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The Thermals “The Body The Blood The Machine” / ザ・サーマルズ『ザ・ボディ・ザ・ブラッド・ザ・マシーン』


The Thermals “The Body The Blood The Machine”

ザ・サーマルズ 『ザ・ボディ・ザ・ブラッド・ザ・マシーン』
発売: 2006年8月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brendan Canty (ブレンダン・キャンティ)

 オレゴン州ポートランド拠点のバンド、ザ・サーマルズの前作から約2年半ぶりとなる3rdアルバム。

 プロデューサーは、前作のクリス・ウォラに代わり、フガジ(Fugazi)のブレンダン・キャンティが担当。

 ガレージロック風味の荒々しいサウンドとアンサンブルに、流麗なボーカルのメロディーが合わさり、ラフさとポップさを持ち合わせた音楽性が魅力のザ・サーマルズ。3作目となる本作では、過去2作と比べると疾走感は控えめに、よりアンサンブルを重視した音楽を展開しています。

 1曲目「Here’s Your Future」は、まずイントロのオルガンが、新たな音楽性の広がりを予感させます。その後はジャカジャカと前作までを彷彿とさせるギターに、ドタバタと弾むようなドラムが重なり、躍動感を演出。疾走感に溢れつつも、タイトに絞り込まれたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「I Might Need You To Kill」は、ゆったりと波を打つようなリズムに乗せて、ボーカルのメロディーが前景化される、ミドルテンポの1曲。ギターは歪みながらも、各弦のツブが立って分離して聴き取れる、厚みのあるサウンド。

 4曲目「A Pillar Of Salt」は、ギターの分厚いコード弾きと、単音によるフレーズ、バンドの上を走り抜けるようにメロディーを紡ぐボーカル、タイトで立体的なリズム隊と、それぞれの楽器の組み合い、疾走感あふれる演奏を繰り広げる1曲。ノリの良い曲ですが、アレンジは無駄がなく練り込まれ、機能的です。

 5曲目「Returning To The Fold」は、縦に覆いかぶさるようなリズムで、立体的なアンサンブルが作り上げられる1曲。リズム・ギターとベースとドラムによるタイトなリズム隊の上に、ラフで自由なギター・ソロとボーカルが乗り、縦にも横にも広がりのある演奏。

 6曲目「Test Pattern」は、シンプルで無駄を省いたサウンド・プロダクションによる、ミドルテンポの1曲。テンポが速いわけでも、音圧が高いわけでもありませんが、弾むようなリズムからは、ゆるやかなグルーヴ感が生まれ、バンド・アンサンブルの魅力を多分に持っています。

 9曲目「Power Doesn’t Run On Nothing」は、ややテンポが速く、タイトで疾走感のある1曲。リズムを重視し、抑え気味にメロディーを歌い上げるボーカルも、疾走感を生んでいきます。

 10曲目「I Hold The Sound」は、ドタバタ感のある、パワフルで立体的なアンサンブルが展開される1曲。ドラムの生き生きと弾むようなサウンドだけでも、体が動き出すほど躍動感があります。再生時間2:11あたりからのドラムのみになり、その後ボーカルや他の楽器が加わるアレンジも、立体的かつ躍動感に溢れ秀逸。

 スピードを抑えたミドル・テンポの曲が増加した本作。各楽器が絡み合い、バンドが一体の生き物のように躍動する、グルーヴ感を重視した演奏が、アルバム全体をとおして展開されています。

 前述のとおり、ブレンダン・キャンティがプロデュースを担当するということで、フガジに近い生々しく尖ったサウンド・プロダクションになっているのではないかと想像していました。本作のサウンドは、フガジのように鋭く尖ってはいませんが、楽器の原音を大切にした生々しい音像という意味では、フガジ的と言えるでしょう。

 アレンジとサウンドの両面で、これまでのローファイ感は控えめに、より洗練された1作です。

 





Wooden Wand & The Sky High Band “Second Attention” / ウッデン・ワンド・アンド・ザ・スカイ・ハイ・バンド『セカンド・アテンション』


Wooden Wand & The Sky High Band “Second Attention”

(Wooden Wand And The Sky High Band)
ウッデン・ワンド・アンド・ザ・スカイ・ハイ・バンド 『セカンド・アテンション』
発売: 2006年8月22日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)

