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Clap Your Hands Say Yeah “Clap Your Hands Say Yeah” / クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』


Clap Your Hands Say Yeah “Clap Your Hands Say Yeah”

クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー 『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』
発売: 2005年6月28日
レーベル: Self-released (自主リリース)
プロデュース: Adam Lasus (アダム・ラサス)

 コネティカット・カレッジ(Connecticut College)在学中に出会った5人が、2004年にニューヨークで結成したインディー・ロック・バンド、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー。

 本国アメリカでは特定のレーベルには所属せず、デビュー・アルバムである本作『Clap Your Hands Say Yeah』も、レーベルを通さない自主リリース。文字通り、インディペンデントな精神を持ったバンドです。

 ただ、本作に関して言えば、イギリスやヨーロッパではウィチタ(Wichita)、日本ではユニバーサルミュージック傘下のレーベルであるV2からリリースされるなど、世界規模のヒットに伴って、地域ごとにディストリビューションを個別のレーベルに任せています。

 その精神性と活動形態のみならず、音楽からも非メジャー的な香りが漂う、根っからのインディー・ロック・バンド。そう自信を持って呼べるのが、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーです。

 では「非メジャー」と言っても、具体的にどんな音楽を指すのか。簡単に私見を述べさせていただきます。まず、2000年代以降の一部のインディーズ・バンドに見られる方法論は、激しく歪んだギターによるリフや、ノリの良い8ビートなど、それまでのロック的なアレンジを避けていること。

 結果として、旧来のロックには無い、新たなグルーヴ感を獲得したり、サウンドの面ではフォーク・ロックに接近したり、民俗音楽的・実験音楽的になったり、というのが2000年代における、インディー・ロックのひとつの特徴です。もちろん「インディーロック」という言葉自体が、意味が広く、定義するだけでも困難ですから、ひとつの個人的な解釈として捉えてください。

 1980年代にポストパンクから、ワールド・ミュージックへと繋がった、ロックから非ロックへの流れ。その流れと似たような現象が、1990年代のオルタナティヴ・ロックから、オルタナ・カントリーや2000年代のインディーロックへと繋がる過程にも認められるのではないか、というのが僕の考えです。

 さて、話をクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーに戻しましょう。彼らの音楽性も、いわゆるロック的なサウンドやアレンジとは、大きく異なり、オルタナティヴ民俗音楽、あるいは無国籍なワールド・ミュージックとでも呼びたくなるもの。

 デビュー・アルバムとなる本作でも、ハードなギターや、縦ノリしやすいリズムといった、ロックのクリシェを巧みにすり抜けつつ、新しいサウンド・プロダクションとグルーヴ感を提示しています。

 1曲目の「Clap Your Hands!」は、アルバムのイントロダクションとなる、2分弱の楽曲。賑やかで楽しい音楽に対して「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、この曲はまさにそのとおり。全体がトイピアノ的な、チープで可愛いサウンド・プロダクションで、おどけたボーカルも相まって、おもちゃ箱をひっくり返したというよりも、おもちゃそのものと言ってもいい曲です。

 2曲目の「Let The Cool Goddess Rust Away」は、ギター、ベース、ドラムと全ての楽器がリズムにフックを作りながら、躍動していく1曲。サウンドもリズムも、ゴリゴリのロックとは異なるのですが、ロックが持つダイナミズムの大きな躍動感が、演奏からは溢れています。1曲目の「Clap Your Hands!」と同じく、各楽器の音作りとフレーズは、ややチープで親しみやすい耳ざわりのものが多いのですが、全ての楽器が有機的に組み合い、いきいきとしたアンサンブルを展開。

 3曲目「Over And Over Again (Lost And Found)」は、音数を絞り、タイトでミニマルなアンサンブルが展開される1曲。各楽器のフレーズはシンプル。ドラムの手数も少なく、特に難しいことはしていないのに、ノリと加速感がある不思議な演奏。

 6曲目「The Skin Of My Yellow Country Teeth」は、滲んだような音色のシンセサイザーに、タイトで立体的なドラム、はずむように瑞々しいギターとベースが加わり、バンド全体がバウンドするように進行していく1曲。この曲も、わかりやすく難しいことはしていないはずなのに、全ての音とフレーズが心地よく、バンドが一体の生き物のように、躍動しています。

