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Alabama Shakes “Boys & Girls” / アラバマ・シェイクス『少年少女たち』


Alabama Shakes “Boys & Girls”

アラバマ・シェイクス 『少年少女たち』
発売: 2012年4月9日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Andrija Tokic (アンドリジャ・トーキック)

 アラバマ州アセンズで結成されたロック・バンド、アラバマ・シェイクスの1stアルバム。

 もともと農業が盛んで、アフリカ系の人々が多く連れてこられたアメリカ合衆国南部。彼らは奴隷として酷使されたわけですが、ジャズ、ブルース、ロックンロールなど、多くのアメリカ音楽を形作ることにも貢献しました。

 そんなアメリカ南部アラバマ州出身のアラバマ・シェイクス。本作は1stアルバムであり、メンバーの年齢も当時20代中盤ではありますが、ルーツ・ミュージックを取り込んだ、貫禄すら感じる音楽を奏でています。

 スマートにまとまったインディーロックとは一線を画す、古き良きロックンロールのグルーヴ感と雰囲気をまとったバンドと言えます。

 特に紅一点のボーカリスト、ブリタニー・ハワード(Brittany Howard)の声は艶っぽく、糸を引くようにソウルフル。このバンドの大きな魅力となっています。

 バンドのアンサンブルも音数を詰め込まず、スカスカとも思える部分もあるのに、それ以上に各楽器が絡み合うグルーヴ感が強く、いきいきと躍動しています。

 1曲目「Hold On」は、ゆっくりと歩みを進めるようなシンプルなリズムの上に、伸びやかなボーカルが乗り、徐々に音数が増え、躍動感が増していく展開。音数は絞り込まれているのに、たっぷりとしたタメの取り方と、お互いのリズムを噛み合うような各楽器のからみが絶妙で、スカスカ感はまったく感じません。

 3曲目「Hang Loose」は、パーカッシヴなピアノに、なめらかなギターのフレーズが絡まり、ゆるやかに疾走していく1曲。各楽器が絡み合い、躍動するグルーヴからは、古き良きロックンロールの香りが漂います。

 4曲目「Rise To The Sun」は、小気味よく刻まれるリズムと、オルガンの浮遊感のある音色が溶け合う、ややサイケデリックな空気を持った1曲。

 5曲目「You Ain’t Alone」は、タイトルからしてエモーショナルですが、ブリタニーの泣きのボーカルが冴えわたる1曲です。いにしえのブルース・シンガーが蘇ったかのように、パワフルで感情的なボーカリゼーション。

 アルバム表題曲の8曲目「Boys & Girls」では、スローテンポに乗せて、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが展開。そのなかを、ボーカルのメロディーがゆるやかに漂います。

 11曲目「On Your Way」は、ゴスペルを連想させる壮大なイントロから始まり、荒々しくパワフルな演奏が繰り広げられる1曲。荒々しいと言っても、ハードロック的な音像というわけではなく、各楽器が自由に躍動し、バンド全体も生き物のようのいきいきとスウィングしているということ。アルバムのラストにふさわしく、パワーに満ちあふれています。

 前述のとおり、南部アラバマ出身らしく、ルーツ・ミュージック色の濃い音楽を展開。2000年以降のインディーフォークおよびオルタナ・カントリー勢には、現代的なサウンドやアレンジを取り込んだバンドも多いですが、アラバマ・シェイクスは良い意味で昔かたぎ。

 古き良きブルースやロックンロールが、変に脚色されることなく、現代に寄り添うこともなく、蘇ったかのような説得力があります。

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The Lumineers “Cleopatra” / ザ・ルミニアーズ『クレオパトラ』


The Lumineers “Cleopatra”

ザ・ルミニアーズ 『クレオパトラ』
発売: 2016年4月8日
レーベル: Dualtone (デュアルトーン)
プロデュース: Simone Felice (シモン・フェリス)

 コロラド州デンバーを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ザ・ルミニアーズの2ndアルバム。

 前作『The Lumineers』と同じく、テネシー州ナッシュヴィルを拠点にするインディーズ・レーベル、デュアルトーンからのリリース。

 2012年4月にリリースされた前作は、インディーズでのリリースでありながらビルボード最高2位。本作がリリースされる2016年4月までに、アメリカ国内だけで170万枚を売り上げています。

