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Bastro “Diablo Guapo” / バストロ『ディアブロ・グアポ』


Bastro “Diablo Guapo”

バストロ 『ディアブロ・グアポ』
発売: 1989年
レーベル: Homestead (ホームステッド), Drag City (ドラッグ・シティ)

 ケンタッキー州ルイヴィル出身のポスト・ハードコア・バンド、スクワール・バイト(Squirrel Bait)解散後に、メンバーだったギターのデイヴィッド・グラブス(David Grubbs)と、ベースのクラーク・ジョンソン(Clark Johnson)によって、1988年に結成されたバストロ。

 同年には、2人のメンバーにドラム・マシーンを用いた編成で、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを務め、6曲入りのミニ・アルバム『Rode Hard And Put Up Wet』を、ホームステッドからリリース。ドラマーにジョン・マッケンタイア(John McEntire)を迎え、翌1989年にリリースされた1stアルバムが、本作『Diablo Guapo』です。

 前年にリリースされたミニ・アルバムと同じく、ニューヨークのインディー・レーベル、ホームステッドからのリリース。2005年には、本作『Diablo Guapo』と、次作『Sing The Troubled Beast』の2枚を1枚に併せたかたちで、シカゴの名門インディー・レーベル、ドラッグ・シティから再発版がリリースされています。

 現在では「ガスター・デル・ソル(Gastr Del Sol)のデイヴィッド・グラブスと、トータス(Tortoise)のジョン・マッケンタイアが在籍したバンド」として、なかば伝説的なバンドとして扱われることもあるバストロ。その後の2人の活動、および現在の彼らの音楽性のパブリック・イメージは、ポストロック色が強いと言って、差し支えないかと思います。しかし、本作で展開されるのは、エモーションが音に姿を変えて噴出するかのような、ハードコア色の濃い音楽。

 演奏の節々には、ポストロックを彷彿とさせる実験的なアプローチもありますが、基本はハードな音像と疾走感が前面に出ており、ジャンルとしてはポストロックよりも、ポスト・ハードコアと言った方が適切でしょう。

 バストロから、その後のガスター・デル・ソルやトータスへと続く過程で明らかになるのは、パンクやハードコアの精神が、ポスト・ハードコアやポストロックへと地続きになっているということ。ここで言う「パンクの精神」とは、既成概念にとらわれずに音楽を作ろうとする態度、ぐらいの意味だとお考えください。

 よりアコースティックなサウンドを持ったガスター・デル・ソルや、ポスト・プロダクションも駆使し、緻密にアンサンブルを組み上げるトータスの音楽性と比較すると、一見バストロの音楽は両者からは断絶しているように思えるかもしれません。しかし、根底に流れる音楽に対する自由な態度は、共通していると言ってよいでしょう。

 では、そんなバストロの1stアルバムでは、実際にどんな音楽が鳴っているのか。疾走感のあるビートと、激しく歪んだギターを主軸にしたジャンク感のあるサウンドは、ハードコア的と言えます。しかし、楽器のフレーズやアレンジには、複雑でアヴァンギャルドな面も多分に含まれており、ポストロックの息吹も感じられます。

 1曲目の「Tallow Waters」は、イントロから激しく歪んだギターと、硬質なリズム隊が、絡み合いながら走り抜ける、疾走感と一体感のある1曲。ディストーション・ギターを中心に据えた、エモーションが溢れ出したかのようなサウンドと、疾走感あふれる演奏はハードコアそのもの。しかし、直線的に縦をぴったり合わせて走るのではなく、絡み合うように複雑なアンサンブルを構成するところからは、ポストロックの香りも漂います。ちなみにCDのジャケットに記載されている曲目には、数字ではなく、aから順番にアルファベットがふられています。

 2曲目「Filthy Five Filthy Ten」は、金属的なガチャガチャした歪みのギターを中心に、立体的なアンサンブルが展開される1曲。1曲目より疾走感は抑えめで、その代わりに各楽器が絡み合う、有機的なアンサンブルが前景化されています。

