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Two Gallants “Two Gallants” / トゥー・ギャランツ『トゥー・ギャランツ』


Two Gallants “Two Gallants”

トゥー・ギャランツ 『トゥー・ギャランツ』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Alex Newport (アレックス・ニューポート)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの3rdアルバム。2人とも複数の楽器をこなしますが、基本編成はギター・ボーカルとドラム。

 前作『What The Toll Tells』では、アコースティック・ギターを主軸にした2ピースとは思えぬ、荒々しく躍動的なサウンドを響かせていたトゥー・ギャランツ。その音楽性は、フォークとブルースとパンクが融合した、とでも言いたくなるものでした。

 およそ1年半ぶりとなる本作では、ダイナミズムは抑えめに、よりフォーク色の濃い、牧歌的な演奏が展開されています。パンクやオルタナティヴ・ロックの要素よりも、ルーツ・ミュージックが前景化されたアルバムとも言えるでしょう。

 1曲目「The Deader」は、空気に染み入るようなギターのイントロに続いて、ゆるやかな躍動感を伴った立体的なアンサンブルが展開する1曲。バンド全体が、一体の生き物のように、いきいきと進行します。

 2曲目「Miss Meri」では、コミカルなギターのイントロから始まり、ドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいきます。この曲は、とにかくドラムが素晴らしく、歌うように表情豊か。

 4曲目「Trembling Of The Rose」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、ストリングスが随所でヴェールのように、全体を包み込む1曲。

 6曲目「Ribbons Round My Tongue」は、ギターとハーモニカが織りなす穏やかなイントロに導かれ、ブルージーなボーカルがメロディーを紡いでいく1曲。音数を絞った隙間の多いアンサンブルですが、スカスカという感覚は無く、一音一音が染み入るように響きます。再生時間2:39あたりから始まる、泣きのハーモニカも聴きどころ。

 7曲目「Despite What You’ve Been Told」は、チクタクチクタクと軽やかにリズムを刻むギターに、パワフルなバスドラが重なり、徐々に立体感と躍動感を増していきます。

 9曲目「My Baby’s Gone」は、ギターとボーカルを中心とした、ゆっくりと音が広がるパートと、バンドが躍動感たっぷりにスウィングするパートが交互に訪れる、コントラストが鮮やかな1曲。

 躍動感とダイナミズムにおいては、前作より控えめ。しかし、いきいきとした躍動的なアンサンブルは健在です。音量や音数は抑えめに、音の組み合わせによってダイナミズムを演出する、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムとも言えます。

 個人的には、パワフルな音像と、パンキッシュな疾走感を持った、前作の方が好みですが、本作も優れた質を持った作品であることは、間違いありません。

 





Two Gallants “What The Toll Tells” / トゥー・ギャランツ『ホワット・ザ・トール・テルズ』


Two Gallants “What The Toll Tells”

トゥー・ギャランツ 『ホワット・ザ・トール・テルズ』
発売: 2006年2月13日(イギリス), 2006年2月21日(アメリカ)
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Scott Solter (スコット・ソルター)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの2ndアルバム。バンド名の由来は、アイルランドの小説家・ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の短編小説集『ダブリン市民』(Dubliners)に収録の小説タイトルから。

 「フォーク・デュオ」というと、ゆずやコブクロを想像する方も、いらっしゃるでしょう。トゥー・ギャランツも、アコースティック・ギターを主軸にした2人組であり、フォーク・デュオと呼んでも差し支えありません。しかし、ギターに合わせて、爽やかにハモるグループを想像すると、見事に予想を裏切られます。

 しばしば「パンクとブルースを注入したフォーク・ロック」と形容されるぐらい、パワフルで躍動感に溢れた演奏を展開するのが、トゥー・ギャランツの特徴。本作も、サウンドの面では、アコギやハーモニカを用いて、フォーク的でありながら、ロックが持つ高揚感とダイナミズムを、多分に含んだ音楽を繰り広げています。

 1曲目の「Las Cruces Jail」は、木枯らしが吹きぬける中を、ブルージーなギターと笛が鳴り響くイントロから始まります。その後、ボーカルが入ってきて、バンドによる演奏が始まるのですが、アコースティック楽器を主軸にしながらも、ドタバタと躍動するアンサンブルと、かすれながらもパワフルにシャウトするボーカルに、圧倒されることでしょう。

 2曲目「Steady Rollin’」は、ギターのアルペジオを中心にした、牧歌的なサウンドを持った1曲。穏やかな雰囲気ながら、ボーカルはパワフルで、ドラムは立体的。リズムが伸縮するように躍動します。