 一聴すると、フォークやカントリーの要素が色濃い彼らのサウンド。しかし、鼓動のようにゆったりとリズムを刻むドラムをはじめ、ロック的なダイナミズムも持ち合わせ、バンド全体が一体の生き物のように、いきいきと躍動する演奏が特徴です。

 前作から比較すると、本作ではより歌のメロディーが前景化し、成熟したアンサンブルを展開。とはいえ、いきいきとした躍動感も健在です。

 1曲目「Sleep On The Floor」では、スローテンポに乗って、ゆったりと歩みを進めるような、タメをたっぷりと取った演奏が展開。徐々に音数が増え、それに比例して躍動感も増していきます。アルバム1曲目ということで、前座と言うと不適切かもしれませんが、リスナーの耳とテンションを温めるような楽曲。

 2曲目「Ophelia」では、足踏みのようなリズムと、メロウなピアノとボーカルが共存。徐々に熱を帯びるボーカルと、躍動的なアンサンブルが絡み合う1曲です。

 3曲目はアルバム表題曲の「Cleopatra」。メンバーのウェスリー・シュルツ(Wesley Schultz)が、ジョージア(ジョージア州ではなく、東ヨーロッパにある国のジョージアです!)で出会ったタクシー・ドライバーから聞いた実話に、インスパイアされた曲であるとのこと。

 詳細はバンドのFacebookにアップされています。話を要約すると、シュルツはジョージアで女性のタクシー・ドライバーと出会い、彼女から以前プロポーズされたエピソードを聞きます。恋人からプロポーズされたものの、ちょうど彼女の父親が亡くなったところだったため、返事をしませんでした。

 プロポーズを拒絶されたと思った恋人は、傷心のまま村を離れ、二度と戻らず。彼女にプロポーズを断った意図はなく、恋人を愛していたため、彼が去った後も残った足跡を決して掃除せず、そのままに残したそうです。

 歌詞の内容は、上記のエピソードを下敷きにしたもの。曲調は切なさを前面に出したものではありませんが、歌のメロディーと言葉が前景化されるバランスのアンサンブルになっています。

 4曲目「Gun Song」は、ゆったりしたドラムとアコースティック・ギターのリズムに、歌のメロディーが覆いかぶさるように重なる1曲。フォーキーなサウンドで、テンポも抑えめなのに、躍動感と加速感があり、ザ・ルミニアーズらしい演奏と言えます。

 5曲目「Angela」は、軽やかに爪弾かれるギターと、流麗なボーカルが絡み合い、穏やかに流れていく1曲。音数が少ないアンサンブルなのに、効果的に音が配置され、躍動感を生んでいます。

 10曲目「My Eyes」は、音数を絞った隙間の多いアンサンブルが展開する1曲。しかし、スカスカに感じるわけではなく、音数を絞ることで一音ずつが贅沢に響き、有機的でいきいきとした演奏になっています。

 ラストの11曲目「Patience」は、高音域を使った透明感のあるピアノによるインスト曲。徐々に音が増え加速していく1曲目「Sleep On The Floor」から始まり、ピアノ主体のインスト曲で締める、アルバムらしい流れも秀逸。

 アルバム表題曲の「Cleopatra」を含め、「Ophelia」「Angela」とシングルカットされた楽曲は、いずれも女性の名前がタイトル。叙情的な歌詞も、本作の魅力のひとつとなっています。

 また、前作に引き続き、セールスも好調。ビルボード最高2位を記録した前作に対して、本作では遂に1位を獲得。その他、イギリスやカナダでも、アルバム・チャートの1位を獲得しています。

 本作リリースから2年後の2018年に、チェロを担当していたネイラ・ペカレック(Neyla Pekarek)が、ソロ・キャリアに専念するため脱退。

 バンド結成当初のウェスリー・シュルツと、ジェレマイア・フレイツ(Jeremiah Fraites)による2ピース編成に戻っています。

 クラシックの教育を受けたペカレックが脱退することで、ザ・ルミニアーズの音楽がどのように変化するのか。今後の活動も楽しみです。

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The Lumineers “The Lumineers” / ザ・ルミニアーズ『ザ・ルミニアーズ』


