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Lightning Bolt “Wonderful Rainbow” / ライトニング・ボルト『ワンダフル・レインボー』


Lightning Bolt “Wonderful Rainbow”

ライトニング・ボルト 『ワンダフル・レインボー』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)の2人のブライアンによって結成された、ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの3rdアルバム。

 結成以来、凄まじいテンションで、暴発と暴走を繰り返すような音楽を鳴らし続けるライトニング・ボルト。1作目の『Lightning Bolt』では、ロックの攻撃性のみが凝縮された実験的な音楽が展開されていましたが、2作目『Ride The Skies』では楽曲の輪郭がより分かりやすくなり、3作目となる本作では、そこからさらに楽曲の構造やリフのかっこよさが前面に出たアルバムとなっています。

 とはいえ「ポップになった」と単純に表現するのが、難しい作品であるのも確か。彼らのアルバムの中では、聴きやすく、かっこよさの分かりやすい作品であると思いますが、一般的な意味では全くポップではありません。

 僕なりにこのバンドの魅力を説明すると、コード進行や歌メロのような分かりやすい構造よりも、ソリッドで攻撃的なサウンド、重たく地面を揺らすようなリフ、手数の多い圧巻のドラミングなど、ロックが持つ魅力が凝縮されているところ。言い換えれば、ロックという音楽が引き起こすエキサイトメントが、むき出しのまま迫ってくるところです。

 前述したとおり、メンバーがドラムとべースの2名のみで、クレジットにもそのふたつの楽器しか記載されていないのですが、実際に聞こえてくるサウンドには、ベースの音をエフェクターで持ち上げているのか、ギターのような音も含まれています。

 1曲目の「Hello Morning」は、1分弱のアルバムへのイントロダクションとなるトラック。前述したとおりギターのように聞こえる(ベースの?)音とドラムが風通し良く吹き抜け、タイトルのとおり、彼らの楽曲の中では、爽やかな朝を感じる曲と言って良さそうです。

 2曲目「Assassins」は、発せられる全ての音が一体となって押し寄せる1曲。ベースもドラムも不可分に溶け合い、倍音たっぷりの分厚い音の塊となっています。

 4曲目「2 Towers」は、手数の多い高速なドラムのリズムの上に、ギターの速弾きのように聞こえる、高音域を使ったトリッキーなベースが乗り、疾走していく1曲。

 5曲目「On Fire」はボーカルも含めた全ての楽器が、エモーションを暴発させて噴き出すようなイントロからスタート。再生時間0:53あたりからは高速なフレーズが組み合い、マスロック的な展開へ。ちなみに「ボーカル」と書きましたが、いわゆる歌メロはほとんど無く、大半はシャウトやうめき声です。

 6曲目「Crown Of Storms」は、高音域を使用したマスロック的なベースの速弾きからスタートし、その後はソリッドな音質でリフが繰り返されます。疾走感や硬質なサウンドなど、ロックの魅力が凝縮されて音に還元されたかのような1曲。

 8曲目「Wonderful Rainbow」では、このアルバムの中では珍しく、イントロからクリーンなサウンドを用いて、ゆったりとアンサンブルが編み上げられていきます。その後も静から動へと展開することなく、タイトで幾何学的なアンサンブルが続きます。

 9曲目「30,000 Monkies」は、速弾きベースと高速ドラムが、足がもつれながらも疾走していく、スピード感に溢れた1曲。

 10曲目「Duel In The Deep」は、ダークな持続音と、耳障りな高音ノイズがうごめく、不穏な空気を持った1曲。ドラムがパワフルにビートを刻み始めると、躍動感と疾走感に溢れたアンサンブルへと展開していきます。

 アルバムによって若干の差異はありながら、常にハイテンションで強度の高い音楽を鳴らし続けるライトニング・ボルト。本作でもその魅力は十分で、ハードロックの硬質なサウンドのリフ、ヘヴィメタルのテクニカルなソロ、マスロックの幾何学的な構造などが、1曲の中に圧縮され、表現されています。

 前述したとおり、ここまでの3作の中では最も楽曲の構造が掴みやすく、演奏も鋭さを増していて、彼らの目指す音楽がひとつの完成形に達したのでは、と感じさせる1作です。

 





