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Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife” / ガスター・デル・ソル『アップグレード・アンド・アフターライフ』


Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife”

ガスター・デル・ソル 『アップグレード・アンド・アフターライフ』
発売: 1996年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという、非常に個性の強い2人が集ったグループ、ガスター・デル・ソルの1996年リリースのアルバムです。

 アコースティック・ギターは不協和音を響かせ、ピアノは奇妙なフレーズを弾き、耳障りなノイズが飛び交い、アンビエントな電子音が持続し、飾り気のない優しい声のボーカルが歌う…このアルバムの音を言語化してみると、このようになります。

 いわゆるポップな音楽ではありませんが、アヴァンギャルドで取り付く島もないぐらいの作品かというと、そうでもありません。

 聴く人を選ぶ音楽であることは事実ですが、不協和音と思われていた響きが心地よく聞こえてきたり、耳障りなノイズと思っていた音が妙に耳に残ったり、という発見がいくつもある作品です。

 1曲目「Our Exquisite Replica Of “Eternity”」は、電子音が持続するアンビエントな1曲。再生時間2:30あたりから登場する、耳障りな高音ノイズがアクセント。

 2曲目「Rebecca Sylvester」は、どこか不穏な響きを持ったアコースティック・ギターに、素朴なボーカルが乗る1曲。途中から導入されるアンビエントな電子音が、不穏で幻想的な雰囲気をさらに色濃くします。

 3曲目「The Sea Incertain」は、捻れたピアノ・バラードといった空気の1曲。再生時間1:04あたりから近づいてくる電子音も、アンビエントで不可思議な空気感を演出します。アルバムを通して言えることですが、音質の選び方、音の置き方が、とても効果的だと思います。

 4曲目の「Hello Spiral」は、イントロから無数のノイズが飛び交い、それが過ぎ去ると、アンビエントな電子音とともに、牧歌的なボーカルとアコギが聞こえてきます。その後も再生時間2:30あたりから、複数のギターが重なっていったりと、次々と展開のある1曲。

 7曲目の「Dry Bones In The Valley (I Saw The Light Come Shining ‘Round And ‘Round)」は、フィンガー・スタイル・ギターの名手、ジョン・フェイヒィ(John Fahey)のカバー。イントロからアコースティック・ギターが大活躍し、アルバムの流れの中でほっとする1曲です。

 前述したとおり、明確な形式も持たず、誰でも楽しめる作品というわけではありませんが、随所にデイヴィッド・グラブスとジム・オルークという2人の鬼才の存在感が溢れる、スリリングな1作です。

 正直、一般的にはちょっと敷居が高いアルバムだとは思うのですが、ジム・オルークの歌モノが好きな方などにも、聴いてみてほしいです。

 





Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly” / ガスター・デル・ソル『クルックト・クラックト・オア・フライ』


Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly”

ガスター・デル・ソル 『クルックト・クラックト・オア・フライ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークの双頭グループ、ガスター・デル・ソルの1994年リリースのアルバムです。

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという個性の強い2人、さらにかつてはジョン・マッケンタイアとバンディー・K・ブラウンが在籍していたことでも有名。本作のレコーディングには、ジョン・マッケンタイアも参加しています。

 本作『Crookt, Crackt, Or Fly』を一言であらわすなら、アコースティック・ギターを中心に据えた、実験的ポップス、といったところでしょうか。アコースティック・ギターを主軸に、電子音や激しく歪んだエレキ・ギター、素朴なボーカルが絡み合う1作です。

 奇妙なフレーズと不協和音を奏で続けるアコースティック・ギター、ときには牧歌的、ときにはスポークン・ワードのように感情を排した歌い方をするボーカルが、ある意味ではバランスの取れた組み合わせと言えます。

 歌とアコギが入っていると聞けば、歌モノの作品を想像してしまいますが、本作はいわゆるアコギの弾き語りのような音楽を想像して聴くと、期待を裏切られることでしょう。

 1曲目の「Wedding In The Park」は、フィールド・レコーディングされた虫の音と、飾り気のないボーカルが重なる1分ほどの曲。アルバムへのイントロダクション的な役割の曲ということでしょう。