The Lumineers “The Lumineers”

ザ・ルミニアーズ 『ザ・ルミニアーズ』
発売: 2012年4月3日
レーベル: Dualtone (デュアルトーン)
プロデュース: Ryan Hadlock (ライアン・ハドロック)

 コロラド州デンバーを拠点に活動するフォーク・ロック・バンド、ザ・ルミニアーズの1stアルバム。

 バンドの始まりは2002年。共にニュージャージー州ラムジー出身のウェスリー・シュルツ(Wesley Schultz)と、ジェレマイア・フレイツ(Jeremiah Fraites)が、共に音楽を作り始めます。

 きっかけとなったのは、ウェスリー・シュルツの親友であり、ジェレマイア・フレイツの兄であるジョシュ・フレイツ(Josh Fraites)の死。

 オーバードーズによって、19歳の若さで亡くなったジョシュ。その悲しみと喪失感を紛らわし、共有するため、2人は一緒に音楽に向かったのでした。

 2005年にはニューヨークへ引っ越し、ザ・ルミニアーズ名義での活動を開始。成功を夢見て、小さなクラブなどでライブ活動を続けます。

 しかし、競争の激しいニューヨークの音楽シーンと、あまりにも高い物価に耐えかね、2009年にコロラド州デンバーへと拠点を移動。同地で出会ったのが、クラシック音楽の教育を受け、音楽教師を目指していたチェリストのネイラ・ペカレック(Neyla Pekarek)です。

 彼女をメンバーへ迎え、3ピース編成となったザ・ルミニアーズ。音楽性の幅を広げ、それと比例して、着実に人気と評価も拡大。2012年にリリースされた1stアルバムが、本作『The Lumineers』です。

 メジャーレーベルからのオファーもある中、テネシー州ナッシュヴィルを拠点にする、フォーク系を得意とするインディーズ・レーベル、デュアルトーンからのリリース。

 メジャーレーベルを断り、小さなインディーレーベルを選ぶところにも気概が感じられますが、音楽も流行に左右されない強度を持ったバンドと言えます。

 ちなみにチャート成績もインディーズの枠を越えた好調ぶりで、アルバムとEPの売り上げをランキングにした「ビルボード200 (Billboard 200)」では、初登場45位、最高2位を記録。イギリスのチャートでも最高8位。

 リリースから4年の2016年4月までに、アメリカ国内で170万枚、イギリスで40万枚を売り上げています。

 彼らが奏でるのは、アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーかつ躍動感あふれる音楽。フォークやアメリカーナを得意とするレーベル、デュアルトーンからリリースされているのも納得の地に足の着いたサウンドを鳴らしています。

 しかし、ただフォークやカントリーを焼き直すだけでなく、ロックにも通ずるダイナミックなアンサンブルや、ネイラ・ペカレックの奏でるチェロのサウンドなどが共存。カラフルで現代的な一面も持ち合わせています。

 1曲目「Flowers In Your Hair」は、アルバムのスタートにふさわしく、軽やかにバウンドするように駆け抜けていきます。アコースティック楽器で構成されたアンサンブルによって、ブルーグラスの香りも漂いますが、チェロの暖かく厚みのあるサウンドが、室内楽のような雰囲気もプラス。

 2曲目「Classy Girls」の前半は、ガヤガヤした街の音がサンプリングされ、その音をバックに、音数を絞った牧歌的な演奏が展開。ストリングスやドラムなどが段階的に加わり、徐々に加速しスリリングな演奏へ。

 3曲目「Submarines」では、ピアノが的確にリズムをキープし、ドラムが立体感をプラス。ピアノのまわりに他の楽器が絡みつくように、躍動感のあるアンサンブルが展開します。

 5曲目「Ho Hey」は、アコースティック・ギターと歌を中心にした、シンプルなアンサンブルに「Ho! Hey!」というかけ声が重なり、立体感と躍動感を増すアクセントとなっています。

