを演出したアルバムであると思います。ただ、前作で聴かれた攻撃的なディストーション・ギターは、本作でも随所に効果的に挿入されています。

 ひたすらアグレッシヴに押し寄せる前作と、アレンジと音量の両面でコントラストを作り出し、より緊張感を与える本作、といった感じの差違があります。

 個人的にドン・キャバレロは大好きなバンドで、本作も完成度の高いアルバムであるのは事実ですが、他の作品と比べると過渡期の1作といった印象で、1番にはすすめないかな、というのが正直なところ。

 もちろん僕の主観ですから、このアルバムが1番好きという方もいらっしゃるでしょうし、気になったらこのアルバムも、ぜひ聴いていただきたいです。

 





Don Caballero “For Respect” / ドン・キャバレロ『フォー・リスペクト』


Don Caballero “For Respect”

ドン・キャバレロ 『フォー・リスペクト』
発売: 1993年10月10日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1991年に結成されたペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの1stアルバムです。(当人たちは「マスロック」にカテゴライズされるのを好んでいないようですが…) のちにバトルスを結成する、イアン・ウィリアムスが在籍していたことでも知られます。

 本作『For Respect』は、レコーディング・エンジニアにスティーヴ・アルビニを迎え、シカゴの名門タッチ・アンド・ゴーよりリリース。この情報だけでも、期待が高まります。

 前述したとおり、マスロックに定義されることの多いバンドですが、本作でも変拍子を多用した、緻密で複雑なアンサンブルが、硬くヘヴィーなサウンドで繰り広げられます。

 1曲目の「For Respect」は、イントロから、音のストップ・アンド・ゴーがはっきりした、メリハリのきいた演奏。再生時間0:07あたりで、バンドはピタリと止まるなか、ドラムだけはみ出すところなど、コントラストの演出も巧み。

 非常に硬質で、ハードロック的なサウンドの1曲目。アンサンブルは緻密でストイックですが、随所に遊び心も感じられる1曲です。例えば、1:15あたりからのバンドがブレイクを繰り返すところで、ドラムだけ「だるまさんがころんだ」で動いてしまうようなアレンジだとか、同じ部分1:27あたりのコントで使用されそうなとぼけた効果音の挿入など、シリアスになりすぎず、カラフルな印象を楽曲に加えています。

 2曲目「Chief Sitting Duck」は、前のめりに暴走するようなドラム、堅くハリのあるサウンドのベース、制御できずに暴発するようなギターが絡み合う1曲。冒頭から、ロックのラフな魅力と、緻密なアンサンブルが高次元で融合しています。

 5曲目「Rocco」は、上から叩きつけるような手数の多いドラムと、サウンドと音数の両面で押し寄せるようなギターが、聴き手に迫ってくる1曲。アルバムを通してですが、サウンドにも臨場感があります。

 8曲目「Our Caballero」は、ハードなサウンド、複雑なリズムで各楽器が絡み合う、マスロックかくあるべし!な1曲。再生時間1:32あたりからの、段階的に波が押し寄せるようなアレンジも迫力満点。

 1stアルバムですが、すでに音楽性とアンサンブルの精度は、かなりの完成度に達しています。その後のアルバム群に比べると、サウンドも展開もやり過ぎと思うぐらい、ハードでエッジが立ったアルバムだと思います。

 この後、さらに音楽性を広げていく彼らですが、デビュー作である本作も十分おすすめできるアルバムです!

 





The Jesus Lizard “Down” / ジーザス・リザード『ダウン』


The Jesus Lizard “Down”

ジーザス・リザード 『ダウン』
発売: 1994年8月26日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州オースティン出身のバンド、ジーザス・リザードの4枚目のスタジオ・アルバム。本作を最後に、ジーザス・リザードはTouch And Goを離れ、メジャーのキャピトル・レコード(Capitol Records)へ移籍します。

 同時に、1stアルバムから本作までレコーディング・エンジニアを務めてきた、スティーヴ・アルビニとの関係も終了。本作がアルビニ録音による、ジーザス・リザード最後のアルバムでもあります。

 メジャーに移籍してからの作品も悪くはないのですが、やはり彼らの魅力はTouch And Goからリリースされた作品の方に、より色濃く出ていると思います。本作『Down』も、無駄を削ぎ落とした生々しいサウンドと、タイトで変態的なアンサンブルが、存分に堪能できる名盤です。

 ジャンクで下品なサウンドやアレンジが散りばめられるところも、彼らの魅力のひとつですが、本作では各楽器のサウンドはソリッドな響きを優先し、代わりに技巧をこらしたアンサンブルを前景化している印象を受けます。

 1曲目の「Fly On The Wall」から、全ての楽器がドライで、生々しい音像をともなって響きます。ミドル・テンポにのせて、各楽器が尾を引くようにタメをたっぷりとった演奏を展開する1曲。

 2曲目の「Mistletoe」は、各楽器が絡み合い、足がもつれつつも駆け抜けていくような、複雑なアンサンブル。サウンドも立体的で、音が四方八方から飛んできます。加速しそうで、させてくれない絶妙のバランス。再生時間1:12あたりからの金属的なサウンドのギターも、良いアクセントになっています。

 5曲目「The Associate」は、はずむように叩きつけるドラムのフェード・インから、曲がスタート。トライバルな雰囲気を醸し出すドラム、硬質なサウンドのベース、ジグザグに音を移動するようなギターと、無国籍でジャンル不明なアンサンブルを編み上げていきます。ジャズからの影響も感じさせる1曲。

 7曲目の「Low Rider」は、メトロノームのように正確でタイトなドラムと、空気まで揺らすようなベースのビブラート。その上にギターがのる、ほぼインストの曲。

 9曲目の「American BB」は、歯車がキッカリかみ合った機械のように緻密なアンサンブル。でありながら、随所に意図的にラフな要素が散りばめられ、さながら壊れかけの機械のような1曲。ジャンクな雰囲気と、緻密なアンサンブルが共存するジーザス・リザードらしい曲と言えます。2分20秒弱しかない曲ですが、非常に濃密。

 前述したように、Touch And Goでの、そしてアルビニがプロデュースする最後の作品です。各楽器の音質は、ここまで4作の中でも最も飾り気が少なく、全体のサウンド・プロダクションも殺伐とした雰囲気すら感じるほどにタイト。

 そんな贅肉を極限まで絞り込むようなストイックなサウンドで、複雑怪奇なアンサンブルが展開される本作は、間違いなく名盤。これも前述しましたが、Capitolに移籍してからの2枚のアルバムも悪くはないですが、本当に魅力が半減…いや、それ以下です。…と、自分で書いてから聴き直してみましたが、Capitolの2枚も意外と良いかも(笑)

 ジーザス・リザードを聴くなら、Touch And Go在籍時の作品を選ぶようにしましょう!