 2曲目の「Work From Smoke」は、イントロからアコースティック・ギターが、不協和音を織り交ぜ、アヴァンギャルドなフレーズをひたすら弾き続けます。やがて飾り気のないボーカルが重なり、後半はアンビエントな持続音が、不穏な空気を醸し出す展開。

 4曲目の「Every Five Miles」も、アコースティック・ギターが実験的なサウンドを響かせる1曲。なにが協和で、なに不協和なのか、わからなくなってきます。

 5曲目の「Thos.Dudley Ah! Old Must Dye」は、奇妙な響きのアコースティック・ギターと、奥の方で鳴るノイズに、純粋無垢なボーカルが溶け合う…ような、溶け合わないような1曲。

 6曲目「Is That A Rifle When It Rains?」は、切れ味鋭く歪んだエレキ・ギターと、スポークン・ワードのようなメロディー感の希薄なボーカルが噛み合う、ロックでジャンクな1曲。

 8曲目の「The Wrong Soundings」は、14分を超える大曲。ここまでのアルバムを総括するように、不穏な響きのアコースティック・ギター、ジャンクに歪んだエレキ・ギター、アンビエントな空気感などが、コラージュのように重なり合う1曲です。

 前述したように、アコースティック・ギターを中心にした、歌も入った曲でありながら、一般的なロックやポップスを聴く感覚からすると、全くポップではありません。

 しかし、そこまで敷居の高い作品かというとそうでもなく、不協和だと思っていた響きが心地よく思えてきたり、奇妙なフレーズがやけに耳に残ったり、という体験をできるのが本作です。

 聴く人をある程度選ぶ作品だとは思いますが、気になった方はぜひとも聴いてみてください!

 





Tortoise “Tortoise” / トータス『トータス』


Tortoise “Tortoise”

トータス 『トータス』
発売: 1994年6月22日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの記念すべきデビュー・アルバムです。

 この後の彼らの作品と比較すると、各楽器の音色も、全体のサウンド・プロダクションも、非常にシンプル。その代わりに、バンドが鳴らす音とアンサンブルが、むき出しのまま前景化される印象を受けます。

 シカゴ音響派という言葉でくくられることも多いトータス。本作は彼らのアルバムの中で、最も音響的な作品であると言えるかもしれません。

 1曲目は「Magnet Pulls Through」。アンビエントな電子ノイズが全体を包み、メロディーやリズムよりも、音響が前景化されたイントロ。しかし、再生時間1:05あたりからベース、続いてドラムが入ってくると、次第に躍動感が生まれ、形を持った音楽がゆっくりと目を覚まし、立ち上がります。

 2曲目「Night Air」は、スローテンポにのせて、各楽器がレイヤーのように重なりながら、漂っていく1曲。全くメロディアスではありませんが、ボーカルらしき声も入っています。しかし、メロディーやリズム、バンドのアンサンブルが前景化されるのではなく、あくまで全体のサウンドの響きを優先したような聴感。

 3曲目「Ry Cooder」は、イントロから比較的つかみやすいフォームを持って始まります。再生時間1:00あたりからの、うなりをあげるギターなど、進行感もあり、一般的なポップ・ミュージックに近い形式の1曲。と言っても、ヴァースとコーラスが循環するわけでは決してなく、刻一刻と変化を続けるサウンドスケープと言ったほうが適切。

 6曲目「Spiderwebbed」は、違和感を強く感じさせる奇妙なベースのフレーズが繰り返され、ギターやドラムが入り、徐々に音楽が形を明らかにするような展開。

 8曲目「On Noble」は、ドラムのリズムを中心に、緻密なアンサンブルが展開される1曲。再生時間0:36あたりで、ドラムが立体的にリズムを刻み始めてからのグルーヴ感が心地よい。

 10曲目「Cornpone Brunch」は、遊び心のあるイントロの後、各楽器が絡み合い、タベストリーのように美しいアンサンブルを編み込んでいく1曲です。模様が次々と変わっていくような、常に変化を続ける展開には、トータスらしさが凝縮されています。

 余計な飾り気なく、オーガニックな響きの楽器を用いて、淡々とアンサンブルを構成していく本作。全体のサウンドはどこか懐かしく、暖かみがありながら、無駄を一切削ぎ落としたストイックな雰囲気も漂います。