 7曲目「Stubborn Love」は、流れるようなギターのコード・ストロークと、伸びやかなチェロ、ドンドンと鼓動のように響くドラムが重なり、バンドが一体の生き物のように、有機的に躍動。いきいきとした躍動感と疾走感を持った1曲。

 8曲目「Big Parade」は、ハンド・クラップとコーラスワークが中心になったイントロから始まる、歌のメロディーが前景化した1曲。流麗なメロディーを引き立て、加速させるように、徐々に楽器と音数が増え、疾走感を増していきます。

 11曲目「Morning Song」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、タメをたっぷりと取ったアンサンブルが繰り広げられる1曲。アルバムのラストを締めくくる曲にふさわしく、楽器の出し入れのコントラストがわかりやすく、壮大なアレンジの1曲。

 全編を通してアコースティック・ギターを主軸に据えたフォーキーなサウンド・プロダクション。なのですが、ドラムがドタドタとパワフルにリズムを叩く場面が多く、ロック的なダイナミズムも持ち合わせたアルバムです。

 前述したとおり、ネイラ・ペカレックによるチェロの伸びやかなロングトーンも、アンサンブルを包みこむように、音楽的な広がりを加えています。

 フォークやカントリーなど、ルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、アンサンブルは立体的かつダイナミック。オルタナティヴ・ロック以降の自由な発想が感じられる、インディーフォークらしい1作です。

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TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes” / TV オン・ザ・レディオ『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』


TV On The Radio “Desperate Youth, Blood Thirsty Babes”

TV オン・ザ・レディオ 『デスパレイト・ユース・ブラッドサースティー・ベイブス』
発売: 2004年3月9日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Chris Moore (クリス・ムーア), Paul Mahajan (ポール・マハジャン)

 ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するバンド、TV オン・ザ・レディオの1stアルバム。

 北米ではタッチ・アンド・ゴー、ヨーロッパでは4ADと、それぞれ英米の名門インディー・レーベルよりリリース。

 バンドが結成されたのは2001年。当時は、ボーカルを務めるトゥンデ・アデビンペ(Tunde Adebimpe)と、ギターやサンプラーなど複数の楽器を操るデイヴィッド・シーテック(David Sitek)からなる2人組。

 2002年には、このデュオ編成で『OK Calculator』を自主制作でリリースしています。2003年にはギターのカイプ・マローン(Kyp Malone)をメンバーに迎え、3人編成へ。2004年にリリースされた本作が、レーベルを通してリリースされる初アルバムとなります。

 前述の『OK Calculator』というアルバム・タイトル。ピンとくる方も多いと思いますが、90年代後半からのロックを牽引するバンド、レディオヘッド(Radiohead)のアルバム『OK Computer』を意識したタイトルです。

 しかし、音楽的には必ずしもレディオヘッドに近いわけではありません。レディオヘッドの音楽に近いというより、バンドのフォーマットで実現できる音楽の限界へと挑む、その姿勢を参考にしているのでしょう。

 トライバルなリズムや、電子的なサウンドなどをバンドのフォーマットに落としこみ、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げています。

 個人的には、こういう手の届く範囲でクリエイティヴィティを爆発させたバンド・サウンドが大好きです。

 1曲目「The Wrong Way」ではイントロからサックスが用いられ、フリージャズのような雰囲気から始まります。野太くリズムを刻むベース、シンプルながらポリリズミックなドラムが加わり、グルーヴ感と実験性が共存する音楽が展開。多様なジャンルの要素を、バンドのフォーマットに落としこむセンスは、ブラック・ミュージック版のレディオヘッドと呼びたくもなります。

 2曲目「Staring At The Sun」は、幻想的なコーラスワークが印象的な、ハーモニーが前景化した1曲。ですが、厚みのあるハーモニーの奥からは、リズム隊の強靭なビートが響き、立体的なアンサンブルを構成していきます。

 3曲目「Dreams」では、イントロから心臓が鼓動を打つようにドラムがリズムを刻みます。手数は少ないものの効果的にグルーヴを下支えするリズムを構成。

 5曲目「Ambulance」は、バックでかすかに聞こえるフィールドレコーディングと思しきサウンド以外は、声のみで構成される1曲。立体的で凝ったアンサンブルが作り上げられますが、ベース部分を担う「ドゥンドゥンドゥン…」というフレーズなど、コミカルな雰囲気も併せ持っています。

