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Band Of Horses “Cease To Begin” / バンド・オブ・ホーセズ『シーズ・トゥー・ビギン』


Band Of Horses “Cease To Begin”

バンド・オブ・ホーセズ 『シーズ・トゥー・ビギン』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 ワシントン州シアトルで結成されたバンド、バンド・オブ・ホーセズの2ndアルバム。1stアルバム「Everything All The Time」に続き、シアトルを代表するインディペンデント・レーベル、サブ・ポップからのリリース。しかし、この2ndアルバムを最後に、彼らはサブ・ポップを離れます。

 プロデュースは、シアトルを中心に活動し、マッドハニーやフリート・フォクシーズも手がけるフィル・エク。

 エモいメロディーと歌唱が前面に出た、インディーロック。と書くと「エモいってなに?」って話なんですが、メロディーに起伏があり、ヴァースとコーラスが循環し盛り上がる構造があり、ボーカルは伸びやかでヴィブラートが多用され、思わずシングアロングしたくなるような楽曲群がおさめられている、ということ。

 このアルバムに限らず、バンド・オブ・ホーセズの奏でる音楽は、起伏の大きいわかりやすいメロディーを持ちながら、仰々しくなり過ぎず、アレンジも秀逸でメロディーばかりが前景化しないバランスが、絶妙だと思います。

 1曲目「Is There A Ghost」のイントロから、エモさ全開のボーカルが高らかにメロディーを歌い上げます。しかし、アレンジにはメジャー的な仰々しさはあまり感じられず、インディーらしい空気が随所に感じられます。

 2曲目「Ode To LRC」は、ところどころスキップするようにタメが作られ、緩やかにグルーヴしながら展開していく1曲。加速するのではなく、再生時間1:15あたりから減速してメロウな雰囲気を演出します。

 5曲目「The General Specific」は、ドラムとハンド・クラップが立体的に響き、みんなで輪になって歌いたくなる1曲です。キャンプファイヤーで歌いそうなポップさがあり、相変わらずボーカルはエモいのですが、モダンなインディーロックに仕上がっています。再生時間2:35あたりからのピアノが、緩やかに転がっていくようで心地よく、アクセントになっています。

 7曲目「Islands On The Coast」は、空間系エフェクターのかかったギターが重なり、厚みのあるサウンドを作り上げる1曲。ややテンポが速く、疾走感があります。ハイトーンのボーカルも、厚みのあるギターと共犯で楽曲を加速させていきます。随所に小刻みなリズムを差し込むドラムも、フックを作っています。

 10曲目「Window Blues」は、スローテンポのゆったりしたアンサンブルに乗せて、ボーカルも穏やかにメロディーを綴っていきます。各楽器が絡み合い、緩やかなグルーヴが形成される1曲。バンジョーの音が、カントリーの香りも振りまきます。

 前述したように、ボーカリゼーションとメロディーはエモいのですが、歌メロが前景化される、あるいは歌メロを盛り立てるための仰々しいアレンジが展開されるわけではなく、アンサンブルも等しく魅力的なインディーロック然としたアルバムです。

 また、収録されている楽曲群もバラエティに富んでいて、バンドの懐の深さを感じさせます。アメリカのインディーズ・バンドというと、カントリーやブルースなどルーツ・ミュージックの香りを漂わせるバンドが少なくないですが、このバンドはルーツ臭がしないのが、オリジナリティになっています。

 言い換えれば、ルーツ・ミュージックを現代的に再解釈するのではなく、自分たちの鳴らしたい音楽を鳴らしている、そしてその音がモダンで、オリジナリティに溢れているところが、このバンドの魅力だと思います。

 





In Tall Buildings “Akinetic” / イン・トール・ビルディングス『アキネティック』


In Tall Buildings “Akinetic”

イン・トール・ビルディングス 『アキネティック』
発売: 2018年3月2日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 イリノイ州シカゴを拠点に活動する、エリック・ホール(Erik Hall)によるソロ・プロジェクト、In Tall Buildingsの3rdアルバムです。

