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Polvo “Today’s Active Lifestyles” / ポルヴォ『トゥデイズ・アクティヴ・ライフスタイルズ』


Polvo “Today’s Active Lifestyles”

ポルヴォ 『トゥデイズ・アクティヴ・ライフスタイルズ』
発売: 1993年4月19日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、ポルヴォの2ndアルバム。前作に引き続き、彼らの地元チャペルヒルを拠点にするレーベル、マージからのリリース。シェラックのベーシストとしても知られる、ボブ・ウェストンがレコーディング・エンジニアを務めています。

 ノイズ・ロックやエクスペリメンタル・ロック、時にはマスロックにカテゴライズされることもあるポルヴォ。本作も、ジャンクな音色のギターや、変拍子を織り交ぜた複雑なアンサンブルなど、アヴァンギャルドな空気を多分に含んだアルバムです。

 ノイズ・ロックやマスロックというジャンルに括るのも、納得できる音楽性なのは事実。では、もっと具体的に、このアルバムで展開されるポルヴォの音楽は、どのようなものなのか、ご紹介したいと思います。

 全てを押し流す轟音ギターや、ハイテンポの疾走感に頼るのではなく、あくまでアンサンブル重視で、随所に奇妙なサウンドやアレンジを散りばめていくのが、本作の特徴と言えます。これは、1stアルバムであった前作『Cor-Crane Secret』とも共通しています。

 1曲目「Thermal Treasure」のイントロから、弦が伸びたように音が揺れるフレーズをギターが弾き、その後フルバンドが入ってくると、ややリズムが掴みにくいマスロック的なアンサンブルが展開。サウンドにもリズムにも、少しずつ違和感があり、その違和感がフックとなり魅力に転化するような、絶妙なバランスを持った1曲です。

 2曲目「Lazy Comet」は、仏教の儀式を思わせるような雰囲気の1曲。スポークン・ワードと歌の中間のような、呪術的なボーカル。淡々とリズムを刻むドラム。サウンドもフレーズも、虫が這うようなギターと、一般的なロック・チューンとは聴感が大きく異なる曲ですが、不思議と違和感は無く、ポップな印象すら与えます。

 3曲目は「My Kimono」。タイトルは「着物」を意味しているのか、和の空気を感じるフレーズを、複数のギターが奏でていく1曲。

 4曲目「Sure Shot」は、チープで不安定なギターがなんともキュートで、耳に残ります。サウンド的にはローファイ色が濃いですが、アンサンブルの面ではメリハリが効いていて、マスロック的な緻密さがあります。

 8曲目「Time Isn’t On My Side」は、イントロのギターの不安定なサウンドと高音に、まず耳が奪われます。その後は、ボーカルの歌唱も穏やかで、緩やかな躍動感のあるアンサンブルが展開。しかし、随所でファミコンの効果音のようなファニーなサウンドが差し込まれ、ジャンクな空気も多分に持った1曲です。ローファイで、アヴァンギャルドだけど、ポップ。横文字ばかりになってしまいましたが、そんな絶妙なバランスが成り立っています。

 10曲目「Gemini Cusp」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、リズムをつかみにくい、アンサンブルが展開される1曲。マスロックというと、高速で複雑なアンサンブルが繰り広げられますが、この曲はテンポはスローなのに、凝ったリズムのアンサンブルが展開されます。

 ギターを筆頭に、随所にファニーな音色を用いながら、アヴァンギャルドなアンサンブルを聴かせてくれるアルバム。前述したとおり、圧倒的なハイテンポや轟音ギターといった、わかりやすい部分ではなく、アンサンブルの中に実験的な要素を溶け込ませるのが、とてもうまいバンドです。

 変な音や変なアレンジがたくさん出てくるのに、聴いていて難しい音楽だと感じさせることなく、むしろほどよい違和感を音楽のフックにしていて、そういう意味では非常にポップセンスに優れた作品であると思います。

 





Polvo “Cor-Crane Secret” / ポルヴォ『コール-クレイン・シークレット』


Polvo “Cor-Crane Secret”

ポルヴォ 『コール-クレイン・シークレット』
発売: 1992年7月13日
レーベル: Merge (マージ)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、ポルヴォの1stアルバム。同郷のバンド、スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マコーンとローラ・バランスが設立したレーベル、マージからのリリース。

 ちなみにスーパーチャンクのマック・マコーンと、ポルヴォのメンバーであるデイヴ・ブリラースキー(ブライロースキー)(Dave Brylawski)、スティーヴ・ポップソン(Steve Popson)は、高校のクラスメイト。

 しばしば、ノイズ・ロックやエクスペリメンタル・ロックといったジャンルに括られるポルヴォ。1stアルバムである本作にも、不協和な響きや、奇妙なサウンド、意外性のある展開が多分に含まれており、アヴァンギャルドな雰囲気を持ったアルバムと言えます。