Lightning Bolt “Ride The Skies” / ライトニング・ボルト『ライド・ザ・スカイズ』


Lightning Bolt “Ride The Skies”

ライトニング・ボルト 『ライド・ザ・スカイズ』
発売: 2001年2月18日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの2ndアルバム。前作に引き続き、地元プロヴィデンスのインディペンデント・レーベル、ロードからのリリース。

 ジャンルとしては「ノイズ・ロック」や「エクスペリメンタル」にカテゴライズされることの多いライトニング・ボルト。ベースとドラムの2名という編成とは思えない、攻撃的なサウンドが炸裂します。

 ノイジーに暴走していた1stアルバムから比較すると、本作はより音楽的になったと言えます。部分的に整然とし、テクニックがより前景化されて、マスロック色が強まったと言っても良いでしょう。

 1曲目「Forcefield」は、音符が密集し、圧縮されたようなフレーズが、波のように一定のペースで押し寄せる1曲。サウンドもハードロック的な硬質さを持ち、ロックが喚起するエキサイトメントが凝縮されたように感じられます。

 2曲目「Saint Jacques」は、ほとんど隙間なく打ちつけられるドラムのリズムに、ベースも加わり、分厚い音の壁を作り上げる1曲。

 3曲目「13 Monsters」は、タイトで立体的なドラムに、ノイジーなベースが絡み合う、疾走感の溢れる1曲。

 4曲目「Ride The Sky」では、ベースの音をエフェクターで持ち上げたのか、ノイジーでジャンクな高音域を使ったフレーズと、前のめりに疾走するドラムの高速ビートが重なり、凄まじいスピード感を生み出す1曲。

 5曲目「The Faire Folk」は、このバンドにあっては珍しく、各楽器ともナチュラルでクリーンな音作りで、タイトで正確無比なアンサンブルが繰り広げられる1曲。各楽器とも淡々と正確なプレイを続け、マスロック色の濃い演奏を展開。再生時間2:22あたりから、ディストーション・サウンドが加わるアレンジも、コントラストが鮮やか。

 6曲目「Into The Mist 2」は、手数の多いフリーなドラムと、ノイズ的な奇妙なサウンドが飛び交う、アヴァンギャルドな1曲。

 8曲目「Rotator」は、エフェクトが深くかけられたジャンクで金属的なサウンドと、小刻みにリズムを叩くドラムが、タイトなアンサンブルを構成する1曲。サウンドはエキセントリックですが、演奏は正確でタイト。ピッタリと合わせる部分と、ラフにぶちまける部分がはっきりしており、ダイナミズムの大きい曲です。

 アルバムを通して、凄まじいテンションで、爆発的なアンサンブルが繰り広げられる1作です。ヴァーストコーラスが循環するような、一般的な意味でのポップな構造を持った音楽ではありませんが、全くつかみどころの無い、敷居の高すぎる音楽かというと、そうではありません。

 リフが持つ耳に引っかかる魅力、テクニカルなプレイを聴く爽快感、高速ビートによる疾走感、サウンド面でのハードなかっこよさなど、ロックという音楽が持つ魅力が断片的に、しかし高濃度に圧縮された形で散りばめられており、一度その魅力にハマると、とことんハマってしまう音楽です。

 ただ、全く受け付けないという人もいるので、誰にでもおすすめできるわけではありませんが、少しでも気になった方には、是非とも聴いていただきたいです。

 





Lightning Bolt “Lightning Bolt” / ライトニング・ボルト『ライトニング・ボルト』


Lightning Bolt “Lightning Bolt”

ライトニング・ボルト 『ライトニング・ボルト』
発売: 1999年
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)からなる2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの1stアルバム。

 地元プロヴィデンスが拠点のエクスペリメンタル系のインディー・レーベル、Load(ロード)からのリリース。

 ドラムとベースのいわゆるリズム隊のみという編成も特異ですが、音楽性はさらにエキセントリック。ハードコアの先進性と、ヘヴィメタルの硬質なサウンドの攻撃性が、凝縮され抽出されたような音楽が展開されます。

 一般的な意味では、全くポップではありませんが、音楽の尖った部分のみを取り出したようなサウンドが、ある人にとってはフックとなり、クセになるでしょう。

 1曲目「Into The Valley」は、叩きつけるようなドラムの高速ビートと、ノイジーなベースが疾走する1曲。リフやコード進行のような、わかりやすい構造は存在せず、ただただノイジーに疾走していく演奏は圧巻です。