 1978年、ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。「ウッデン・ワンド」というステージ・ネームで活動するジェームス・ジャクソン・トス(James Jackson Toth)が、ザ・スカイ・ハイ・バンドを従え「ウッデン・ワンド・アンド・ザ・スカイ・ハイ・バンド」名義でリリースした唯一のアルバム。

 ザ・スカイ・ハイ・バンドは、単独で活動歴があるバンドではないようで、少なくとも音源のリリースは、本作と2007年にリリースされた、ライブ・レコーディングによる作品『Wasteland Of The Free』の2作のみ。

 伝統的なフォークから、サイケデリック・フォーク、実験的なフォークまで、一貫して「フォーク」という音楽と向き合い、キャリアを重ねてきたウッデン・ワンド。ザ・スカイ・ハイ・バンドと共に作り上げた本作『Second Attention』でも、伝統的フォークを下敷きにしながら、随所にオルタナティヴなアレンジが施され、ほのかにサイケデリックな香りが漂う1作になっています。

 「バンドと共に制作した」という情報に惑わされているわけではなく、有機的なアンサンブルが展開され、バンド感の強い作品でもあります。バンドらしいグルーヴもあり、曲によっては意外性のあるエレキ・ギターが唸りをあげるため、オルタナ・カントリーを好む方にもオススメ。

 1曲目「Crucifixion, Pt. II」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えた、弾き語りに近いアレンジながら、浮遊感のあるボーカルの歌唱から、どこかサイケデリックな空気が漂う1曲。

 2曲目「Portrait In The Clouds」は、浮遊感のあるサウンド・プロダクションが耳をつかむ、牧歌的なフォーク・ロック。前半からドタバタ感のあるアンサンブルが展開され、再生時間1:44あたりからエレキ・ギターが入ってくると、オルタナティヴな空気が増していきます。

 3曲目「Rolling One Sun Blues」は、ローファイ風味のサウンド・プロダクションと、各楽器がゆるやかに絡み合いスウィングしていくアンサンブルから、サイケデリックな香り漂う1曲。特にドラムとギターのジャンクな音色が、耳に引っかかり、音楽的なフックとなっています。

 6曲目「Mother Midnight」は、アコースティック・ギターとボーカルが、揺らめくように音を紡ぐ前半から、徐々に楽器が増え、立体的なアンサンブルへと発展していく1曲。コーラスワークも穏やかながら、酩酊的で、サイケな空気を演出。

 7曲目「The Bleeder」は、アコギと歌を中心にした、牧歌的な1曲。ですが、左チャンネルから聞こえる、ギターのミュート奏法と思われる「ポツポツ」とした音、再試時間1:28あたりから始まるブルージーなギターソロが、曲を格段にカラフルに彩っています。

 8曲目「Madonna」は、ビートがはっきりと刻まれる、ノリの良い1曲。ミドルテンポのカントリー風の曲ですが、奥の方で鳴り続けるキーボードと思われる持続音が、現代的な雰囲気をプラス。

 9曲目「Dead Sue」では、各楽器が立体的に組み合い、一体感とゆるやかな躍動感のあるアンサンブルを展開していきます。7分弱ある曲ですが、音楽が徐々に表情を変えながら、ゆるやかに進んでいくため、心地よく聴き続けることができます。

 テンポも抑えめに、音数も詰め込み過ぎず、基本的には穏やかなフォークが続く1作。しかし、効果的にエレキ・ギターや電子音が用いられ、随所にアヴァンギャルドな空気を持った、カラフルな世界が描き出されています。

 パンクやオルタナのイメージが強い、キル・ロック・スターズからのリリースというのも少し意外なようで、エリオット・スミス(Elliott Smith)なども所属していたし、このレーベルらしい懐の深さだなと感じます。

 





Chicago Underground Duo “In Praise Of Shadows” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『イン・プレイズ・オブ・シャドウズ』


Chicago Underground Duo “In Praise Of Shadows”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『イン・プレイズ・オブ・シャドウズ』
発売: 2006年2月17日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 主にコルネットを担当するロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションを担当するチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの4thアルバム。

 これまでの作品では、一部の曲でゲスト・ミュージシャンを迎えることもありましたが、本作はメンバー2名によって、全ての楽器が演奏されています。エンジニアは、トータスのジョン・マッケンタイアが担当。