 では、どのようにアヴァンギャルドなのかと言うと、耳をつんざくような轟音ギターや爆音ノイズが主要成分なのではなく、緩やかなアンサンブルの中に、実験的なアプローチが溶け込んでいます。

 ノイズ的なアプローチにも、全て意図があるように有機的にアンサンブルを構成され、一聴すると違和感が無いのに、いや一般的なポップスと比べると違和感たっぷり、という絶妙のバランス。部分的には、ソニック・ユースに近いアンサンブルであると思います。

 1曲目「Vibracoda」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器が絡み合うようにアンサンブルが構成。ギターのざらついたサウンドと、随所に聞こえる不安定なハーモニーが、ほどよい違和感となり、楽曲に奥行きを与えています。

 2曲目「Kalgon」は、透明感のあるクリーン・トーンと、潰れたようなジャンクな歪みという、音色の異なる複数のギターが絡み合います。

 6曲目「Ox Scapula」は、ギターがフレーズを編み込んでいく、2分に満たない1曲。ポルヴォの音楽性を形容する際に、東洋からの影響が取り上げられることがしばしばありますが、この曲のギターのフレーズにも、東洋の香りが漂います。盛り上がってきたところで、突如として終息するところもあっさりしていて、予定調和ではない意外性があります。

 7曲目「Channel Changer」は、シンプルでタイトなリズム隊に、チープなサウンドのギターが絡まる前半から、ボーカルが入りバンドのアンサンブルも躍動感が増す後半へと、展開していきます。

 8曲目「In The Hand, In The Sieve」は、疾走感のあるイントロから、バネが伸びたようにテンポを落とし、ジャンクな音色のギターが絡み合うようにアンサンブルが構成。

 ややローファイなサウンドも含みながら、実験的な要素を多分に含んだ演奏が、繰り広げられるアルバムです。テンポも抑えた曲が多く、音圧や疾走感よりも、アンサンブルを重視した作品であるとも言えます。

 ギターの音色はジャンクで荒削りなものが多く、奏でるフレーズはふらふらと千鳥足で歩くようなものが多い、そのバランスが絶妙です。

 





Guided By Voices “Mag Earwhig!” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『マグ・イヤーウィッグ!』


Guided By Voices “Mag Earwhig!”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『マグ・イヤーウィッグ!』
発売: 1997年5月20日
レーベル: Matador (マタドール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に、オハイオ州デイトンで結成されたバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの通算10枚目のスタジオ・アルバム。

 前作のあとに、ギターとバッキング・ボーカルのトビン・スプラウト(Tobin Sprout)、ギターのミッチテンミッチェル(Mitch Mitchell)、ドラムのケビン・フェンネル(Kevin Fennell)の3名が脱退。この事態に、フロントマンのロバート・ポラードは、オハイオ州クリーブランド出身のバンド、コブラ・ヴェルデ(Cobra Verde)をバック・バンドとして迎えることで乗り切ります。

 ちなみに、上記3名の脱退理由は、ツアーには出ずに子育てに集中したいなど、ケンカ別れではないようで、本作の一部の曲には、脱退したメンバーも参加しています。

 1983年に結成後、しばらくは地元で地道に活動を続け、1995年リリースの8枚目のアルバム『Alien Lanes』からマタドールと契約し、全米規模の人気を高めていくガイデッド・バイ・ヴォイシズ。初期は、限られた機材で宅録に近い環境でレコーディングされ、ローファイなサウンドが魅力のひとつとなっていましたが、9作目となる前作『Under The Bushes Under The Stars』は、プロフェッショナルなスタジオで24トラックで録音。音質が格段に向上しました。

 通算10作目となる本作では、前述のとおりフロントマンのロバート・ポラード以外はバンドが入れ替わったと言っても過言ではない、大幅なメンバー・チェンジを経て、音楽性も前作から大きく変化しています。

 前作は、音質の面ではローファイ色は薄くなり、ソリッドなサウンドを持った作品でしたが、音楽性の面ではシンプルなロックが下敷きになった、それまでのローファイ志向の音楽性を多分に引き継いでいました。しかし本作では、エフェクターを前作以上に多用し、サイケデリックな空気が強まっています。

 アルバムの1曲目を飾る「Can’t Hear The Revolution」は、エフェクトのかかった複数のギターが絡みあい、徐々にテンションを上げていきます。スポークン・ワードも交えた、やや呪術的なボーカルも、これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズにはあまり無かったサイケデリックな空気をプラス。

 2曲目「Sad If I Lost It」は、テンポは抑えめに、空間系エフェクターの効いたギターが印象的に響く1曲。

 3曲目「I Am A Tree」は、単音弾きのイントロから、歯切れ良いギターリフが重なり、複数のギターが絡み合いアンサンブルを構成していきます。ボーカルは抑え気味の歌い方ですが、テンポも速めで、軽快なリズムと、ギターのフレーズが、加速感を演出する1曲。