 アンサンブルの面でも、ポスト・プロダクションの面でも、今後のトータスと比較していまうと実験性や革新性は控えめですが、その代わりにバンド本来の音響とアンサンブルが、前景化された作品であるとも思います。

 このあとに発表される、2ndアルバム以降の作品があまりにも素晴らしいので、やや霞んでしまいますが、本作も優れたクオリティを持った作品であるのは間違いありません。

 





Tortoise “TNT” / トータス『TNT』


Tortoise “TNT”

トータス 『TNT』
発売: 1998年3月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 この作品が紹介される際には、プロ・ツールスを使用したハードディスク・レコーディング、およびポスト・プロダクション云々といった話が、必ずと言っていいほど取り上げられます。確かにポスト・プロダクションによる音楽の解体・再構築のプロセス、そして出来上がった音楽の革新性には驚くべきものがあります。

 しかし、そうした話は多くの批評家やライターの方が書きつくしていると思いますので、ここでは実際にどんな音が鳴っているか、どのあたりが聴きどころなのか、というポイントに絞って、本作『TNT』をご紹介します。

 アルバムの幕を上げる1曲目の「TNT」は、イントロからさりげなく音出しをするようなドラムが、徐々に複雑なリズムを刻み、ギターをはじめ、多種多様なサウンドが折り重なるように加わっていきます。最初はバラバラのように思われたそれぞれの音が、やがて絡み合い、一体の生き物のようにいきいきと躍動していきます。

 ヴァース-コーラスが循環するような明確な形式は持たないものの、何度も顔を出すギターのフレーズに、また別の楽器のフレーズがレイヤーのように重なり、実に多層的でイマジナティヴな1曲です。

 2曲目「Swung From The Gutters」は、アンビエントな音響のイントロから、徐々にリズムが加わり、躍動感が増していく展開。再生時間0:41あたりから、スイッチが切り替わり、バンドが走り出す感じがたまらなくクールです。

 3曲目「Ten-Day Interval」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、音が増殖して広がっていくような1曲。ひとつひとつの音が、やがて音楽となり、その場を満たしていくような感覚があります。ヴィブラフォンなのか、マレット系の打楽器と思われるサウンドも、幻想的な雰囲気を生み出しています。

 5曲目「Ten-Day Interval」は、電子音とアナログ・シンセと思われるサウンドが絡み合い、不思議なグルーヴ感を生んでいく1曲。一般的なロックやポップスでは前景化されない音ばかり使われていますが、全ての音が心地よく、サウンド・プロダクションがとにかく良い。

 7曲目の「The Suspension Bridge At Iguazú Falls」は、アンサンブル的にもサウンド的にも、各楽器が溶け合うような、溶け合わないような、穏やかな雰囲気とわずかな違和感を持って進行していきます。再生時間1:00あたりから、風景が一変するようにアンビエントな音響へ。1曲を通しての変化とコントラストが大きく、次になにが起こるかわからない期待感が常にあります。

 11曲目「Jetty」は、ミニマル・テクノのようなイントロから、リズムやサウンドが満ち引きし、様々に表情を変えていく1曲。

 アルバム全体を通して、リラクシングな雰囲気が漂い、いきいきと躍動する自由な音楽が、とめどなく溢れてくる作品です。ロックやポップスが普通持っている明確なフォームは存在しませんが、難しい音楽ということはなく、自由に楽しめる音楽だと思います。

 さり気ない落書きがジャケットに採用されているのも示唆的。ポスト・プロダクション云々の小難しい話は脇に置いて、まずは気楽に音楽と向かい合ってくれということでしょうか。

 歌メロを追う、定型的なリズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、スリリングかつリラクシングな音楽の詰まったアルバムです。偏見なしに、自由な気持ちで聴いてみてください!