 2曲目「Murk Hike」は、前のめりに暴走するイントロから始まり、その後は一定のリズムが繰り返される1曲。

 4曲目「Fleeing The Valley Of Whirling Knives」は、ここまでのアルバムの流れの中では、最も曲らしい構造を備えた1曲。ドラムはタイトにリズムを刻み、ベースは音色は激しく歪んでいながら、ハードロックのようにリフを弾き、サウンドとリズムが一体となったかっこよさがあります。ただ、後半はやや加速するなど変化はあるものの、10分を超える曲の中でミニマルにリフが繰り返されるため、やはりある程度はリスナーを選ぶ曲だと言わざるを得ません。

 5曲目「Mistake」は、もはや原音がはっきりしないレベルまで歪んだベースが、空間を埋め尽くす1曲。ベースの奥で聞こえる金属的な音色のドラムも含め、非常に耳障りなサウンド・プロダクション。

 6曲目「Zone」は、32分を超える大曲。形を変えながら、ひたすら嵐のようなサウンドが吹き荒れる、ノイズ絵巻。しかし、随所にフックとなりそうなリフらしき断片やリズムがあり、一部の人にとってはたまらない1曲でしょう。僕は…体調が良いときでないと、聴く自信がありません。聞き流しやBGMには全く向かない質の音楽です。

 7曲目の「And Beyond」は6曲目に続き、こちらも14分を超える長尺の1曲。ドラムとベースが塊となって絡み合いながら、リスナーへと迫ってきます。

 耳障りで、この手の音楽を聴かない人からしたら、ノイズにしか聞こえない音の詰まった本作。しかし、疾走感や硬質でソリッドな音色など、ロックが持つ攻撃性を極限まで尖らせたそのサウンドには、かっこいいと思える部分が随所にあります。

 正直、万人にオススメはしがたい音楽ですが、ハードでポストな音楽を求める方は聴いてみては。

 





Pussy Galore “Right Now!” / プッシー・ガロア『ライト・ナウ!』


Pussy Galore “Right Now!”

プッシー・ガロア 『ライト・ナウ!』
発売: 1987年
レーベル: Caroline (キャロライン), Matador (マタドール)

 1985年にワシントンD.Cで結成されたバンド、プッシー・ガロアの2ndアルバム。1987年にキャロライン・レコードからリリースされ、1998年にマタドールから再発されています。

 プッシー・ガロアが立ち上げた自主レーベル、シャヴ・レコーズ(Shove Records)からリリースされた1stアルバムは、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(Exile On Main St.)のカバー・アルバムだったため、本作『Right Now!』を1stアルバムとカウントすることもあるようです。

 ジョン・スペンサーやニール・ハガティが在籍し、解散後には各メンバーが、ボス・ホッグ(Boss Hog)、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(Jon Spencer Blues Explosion)、ロイヤル・トラックス(Royal Trux)などで活躍。そのため、今となっては伝説的に扱われるバンドでもあります。

 しばしばジャンク・ロックやノイズ・ロックのカテゴライズされる彼らのサウンドは、ガチャガチャと騒がしく、しかし同時にどこかカラフル。サウンド的にもメロディー的にも、いわゆる売れ線とはかけ離れたアングラ臭の充満した作品ですが、このジャンクさは唯一無二で聴いているうちにクセになります。

 1曲目の「Pig Sweat」から、全ての楽器がジャンクなサウンドを持ち、前のめりに疾走していきます。全ての楽器が、現代的なハイファイ・サウンドとは程遠い、ガラクタのような耳ざわりなのが最高です(笑)

 2曲目「White Noise」も、わずか36秒の曲ですが、不協和なサウンドと、不安定な音程を持ったギター・リフが印象的な、ジャンクなロック・チューン。

 5曲目「Wretch」は、ワウの効いたギターと、呪術的で不気味なボーカルが、サイケデリックでアングラな空気をふりまく1曲。

 7曲目「Fuck You, Man」は、タイトルどおりFワードを繰り返すボーカルを筆頭に、下品に歪んだギターとリズム隊が絡み合い、疾走感に溢れた1曲。

 アルバム全体を通して、下品でジャンクな音と言葉の充満した1作ですが、多様なノイズ的サウンドを用いつつも統一感があり、前述したとおり、カラフルにさえ感じられます。

 また、ただ無茶苦茶にやっているだけではなく、下地にあるブルースやロックンロールが、構造を下支えしていることで、ポップ・ソングとしての機能も失わず、併せ持っているのだと思います。

