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The Skygreen Leopards “Gorgeous Johnny” / ザ・スカイグリーン・レパーズ『ゴージャス・ジョニー』


The Skygreen Leopards “Gorgeous Johnny”

ザ・スカイグリーン・レパーズ 『ゴージャス・ジョニー』
発売: 2009年7月21日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身、グレン・ドナルドソン(Glenn Donaldson)とドノヴァン・クイン(Donovan Quinn)からなる2ピース・フォーク・バンド、ザ・スカイグリーン・レパーズの2009年発売のアルバム。

 2001年に結成され、セルフリリースのCD-Rでも何作かアルバムをリリースしているので、本作を何枚目のアルバムとカウントすべきなのか、正確にはわかりません。すいません。

 前作『Disciples Of California』では、数名のゲスト・ミュージシャンを迎えてレコーディングしていましたが、本作でもペーパーカッツ(Papercuts)名義でも活動するジェイソン・クイヴァー(Jason Quever)が、前作から引き続いて参加。ドラムのジャスミン・ウォン(Jasmyn Wong)も、2曲で参加しています。

 このバンドはジャケットにドクロを用いることが多いんですけど、牧歌的なカントリーロード上にドクロが置かれた前作に引き続き、今作もカラフルな建物の窓からドクロが覗くデザインになっています。

 カントリーやフォークを基本にしながら、オルタナティヴなサウンドとアレンジを隠し味に、ほのかにサイケデリックな空気を醸し出す彼らの音楽性に、ぴったり一致したデザインだと思います。

 1曲目の「Johnny’s Theme」は、ボーカルの入らないイントロダクション的な楽曲ですが、イントロからギターが絡み合い、それを包み込むようにオルガンがアンサンブルが構成。オルガンの音色が、60年代から70年代のサイケデリアを思わせるサウンドを持った1曲です。

 2曲目「Margery」も、オルガンとアコースティック・ギターを中心に、オーガニックなサウンドを持った1曲。ですが、アコーディオンのような豊かな倍音を含んだオルガンが、サイケデリックな雰囲気をプラスし、楽曲に奥行きを与えています。

 8曲目「Gorgeous Johnny」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、緩やかなグルーヴ感のあるアンサンブルが展開される1曲。ギターもドラムもたっぷりタメを作って、糸を引くようにリズムを刻むため、穏やかなカントリー調の曲のなかに、酩酊的な空気が同居します。

 フォークとカントリーが根底にはありますが、エレキ・ギターとオルガンが効果的に用いられ、現代的なサウンドに仕上がっているアルバム。前述したとおり、サウンドとアレンジからは随所にサイケデリックな空気も漂います。

 前作から比較すると、アコギよりもエレキとオルガンの比率が高まり、カントリー要素よりも、現代的な色が濃く出たアルバムでもあります。

 





The Skygreen Leopards “Disciples Of California” / ザ・スカイグリーン・レパーズ『ディサイプルス・オブ・カリフォルニア』


The Skygreen Leopards “Disciples Of California”

ザ・スカイグリーン・レパーズ 『ディサイプルス・オブ・カリフォルニア』
発売: 2006年10月24日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 2001年にカリフォルニア州サンフランシスコで結成された、グレン・ドナルドソン(Glenn Donaldson)とドノヴァン・クイン(Donovan Quinn)からなる2ピース・バンド、ザ・スカイグリーン・レパーズの2006年発売のアルバム。

 メンバー2人は、ジュエルド・アントラー・コレクティヴ(The Jewelled Antler Collective)というミュージシャン・グループの一員でもあります。

 本作には、ザ・スカイグリーン・レパーズと同じくサンフランシスコ出身のシェイディー・サーティン(Shayde Sartin)、ペーパーカッツ(Papercuts)ことジェイソン・クイヴァー(Jason Quever)らも参加。

 牧歌的なカントリーロードの先に置かれたドクロが、不釣り合いなようで、まわりに溶け込んでいるようにも見えるジャケット。この印象的なジャケットに対応するように、本作もサイケデリックな雰囲気を醸し出すフォーク、といった趣のアルバムです。