 6曲目「Poppy」は、電子的なサウンドのリズム隊の上に、厚みのあるギターサウンドが重なる1曲。最初は淡々と刻まれていたビートが、徐々に立体的に発展。ギターの分厚いサウンドに、さらにリズム面での立体感が加わります。前曲に続き、再生時間2:30あたりからは声のみのアンサンブルが挟まれ、コントラストも演出しています。

 8曲目「Bomb Yourself」は、地を這うようなベースラインに、他の楽器が絡み合うようにアンサンブルが展開。断片的なフレーズのように聞こえていた各楽器が重なり、いつの間にかグルーヴ感にあふれた演奏へと発展しています。アヴァンギャルドなギターの音作りとフレーズも、アクセントとして楽曲を彩っています。

 9曲目「Wear You Out」では、イントロから鳴り響くトライバルなドラムのリズムに、ボーカルの流麗なメロディーが重なります。音数が少なく、ミニマルな前半から、サックスや電子音が加わり、多様な音が行き交うカラフルな後半へと展開。リズムとメロディーの両者が、じわじわとリスナーの耳をつかんでいく1曲です。

 10曲目「You Could Be Love」。この曲はレコードおよびデジタル版のみに収録。ですが、ボーナス・トラック扱いにしておくには、もったいないぐらいの良曲です。適度に揺らぎのある、立体的なバンドのアンサンブル。徐々に躍動感を増していく展開。ブラック・ミュージックが持つ粘っこいグルーヴ感が、コンパクトなバンドのフォーマットに収められ、インディー・ロックとニューソウルの融合とでも言いたくなる1曲です。

 ちなみにデジタル版には、さらにボーナス・トラックとして11曲目に「Staring At The Sun」のデモ・バージョンを収録。

 デイヴィッド・シーテック以外は、アフリカにルーツを持つメンバーが集ったTVオン・ザ・レディオ。白人男性が多いUSインディーロック界において、それだけでも異彩を放つ存在です。(人口比率から考えて、当然な部分もありますが…)

 もちろん、ただアフリカ系アメリカ人がやっているバンドだという話題性だけでなく、音楽自体もブラック・ミュージックからの影響が、コンパクトにロック・バンドのフォーマットに落とし込まれていて個性的。

 本作でも、ヒップホップやジャズの要素が、あくまでギター、ベース、ドラムを中心としたバンドのかたちに収められ、ファンキーなグルーヴ感と、ロック的なダイナミズムが共存しています。

 もっとカジュアルに説明すると、肉体的な演奏と、音楽を組み立てるクールな知性が、両立しているとでも言ったらいいでしょうか。天然でゴリゴリにグルーブしている部分と、音楽オタクが巧みに組み上げた緻密さが、ともに音楽から溢れ出ています。

 先にレディオヘッドを引き合いに出しましたが、現代音楽やプログレッシヴ・ロックの要素を5人組のバンドの枠組みに落としこむレディオヘッドと同じく、TVオン・ザ・レディオも各種ブラック・ミュージックの要素を、バンド・フォーマットに落としこんでいる、とも言えるでしょう。

 「アート・ロック(art rock)」とも称される彼らの音楽。まさに「アート」の名に恥じない、知性と情熱を備えたバンドです。

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The Drums “Abysmal Thoughts” / ザ・ドラムス『アビスマル・ソウツ』


The Drums “Abysmal Thoughts”

ザ・ドラムス 『アビスマル・ソウツ』
発売: 2017年6月16日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデュース: Jonathan Schenke (ジョナサン・シェンケ)

 ニューヨーク出身のインディーロック・バンド、ザ・ドラムスの4thアルバム。エピタフの姉妹レーベルであり、ジャンルを超えてオルタナティヴな作品を手がける、アンタイからのリリース。