 7曲目「Is This Love?」では、歯切れの良いギターのカッティングに導かれ、浮遊感と疾走感のある演奏が、繰り広げられます。キーボードの電子的で柔らかい音質、声が裏返りながらも絞り出すボーカルの歌唱も、楽曲にカラフルさをプラス。クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー流のギターポップ。

 8曲目は「Heavy Metal」。タイトルのとおり、彼らにしてはハードな音像を持った曲ですが、もちろん一般的なヘヴィメタルとは異なるサウンドとアレンジ。荒々しく疾走するバンド・アンサンブルと、声を裏返しながら歌うボーカルからは、ローファイやガレージロックを感じなくもないですが、やはりカテゴライズ不能の個性的な楽曲です。

 10曲目「In This Home On Ice」は、空間系エフェクターを用いて、ギターが厚みのあるサウンドを作り上げ、ボーカルもギターに埋もれるように漂う、シューゲイザー色の濃い1曲。ボーカルも含めて、全ての楽器が、ひとつの塊のように一体となり、心地よい揺らぎのある演奏。

 多彩な楽曲が収録されているのに、どの曲もハッキリとしたジャンル分けがしにくい、個性的な曲ばかり。しかも、敷居の高いアヴァンギャルドな音楽をやっているわけではなく、出てくる音はどこまでもポップです。

 先ほど「根っからのインディー・ロック・バンド」と書きましたが、単純にメジャー・レーベルに背を向けているということではありません。音楽性においても、今までのロックの構造に頼らず、全く新しい設計図を一から作り上げています。深い意味でインディペンデントであり、オルタナティヴなバンドだと言えるでしょう。

 折衷的にも実験的にもならず、これまでに誰も作らなかった音楽を作り上げる、驚くべき創造力を持ったバンドです。この後の作品も良いのですが、思い入れも込みで、個人的にはこの1stアルバムがオススメ! 名盤です。

 





The White Stripes “Elephant” / ザ・ホワイト・ストライプス『エレファント』


The White Stripes “Elephant”

ザ・ホワイト・ストライプス 『エレファント』
発売: 2003年4月1日
レーベル: Third Man (サード・マン)
プロデュース: Liam Watson (リアム・ワトソン)

 ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトからなる、ミシガン州デトロイト出身のガレージロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの4thアルバム。

 前作までは、ガレージやブルースを得意とするインディーズ・レーベル、Sympathy For The Record Industryからのリリースでしたが、本作はユニバーサル傘下のレーベルV2、およびジャック・ホワイトが設立したレーベルであるサード・マンからリリースされています。

 レコーディング・エンジニアとミキシングを務めるのは、イギリス人のリアム・ワトソン。レコーディングも、ロンドンにあるBBCのマイダ・ヴェール・スタジオ(Maida Vale Studios)と、ワトソンが所有するトゥー・ラグ・スタジオ(Toe Rag Studios)にて実施されました。

 2004年の第41回グラミー賞において、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞(Best Alternative Music Album)を受賞し、ホワイト・ストライプスを世代を代表するバンドへと押し上げる、出世作となった本作。

 ブルースやカントリーなどルーツ・ミュージックを参照しながら、ガレージ・ロックのざらついた音色とダイナミズムを、現代的にアップデートする手法は、ますます洗練され、完成度を高めています。

 「現代的にアップデート」と書くと抽象的ですが、具体的にはブルースやガレージロックをコピーするだけでなく、多様なジャンルを組み合わせ、自分たちオリジナルの音楽を作り上げているということ。このような方法論には、90年代にオルタナティヴ・ロックの時代をくぐり抜けてきたバンドであることが垣間見えます。

 シングルとしても発売され、グラミーの最優秀ロック・ソング賞(Grammy Award for Best Rock Song)を獲得し、世界的なヒットとなった「Seven Nation Army」を筆頭に、ジャック・ホワイトのギタープレイとソング・ライティングも冴え渡っています。