 5曲目「Bulldog Skin」は、オルガンの音色と、気だるいボーカルが、ややサイケデリックな空気を振りまきつつ、ファットに歪んだギターがアンサンブルを先導していく、ミドルテンポのロック・チューン。

 6曲目「Are You Faster?」は、だらりとしたギターと、リズムも音程もぴったりと合わないコーラスワーク、全体のエコーのかかった音像から、サイケデリックな空気が充満する1曲。

 8曲目「Knock ‘Em Flyin’」は、トレモロなのか空間系エフェクターのかかったギターと、タイトなリズム隊が、メリハリの効いた演奏を展開する曲。

 10曲目「Choking Tara」は、やや濁った音色のアコースティック・ギターによる弾き語り。ボーカルも奥まった音質で、ややチープにレコーディングされています。

 11曲目「Hollow Cheek」は、ピアノがフィーチャーされた30秒ほどの短い1曲。ピアノは音色もコードも濁っていて、妙に耳に残ります。インタールード的な役割の曲としては、非常に秀逸。

 12曲目「Portable Men’s Society」は、イントロから徐々に音数が増え、各楽器が絡み合うように、シフトが上がっていく1曲。タイトなリズムを刻む楽器と、ロングトーンを用いる楽器があり、立体的かつ多層的なサウンドが作り上げられていきます。

 18曲目「Jane Of The Waking Universe」は、ゆったりとしたイントロから、いきいきと躍動する音楽へ展開していきます。コーラスワークが心地よく、メロディーも爽やかですが、ギターに効いたワウなどアクセントになり、サイケデリック風味のギターポップとでも言うべき耳ざわり。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズのアルバムの中でも、一際バラエティに富んだ楽曲が収録された1作と言えます。前述したメンバーチェンジも少なからず関係しているのでしょうが、サイケデリック色が濃く、60年代から70年代のロックを強く感じる作品です。

 本作は、アメリカを代表する名門インディー・レーベル、マタドールからリリースする3作目。次作からは、メジャーのTVT Recordsへ移籍しています。(2枚のアルバムをリリースした後に、マタドールへ戻ってくるのですが)

 





Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』


Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Kim Deal (キム・ディール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に1983年に結成された、オハイオ州デイトン出身のバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの9枚目のスタジオ・アルバム。前作から、アメリカを代表する名門インディー・レーベルであるマタドールと契約し、本作がマタドールからリリースされる2枚目のアルバムです。

 プロデュースは、全曲ではありませんが、ピクシーズ(Pixies)とブリーダーズ(The Breeders)の活動で知られるキム・ディールが担当。

 1983年に結成され、他の仕事をしながら、地元で地道な活動を続けてきたガイデッド・バイ・ヴォイシズ。8作目のアルバムとなる前作『Alien Lanes』から、前述のとおりマタドールと契約し、メンバーも音楽活動に専念するため、仕事を辞めています。

 これまでの彼らの作品は、限られた機材でレコーディングされた、チープでローファイな音質が特徴となっていましたが、本作は全編をスタジオで、24トラックでレコーディング。前作までとは一変して、ローファイ感は薄れ、プロフェッショナルなサウンドで録音されています。

 また、今作を最後に5人のメンバー中、ボーカルのロバート・ポラードと、ベースのグレッグ・デモ(Greg Demos)を除いた3人が脱退。レコーディング機材および音質の変化、メンバーの交代を迎える、転換期の作品とも言えます。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズは、ローファイな音質により、ソング・ライティングとアンサンブルのコアな部分が相対的に強調され、音楽のむき出しの魅力が感じられるところが特徴でした。本作では、ローファイな音像から、くっきりとしたサウンド・プロダクションへと変化し、アンサンブルがよりタイトに感じられます。

 前作までのチープで暖かみのある耳ざわりを好む人には、必ずしも向上とは言い切れない音質の変化ですが、各楽器は今までよりもはっきりと聴き分けることができ、一般的には向上と言ってよいでしょう。

 1曲目の「Man Called Aerodynamics」から、歪んだギターの音色は鋭く、リズム隊はタイトで、気だるいボーカルもエフェクト処理されているようで、前作までにはなかった凝ったサウンドであることがわかります。

 2曲目「Rhine Jive Click」は、各楽器とコーラスワークを分離して聞き取ることができる、立体感のあるサウンドが特徴の1曲。イントロから鳴り響く、カウベルらしき音もアクセント。

 5曲目「The Official Ironmen Rally Song」は、ミドルテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。空間の奥行きを感じるサウンド・プロダクションに仕上げっています。再生時間1:22あたりからのギターからは、ざらついたローファイの魅力もたっぷり。