 矛盾するような言い回しですが、電子音がフィーチャーされた、ギターポップとでもいうべき音楽が展開されます。全体のサウンド・プロダクションは柔らかく、生まれるグルーヴも緩やか。アンビエントかつリラクシングな音像を持ったアルバムです。

 1曲目の「Beginning To Fade」は、ギターとピアノ、リズム隊が縦に重なり、グルーヴしていく1曲。アコースティック・ギターの音色も効果的に用いられ、柔らかな音像を持った曲です。

 2曲目「Akinetic」は、電子音と思しきサウンドを使ったミニマルなイントロから、少しずつ音が広がっていく展開。再生時間1:07あたりからの電子音が静かに降り注ぐ間奏は、幻想的かつキュート。

 3曲目「Long Way Down」。こちらも音数をかなり絞った、ミニマルなアンサンブルの1曲。電子音とアコースティック・ギターが支え合うように、アンサンブルを構成します。

 4曲目「Overconscious」は、バンド全体がゆったりと歩を進めるようなグルーヴのある1曲。ここまでの3曲と比較すると、リズムの形がはっきりとしています。

 6曲目「Siren Song」は、ドラムとアコースティック・ギターが細かくリズムを刻む、疾走感のある1曲。と言っても、一般的な意味からするとかなり音数は少なく、ミニマルな部類の曲です。

 7曲目「Curtain」は、バウンドするような細かい電子音と、柔らかな持続音が空間を埋めていく、テクノ色の濃いサウンド・プロダクションの1曲。

 音数が絞られたミニマルなアンサンブルが展開されるアルバムです。電子音が多用されていますが、冷たいという印象は無く、アコースティック・ギターやピアノのオーガニックな響きが効果的に配置され、ウォームな耳ざわりの作品になっています。

 音数を絞ることで、音響が前景化する面もありますが、随所にアヴァンギャルドな音やアレンジ、バンドを感じさせるグルーヴ(このグループは実質エリック・ホールのソロ・プロジェクトですが)が散りばめられ、ロック感もにじみ出ています。

 オルタナ・カントリーやポスト・ロックとも違う、「エレクトロニカ的インディーロック」とでもいうべき音楽です。

 





Circuit Des Yeux “In Plain Speech” / シルキュイ・デ・ジュー『イン・プレイン・スピーチ』


Circuit Des Yeux “In Plain Speech”

シルキュイ・デ・ジュー 『イン・プレイン・スピーチ』
発売: 2015年5月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ペンシルベニア州インディアナ出身の女性ミュージシャン、ヘイリー・フォール(Haley Fohr)のソロ・プロジェクト、シルキュイ・デ・ジューの5枚目のアルバム。彼女は、ジャッキー・リン(Jackie Lynn)の名義でも作品を発表しています。

 「エクスペリメンタル・フォーク」というジャンルにカテゴライズされることもある、シルキュイ・デ・ジュー。このアルバムも、フォーク的なオーガニックな楽器の響きと、アンビエントな電子音が共存した1作です。

 電子音を用いたエレクトロニカ的なサウンド・プロダクションと、繊細かつヴィブラートのかかった叙情的なボーカルが溶け合い、ソング・ライティングを引き立てる楽曲と、アンビエント色が濃く音響が前景化する楽曲が混在し、音楽性の幅の広いアルバムでもあります。

 2曲目の「Do The Dishes」は、回転するようなキーボードのフレーズの上に、叙情的なボーカルが乗る構造。ボーカル無しであったら、エレクトロニカのように聞こえる1曲です。再生時間1:51あたりからはストリングスが入り、曲に壮大さを加えています。再生時間2:16あたりからは、音数が絞られ、ミニマルでアンビエントな雰囲気に。

