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Kinski “Alpine Static” / キンスキー『アルペン・スタティック』


Kinski “Alpine Static”

キンスキー 『アルペン・スタティック』
発売: 2005年7月12日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの5thアルバム。前作『Don’t Climb On And Take The Holy Water』は、ストレンジ・アトラクターズ・オーディオ・ハウス(Strange Attractors Audio House)というシアトルの小規模レーベルからのリリースでしたが、本作は3rdアルバムに続いて、再び名門サブ・ポップからリリースされています。

 ループ・ミュージック的なフレーズの反復、電子音と轟音ギターによる音響的なアプローチ、はたまた完全即興など、実験的なアプローチの目立つキンスキー。しかし、5作目となる本作では、グルーヴ感と疾走感に溢れた、ロックンロールが繰り広げられます。

 もちろん、いわゆる歌モノではなく、ボーカルのいないインスト・バンドであり、従来のポストロック的なアプローチも見られるのですが、ロックのスタンダードなダイナミズムと、ノリの良さを持ったアルバムとなっています。

 1曲目「Hot Stenographer」は、エフェクト処理されたギターと電子音による、音響的なイントロから始まるものの、再生時間1:02あたりから、タイトかつパワフルに疾走するロックンロールがスタート。

 2曲目「The Wives Of Artie Shaw」は、音数を絞ったミニマルなイントロから、各楽器が絡み合う、躍動的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Hiding Drugs In The Temple (Part 2)」は、「ワン、ツー、スリー、フォー!」というカウントから始まる、疾走感抜群の1曲。マグマが噴出するかのような勢いと、前への推進力があります。ギターの音作りとコード感には、ソニック・ユースの面影もあり。

 4曲目「The Party Which You Know Will Be Heavy」は、各楽器のフレーズが有機的に組み合うイントロからスタート。バンド全体でタペストリーを作り上げるような、丁寧なアンサンブルから始まり、徐々にギターが過激なサウンドを足し、ロックのダイナミズムが増していきます。

 7曲目「The Snowy Parts Of Scandinavia」は、不穏な電子音と、ギターの断片的なフレーズが漂う前半から、轟音ギターのアグレッシヴなサウンドが押し寄せ、グルーヴ感あふれる後半へと展開する1曲。

 キンスキーとしては意外、と言うと語弊があるかもしれませんが、ストレートなロックが前面に押し出されたアルバムです。

 これまでの作品は、どちらかと言うとクラウトロックやサイケデリック・ロックの要素が色濃く出ていました。しかし本作では、ハードロック的なサウンドと構造に、ソニック・ユースを彷彿とさせる実験的なアプローチが溶け込み、ロックのエキサイトメントを多分に含んだ1作となっています。





Kinski “Airs Above Your Station” / キンスキー『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』


Kinski “Airs Above Your Station”

キンスキー 『エアーズ・アバーヴ・ユア・ステイション』
発売: 2003年1月21日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Kip Beelman (キップ・ビールマン)

 ワシントン州シアトル出身のポストロック・バンド、キンスキーの3rdアルバム。本作から、地元シアトルの名門レーベル、サブ・ポップと契約。同レーベルからリリースされる、1作目のアルバムとなります。

 彼らのこれまでのリリースを振り返ると、まず自主制作にて1stアルバム『SpaceLaunch For Frenchie』をリリース。2ndアルバム『Be Gentle With The Warm Turtle』を、同じく自主リリースしたのち、パシフィコ・レコーディングス(Pacifico Recordings)という小規模なレーベルから再発。

 前述のとおり、本作はサブ・ポップからリリースされており、本格的なレーベルを通してリリースされる、キンスキー初のアルバムです。

 ジャンルとしては、ポストロックに括られることの多いキンスキー。しかし「ポストロック」と一口に言っても、バンドによって音楽性と方法論は、大きく異なります。その多様性が、ポストロックに括られる音楽の面白さでもあるのですが。