 10曲目「Your Name Is Wild」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、随所のフックのあるシンプルなリズムが、疾走感を演出する1曲。歪みだけでなく、空間系エフェクターも使用されたギターの分厚いサウンドが、楽曲に奥行きをプラスしています。

 17曲目「Don’t Stop Now」にはストリングスが導入され、コーラスワークも美しい1曲。ストリングスの持つオーガニックな響きと、ディストーション・ギターの厚み、爽やかなコーラスが溶け合い、前作と比較して、バンドの音楽性の広がりを感じさせます。

 前述したとおり、前作までのローファイなサウンドから、ソリッドで輪郭のはっきりしたサウンドに一変した本作。しかし、バンドの機能的で躍動感あるアンサンブルや、バラエティに富んだメロディーなど、これまでの魅力も多分に含んだ1作です。

 





Okkervil River “Black Sheep Boy” / オッカーヴィル・リヴァー『ブラック・シープ・ボーイ』


Okkervil River “Black Sheep Boy”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ブラック・シープ・ボーイ』
発売: 2005年4月5日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの3rdアルバム。アルバムのタイトル『Black Sheep Boy』は、60年代に活躍し、1980年に亡くなったフォーク・シンガー、ティム・ハーディン(Tim Hardin)の楽曲「Black Sheep Boy」にインスパイアされたとのこと。

 1stと2ndでは、フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴな音色とアレンジを散りばめたインディーロックを展開していたオッカーヴィル・リヴァー。3作目となる本作は、前2作の音楽性を基本としながら、やや実験性と疾走感が増し、サウンドもソリッドになっています。特に、比率は多くはありませんが、効果的に挿入される歪んだエレキ・ギターの響きが、アルバム全体にハードな印象をもたらしています。

 ボーカリゼーションも、ここまでの3作の中で比較すると、最も感情豊かで、アグレッシヴな面も際立っています。フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)が書く歌詞も、このバンドの大きな魅力のひとつですが、サウンド面だけでなく歌詞の面でも、今まで最もダーティーで激しい要素のあるアルバムと言えます。

 1曲目「Black Sheep Boy」は、アコースティック・ギターとボーカルのみの穏やかでミニマルな雰囲気で始まり、徐々に楽器が増え、緩やかなアンサンブルが展開される1曲。1分20秒ほどのイントロダクション的な役割の曲で、再生時間1分過ぎからは、電子的な持続音が鳴るエレクトロニカのような音像へ。カントリー色の濃い前半から、エレクトロニカ色の濃い後半へと自然に繋がり、このアルバムとバンドの音楽性を端的に示した1曲と言えます。

 2曲目「For Real」は、感情を抑えたボーカルとアコースティック・ギターを中心にした静かなイントロから始まりますが、歪んがエレキ・ギターが鋭く切り込んでくる、オルタナティヴな雰囲気の1曲。ハードなギターの音色と比例して、ボーカルも静かなささやき系の歌唱と、エモーショナルな歌唱を使い分けています。再生時間1:37あたりからの間奏の空間系エフェクターを用いたサウンドや、再生時間3:25あたりからのギターソロも、オリタナティヴな空気をさらに演出。

 3曲目「In A Radio Song」は、フィールド・レコーディングらしき音と、穏やかなボーカルとアコースティック・ギターのアレンジが溶け合う、カントリーと音響系ポストロックが融合した1曲。

 4曲目「Black」は、ビートがはっきりしていて、タイトで疾走感のある1曲。ヴァースからコーラスへの盛り上がりも鮮やかで、メリハリの効いたアンサンブルが展開されます。

 6曲目「A King And A Queen」は、アコースティック・ギターと中心にした牧歌的な1曲ながら、ストリングスとトランペットが壮大さ、キーボードの音色が多彩さを加え、カントリーの単なる焼き直しではない、モダンな雰囲気を併せ持った曲。

 10曲目「So Come Back, I Am Waiting」は、8分を超える大曲。アルバムのタイトルにもなっている「black sheep boy」が歌詞に登場し、スロー・テンポに乗せて、コントラストの鮮やかな、壮大なアンサンブルが展開される1曲です。

 11曲目「A Glow」は、静かなボーカル、空間系エフェクターの深くかかったギター、ストリングスがゆったりしたテンポの中で溶け合う、穏やかな音響系の1曲。

 過去2作と比較して、最もオルタナティヴ性が強く出たアルバムであると言えます。これまでどおり、フォークやカントリーの香りも漂うのですが、それ以上に激しく歪んだエレキ・ギターに代表される、オルタナティヴな要素が色濃く出ています。

 また、柔らかな電子音やフィールド・レコーディングを用いて、エレクトロニカのような音響的アプローチを見せる部分もあり、音楽性のさらなる拡大を感じるアルバムでもあります。