 3曲目「Ride Blind」は、2曲目からビートがシームレスに繋がり、イントロからしばらくはリズム隊とボーカルのみのシンプルなアンサンブル。その後、ストリングスが入ってくると、曲に奥行きが広がっていきます。再生時間2:15あたりからの展開も、曲に緊張感とスケール感をプラス。

 4曲目「Dream Of TV」は、イントロからフィールド・レコーディングと思しき音がバックに流れ、ミュート奏法によるアコースティック・ギターがリズムを刻む、ミニマルな展開。徐々に音が増加していき、サウンドスケープが広がっていきます。7分以上ある曲だけど、ボーカルが入っている部分はほんの僅か。しかも、いわゆる歌メロではなく「声を楽器として使った」と言った方が適切な1曲です。

 5曲目「Guitar Knife」は、はっきりとしたメロディーやビートは存在せず、音響が前景化したアンビエントな1曲。歌なしのインストで、エレクトロニカ的なアプローチです。

 6曲目「Fantasize The Scene」は、ギターのアルペジオと、高音域のボーカルが、幻想的な雰囲気を作り上げる1曲。

 7曲目「A Story Of This World」。アコースティック・ギターとストリングスの穏やかでオーガニックな響きに合わせ、ボーカルもヴィブラートをたっぷりかけ叙情的にメロディーを歌い上げます。

 アコースティック・ギターやストリングスなど生楽器の響きと、時に繊細な時にノイジーな電子音が溶け合い、幻想的でサイケデリックな雰囲気に包まれた1枚です。幽玄な空気を持ったボーカルも、サウンドと溶け合い、アルバムの世界観を作り上げています。

 実験性を色濃く持ちながら、ソング・ライティングが際立つ楽曲もあり、奥行きのある作品だと思います。

 





Dinosaur Jr. “You’re Living All Over Me” / ダイナソーJr.『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』


Dinosaur Jr. “You’re Living All Over Me”

ダイナソーJr. 『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』
発売: 1987年12月14日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Wharton Tiers (ウォートン・ティアーズ)

 マサチューセッツ州アマースト出身、グランジ・オルタナブームを代表するバンドのひとつ、ダイナソーJr.の2ndアルバム。

 1stアルバム『Dinosaur』は、ニューヨークを拠点にするインディー・レーベル、ホームステッド(Homestead Records)からのリリース。1stアルバムのリリース後、ニューヨークを拠点にするソニック・ユースに認められ、2ndアルバムである今作は、当時のソニック・ユースと同じくSSTからのリリースとなります。

 激しく歪んだギターを中心に据えて、多彩なアンサンブルが展開されるアルバム。ダイナソーJr.の魅力は、轟音一辺倒ではなく、同じ歪みでも適材適所でサウンドを使い分け、カラフルな世界観を描き出すところです。同時に、3人の個性がぶつかり合う緊張感、ヒリヒリとした焦燥感も共存しています。

 流れるようなメロディーと、ノイジーなサウンドが溶け合い、ダイナソーJr.特有の音世界が繰り広げられるアルバムです。

 1曲目「Little Fury Things」では、ワウがかかったギターと、圧縮されたようなノイジーなギター、ボーカルのシャウトが、イントロから鳴り響きます。歌メロが始まると、ボーカルは穏やかで、思いのほか緩やかなグルーヴが形成される1曲。ソニック・ユースのリー・ラナルドが、バッキングボーカルで参加しています。

 2曲目の「Kracked」は、野太く歪んだギターと、高音域を使ったギターが絡み合う、疾走感のある1曲。

 6曲目「Tarpit」は、圧縮されたギターのサウンドと、シンプルなリズム隊からは、シューゲイザーの香りもします。曲の終盤、再生時間3分過ぎからは、空間を埋め尽くす轟音ギターが押し寄せます。

 7曲目「In A Jar」は、シンプルながら、各楽器が有機的に絡み合うアンサンブルが展開される1曲。J-POP的な感性からすると、メロディーの展開や起伏が少なく淡々と進んでいきますが、単調という感じはしません。その理由はバンドのアンサンブルが前景化され、歌メロ以外にも聴くべき要素があるからでしょう。再生時間2:30あたりからのギターソロは、メロディアスに響きます。