 4曲目「Long Summer Day」では、各楽器とも飛び跳ねるように躍動し、立体的でいきいきとしたアンサンブルが展開。フォーキーなサウンドと、パンクの攻撃性、ブルースの土臭さが溶け合った、カラフルな1曲です。

 5曲目「The Prodigal Son」は、ギターとドラムを中心に、全ての楽器がリズムを噛み合い、ゆるやかなグルーヴ感を持った演奏が展開する1曲。

 6曲目「Threnody」は、9分を超えるスローテンポのバラード。前半はボーカルとギターが、丁寧に音を紡いでいき、再生時間1:45あたりからドラムが入ってくると、アンサンブルが立体的に広がっていきます。

 7曲目「16th St. Dozens」は、本作には珍しく、激しく歪んだギター・サウンドが用いられた1曲。アコースティック楽器のみでも十分パワフルで、ダイナミズムの大きいトゥー・ギャランツですが、この曲ではノイジーでジャンクなギターの歪みが、サウンドにさらなる厚みをもたらしています。

 8曲目「Age Of Assassins」では、みずみずしい音色のギターと、立体的なドラムが、飛び跳ねるように躍動していきます。テンポを随所で切り替え、サウンドとリズムの両面でコントラストの鮮やかな1曲。

 9曲目「Waves Of Grain」では、いつにも増して、ボーカルがエモーショナル。ドラムが叩きつけるようにリズムを刻み、ギターはその間を埋めるように音を紡いでいきます。リズムが次土と変化し、色彩豊かな展開を見せる1曲。

 オーガニックな楽器の響きを使いながら、パンクやハードロックにも負けないダイナミズムを実現しているアルバムです。

 アコースティック・ギターとドラムがアンサンブルの中心ですが、エレキを用いたロックバンドにも負けない、パワフルなサウンドと躍動感を持っています。また、適度にざらついたボーカルの声にも、ブルースとパンクを合わせた魅力があります。

 トゥー・ギャランツが結成されたサンフランシスコというと、同じくフォークを基調とした2人組・ドードース(The Dodos)の出身地でもありますが、サンフランシスコにはフォークをダイナミックに響かせる土壌があるのでしょうか?

 そのように感じるほど、両者ともフォークを下敷きに、ロック的なダイナミズムに溢れた音楽を鳴らしています。

 日本には似ているバンドがありませんし、ドードースと並んで、心からオススメしたいバンドのひとつです。

 





Kinski “Down Below It’s Chaos” / キンスキー『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』


Kinski “Down Below It’s Chaos”

キンスキー 『ダウン・ビロウ・イッツ・ケイオス』
発売: 2007年8月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの通算6枚目のスタジオ・アルバム。地元シアトルの名門、サブ・ポップからのリリースで、同レーベルからは3作目となります。

 実験性とロックのダイナミズムが同居しているのが、キンスキーの音楽の特徴。本作でも、ノイジーに荒れ狂うギターや、音響的なアプローチを散りばめながら、同時に疾走感あふれる演奏や、丁寧に編み上げたアンサンブルが、無理なく共存しています。

 1曲目「Crybaby Blowout」は、ギターの整然としたフレーズに、タイトなドラム、ロングトーンで隙間を埋めるベースが重なるイントロからスタート。徐々に音数が増え、それに比例して疾走感も増していきます。

 2曲目「Passwords & Alcohol」は、空間を広く使ったドラムを中心に、立体的なアンサンブルが構成される1曲。穏やかな曲想ですが、パワフルで躍動的な演奏が繰り広げられます。このバンドには珍しく、ボーカル入り。

 3曲目「Dayroom At Narita Int’l」は、ミドルテンポに乗せて、ゆったりと歩みを進めるようなグルーヴ感を持った1曲。前曲に続いて、この曲もボーカル入りです。

 4曲目「Boy, Was I Mad!」は、アンサンブルに隙間が多く、曲想も寂しげな前半から、ざらついた歪みのギターと、ドンドンとパワフルに打ちつけるドラムが加わり、疾走感あふれる後半へと展開する1曲。

 5曲目「Argentina Turner」は、引きずるような、スローテンポに乗せて、ゆったりとした躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。空間系エフェクターを用いた、みずみずしいクリーントーンのギターと、毛羽立った歪みのギターが溶け合い、色彩豊かなサウンドを作り上げています。

 6曲目「Child Had To Catch A Train」は、複数のディストーション・ギターを中心にした、タイトに躍動するロック・チューン。キーボードの音色が、60年代から70年代のオールドロックを彷彿とさせ、アクセントになっています。