 「Seven Nation Army」はアルバムの幕を開ける1曲目に収録。ドタドタとシンプルに四つ打ちを続けるドラムに、激しくそして自由なギターが合わさり、シンプルなリズムの魅力と、楽譜からはみ出すフリーなフレーズの魅力が融合。ロックのシンプリシティと即興性を併せ持つ、キラー・チューンに仕上がっています。

 2曲目の「Black Math」は、リズムが前のめりに疾走するガレージ・ロック。しかし、ただ直線的に突っ走るだけでは終わらず、途中テンポで緩急をつけ、コントラストを演出。奥行きのあるアレンジとなっています。

 3曲目「I Just Don’t Know What To Do With Myself」は、イギリス出身のシンガー、ダスティ・スプリングフィールド(Dusty Springfield)が1964年にリリースした曲のカバー。オリジナル版は、ポップでスウィートな仕上がりですが、ホワイト・ストライプスはゴリっとしたガレージらしいギターに、ゴスペルを思わせる壮大なコーラスワークを重ねたアレンジに仕上げています。原曲のスウィートな魅力を残しつつ、凝ったコーラスワークと、激しく歪んだギターが溶け合い、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 6曲目「I Want To Be The Boy To Warm Your Mother’s Heart」は、ピアノをフィーチャーしたメロウな1曲。しかし、ただのピアノ・バラードではなく、ぶっきらぼうなドラムと、ガレージ色の濃いざらついた歪みのギターを合わせています。間奏のスライド・ギターもブルースとカントリーの香りをプラスし、ピアノを用いた壮大なバラードではなく、ホワイト・ストライプスらしい多彩な1曲に。

 8曲目「Ball And Biscuit」は、音数を絞ったミニマルなアンサンブルから、ブルージーなフレーズが浮き上がり、前景化される1曲。ジャンルのコアな部分の魅力を浮き彫りにする、ホワイト・ストライプスらしいアレンジ。再生時間1:47あたりからのギターソロは、耳と脳を揺らすようにパワフルで、根源的な魅力に溢れています。

 9曲目「The Hardest Button To Button」では、シンプルな四つ打ちのドラムに、ギターのフレーズとボーカルが重なり、シンプルながら躍動感とグルーヴ感のある演奏が展開。

 12曲目「The Air Near My Fingers」は、60年代のガレージ・ロックとサイケデリック・ロックが融合したような、激しさとねじれを持った1曲。

 もはや語ることが残ってないぐらいに、評価され、語られてきた名盤ですが、あらためて聴いてみてもやはり名盤! 「ブルースを下敷きにしたガレージロック」というのは、彼らの音楽性を説明するときの常套句ですが、ブルースはじめルーツ・ミュージックを巧みに取り込んでいるのは事実です。

 ブルースの粘り気のあるフレーズ、ガレージロックの荒々しさ、カントリーの軽快な疾走感など、各ジャンルのコアな魅力を、オルタナティヴ・ロックの折衷性を持ってまとめていくセンスと手法は、見事と言うほかありません。

 あとは、各ジャンルを横断しつつ、自らのオリジナリティをしっかりと出すジャック・ホワイトのギタープレイは、やはり秀逸だなと。僕が言うまでもないことですが、未来に残すべき名盤です。

 





CHON “Homey” / チョン『ホーミー』


CHON “Homey”

チョン 『ホーミー』
発売: 2017年6月16日
レーベル: Sumerian (スメリアン)
プロデュース: Eric Palmquist (エリック・パームクイスト)

 カリフォルニア州オーシャンサイド出身のマスロック・バンド、CHONの2ndアルバム。前作『Grow』に引き続き、メタルコア系を得意とするレーベル、スメリアンからのリリース。

 前作リリース後に、ベースのドリュー・ペリセック(Drew Pelisek)が脱退。本作では、サポート・メンバーとしてアンソニー・クローフォード(Anthony Crawford)を迎えています。ジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)や、ピーボ・ブライソン(Peabo Bryson)との仕事で知られる、ジャズ出身のベーシストです。