 2008年に、ニューヨークのブルックリンで結成。2010年の1stアルバム『The Drums』リリース時は、4ピース・バンドだったザ・ドラムス。

 しかし、2010年にギターのアダム・ケスラー(Adam Kessler)、2012年にドラムのコナー・ハンウィック(Connor Hanwick)、2017年にはシンセサイザーのジェイコブ・グラハム(Jacob Graham)が脱退。

 そのため、本作リリース時のメンバーは、ジョナサン・ピアースのみ。部分的にグラハムが参加している楽曲もありますが、ほとんど彼のソロ・プロジェクトとなっています。

 サポート・メンバーも招いてはいますが、ピアース自身がギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、各種パーカッションなど、多くの楽器を担当。

 ただ、多くの楽器を担っているからといって、1人が頭の中で作りあげた閉塞感や、箱庭感のあるアルバムかというと、そうでもありません。

 元々ゴリゴリのグルーヴよりも、軽やかな疾走感を特徴としていたザ・ドラムス。バンドでありながら、サウンド・プロダクションにも、アンサンブルにも宅録感があったので、1人になったところで、その魅力は損なわれないということなのでしょう。

 同時に、フロンロマンを務めるジョナサン・ピアースの影響が、大きな比率を占めていたバンドなのだな、とも思います。むしろ、1人になった本作の方がアンサンブルが有機的で、バンド感が強いのではないかとすら感じます。

 サウンド・プロダクションにおいても、80年代ニューウェーヴを彷彿とさせるシンセ・サウンドは、やや控えめ。よりソリッドな音像となっています。とはいえ、一般的な感覚から言えば、十分にソフトなサウンド。

 いずれにしても、メンバーが1人になったからといって、音楽性が大きく変わることもなく、これまでのザ・ドラムスらしさを多分に含んだ1作です。

 1曲目「Mirror」は、音数が少なくスペースの多いアンサンブルの中で、ボーカルが際立つ1曲。各楽器のフレーズもシンプルですが、0:50あたりから入る調子ハズレに聞こえるベース音が、耳に引っかかるフックになっています。

 2曲目「I’ll Fight For Your Life」では、イントロから増殖するようなシンセのフレーズにギターが重なり、レイヤー状に厚みを増すアンサンブルが展開。ドラムのリズムは気持ちいいぐらいにシンプルで、軽やかな疾走感を生んでいます。

 3曲目「Blood Under My Belt」は、コーラスワークも含め、立体的なアンサンブルの1曲。

 4曲目「Heart Basel」は、イントロから徐々に楽器と音数が増えていき、四方八方から音が飛び交う、にぎやかなアンサンブルへと発展。この曲も、各楽器とも音を詰め込みすぎず、スペースを保ちつつ、ゆるやかにバウンドするような躍動感あふれる演奏となっています。

 8曲目「Are U Fucked?」は、リバーブの効いたギターと、まわりで鳴る各種パーカッションの音色が耳に残る、浮遊感のある1曲。全体のサウンド・プロダクションが柔らかく、各楽器のフレーズと音作りには意外性があり、ほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 10曲目「Rich Kids」は、奇妙なサウンドのイントロから始まり、タイトに絞り込まれた、疾走感のある演奏が展開。その後もファニーなサウンドとフレーズが随所で顔を出し、ノリの良さと、アヴァンギャルドな空気が共存した1曲です。

 アルバム表題曲であり、ラスト12曲目の「Abysmal Thoughts」は、各楽器のフレーズがリズムをずらしながら折り重なる、立体的なアンサンブルが魅力の1曲。

 前述したとおり、アルバム全体をとおして過度に音を詰めこまず、スペースに余裕のあるアンサンブルが展開される1作です。

 サウンド・プロダクションもソフトで、どちらかというとローファイ寄り。ですが、アンサンブルの隙間と、柔らかなサウンドが揺らぎを際立たせ、ゆるやかな躍動感をともなった音楽を作り上げていきます。

 前述したとおり、ジョナサン・ピアースが多くの部分を作り上げた本作。すべてが彼の思いどおりにコントロールされたため、コンパクトでありながら、躍動感をともなった演奏を、実現できたのではないかと思います。

 圧倒的な音圧やグルーヴ感で押すわけではないのに、いつの間にか体が動き出す、音楽的フックをいくつも持ったアルバムです。

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