 3曲目「Guapo」は、硬く引き締まった音色のベースに、タイトなドラムと、ジャンクなギターが絡みつき、疾走していく1曲。

 6曲目「Can Of Whoopass」は、うなりを上げるようなギターの音と、タイトなリズム隊が重なり、ジャンクで厚みのあるサウンドを作り上げる1曲。ギターの音をはじめ、全体のサウンド・プロダクションからはアングラ臭が漂いますが、演奏のコアの部分はリズムがきっちりと合い、このバンドのテクニックの高さをうかがわせます。

 8曲目「Engaging The Reverend」は、下品の歪んだギターが紡ぎ出す回転するようなフレーズと、タイトなリズム隊、ブチ切れ気味のボーカルが、凄まじいテンションで疾走していく1曲。

 9曲目「Wurlitzer」は、ピアノとパーカッションを中心に構成された、このアルバムの中にあって特異なサウンドを持った1曲。フリーな雰囲気で演奏が繰り広げられ、ハードコア要素はほぼ無く、その後のガスター・デル・ソルやトータスへの変遷を感じさせる曲と言っても良さそうです。

 前述のとおり、ハードコア的な激しいサウンドと疾走感を持ちながら、同時にその後のポストロックやマスロックへ繋がる複雑さも持ち合わせた1作です。デイヴィッド・グラブスとジョン・マッケンタイアが在籍した云々という歴史的価値を差し引いても、ポスト・ハードコアの名盤に数えられるべき、優れた作品であると思います。

 2018年7月現在、デジタル配信はされていないようです。残念…。興味がある方は、前述したとおり本作と次作『Sing The Troubled Beast』を、1枚に収めたものがリリースされておりますので、探してみてください。日本盤もあります。





Bluetip “Polymer” / ブルーチップ『ポリマー』


Bluetip “Polymer”

ブルーチップ 『ポリマー』
発売: 2000年9月26日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ワシントンD.C.出身のポスト・ハードコア・バンド、ブルーチップの3rdアルバム。ここまでの2作同様、ディスコードからのリリース。プロデューサーは、前作に引き続き、J・ロビンスが担当。

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたブルーチップですが、デイヴ・スターンが脱退。本作では、新ギタリストとしてブライアン・クランシー(Brian Clancy)を迎えています。

 ハードコア・パンクから出発して、アルバムを追うごとに徐々に音楽性を広げていく、というようなバンドの変化は、ハードコアに限っらず往往にしてあります。

 ハードコア・バンド、スウィズの元メンバーによって結成されたブルーチップは、当初からポスト・ハードコア的な志向を持つバンドでしたが、作品を重ねるごとに、そのポスト性が増してきている、と個人的には感じます。

 その理由は、1stアルバムの時点で、ハードコア的なソリッドで硬質なサウンドを持ちながら、スピード重視ではなくアンサンブル重視の音楽を展開していた彼らが、2枚目、そして3枚目となる本作と、さらに複雑なアンサンブルを構成しているからです。

 1曲目「Polymer」は、ギターと歌メロが中心に据えられながら、それに巻きつくようにリズムを刻むドラムともう1本のギターが加わり、有機的なアンサンブルが組む上げられていきます。

 2曲目「New Young Residents」は、ギターがラフに音をばら撒きながら、全体としては音が交差するように絡み合い、躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。

 3曲目「New Shoe Premonition」は、イントロからギターとドラムが回転するようにリズムを刻み、タイトで立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。

 6曲目「Magnetified」は、空間系エフェクターも使用されているのか、厚みある豊かな歪みのギターが、ほのかにサイケデリックな空気を振りまき、タイトで的確に刻んでいくリズム隊と溶け合います。