 シカゴのポストロックの総本山とも言えるスリル・ジョッキーからのリリース。また、ロブ・マズレクは同じくスリル・ジョッキー所属のトータスのメンバーらと共に結成したフューチャー・ジャズバンド、アイソトープ217°(Isotope 217°)での活動でも知られます。

 これまでの3作でも、ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な編集感覚で再構築し、新しいジャズを創造してきたシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。4作目となる本作でも、生楽器のオーガニックな響きと電子音が溶け合い、ジャズとポストロックが有機的に融合したアルバムとなっています。

 1作目から順を追って電子音と編集の比率が高まり、ポストロック性を増していったのが、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの基本的な音楽性の変遷。しかし、本作では生楽器のナチュラルなサウンドを用いる比率が上がり、サウンドの面ではステレオタイプなジャズにやや戻った印象を受けます。

 しかし、音楽の質としては、ジャズ的なフレーズとサウンドを用いながらも、ジャンル特定の難しいポスト性を強く感じる音楽が展開されています。

 1曲目の「Falling Awake」では、ヴィブラフォンとコルネットが臨場感あふれる生々しいサウンドで録音。比較的、ジャズ色の濃い1曲と言えます。

 2曲目「In Praise Of Shadows」では、ピアノなのかチェレスタなのか、独特の透明感と残響感を持った鍵盤と、フリーなドラムがアンサンブルを構成。隙間が多い、緊張感のある演奏が展開されることで、音響が前景化して響きます。

 5曲目の「Pangea」は、個人的にこのアルバムのベスト・トラックだと思う1曲です。手数の多い鋭いドラムと、電子的なノイズなどが溶け合い、リズムと音響が一体化したような、ジャンルレスな音楽が展開。ジャズのリズムと、音響系ポストロックのサウンド・プロダクションが、見事に融合しています。

 アルバムごとに、音楽性が少しづつ異なるシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。しかし、ジャズのマナーを下敷きにしながら、同時代のポストロックやエレクトロニカと共鳴し、新しい音楽を作り出そうという意図は、共通していると言えるでしょう。

 また、一定以上のクオリティーを持ったアルバムを、作り続けているところもさすが。4作目のアルバムとなる本作でも、ジャズがポストロックのフィルターを通過して、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、全く新しい音楽が鳴らされています。

 





Califone “Roots & Crowns” / キャリフォン『ルーツ・アンド・クラウンズ』


Califone “Roots & Crowns”

キャリフォン 『ルーツ・アンド・クラウンズ』
発売: 2006年10月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 イリノイ州シカゴ出身のポストロック・バンド、キャリフォンの2006年作のアルバム。

 生楽器を多用したオーガニックなサウンドに、ノイズ的な電子音やエレキ・ギターを溶け込ませ、まさに「ポスト」な音楽を作り続けるキャリフォン。本作でも、伝統と実験がバランスよくミックスされた音楽を展開しています。

 1曲目「Pink & Sour」は、トライバルなパーカッションのリズムと歌のメロディーが、ジャンクなエレキ・ギターや電子音と共に、ポストロック的な手法でまとめあげられた1曲。ポスト民族音楽とでも呼びたくなるような、伝統音楽とテクノロジーが融合した曲です。

 2曲目「Spiders House」は、各楽器ともナチュラルな音作りで、シンプルなリズムを刻んでいく、穏やかな1曲。ですが、そこからはみ出るリズムと音が随所にあり、アヴァンギャルドな空気も持ち合わせています。

 5曲目「A Chinese Actor」では、イントロから、ラジオの音を拾ったようなノイズと、民族音楽的な雰囲気のリズムが溶け合います。躍動感のある立体的なアンサンブルの中で、ジャンクでノイジーな音色がダイナミズムを加え、楽曲の奥行きを増しています。ロックにおいて、激しく歪んだギターがエキサイトメントを増加させるように、民族音楽的なサウンドに、パワフルな音をプラス。この曲もポスト民族音楽と呼びたくなる1曲。

 8曲目「The Orchids」は、穏やかなアコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、多様なサウンドによる断片的なフレーズが折り重なっていく1曲。全体のサウンド・プロダクションも、生楽器が前面に出たオーガニックなものですが、レコーディング後の編集を感じさせる「ポスト」な耳ざわりも同居し、楽曲に現代的な雰囲気を加えています。