 話の見通しを良くするために、音響とアンサンブルに分けて、本作の音楽を紐解いていきましょう。

 まずは、音響面について。本作では、シンセサイザーによるエレクトロニカ的な電子音と、圧倒的な量感で迫り来る轟音ギターを用いて、音響を重視したアプローチがたびたび見受けられます。しかし、同時に楽器の生々しさを前面に出した、臨場感を持ったサウンド・プロダクションも共存。

 続いて、アンサンブルについて。本作を聴いていて気がつくのは、ループ・ミュージュク的な繰り返しが多用されていること。しかし、ミニマリズムに振り切ったアルバムというわけではなく、繰り返しの中から、ロック的なリフのダイナミズムや、グルーヴ感が生まれていきます。

 ロック的なダイナミズムやグルーヴを、ループする演奏の中に落とし込み、前景化。ロックの持つエッセンスが、一般的なロック・ミュージック以上に、凝縮したかたちで提示されていきます。ロックのフレーズや音色を用いながら、全く違う方法論で、違う音楽を作り上げている本作は、ポストロックと呼んでしかるべきでしょう。

 アルバムの始まりを告げる、1曲目の「Steve’s Basement」は、ぼんやりとした音の壁のような電子音で始まります。徐々に音数が増えて、厚みを増していくサウンド。この時点では、ビートもコード進行も無く、音響を前景化するアプローチです。

 再生時間3:03あたりからギターが入ってくると、今度はタペストリーのように音楽が編まれていきます。そして、再生時間5:23あたりからベースとドラムが入ってくると、各楽器が絡み合い、波打つように躍動する演奏が、繰り広げられます。1曲の中で音響的なアプローチから、アンサンブル重視のアレンジへと飛躍し、このバンドの魅力が、たっぷりと詰め込まれた曲です。

 2曲目「Semaphore」では、トレモロによって一定間隔で響くギターに、飛び道具的な高音や、タイトなドラムが重なっていきます。ミニマルなギターの音に耳を傾けていると、そのギターの音が変化し始め、再生時間2:15あたりから、轟音ギターがなだれ込んできます。ミニマルな前半と、ダイナミックな後半のコントラストが鮮やかな1曲。

 3曲目「Rhode Island Freakout」は、電子ノイズ的なイントロから始まり、荒々しくパワフルなアンサンブルが展開する1曲。ドラムのビートがはっきりと刻まれる部分は、ロック的なノリの良さを存分に持っています。ギターの音作りも、いい意味で下品で、ソニック・ユース(Sonic Youth)を彷彿とさせます。

 4曲目の「Schedule For Using Pillows & Beanbags」は、11分を超える大曲。音数を絞り、丁寧にアンサンブルが編まれていく前半から、荒々しく轟音が押し寄せる後半へと展開していきます。

 5曲目「I Think I Blew It」は、電子音とエフェクターの深くかかったギターが用いられ、音響を重視した、エレクトロニカ的なサウンドを持った1曲。

 6曲目「Your Lights Are (Out Or) Burning Badly」は、電子音の響く不気味な前半から、ギターが加わり穏やかな中盤、爆音アンサンブルの後半へと展開していく、壮大な1曲。

 7曲目「Waves Of Second Guessing」は、音が増殖していくような、ミニマルでサイケデリックな前半から、後半では打って変わって、疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。

 ラストの8曲目「I Think I Blew It (Again)」は、多様な音によるロングトーンが幾重にも連なり、壮大な音の壁を作り上がる1曲。とにかく音の響きが心地よく、穏やかな音が広がっていきます。

 音数を絞ったミニマルなアレンジから、轟音のクライマックスへ。繰り返しを多用したループ・ミュージック的な演奏から、複雑怪奇なアンサンブルへ。そのような、振れ幅の大きいダイナミックな展開を、無理なく実現しているのが本作です。

 静寂から轟音へ、という展開は、もはやポストロックのひとつの型になっており、陳腐な展開になりかねない危険性もはらんでいます。しかし、キンスキーはそこにループ・ミュージックの要素を持ち込み、音量だけでなく、アンサンブルの面でもコントラストを演出しているところが、特徴と言えるでしょう。

 ループ・ミュージックをはじめ、クラウトロックやハードロック、サイケデリック・ロックまでを消化し、ポストロック的な手法で仕上げたキンスキーの手腕は、本当に見事!