 テクニカルなフレーズや変拍子など、マスロックを思わせる要素を多分に含みながら、同時にスムーズでオシャレな雰囲気もまとった1作。曲によっては、代官山か自由が丘あたりのカフェで流れていてもおかしくなさそうな、オシャレさを持っています。

 耳なじみの良い、なめらかで流れるような質感は、前作と共通。一聴するとシャレたBGMとしても機能しますが、深層ではテクニカルで正確無比なアンサンブルが実行されているという二面性が、彼らの魅力です。

 1曲目「Sleepy Tea」は、「眠そうなティー」というタイトルのとおり、カフェで流しても良さそうな、耳なじみのいい1曲。随所にテクニカルなフレーズが散りばめられているものの、小難しさは感じさせず、なめらかに演奏が進行します。ギターが空を飛んでいく、ファミコン風のミュージック・ビデオもかわいい。下にリンクを貼っておきます。

 2曲目「Waterslide」は、その曲名どおり、上から下に水に乗って流れていくように、なめらかで自然なスピード感のある1曲。ギターのフレーズはそれなりに高速ですが、難しい音楽だというハードルの高さは無く、さらりと耳なじみ良く流れていきます。

 3曲目「Berry Streets」には、日系アメリカ人のビートメイカーでありプロデューサー、ゴー・ヤマ(Go Yama)が参加。ボーカルの伸縮するような自由な譜割りからは、R&Bの香りも漂う1曲です。正確な演奏を繰り広げるマスロック的なアレンジではなく、編集を強く感じさせる音楽に仕上がっています。このあたりの質感は、ゴー・ヤマの手腕によるものなのでしょう。

 4曲目「No Signal」は、幾重にも折り重なりながら押し寄せるさざ波のように、複雑ながら自然で、耳を傾けていると心地よい1曲。アルバム中、最もオシャレな1曲…かもしれない。

 5曲目「Checkpoint」は、清潔感のあるシンセの音が全体を包み込む、穏やかな音像を持った1曲。リズムの切り替えが度々あり、決して単純な曲ではないのですが、風が微妙に強さと向きを変えるように、流れるように進行していきます。

 6曲目の「Nayhoo」には、トラップ・ハウス・ジャズを提唱する、サックス奏者兼シンガーソングライターのマセーゴ(Masego)と、プロデューサー、DJ、ソングライターなど多彩な活動を展開するロファイル(Lophiile)ことタイラー・アコード(Tyler Acord)が参加。3曲目「Berry Streets」以上にR&B色が濃く、歌が前景化されたメロウな1曲。

 8曲目「The Space」は、ギターの揺らめくサウンドが耳に引っかかる、穏やかなアンサンブルが展開される1曲。

 9曲目「Feel This Way」には、R&B系のプロデューサー兼ビート・メイカー、ジラフェッジ(Giraffage)が参加。揺らぎのあるサウンドと、エフェクト処理されたボーカルが合わさり、編集と即興性の共存した、現代的ブラック・ミュージックに仕上がっています。

 一部の曲では、外部からゲストを招き、前作以上に流麗なサウンドを持った本作。ゲスト陣は、R&B畑のビート・メイカーが多く、本作にブラック・ミュージックの要素を持ち込んでいます。前述のとおり、ベースにジャズ出身のアンソニー・クローフォードを起用していることも示唆的でしょう。

 また、各楽器の音作りが、クリーントーンを主軸としているのも、本作の聴きやすさの一因。飛び道具的にエフェクターを用いたり、やり過ぎなぐらい歪ませるなど、過激なサウンドは使われていません。

 ブラック・ミュージックの持つ即興性とスウィング感、マスロックの持つ正確性と複雑性が、高いレベルで共存した名盤! 実験性の強いマスロックが苦手な方にも、おすすめできる1作です。





CHON “Grow” / チョン『グロウ』


CHON “Grow”

チョン 『グロウ』
発売: 2015年3月23日
レーベル: Sumerian (スメリアン)
プロデュース: Eric Palmquist (エリック・パームクイスト)

 カリフォルニア州オーシャンサイド出身のマスロック・バンド、CHONの1stアルバム。2015年に本作がリリースされるまでに、デモ音源『CHON』と、2枚のEP『Newborn Sun』『Woohoo!』を、いずれもレーベルを通さずにセルフリリースしています。