 たびたび、彼らと同じくカリフォルニア州出身のフォーク・ロック・バンド、ザ・バーズ(The Byrds)が引き合いに出されることがあるザ・スカイグリーン・レパーズ。確かに、フォークやカントリーを下敷きにしながら、ザ・バーズを思わせる揺れるようなサウンドを持っています。

 アルバム表題曲でもある、1曲目の「Disciples Of California」から、アコースティック・ギターのコード・ストロークを基本にしたカントリー色の濃い音楽が鳴らされています。しかし、アコギの音にも若干の濁りがあり、それを取り囲むエレキ・ギターとリズム隊も有機的にアンサンブルを構成。緩やかなグルーヴ感と、サイケデリックな空気を併せ持った1曲です。

 4曲目「Egyptian Circus」は、複数のギターが多層的に重なっていき、音のヴェールを生み出すようなサウンド・プロダクション。エフェクターに頼らず、幻想的な空気を演出しています。

 6曲目「William & The Sacred Hammer」は、トレモロのかかった震えるようなギター・サウンドが、ゆったりとしたテンポに乗って、牧歌的かつサイケデリックな雰囲気を醸し出す1曲。ドラムもタメをたっぷり作って、音が遅れて出てくるようにリズムを刻み、サイケデリックな空気をさらに盛り上げます。

 一聴するとカントリー色が強く、そこまでサイケデリアや実験性が前面に出ているわけではありませんが、穏やかなサウンドの中に、わずかに壊れた部分が隠されている、といった感じで、違和感がアクセントとして、音楽のフックになったアルバム。

 やり過ぎてないし、わざとらしくもないけど、静かに壊れてる、というバランス感覚が良いと思います。

 iTunes StoreおよびApple Musicでは、今のところデジタル配信はされていないようです。アメリカ国内では配信されているので、将来的には可能性がありそうですが。





Okkervil River “Down The River Of Golden Dreams” / オッカーヴィル・リヴァー『ダウン・ザ・リヴァー・オブ・ゴールデン・ドリームズ』


Okkervil River “Down The River Of Golden Dreams”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ダウン・ザ・リヴァー・オブ・ゴールデン・ドリームズ』
発売: 2003年9月2日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2ndアルバム。

 1stアルバム『Don’t Fall In Love With Everyone You See』に引き続き、フォーキーなサウンドを下敷きにしながら、現代的にコンパクトにまとまったインディーロックを聴かせる作品です。

 ルーツ・ミュージック色の強かった前作と比較して、2作目となる本作の方が、鍵盤やギターの使い方にアヴァンギャルドな要素が増え、インディーロック色がより濃く出た作品と言えます。

 1曲目「Down The River Of Golden Dreams」は、1分ちょっとのイントロダクション的な1曲で、浮遊感のあるピアノが幻想的な雰囲気を演出します。

 2曲目「It Ends With A Fall」は、ゆったりしたテンポの穏やかな曲ですが、オルガンの音色と使い方が、オルタナティヴな空気をプラス。

 5曲目「The War Criminal Rises And Speaks」は、ピアノを中心にした立体的な音像を持った1曲。手数は少ないながら、絶妙にタメを作ってリズムをキープするドラムも、アンサンブルに奥行きを与えています。

 6曲目「The Velocity Of Saul At The Time Of His Conversion」は、アコースティック・ギターのオーガニックな響きを中心に、多様な音が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。奥の方で鳴る電子音のようなサウンドが、カントリーにとどまらない現代的な空気を加えています。

 9曲目「Song About A Star」は、イントロのドラムの音を筆頭に、生楽器が臨場感あふれる音質でレコーディングされた1曲。多くの楽器が多層的に重なり、生き物のように心地よく躍動します。

 11曲目「Seas Too Far To Reach」は、ピアノを中心にしたミドル・テンポの1曲。イントロからしばらくはボーカルとピアノのみの、シンプルなピアノ・バラードのようなアレンジですが、再生時間0:35あたりで他の楽器が入ってくると、カントリー色の濃い緩やかなスウィング感のあるアンサンブルが展開されます。