 





Don Caballero “Singles Breaking Up (Vol. 1)” / ドン・キャバレロ『シングルス・ブレイキング・アップ (Vol. 1)』


Don Caballero “Singles Breaking Up (Vol. 1)”

ドン・キャバレロ 『シングルス・ブレイキング・アップ (Vol. 1)』
発売: 1999年1月12日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロのシングル収録曲を集めた、コンピレーション・アルバムです。1992年から1998年の間に発売されたシングルから12曲を収録、未発表曲を1曲加え、計13曲が収録されています。

 シングル盤に入っていた曲を集めたコンピレーション作品、なおかつ6年間にわたる時期の作品を収録しているので、曲順やアルバムのコンセプトがどうこうという作品ではありませんが、彼らの音楽性に共通するエッセンスが、確認できる作品であると思います。

 1992年から1998年というと、1stアルバム『For Respect』が発売される前年から、3rdアルバム『What Burns Never Returns』が発売される年まで、にあたります。そのため本作は、彼らの音楽性の変遷を確認するサブテキストとしても、楽しめると思います。

 1枚目のアルバム『For Respect』では、轟音ギターをはじめとしたパワフルなサウンドで押しまくっていた彼らが、2枚目、3枚目と作品を重ねるごとに、より緻密で繊細なサウンド・プロダクションとアンサンブルを構成していきます。

 本作の1曲目から5曲目に収録されているのは、1992年にリリースされた音源。『For Respect』が発売される前年です。この時期の音源は、激しく歪んだファットな音質のギターが全面に出ていて、メタルやハードコアの影響が色濃く出ています。『For Respect』以上に、ラフでラウドな耳ざわりの曲が続きます。

 もちろん、彼ら得意の変拍子や変態的なフレーズを取り入れた、複雑なアンサンブルも聴かれるのですが、まだまだ粗削りで、初期衝動を暴発させるようなパワーに満ち溢れています。この時期のドン・キャバレロの方が、音がパワフルで好きという人もいらっしゃるかもしれません。

 6曲目と7曲目は、1993年にタッチ・アンド・ゴーからリリースされたシングル『Our Caballero / My Ten Year Old Lady Is Giving It Away』からの収録。タッチ・アンド・ゴー契約後ということもあり、アンサンブルもサウンド・プロダクションも、かなり洗練された印象。

 8曲目と9曲目は、同じく1993年にリリースされたシングル『And And And And And And And And And And』からの収録。こちらは、デトロイトのThird Gear Recordsというレーベルから発売されています。この2曲もタイトなアンサンブルで構成され、なかなかの良曲。

 10曲目の「No More Peace And Quiet For The Warlike」は、未発表曲です。レコーディングされた時期など、詳細は調べがつきませんでしたが、イントロから鐘のような音が響き、ギターのサウンドも時空を切り裂くように鋭く歪んでいて、音響が前景化された1曲という印象を持ちました。再生時間1分過ぎから、徐々に音数が増え、音楽が姿を現し始めます。

 11曲目の「If You’ve Read Dr. Adder Then You Know What I Want」は、1995年リリースの『Sixty Second Compilation』というコンピレーションに収録されていた楽曲。このコンピ盤は、その名の通り60秒の曲を集めた作品だったようです。各楽器がそれぞれリズムを刻み、それらがかみ合うわけでもない、本作の中で最もアヴァンギャルドな1曲。

 12曲目と13曲目は、1997年にタッチ・アンド・ゴーからリリースされたシングル『Trey Dog’s Acid』から収録。12曲目「Trey Dog’s Acid」は、ゆったりとしたテンポのなか、徐々に各楽器がかみ合っていく、ドン・キャバレロらしい展開。音質も良いです。

 13曲目「Room Temperature Lounge」は、シンプルなフレーズを繰り返すギター、淡々とリズムを刻むベース、独特のタイム感で複雑なリズムを生み出していくドラムが、有機的に絡み合う、緻密なアンサンブル。

 前述したようにコンピレーション・アルバムですから、アルバムとしての色やコンセプトがあるわけではありません。しかし、通しで聴いてみると、基本的には年代順に曲が並んでいるということもありますが、不思議とアルバム作品にある流れが感じられました。

 こういった作品は、一部の熱心なファンやコレクター以外は手を出しにくいと思いますが、粒ぞろいの曲が揃っていて、彼らの裏ベストとしておすすめできます。(とはいえ、ドン・キャバレロを未聴の方が、最初に聴くべき作品ではなく、まずはオリジナル・アルバムの方を優先しておすすめしたい…)