 本作以前にセルフリリースされた一連の作品と比べると、だいぶ洗練された印象。彼らの演奏テクニックが向上し、レコーディング環境も良くなった結果なのでしょうが、サウンド・プロダクションと演奏の両面で、確かな進化が感じられます。

 ただ、速弾きや変拍子などの分かりやすい変態性は、やや後景化。わかりやすく攻撃的で変な音楽を好む方は、セルフリリース時代の方が良いと感じるかもしれません。

 1曲目「Drift」は、ギターの音が広がっていく、エレクトロニカを思わせるサウンドを持った、30秒ほどの曲。イントロダクションとして、このような曲を収録するあたり、「アルバム1枚でひとつの作品である」という意識が感じられ、期待が高まります。

 2曲目「Story」は、タイトで立体的なリズム隊の間を縫うように、複数のギターが緩急自在にフレーズを繰り出していく、スリリングな1曲。速弾きやパワー・コードを適材適所で織り交ぜ、カラフルな楽曲に仕上げています。

 3曲目「Fall」では、イントロのギターのカッティングから始まり、各楽器ともキレ味鋭く、タイトなアンサンブルが展開。やや高音に寄ったバランスですが、ドラムの低音部はパワフルに響き、全体を引き締めています。

 6曲目「Suda」は、透明感のあるサウンドのメロウなイントロから始まり、徐々に各楽器のフレーズが複雑化。フレーズ同士が有機的に絡み合い、多彩な織物を作り上げるような1曲。

 7曲目「Knot」は、叩きつけるようなドラムを中心に、各楽器が複雑に絡み合い、立体的なアンサンブルを組み上げる1曲。

 9曲目「Splash」は、音がなめらかに滑り落ちていくような疾走感のある1曲。テンポを極限まで速めたハードコア・パンクのような疾走感ではなく、水が上から下に流れていくような感覚です。各楽器ともかなり複雑なことをやっているのに、スムーズに流れていく演奏。

 10曲目「Perfect Pillow」は、前曲とは打って変わって、ハードコア的に前のめりに疾走していく、スピード感に溢れた1曲。メタルを好きな人も気に入りそうな、テクニカルなギタープレイも聴きどころ。

 11曲目「Echo」は、まさかの!と言うべきなのか、ボーカル入りの1曲。しかも、しっかりと歌が前景化された、いわゆる歌モノに仕上がっています。メロディーは流麗で、思いのほか歌が中心に据えられたアレンジ。複雑かつ理路整然としたアンサンブルが展開される本作において、毛色の違うメロウな曲となっています。

 マスロックらしい整然さと複雑さを持ちつつ、小難しい印象を抑え、コンパクトにまとまった1作。聴きやすさの一因は、各楽器は複雑なフレーズを繰り出しながら、丁寧に組み上げられた、なめらかなアンサンブルにあるでしょう。

 また、音作りの面でも、過度なエフェクトは用いず、クリーントーンが基本となり、透明感のあるサウンドを生み出しています。収録されている楽曲も多彩で、これは隠れた名盤です。

 本作でベースを担当しているドリュー・ペリセック(Drew Pelisek)は、2016年にCHONを脱退。2017年からは、ワシントン州ムキルテオ出身のポスト・ハードコアバンド、ザ・フォール・オブ・トロイ(The Fall Of Troy)に、ツアー・メンバーとして参加しています。

 





The White Stripes “White Blood Cells” / ザ・ホワイト・ストライプス『ホワイト・ブラッド・セルズ』


The White Stripes “White Blood Cells”

ザ・ホワイト・ストライプス 『ホワイト・ブラッド・セルズ』
発売: 2001年7月3日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Stuart Sikes (スチュアート・サイクス)

 ミシガン州デトロイト出身のガレージロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの3rdアルバム。メンバーは、ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトの2人。

 ガレージロックを得意とするインディペンデント・レーベル、Sympathy For The Record Industryと、ユニバーサル傘下のメジャー・レーベル、V2レコードより発売。

 カントリー歌手ロレッタ・リン(Loretta Lynn)に捧げられており、本作からのシングル『Hotel Yorba』には、リンの楽曲「Rated X」のカバーが収録されています。