 7曲目「Plan, Steal, Drive」。前半にはビートが無く、ギターの音が増殖していくような、音響的なアレンジ。音の中を泳ぐような、心地よいサウンド・プロダクションが続きますが、再生時間5:23あたりでドラムが入ってくると、今度はバックビートの効いた、躍動的な演奏へと一変します。

 8曲目「Punching Goodbye Out Front」は、ハードロック的なギターのイントロから始まり、パンキッシュに疾走する演奏が繰り広げられます。ボーカルが入り、キンスキーには珍しい、コンパクトな歌モノのロックです。

 9曲目「Silent Biker Type」は、ギターの音と電子音が漂う、不穏な空気でスタート。当初は音響を前景化したエレクトロニカ的なアプローチですが、再生時間2:32あたりでドラムが入ってきてからは、徐々にロック的なグルーヴが生まれていきます。

 ボーカル入りの曲が、3曲収録されているのも示唆的ですが、キンスキーの作品の中でも、構造のはっきりした曲が多く、聴きやすい1作です。

 しかし、サイケデリック・ロックやクラウトロックの影響を感じさせる要素も残っており、構造をわかりやすく単純化した作品というわけではありません。彼らの持つ実験性とダイナミズムが、バランス良く表出した作品と言えるでしょう。





Kinski “Alpine Static” / キンスキー『アルペン・スタティック』


Kinski “Alpine Static”

キンスキー 『アルペン・スタティック』
発売: 2005年7月12日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの5thアルバム。前作『Don’t Climb On And Take The Holy Water』は、ストレンジ・アトラクターズ・オーディオ・ハウス(Strange Attractors Audio House)というシアトルの小規模レーベルからのリリースでしたが、本作は3rdアルバムに続いて、再び名門サブ・ポップからリリースされています。

 ループ・ミュージック的なフレーズの反復、電子音と轟音ギターによる音響的なアプローチ、はたまた完全即興など、実験的なアプローチの目立つキンスキー。しかし、5作目となる本作では、グルーヴ感と疾走感に溢れた、ロックンロールが繰り広げられます。

 もちろん、いわゆる歌モノではなく、ボーカルのいないインスト・バンドであり、従来のポストロック的なアプローチも見られるのですが、ロックのスタンダードなダイナミズムと、ノリの良さを持ったアルバムとなっています。

 1曲目「Hot Stenographer」は、エフェクト処理されたギターと電子音による、音響的なイントロから始まるものの、再生時間1:02あたりから、タイトかつパワフルに疾走するロックンロールがスタート。

 2曲目「The Wives Of Artie Shaw」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、各楽器が絡み合う、躍動的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Hiding Drugs In The Temple (Part 2)」は、「ワン、ツー、スリー、フォー!」というカウントから始まる、疾走感抜群の1曲。マグマが噴出するかのような勢いと、前への推進力があります。ギターの音作りとコード感には、ソニック・ユースの面影もあり。

 4曲目「The Party Which You Know Will Be Heavy」は、各楽器のフレーズが有機的に組み合うイントロからスタート。バンド全体でタペストリーを作り上げるような、丁寧なアンサンブルから始まり、徐々にギターが過激なサウンドを足し、ロックのダイナミズムが増していきます。

 7曲目「The Snowy Parts Of Scandinavia」は、不穏な電子音と、ギターの断片的なフレーズが漂う前半から、轟音ギターのアグレッシヴなサウンドが押し寄せ、グルーヴ感あふれる後半へと展開する1曲。

 キンスキーとしては意外、と言うと語弊があるかもしれませんが、ストレートなロックが前面に押し出されたアルバムです。

 これまでの作品は、どちらかと言うとクラウトロックやサイケデリック・ロックの要素が色濃く出ていました。しかし本作では、ハードロック的なサウンドと構造に、ソニック・ユースを彷彿とさせる実験的なアプローチが溶け込み、ロックのエキサイトメントを多分に含んだ1作となっています。





Kinski “Airs Above Your Station” / キンスキー『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』


Kinski “Airs Above Your Station”

キンスキー 『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』
発売: 2003年1月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Kip Beelman (キップ・ビールマン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの3rdアルバム。本作から、地元シアトルの名門レーベル、サブ・ポップと契約。同レーベルからリリースされる、1作目のアルバムとなります。

 彼らのこれまでのリリースを振り返ると、まず自主制作にて1stアルバム『SpaceLaunch For Frenchie』をリリース。2ndアルバム『Be Gentle With The Warm Turtle』を、同じく自主リリースしたのち、パシフィコ・レコーディングス(Pacifico Recordings)という小規模なレーベルから再発。