 8曲目「Lose」は、イントロからギターが唸りをあげる疾走感あふれる1曲。複数のギターが重なり、音の壁のような厚みのあるサウンドを作り上げます。

 前述したとおり、多種多様なギターのサウンドを用いて、各楽器がせめぎ合うようなアンサンブルが構成される1作です。一体感というよりも、お互いの力を誇示するようなスリルがあります。

 そんなアンサンブルに、J・マスシスの無気力で気だるいボーカルが乗り、一聴するとノイジーでレイジーな雰囲気ですが、メロディーラインは耳に残り、彼のソング・ライティング能力の高さも垣間見えます。

 ダイナソーJr.のアルバムは、作品によって音質と音楽性に微妙に差違がありますが、本作『You’re Living All Over Me』は、彼らの作品のなかでも傑作と言っていい1作だと思います。

 





Dinosaur Jr. “Bug” / ダイナソーJr.『バグ』


Dinosaur Jr. “Bug”

ダイナソーJr. 『バグ』
発売: 1988年10月31日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)

 マサチューセッツ州アマーストで結成されたバンド、ダイナソーJr.の3rdアルバムです。2ndアルバム『You’re Living All Over Me』に続き、SSTからのリリース。

 1990年代のグランジ・オルタナブームを代表するバンドと目されるダイナソーJr.。現代的なハイファイ・サウンドから比較すれば、音圧が圧倒的に高いというわけではないけど、彼らの轟音ギターにはキレと奥行きがあり、時空を切り裂くように、なおかつ耳に心地よく響きます。

 「グランジ」や「オルタナ」といったジャンル名、また彼らの音楽性を形容するときにしばしば用いられる「轟音」というワードが帯びる先入観を抜きにして聴くと、音作りの巧みさ、特に歪んだギター・サウンドの多様性には驚かされます。

 1曲目「Freak Scene」は、イントロからクランチ気味のギターとリズム隊が、コンパクトなロックを響かせます。再生時間0:31あたりから、堰を切ったようになだれ込んでくる轟音ギター。クリーン・トーンから、激しく歪んだディストーションまで、様々なサウンドのギターを効果的に使い分けるのが、このバンドの魅力。

 2曲目「No Bones」は、イントロから、やや潰れたように歪んだギターが響きわたります。テンポは抑え目に、物憂げなボーカルと、激しく歪んだギターが溶け合い、スピードではなくサウンドでエモーションを描き出す1曲。再生時間1:35あたりから加わるアコースティック・ギター、再生時間1:57あたりから唸りをあげる歪んだギターなど、段階的に異なるサウンドのギターが用いられ、楽曲に奥行きと多彩さをもたらしています。

 3曲目「They Always Come」は、イントロから、倍音たっぷりの厚みのあるディストーション・ギターが曲を先導し、バンド全体もタメを使って加速感を演出する、疾走感のある1曲。

 5曲目「Let It Ride」は、金属的なサウンドのギターが、耳をつんざくように鋭く響き、ややルーズなボーカルも、ジャンクな雰囲気をプラスする1曲。

 7曲目「Budge」は、ギターのサウンドもコーラスワークも、多層的で厚みのある1曲。音が洪水のように押し寄せ、塊感のあるサウンドを持っています。

 「轟音」という意味では、もっと音圧が高く、一聴すると迫力のあるサウンドを鳴らすバンドはいますが、ダイナソーの魅力はサウンド・プロダクションにこだわりが感じられ、非常に耳ざわりが良いところです。

 歪みにも種類を持たせ、クリーントーンも効果的に導入し、楽曲をカラフルに彩っています。轟音一辺倒に頼るのではなく、コントラストによって轟音の効果を最大限に引き出すところもさすがだなと思いますね。