 9曲目「Anti-Bloom」では、各楽器とも異なるリズム、フレーズを持ち寄り、全体として躍動感と一体感あるアンサンブルを構成。ミドルテンポの1曲ですが、展開も多彩で、ダイナミズムの大きな1曲です。

 前作と比較して、特にギターの音作りをはじめ、音色の幅が広がっています。前述したとおり、アレンジの面でも、攻撃性やスピード感より、アヴァンギャルドなフレーズやアレンジが増え、ハードコアからはだいぶ離れたポスト・ハードコア・サウンドが展開されるアルバムと言えます。

 





Bluetip “Join Us” / ブルーチップ『ジョイン・アス』


Bluetip “Join Us”

ブルーチップ 『ジョイン・アス』
発売: 1998年10月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの2ndアルバム。

 プロデューサーは、前作のイアン・マッケイに代わって、J・ロビンスが担当。このJ・ロビンスという人は、本名ジェームス・ロビンス(James Robbins)。ジョーボックス(Jawbox)などで自らもバンド活動をする傍ら、プロデューサーおよびエンジニアとしても有名です。

 前作『Dischord No. 101』に引き続き、実にディスコードらしいポスト・ハードコアなアルバムと言えます。とはいえ、ジャンル名だけでは、実際にどのような音楽が鳴っているのか、何も語っていないのと同然ですから、このアルバムの志向する音楽、個人的に聴きどころだと思う魅力について、書いていきたいと思います。

 単純化が過ぎるのを恐れずに言うなら、ハードコア・パンクは、歌のメロディーやバンドのアンサンブルよりも、スピード感を重視した音楽だと、ひとまず定義できるでしょう。そのため、複雑なリフやアレンジよりも、高速でシンプルなリフやパワーコードが多用される傾向にあります。

 また、限界まで速度を上げたテンポ、過度に歪んだ硬質なギター・サウンドなど、サウンド面で(時には歌詞の面でも)攻撃性が際立っているのも、特徴と言えます。

 ブルーチップの2枚目のアルバムとなる本作では、歪んだギター・サウンドが用いられてはいますが、疾走感やハイテンポよりも、バンドの複雑なアンサンブルの方が重視され、歌のメロディーも起伏があり、コントラストが鮮やか。ハードコアの攻撃性と、グルーヴ感あふれる演奏、歌メロの魅力が、見事に溶け合った1作です。

 複雑なアンサンブルによって、テンポを上げるのみでは表現できない攻撃性や、感情を表しているようにも思え、まさにポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしいクオリティを備えたアルバムであると言えます。

 1曲目の「Yellow Light」から、段階的にシフトを上げていく、多層的で弾むようなアンサンブルに乗せて、流れるようなメロディーが紡がれていきます。躍動感と疾走感、シングアロングしたくなるような親しみやすいメロディーが共存した1曲です。

 2曲目「Cheap Rip」は、ざらついた質感のギターを中心に、タイトなアンサンブルが展開される1曲。随所でリズムを切り替え、伸縮するように躍動しながら、進行していきます。

 3曲目「Join Us」は、金属的な響きのギターが、キレ味鋭くリフを弾き、立体的なアンサンブルが形成。各楽器がお互いにリズムを食い合うように重なり、生き物のように躍動感と一体感のある演奏が、繰り広げられます。

 5曲目「Carbon Copy」は、スローテンポで、音数も少なめ。無駄を削ぎ落とし、一音ごとの重みを増し、ゆっくりと地面に沈んでいくようなアンサンブルが展開。スロウコアが目指すようなアプローチの1曲。

 6曲目「Salinas」は、ハードに歪んだギターと、シャウト気味のボーカルが絡み合う、立体的でパワフルな1曲。

 8曲目「I Even Drive Like A Jerk」は、ギターは毛羽立ったように歪み、ボーカルも感情を叩きつけるように歌い、全体としてアングラな雰囲気を持っています。静と動のコントラストが鮮烈で、ダイナミズムの大きい1曲。