Father John Misty “God’s Favorite Customer” / ファーザー・ジョン・ミスティ『ゴッズ・フェイヴァリット・カスタマー』


Father John Misty “God’s Favorite Customer”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『ゴッズ・フェイヴァリット・カスタマー』
発売: 2018年6月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Rado (ジョナサン・ラドー), Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン), Dave Cerminara (デイヴ・サーミナラ), Trevor Spencer (トレヴァー・スペンサー)

 メリーランド州ロックヴィル出身のシンガーソングライターであり、マルチ・インストゥルメンタリスト、ジョシュ・ティルマン。彼がファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースする、4作目のアルバム。

 ティルマン自身に加え、インディー・ロック・デュオ、フォクシジェン(Foxygen)のジョナサン・ラドーなど、数名のプロデューサーを招いて、制作されています。

 ファーザー・ジョン・ミスティという人も、魅力を言語化して伝えるのが、なかなか難しい人です。しばしば言及されるのが、彼のソング・ライティング、つまり作曲能力について。

 本作も、メロディーと言葉が中心に据えられ、歌が中心にあるアルバムと言っていいでしょう。多様な音楽ジャンルが顔を出す、カラフルなアンサンブルの中で、メロディーの魅力が前景化された作品となっています。

 伴奏があって歌がある、という主従関係のハッキリした構造の音楽は、個人的にあまり好きではありません。しかし、本作は別。というより、メロディーを際立たせるような伴奏ではあるのですが、単純に従っているわけではなく、歌のメロディーとバンドのアンサンブルが、溶け合うように機能しているのが、本作の魅力のひとつです。

 1曲目の「Hangout At The Gallows」では、ゆったりとしたテンポに乗って、ボーカルとバンドが同じリズムで揺れるように、躍動的なアンサンブルが展開します。アコースティック・ギターとドラム、パーカッションのみの隙間の多いアンサンブルからスタート。その後、徐々に楽器と音数が増えていきますが、ボーカルがエモーショナルに歌い上げると、バンドも同じように盛り上がり、一体の生き物のような、有機的な演奏となっています。

 2曲目「Mr. Tillman」では、イントロから、ボーカルも文字どおりバンドの一部となり、立体的でカラフルなアンサンブルを構成するのに貢献。その後も、メインのメロディーと並行して、厚みのあるコーラスワークが、全体を包み込んでいきます。

 3曲目「Just Dumb Enough To Try」は、ピアノとボーカルが中心に据えられたバラード。ピアノとボーカルが対等に向き合う冒頭から、続いてギターのアルペジオと、リズム隊が加わり、穏やかに動く古時計のような演奏が展開します。

 4曲目「Date Night」は、サイケデリックな空気が充満したバンド・アンサンブルに合わせて、エフェクトのかかったボーカルが、酩酊的にフレーズを重ねていきます。どこか不安点なアコースティック・ギターや、ドタバタした立体的なドラムなど、実験的でありながら、同時にカラフルでポップな楽曲。

 7曲目「Disappointing Diamonds Are The Rarest Of Them All」は、ベースが全体を鼓舞するようにフレーズを弾き、バンドも揺らぎを伴って躍動していく、ミドルテンポの1曲。

 8曲目「God’s Favorite Customer」は、音数を絞ったミニマルな演奏ながら、ゆるやかなグルーヴ感がある、牧歌的で心地よい1曲。カントリー風のポップスのようでもあるし、フォーク・ミュージックのようにも響きます。