 また、レコーディング・エンジニアを務めるのは、スチュアート・サイクス。2005年のグラミー最優秀カントリー・アルバム賞を受賞する、ロレッタ・リン『Van Lear Rose』のミキシングを手がける人です。ちなみに同作は、ジャック・ホワイトがプロデュースを担当し、ギターやバッキング・ボーカルでレコーディングにも参加しています。

 デビュー当初は、ギターとドラムのみのパワフルな演奏で、ロックの初期衝動をそのまま音に変換したかのようなサウンドを、響かせていたホワイト・ストライプス。3作目となり、ざらついたガレージ的な音色はやや控えめ。音楽的には、確実に洗練されています。

 ブルースを下敷きにしたガレージロック、という基本的なアプローチはこれまで通り。また、本作収録曲の歌詞の多くは、1stアルバム『The White Stripes』の時期のもの、およびジャックが当時ホワイト・ストライプスと並行して在籍していたバンド、トゥー・スター・タバナクル(Two-Star Tabernacle)のために書いたものとのこと。

 しかし、音楽的には原点回帰というわけではなく、より多彩なルーツ・ミュージックを取り込みながら、90年代以降のオルタナティヴ・ロックに繋がるアレンジと音像を持っているのが本作です。

 過去2枚のアルバムは、いずれも地元デトロイトでレコーディングされていましたが、本作はテネシー州メンフィスにあるスタジオ、イーズリー・マケイン・レコーディング(Easley McCain Recording)で、レコーディングを実施。これまでのざらついた音色に比べ、サウンド・プロダクションが異なって聞こえるのは、レコーディング・スタジオの変更も一因でしょう。

 1曲目「Dead Leaves And The Dirty Ground」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついた音色のギターと、手数の少ないドラムによって、リラックスしたアンサンブルが展開される1曲。プリミティヴな音作りとアンサンブルという、これまでのホワイト・ストライプスの良さを残しながら、良い意味で力の抜けた演奏になっています。

 2曲目「Hotel Yorba」は、アコースティック・ギターによる軽快なコード・ストロークと、ドラムのドタドタ叩きつけるリズムが躍動感を生む、カントリー色の濃い1曲。

 4曲目「Fell In Love With A Girl」は、ギターもドラムも小節線を乗り越えるように、前のめりに疾走していく曲。ガレージロックと呼ぶにふさわしい、毛羽立ったサウンド・プロダクションの曲ですが、演奏は軽やかな疾走感があります。

 5曲目「Expecting」は、スローテンポのガレージロック。ゆったりとしたテンポに乗って、リズムにフックを作りながら、グルーヴ感を生んでいきます。

 9曲目「We’re Going To Be Friends」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた牧歌的な1曲。ジャック・ホワイトの歌唱も、語りかけるように穏やか。奇をてらうことなく、歌にフォーカスした、カントリー色の濃い演奏です。

 12曲目「Aluminum」は、ノイジーなギターと呪術的なコーラスが場を支配する、アヴァンギャルドな1曲。ガレージロックよりも、ソニック・ユースなどニューヨークのアングラ臭を感じる演奏。

 13曲目「I Can’t Wait」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついたサウンドの各楽器が絡み合い、アンサンブルを構成する、ホワイト・ストライプスらしいガレージロック。

 前述のとおり、カントリー歌手のロレッタ・リンに捧げられた本作。それだけが理由というわけでもないのでしょうが、これまでのアルバムと比較すると、ややカントリー要素が強めでしょうか。

 しかし、たんにカントリー色が濃くなっただけでなく、12曲目「Aluminum」のような、オルタナティヴ要素の強い実験的な曲もあり、音楽性の幅は確実に広がっています。

 1stアルバムから本作までの3枚のアルバムは、いずれもガレージ・ロックを得意とするレーベル、Sympathy For The Record Industryからのリリース。

 しかし、4作目となる次作『Elephant』から、ユニバーサル・ミュージック傘下のV2、およびジャック・ホワイトは自身で設立したレーベル、サード・マン(Third Man Records)よりリリースされます。