 9曲目「Bad Flat」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器の音数も控えめ。ボーカルも感情を排したかのような歌い方で、随所にスポークン・ワードが挟まれます。しかし、後半になると、歌とギターが、メロディーの起伏ではなく、歌い方とサウンドに感情を込めるように、エモーショナルに音を紡いでいきます。

 1stアルバムと比較しても、楽曲とアレンジの幅が確実に広がったアルバムです。音質はハードでソリッドですが、音量や速度だけに頼ることはなく、テンポを落とし、アンサンブルと各楽器のフレーズを前景化させるように、丁寧に作り上げられたアルバム、という印象。

 特に一部の曲では、スローテンポに乗せて、音数を絞った演奏が展開され、各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成する彼らの志向が、あらわれていると思います。

 





Bluetip “Dischord No. 101” / ブルーチップ『ディスコード・No.101』


Bluetip “Dischord No. 101”

ブルーチップ 『ディスコード・No.101』
発売: 1996年5月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 ワシントンD.C.で結成されたハードコア・バンド、スウィズ(Swiz)解散後に、元メンバーのデイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの1stアルバム。

 当初は、オハイオ・ブルー・チップ(The Ohio Blue Tip)というバンド名だったものの、短縮してブルーチップを名乗るようになります。

 1stアルバムとなる本作は、彼らの地元ワシントンD.C.を代表するレーベル、ディスコードからのリリースで、プロデュースを務めるのはイアン・マッケイ。アルバム・タイトルの『Dischord No. 101』は、この作品のカタログ番号です。

 キレ味抜群のギターを筆頭に、硬質でアグレッシヴなサウンド・プロダクションを持った作品で、音楽的にもリフやアレンジに意外性のある捻れた部分があり、実にディスコードらしい質感。スピードよりも、複雑なアンサンブルを重視した、ポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしい音楽が展開されます。

 1曲目「Nickelback」は、イントロから堰を切ったように音が押し寄せる、疾走感あふれる1曲。2本のギターが、絡み合いながら疾走していくアンサンブルは、イントロからエンジン全開です。

 3曲目「Precious」は、各楽器がめちゃくちゃに絡み合うような、一体感と疾走感があります。ラフさが音楽のフックになりながら、疾走していくアンサンブルのバランスが秀逸。再生時間1:52あたりで静寂が訪れるところも、コントラストを鮮やかに演出しています。

 4曲目「If I Ever Sleep Again」では、複数のギターが異なるフレーズを弾きながら、有機的に絡み合い、アンサンブルを構成。ハードロックの持つギターリフのかっこよさと、楽器が複雑に絡み合うことで生まれるグルーヴ感が、見事に共存しています。

 6曲目「Sacred Heart Of The Highway」は、スローなテンポに乗せて、スライド・ギターの音が流れに身を任せるように漂うイントロからスタート。音量も音数も抑えた、メローな雰囲気で進行しますが、再生時間2:17あたりで、ドラムの音を合図に、開放的に音量と楽器が増加。コントラストを演出します。

 9曲目「L.M.N.O.P.」は、ミニマルなギターのフレーズと、ベースのロングトーンから始まり、躍動感あふれる幾何学的なアンサンブルが展開。

  ハードコア・パンクの疾走感とハードな音像を持ちながら、立体的なアンサンブルを構築。その音楽性の奥行きの深さが、このアルバムの魅力と言えるでしょう。

 やたらとテンポを上げるのではなく、楽器のフレーズの組み合わせや、リズムの切り替えによって、疾走感やダイナミズムを演出し、情報量の多い音楽を作り上げているバンドだと思います。

 





Unsane “Total Destruction” / アンセイン『トータル・ディストラクション』


Unsane “Total Destruction”

アンセイン 『トータル・ディストラクション』
発売: 1994年1月18日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Martin Bisi (マーティン・ビシ)