 アコースティック・ギターを主軸にした楽曲が多く、前作に引き続きファーキーなサウンドを持ったアルバムではありますが、随所に挿入されるオルガンやストリングスが、ファークやカントリーの範疇だけにおさまらないモダンな空気を醸し出します。

 しかし、オルタナ・カントリーと言うほどオルタナ色が濃いわけでも、予定調和的にアヴァンギャルドなアレンジを加えているわけでもなく、ルーツへのリスペクトを示しながら、自分たちのセンスでまとめ上げた音楽であるという印象を持ちました。歌を大切にしているというところも、このバンドおよびアルバムの特徴であると言えるでしょう。

 本作は、現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。





Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See” / オッカーヴィル・リヴァー『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』


Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』
発売: 2002年1月22日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2002年に発売された1stアルバム。本作以前には、1998年から1999年にかけて、2枚のEPと1枚のシングルをリリースしています。

 フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)による、物語性の高い歌詞が特徴のひとつに挙げられるオッカーヴィル・リヴァー。本作でも、5曲目の「Westfall」は彼らの地元オースティンで起こった、連続殺人事件(Yogurt Shop Murders)から着想を得るなど、ストーリーテラーとしての才能をすでに示しています。

 音楽的には、フォークやカントリーを思わせるオーガニックなサウンドを基調に、4人のメンバー以外にも多数のサポート・ミュージシャンが参加。多種多様な楽器を用いた、非常に幅の広いサウンドを響かせています。オッカーヴィル・リヴァーが奏でるのが、ルーツ・ミュージックへのリスペクトと、バンドのオリジナリティが、分離することなく融合し、文学的な歌詞世界も相まって、重層的で奥深いポップ・ミュージックです。

 1曲目「Red」は、アコースティック・ギターを中心にしたカントリー風の牧歌的な曲。淡々と吟遊詩人のように言葉を紡ぐボーカルも、ゆるやかなテンポと楽曲の雰囲気にマッチしています。

 2曲目「Kansas City」は、こちらもカントリー風の穏やかな雰囲気の曲ですが、ハーモニカとストリングスが用いられ、柔らかで多層的なサウンドを作り上げます。後半はドラムを筆頭に、各楽器の音数が増え、ダイナミックなアンサンブルが展開。

 3曲目「Lady Liberty」では、2本のアコースティック・ギターによる厚みのあるコード・ストロークに、ホーンが重なり、生楽器によるオーガニックな音の壁を構成。小気味よくタイトにリズムを刻むドラムが、全体を引き締めています。

 4曲目「My Bad Days」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った、ミニマルでストイックなアンサンブルが展開される1曲。感情を抑えたように歌うボーカルと、1音の重みが相対的に増すアレンジは、スロウコアを彷彿とさせます。

 5曲目「Westfall」は、前述のとおりオースティンで起こった事件をあつかった曲。ウィル・シェフによる事件の回想に起因する歌詞とのことですが、アコースティック・ギターを中心に据えたスローテンポの曲に乗せて、犯人の視点から淡々と語られます。音楽的にはカントリー要素の方が色濃く出ていますが、語りの手法はブルースに近い1曲です。

 6曲目「Happy Hearts」には、ダニエル・ジョンストン(Daniel Dale Johnston)がゲスト・ボーカルとして参加。彼の穏やかで、どこかとぼけたボーカルに呼応するように、ドラムとアコースティック・ギターからもリラクシングな空気が漂い、途中から入ってくるキーボートと思しき電子音も、キュートでアヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 7曲目「Dead Dog Song」は、バンジョーが曲を先導するブルーグラス的な疾走感の溢れる1曲。

 8曲目「Listening To Otis Redding At Home During Christmas」は、アコースティック・ギターとボーカルの音数を絞った前半から、徐々に音数が増え、ストリングスも加わり、厚みのあるサウンドが立ち現れる後半へと展開する1曲。

 9曲目「Okkervil River Song」は、アコーディオンの倍音豊かな音色、バンジョーのハリのあるサウンドなどが溶け合い、立体的で躍動感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 全体として、牧歌的でカントリー色の濃いアルバムですが、意外性のあるアレンジや電子音が、随所に効果的に散りばめられ、現代的な雰囲気も併せ持っています。1stアルバムから、非常に高い完成度の作品。