 アレンジやサウンドにはやり過ぎだと思えるところもありますが、コンパクトにまとまるよりも、このぐらい振り切ってもらった方が、聴いていて単純に楽しいですね。

 プッシー・ガロアと比べてしまうと、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが上品にすら感じられます。

 





Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine” / グーン・ムーン『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』


Goon Moon “I Got A Brand New Egg Layin’ Machine”

グーン・ムーン 『アイ・ガット・ア・ブランド・ニュー・エッグ・レイン・マシーン』
発売: 2005年6月7日
レーベル: Suicide Squeeze (スーサイド・スクイーズ)

 トゥイギー・ラミレズ(Twiggy Ramirez)名義で、マリリン・マンソンに参加していたジョージア・ホワイト(Jeordie White)と、マスターズ・オブ・リアリティ(Masters Of Reality)のクリス・ゴス(Chris Goss)の2人から成るバンド、グーン・ムーンのデビュー作となるミニ・アルバム。

 本作では、上記2名に加えて、サクラメント出身のマスロック・バンド、ヘラのドラマーを務めるザック・ヒル(Zach Hill)もメンバーとしてクレジット。それ以外にも、複数のゲストを招いてレコーディングされています。

 当サイトのジャンルでは「エクスペリメンタル」に振り分けましたが、ポストロックともマスロックとも、エクスペリメンタル・ロックとも呼べる音楽が展開されるアルバムです。ジャンルで音楽を聴くわけではないし、そこまで気にする必要も無いんですけどね。

 前述したように、マリリン・マンソン、ア・パーフェクト・サークル(A Perfect Circle)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)に参加していたジョージア・ホワイト、デザート・ロックの雄マスターズ・オブ・リアリティを率いるクリス・ゴス、さらに変態バカテク・ドラマーのザック・ヒルの3人が揃うこのバンド。その期待どおりに、実験的でバラエティ豊かなアンサンブルが繰り広げられる作品になっています。

 1曲目の「The Wired Wood Shed」から、立体的なドラムと、地を這うようなベース、倍音たっぷりの豊かな歪みでリフを弾くギターが、音合わせのように、さりげなく演奏を展開します。1分ほどのイントロダクション的な1曲。

 2曲目「Mud Puppies」は、ハードロック的なギター・リフを主軸に、バンドが一体となって躍動するアンサンブルに、浮遊感のあるコーラスワークが溶け合います。

 3曲目「Inner Child Abuse」は、アンビエントな音像のイントロから、エフェクトを深く施したエレクトロニックな耳ざわりの各楽器と、高速ドラムが溶け合う、音響系ポストロックに近い1曲。

 4曲目「The Smoking Man Returns」は、3曲目に続いて、高速ドラムと電子音が溶け合い、アヴァンギャルドな空気が強く漂う1曲。

 6曲目「Rock Weird (Weird Rock)」は、いわゆるロボット・ボイスと呼ばれるような、エフェクト処理されたボーカルが印象的。音数を絞り、タイトでジャンクなアンサンブルが展開されます。

 7曲目「Mashed」は、アコースティック・ギターを中心に据えた、オーガニックなサウンドのイントロからスタート。その後、エフェクト処理されたアングラ色の濃いボーカルが入り、ジャンクさとポップさの同居した、躍動感あふれるアンサンブルが展開されます。

 ドラムは曲によってフリーなリズムとタイトなリズムを巧みに叩き分け、ギターはロックのハードな部分を凝縮したようなリフを弾き、ベースは全体を支えるようにメロディアスなベースラインを紡いでいく、各人の個性がぶつかり合い、有機的に絡み合う1作です。

 音楽的には実験的な要素も多分に含まれ、決してポップな作風ではありませんが、ロックの音質上の魅力や、アンサンブルのかっこよさが、むき出しのまま提示されるような、ダイレクトな感覚に溢れています。