 1988年にニューヨークで結成されたバンド、アンセインの2ndアルバム。

 本作は1993年にドイツで、地元インディー・レーベルのシティ・スラング(City Slang)より発売。アメリカ国内では翌年の1994年に、ニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドールからリリース。当時マタドールは、メジャーレーベルのアトランティック(Atlantic)とパートナーシップを結んでおり、先のドイツでのリリースも含め、アトランティックの販売システムを通しての発売でした。

 プロデューサーは、ソニック・ユースの『EVOL』なども手がけたマーティン・ビシが担当。

 ノイズ・ロックに括られることもあるアンセイン。本作も、ノイズ要素を含み、ヘヴィで立体的なサウンドで、アングラ感のあるロックが展開されるアルバムです。しかし、ダークでアングラな空気感を、ロック的ダイナミズムを持ったサウンド・プロダクションが中和し、アングラ性と大衆性を併せ持った作品に仕上がっています。

 むしろ、アングラ性がアクセントとして、アルバム全体の魅力を増しているとさえ感じさせるところが、このアルバムの魅力。ジャケットの血のついたキャデラックも、大衆性と実験性を併せ持つこのアルバムの音楽性をあらわしてるのではないかと思わせます。

 1曲目の「Body Bomb」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、たたみかけるように迫り来るアンサンブルが展開される1曲。波打つようなリズム隊と、うねるようなギター、押しつぶされたようなサウンドの絶叫系のボーカルが絡み合うアンサンブルからは、アングラ感が溢れます。

 2曲目「Straight」は、絡み合いながら疾走していく、立体的なサウンドを持った1曲。

 3曲目「Black Book」は、硬質なサウンドのディストーション・ギターと、タイトなリズム隊が、回転するようにパワフルなアンサンブルを作り上げていきます。やや奥の方から聴こえるシャウト気味のボーカルとも相まって、グルーヴ感とアングラ感のあるロックが展開。

 4曲目「Trench」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、引きずるようにギターが唸り、ドラムは叩きつけるようにリズムを刻みます。テンポを落とすことで、ヘヴィさが増していることを実感できる1曲。再生時間2:50あたりからのねじれたギターのフレーズも、アングラな空気をプラスしていて、ロックのヘヴィネスと実験性が共存していて、非常にかっこいい。

 5曲目「Dispatched」では、硬くジャンクな響きを持ったギターが、イントロから耳に残る1曲。回転するようなベースラインと、タイトなドラムが、パワフルにリズムを刻むなか、ギターは切れ味鋭いナイフのように、フレーズを繰り出していきます。

 8曲目「Road Trip」は、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開されるミドルテンポの1曲。随所のリズムのタメがあり、耳をつかむフックになっています。

 10曲目「Get Away」は、バウンドするようにバンドが躍動する、疾走感と立体感のある1曲。細かく的確にリズムを刻むドラムと、豪快に歪んだギター、ブチギレ気味のボーカルが絡み合う、アングラ感たっぷりのロックンロール。

 11曲目「S.O.S.」は、波打つようなリズムが、サイケデリックな雰囲気を醸し出す1曲。ギターの歪みは控えめで、リズムに合わせてアームを使っているのか、音程が揺れるところがあり、その部分がとても心地よいです。リズムと音程が、同じタイミングで揺れる感覚と言ったらいいでしょうか。

 アレンジやサウンド・プロダクションに、多分に実験的でアングラな要素を含んだアルバムであるのに、ロックのダイナミズムの方を強く感じるバランスで成り立っていて、非常のかっこいいアルバムです。ロックの躍動感やダイナミズムを演出するアクセントとして、激しく歪んだサウンドや、アヴァンギャルドなアレンジを用いているような、絶妙なバランス感覚。

 実験のための実験に陥るのではなく、ロックのヘヴィな魅力を増幅させるために、一般的にはノイズと思われるような要素を作品に落とし込んでいるところが、このアルバムの魅力と言って良いでしょう。