 10曲目「We’re Only People (And There’s Not Much Anyone Can Do About That)」は、アコーディオンの伸びやかな音に導かれ、ゆったりとその場に浸透していくような、柔らかなサウンドを持った1曲。次々と音が折り重なり、音符の数は詰め込まれていないものの、ロングトーンを活かした伸びやかなサウンドが充満していきます。

 前述したとおり、歌が中心に据えられたアルバムです。歌の世界観に合わせて、バンドのサウンドも、多種多様な音楽ジャンルを飲み込んでいて、カラフル。

 歌のメロディーとバンドのアンサンブルが有機的に結合した、一体感のある音楽が、アルバムを通して、次々とくり広げられます。

 また、随所でルーツ・ミュージックの面影は感じるのに、元ネタをハッキリとは特定しにくく、ジャンルレスな雰囲気を持っています。このあたりのバランス感覚が、モダンな空気を併せ持つことに、繋がっているのでしょう。

 ファーザー・ジョン・ミスティのソング・ライターとしての能力と共に、プロューサーとしての能力も、存分に感じられる1作です。

 





Fastbacks “New Mansions In Sound” / ファストバックス『ニュー・マンションズ・イン・サウンド』


Fastbacks “New Mansions In Sound”

ファストバックス 『ニュー・マンションズ・イン・サウンド』
発売: 1996年6月18日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの通算5枚目のスタジオ・アルバム。レコーディング・エンジニアは、前作『Answer The Phone, Dummy』に引き続き、ピート・ジェラルドが担当。

 疾走感あふれるポップなパンク・サウンドと、カート・ブラックの個性的なギタープレイ、女性ツイン・ボーカルによる多彩なコーラスワークが魅力のファストバックス。

 1stアルバムから、安定して良質の作品を作り続けてきた彼らですが、5作目となる本作でも、ハードとポップが高次に共存した音楽を繰り広げています。ポップで親しみやすいメロディーが、ノリの良い疾走感あふれるアンサンブルの上に乗り、随所にテクニカルなギターフレーズが散りばめられ、非常にカラフル。

 1曲目「Fortune’s Misery」は、ハードに歪んだギターと、女声ボーカルが交錯するコーラスワークを中心に、各楽器が絡み合う、躍動するアンサンブルが魅力の1曲。サウンド的にはハードなのに、キラキラとしたポップさを持ち合わせています。再生時間1:00過ぎからの間奏でも、ギターを主軸に据えた有機的なアンサンブルが繰り広げられます。

 2曲目「Which Has Not Been Written」は、回転するような高速ドラムのイントロに導かれ、疾走感抜群の演奏が展開する、1分ほどのパンク・チューン。

 3曲目「No Information」は、メロディアスなギターが疾走していく、メリハリのある1曲。パンキッシュな演奏ですが、前述のギターと、シンセサイザーと思しきサウンドが、楽曲をカラフルに彩っていきます。プレシデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(The Presidents Of The United States Of America)や、ラヴ・バッテリー(Love Battery)での活動で知られる、ドラマーのジェイソン・フィン(Jason Finn)が参加。

 4曲目「I Know」は、ギターの立体的なフレーズのイントロに導かれ、厚みと一体感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目と7曲目は、それぞれ「5 5 5 Part One」と「5 5 5 Part Two」。いずれも高速なリズムに乗って、スピード感重視で駆け抜けるパンキッシュな楽曲。

 8曲目「Stay At Home」は、6分を超える壮大な1曲。前半はタイトなパンク・サウンドで進行し、再生時間2:15あたりからの中盤はスローテンポの子守唄のような雰囲気、再生時間3:36あたりからの後半はミドルテンポのロックへと、曲調が次々と移行します。