 前述のとおり、本作はサブ・ポップからリリースされており、本格的なレーベルを通してリリースされる、キンスキー初のアルバムです。

 ジャンルとしては、ポストロックに括られることの多いキンスキー。しかし「ポストロック」と一口に言っても、バンドによって音楽性と方法論は、大きく異なります。その多様性が、ポストロックに括られる音楽の面白さでもあるのですが。

 話の見通しを良くするために、音響とアンサンブルに分けて、本作の音楽を紐解いていきましょう。

 まずは、音響面について。本作では、シンセサイザーによるエレクトロニカ的な電子音と、圧倒的な量感で迫り来る轟音ギターを用いて、音響を重視したアプローチがたびたび見受けられます。しかし、同時に楽器の生々しさを前面に出した、臨場感を持ったサウンド・プロダクションも共存。

 続いて、アンサンブルについて。本作を聴いていて気がつくのは、ループ・ミュージュク的な繰り返しが多用されていること。しかし、ミニマリズムに振り切ったアルバムというわけではなく、繰り返しの中から、ロック的なリフのダイナミズムや、グルーヴ感が生まれていきます。

 ロック的なダイナミズムやグルーヴを、ループする演奏の中に落とし込み、前景化。ロックの持つエッセンスが、一般的なロック・ミュージック以上に、凝縮したかたちで提示されていきます。ロックのフレーズや音色を用いながら、全く違う方法論で、違う音楽を作り上げている本作は、ポストロックと呼んでしかるべきでしょう。

 アルバムの始まりを告げる、1曲目の「Steve’s Basement」は、ぼんやりとした音の壁のような電子音で始まります。徐々に音数が増えて、厚みを増していくサウンド。この時点では、ビートもコード進行も無く、音響を前景化するアプローチです。

 再生時間3:03あたりからギターが入ってくると、今度はタペストリーのように音楽が編まれていきます。そして、再生時間5:23あたりからベースとドラムが入ってくると、各楽器が絡み合い、波打つように躍動する演奏が、繰り広げられます。1曲の中で音響的なアプローチから、アンサンブル重視のアレンジへと飛躍し、このバンドの魅力が、たっぷりと詰め込まれた曲です。

 2曲目「Semaphore」では、トレモロによって一定間隔で響くギターに、飛び道具的な高音や、タイトなドラムが重なっていきます。ミニマルなギターの音に耳を傾けていると、そのギターの音が変化し始め、再生時間2:15あたりから、轟音ギターがなだれ込んできます。ミニマルな前半と、ダイナミックな後半のコントラストが鮮やかな1曲。

 3曲目「Rhode Island Freakout」は、電子ノイズ的なイントロから始まり、荒々しくパワフルなアンサンブルが展開する1曲。ドラムのビートがはっきりと刻まれる部分は、ロック的なノリの良さを存分に持っています。ギターの音作りも、いい意味で下品で、ソニック・ユース(Sonic Youth)を彷彿とさせます。

 4曲目の「Schedule For Using Pillows & Beanbags」は、11分を超える大曲。音数を絞り、丁寧にアンサンブルが編まれていく前半から、荒々しく轟音が押し寄せる後半へと展開していきます。

 5曲目「I Think I Blew It」は、電子音とエフェクターの深くかかったギターが用いられ、音響を重視した、エレクトロニカ的なサウンドを持った1曲。

 6曲目「Your Lights Are (Out Or) Burning Badly」は、電子音の響く不気味な前半から、ギターが加わり穏やかな中盤、爆音アンサンブルの後半へと展開していく、壮大な1曲。

 7曲目「Waves Of Second Guessing」は、音が増殖していくような、ミニマルでサイケデリックな前半から、後半では打って変わって、疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。

 ラストの8曲目「I Think I Blew It (Again)」は、多様な音によるロングトーンが幾重にも連なり、壮大な音の壁を作り上がる1曲。とにかく音の響きが心地よく、穏やかな音が広がっていきます。

 音数を絞ったミニマルなアレンジから、轟音のクライマックスへ。繰り返しを多用したループ・ミュージック的な演奏から、複雑怪奇なアンサンブルへ。そのような、振れ幅の大きいダイナミックな展開を、無理なく実現しているのが本作です。

 静寂から轟音へ、という展開は、もはやポストロックのひとつの型になっており、陳腐な展開になりかねない危険性もはらんでいます。しかし、キンスキーはそこにループ・ミュージックの要素を持ち込み、音量だけでなく、アンサンブルの面でもコントラストを演出しているところが、特徴と言えるでしょう。

 ループ・ミュージックをはじめ、クラウトロックやハードロック、サイケデリック・ロックまでを消化し、ポストロック的な手法で仕上げたキンスキーの手腕は、本当に見事!