 10曲目「Black Metal Valentine」は、このアルバムの中にあって、特に実験性の濃いサウンドとアレンジの1曲。バラバラに解体されたフレーズが、後から再構築されたような、ポスト・プロダクションを強く感じさせる曲です。ノイズ的な電子音も多用されていますが、楽器のフレーズと巧みにブレンドされ、有機的にサウンドを作り上げています。

 12曲目「3 Legged Animal」は、アコースティック・ギターと歌がアンサンブルの中心にある、牧歌的な雰囲気の1曲。しかし、徐々にノイジーなサウンドが加わり、楽曲に立体感が増していきます。

 生楽器のナチュラルで穏やかなサウンドと、一般的にはノイズと思われる電子音やディストーション・ギターが溶け合い、一体感のある音楽を作り上げるアルバムと言えます。何度か記述したとおり、民族音楽のようなリズムやメロディーが、電子音やエレキ・ギターなどのオルタナティヴな音色と溶け合い、楽曲の幅と深みを格段に増しています。

 「オルタナ・カントリー」や「フリーク・フォーク」というジャンル名がありますが、本作は「オルタナ民族音楽」「ポスト民族音楽」などと呼びたくなる音楽性とサウンドを持った1作です。

 





Owen “At Home With Owen” / オーウェン『アット・ホーム・ウィズ・オーウェン』


Owen “At Home With Owen”

オーウェン 『アット・ホーム・ウィズ・オーウェン』
発売: 2006年11月7日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 エモの伝説的バンド、キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)からキャリアをスタートした、マイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの4thアルバム。

 アコースティック・ギターを中心に据えた、ナチュラルなサウンド・プロダクションからスタートしたオーウェン。そこからアルバムごとに、アンサンブルとサウンドの幅を広げてきました。4作目となる本作では、前作から比較しても、ますます壮大さを増したアンサンブルが展開されています。

 アコースティック・ギターの多用と、随所に差し込まれるテクニカルなフレーズは、1stアルバムの頃から共通。本作では込み入ったフレーズが増加し、サウンド・プロダクションの面でも多彩さを増しています。

 しかし、ハードルの高い難しい音楽になっているというわけではなく、聞こえてくるのは、穏やかで耳ざわりの良いジャンルレスな音楽です。

 1曲目「Bad News」は、ヴェールのように全体を包みこむ持続音と、みずみずしいアコースティック・ギターの音色が溶け合うイントロから始まり、その後は多様な展開を見せる1曲。再生時間0:52あたりからの、音が雨粒のように降り注ぐアレンジ。1:37あたりからの穏やかな波のように音が流れるアレンジなど、ヴァースとコーラスの循環とは別の次元で、目まぐるしい展開があり、飽きさせません。

 3曲目「Bags Of Bones」は、タイトに細かくリズムを刻むドラムと、複数のギターが、複雑に絡み合う1曲。

 4曲目「Use Your Words」は、ゆったりとしたテンポに乗って、バンド全体がゆるやかに躍動しながら進行していく1曲。ドラムのリズムに覆い被さるようにギターが重なり、ピアノはアクセントとしてポンと音を置いていき、バンド全体がひとつの生命体のように感じられます。

 5曲目「A Bird In Hand」は、アコースティック・ギターと、多層的なコーラスワークにからなる幻想的なイントロから始まり、厚みのある音の壁が作り上げられる1曲。穏やかなサウンド・プロダクションの曲ですが、隙間が無いぐらいに濃密な音が形成されます。再生時間4:35あたりから、押しつぶされたように歪んだ音色のギターによるソロも、不思議と耳にうるさくなく、楽曲のアクセントに。

 7曲目「Femme Fatale」は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)のカバー。ちなみに「宿命の女」という邦題もついています。本作のカバーでは、アコギのオーガニックな音色と、倍音たっぷりの電子音の音色が、反発し合うことなく溶け合っています。

 8曲目「One Of These Days」は、ピアノとギター、柔らかな電子音に、ボーカルのメロディーが溶け合う、穏やかで美しい1曲。

 生楽器と電子音をブレンドする手際が見事で、生楽器を使ったからルーツ・ミュージック的、テクノロジーを駆使したからポストロック的、という単純な議論を超えた、新しいポップ・ミュージックが聞こえるアルバムです。

 多くの曲ではアコースティック・ギターが主要な役割を担っているのですが、フォークやカントリー色は薄く、「ジャンルレスで無国籍なグッド・ミュージック」とでも呼びたくなる音楽が鳴り響きます。