 また、前述したとおり、ウィル・シェフの書く文学的な歌詞も、このバンドの魅力のひとつ。彼の詞は散文的なので、英語が苦手な方でも、単語の意味を確認しながら読めば、魅力を感じやすいのではないかと思います。

 現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。





Papa M “Whatever, Mortal” / パパ・M『ホワットエヴァー・モータル』


Papa M “Whatever, Mortal”

パパ・M 『ホワットエヴァー・モータル』
発売: 2001年11月5日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 スリント(Slint)やトータス(Tortoise)への参加でも知られる、ケンタッキー州ルイヴィル出身のギタリスト、デイヴィッド・パホ(David Pajo)がパパ・M名義でリリースする2作目のアルバム。

 パパ・M名義1作目となった前作『Live From A Shark Cage』は、パホが全ての楽器を担当したインスト作品でしたが、2作目となる今作には、ギターとバンジョーにタラ・ジェイン・オニール(Tara Jane O’neil)、ベースとピアノとギターにウィル・オールダム(Will Oldham)が参加した、歌モノのアルバムになっています。

 また、2人のサポート・メンバーを迎えながらも、引き続きパホ自身は、ギター、ベース、ピアノ、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)、キーボード、ハーモニカ、バンジョー、シタール、ドラム、パーカッションと、実に多種にわたる楽器を演奏。さらにレコーディング・エンジニアも自身が務めています。

 前作はアコースティックな音像を持ちつつも、ミニマルで音響を重視したアプローチが目立つポストロック色の濃い作品でしたが、本作はフォーク色がより濃く出た作品。しかし、ただフォークやカントリーのマナーをなぞるだけではなく、随所にポストなアレンジも散りばめられた1作です。

 1曲目「Over Jordan」は、ギターとバンジョーが流れるように絡み合うオーガニックなサウンドに、朴訥としたボーカルが乗る、ルーツ・ミュージックの香り立つ1曲。

 2曲目「Beloved Woman」には、スリントとザ・フォー・カーネーションでパホと活動を共にした、ドラマーのブリット・ウェルフォード(Britt Walford)が参加。ギターは激しく歪み、ドラムはタメを作って躍動感を生み出す、ロック色の濃い1曲になっています。

 3曲目「Roses In The Snow」は、ドラムと弦楽器、ボーカルがゆるやかに絡み合う、立体的なサウンドを持った1曲。

 5曲目「Krusty」は、会話をサンプリングした音と、みずみずしいアコースティック・ギターの音が溶け合う前半から、エレキ・ギターとドラムが入り、インストのポストロックのような演奏を繰り広げる後半へと展開する1曲。

 6曲目「The Lass Of Roch Royal」は、フィールド・レコーディングされた雨が降る音と、雨粒のように粒の立ったピアノとギターの音が溶け合う、メローな1曲。

 8曲目「Glad You’re Here With Me」は、穏やかなアコースティック・ギターとコーラスワークが絡み合う、フォーキーな1曲。間奏のエレキ・ギターとメロディカもアクセントにあり、オルタナティヴな空気を加えています。

 9曲目「Tamu」は、リズムが伸縮するように加速と減速を繰り返しながら、疾走していく1曲。倍音が多く、ねじれたような、ややチープでジャンクなサウンド・プロダクション。

 11曲目「Purple Eyelid」は、アコースティック・ギターと歌を中心にしながら、そのまわりの音が、時にサイケデリック、時にアヴァンギャルドな空気を振りまく1曲。フォークやカントリーをコピーするだけでなく、現代的でポストなアレンジを施すところが、このアルバムの奥行きを広げています。

 前作には無かった歌があるということもあり、音響的な前作に比べて、必然的に歌のメロディーが前面に出てくるアルバムです。しかし、前述したように随所にアヴァンギャルドな要素を忍び込ませ、デイヴィッド・パホという人の音楽的な引き出しの多さが感じられる作品になっています。