 14曲目「Find Your Way」は、ミドルテンポの郷愁感のある1曲。サウンド・プロダクションもアレンジも奇をてらわずにシンプルですが、キーボードの柔らかなサウンドがアクセントとなり、部分的にサイケデリックな空気も漂います。

 15曲目「Girl’s Eyes」は、イギリスのロックバンド、ザ・フー(The Who)のカバー。原曲に近いアレンジですが、こちらの方がギターの音が激しく歪み、全体のアンサンブルもドタバタした立体感があります。

 3rdアルバム『Zücker』が代表作に挙げられることの多いファストバックスですが、5thアルバムとなる本作『New Mansions In Sound』も、負けず劣らず名盤です。

 必ずしも洗練することが、音楽の魅力の向上ではありませんが、音作りの面でも、アンサンブルの面でも、多彩で間口の広いアルバムに仕上がっています。

 





Fastbacks “Answer The Phone, Dummy” / ファストバックス『アンサー・ザ・フォン, ダミー』


Fastbacks “Answer The Phone, Dummy”

ファストバックス 『アンサー・ザ・フォン, ダミー』
発売: 1994年10月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの4thアルバム。サブ・ポップ移籍後2作目のアルバムで、過去3作のアルバムでレコーディング・エンジニアを務めてきたコンラッド・ウノに代わり、本作ではピート・ジェラルドがレコーディングを担当。

 疾走感あふれる演奏に、女性ツイン・ボーカルによる爽やかなメロディー、ギターのカート・ブロック(Kurt Bloch)の多彩ギタープレイが重なるパワーポップが、デビュー以来一貫したファストバックスの魅力です。

 4作目となる本作でも、これまでの彼らの魅力は損なわず、ややハードロック色の濃くなった、演奏を展開。キャリアを通して、大きな音楽性の変更はおこなわなかったファストバックスですが、やはり作品ごとに色彩の違いがあり、常に真摯に音楽に向き合ってきたスタンスが窺えます。

 1曲目「Waste Of Time」は、うねるようなギターのフレーズと、パワフルなリズム隊が重なる、ハードな音像を持ったミドルテンポのロック・チューン。ギターがボーカルと等しく前景化され、アルバムの幕開けにふさわしい、ハードさとポップさを持ち合わせた1曲です。

 2曲目「On The Wall」は、タイトに疾走するパンキッシュな演奏に、中音域を用いた、粘り気のあるギターフレーズが重なる1曲。前半はパンク色が濃い演奏が続きますが、再生時間1:35あたりからリズムの切り替えがあり、楽曲が多様な表情を見せます。

 3曲目「Went For A Swim」は、バタバタとバンド全体が前のめりに疾走するパンク・ナンバー。溜め込んだパワーが噴出するような、スピード感に溢れた演奏が展開されます。

 4曲目「Old Address Of The Unknown」は、ミドルテンポのメロウな雰囲気ながら、随所でテンポを切り替え、リズムがいきいきと伸縮する躍動感のある1曲。サウンドはハードで厚みがあり、メロディーには子守唄のような親しみやすさがあります。ハードとポップを共存させる、ファストバックスらしい曲だと言えるでしょう。

 8曲目「And You」は、ハードな音質は鳴りを潜め、クリーントーンのギターとキーボードが主軸に据えられた、ギターポップ色の濃い1曲。

 12曲目「In The Observatory」は、タイトにリズムを刻むベースとドラムに、倍音豊かに歪んだギターが重なり、躍動的なアンサンブルを作り上げる1曲。ハードな音像に対して、吹き抜ける風のような美しいコーラスワークが、コントラストをなしています。

 前述したとおり、これまでの作品と比べると、やや全体のサウンド・プロダクションがハードになり、ギターのフレーズにもハードロック的なアプローチが増えた本作。しかし、青春を感じる流麗なメロディーと、バンドの疾走感あふれるアンサンブルは変わらず健在。

 ちなみに、当時発売された日本盤には『電話だよ』という、なんとも言えない邦題がついています(笑)