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Descendents “I Don’t Want To Grow Up” / ディセンデンツ『アイ・ドント・ウォント・トゥ・グロウ・アップ』


Descendents “I Don’t Want To Grow Up”

ディセンデンツ 『アイ・ドント・ウォント・トゥ・グロウ・アップ』
発売: 1985年
レーベル: New Alliance (ニュー・アライアンス), SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: David Tarling (デヴィッド・ターリング)

 カリフォルニア州マンハッタンビーチ出身のパンクロック・バンド、ディセンデンツの2ndアルバム。1985年にニュー・アライアンスからリリースされ、その後1987年に親レーベルのSSTから再発されています。

 1982年発売の1stアルバム『Milo Goes To College』後に、ボーカルのマイロ・オーカーマン(Milo Aukerman)は大学進学のため、ドラムのビル・スティーヴンソン(Bill Stevenson)はブラック・フラッグ(Black Flag)に参加するためバンドを離れ、ディセンデンツは休止状態になります。

 2人が復帰し、3年ぶりにリリースされたのが本作『I Don’t Want To Grow Up』。前作に引き続き、ジャケットにはボーカルのマイロをモデルにしたキャラクターが採用されています。ゆるい雰囲気が、なんとも魅力的。

 ハードコア的な疾走感と、メロコア的な爽やかなメロディーとコーラスワークが、共存していた前作。本作でも前作に引き続き、疾走感とポップさの共存したアルバムになっています。前作と比較して変化しているところを挙げると、全体の音質がくっきりとし、アンサンブルがよりタイトに機能的になったところ。

 前作からも、直線的に走るだけではなく、各楽器が絡み合うようなアンサンブル重視の志向が垣間見えるバンドでしたが、本作でサウンドの輪郭がはっきりしたことも相まって、よりアンサンブルが前景化されたロックが展開されます。

 1曲目「Descendents」は、アルバムのスタートにふさわしく、前作の延長線上にあるような疾走感あふれるハードコア・パンク。前作に引き続き、シャウト気味ながらメロディーもしっかりと聴かせるマイロのボーカルは秀逸です。

 2曲目「I Don’t Want To Grow Up」は、1曲目に引き続き、一体感と疾走感のあるパンク・チューン。随所に差し込まれる、飛び道具のようなコーラスもアクセントになり、曲にポップさを足しています。

 5曲目「No FB」は、テンポも速く、前のめりに走り抜ける1曲。無駄を削ぎ落とし、わずか36秒で終わるところもかっこいい。

 6曲目「Can’t Go Back」は、爽やかで開放的なメロディーと、タイトでフックの多いリズム隊、豊かな倍音を持った歪んだギターが絡みあい、アンサンブルを構成。メロコア的なポップさと、みずみずしい青春感を持った1曲です。

 8曲目「My World」は、分厚いディストーション・ギターと、地声とシャウトを織り交ぜたようなエモーショナルなボーカルが疾走する1曲。

 11曲目「In Love This Way」は、クランチ気味のギターの音色が印象的な、軽快なリズムが特徴の曲。ボーカルの歌唱とメロディーも爽やかで、ギターポップにすら聴こえるぐらいのポップさを持っています。

 アルバムを通して聴くと、前作から比較して音楽性の幅が、格段に広がったなと感じます。ギターの音色ひとつ取っても、楽曲によって多様なサウンドを使い分け、雰囲気を一変させています。

 ハードコアから、アングラ、メロコア、ギターポップまで、パンクバンドの枠におさまらない様々な音楽を感じさせる、カラフルなアルバムです。後続に多大な影響力を与えるバンド、あるジャンルのオリジネーターとされるバンドは、枠に収まり切らないアイデアとオリジナリティを持っているものなんでしょうね。

 





Descendents “Milo Goes To College” / ディセンデンツ『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』


Descendents “Milo Goes To College”

ディセンデンツ 『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』(ミロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ)
発売: 1982年
レーベル: New Alliance (ニュー・アライアンス), SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1977年にカリフォルニア州マンハッタンビーチで結成されたバンド、ディセンデンツの1stアルバム。1982年にニュー・アライアンスからLPでリリースされ、1987年にニュー・アライアンスの親レーベルでもあるSSTから再発されています。

 アルバムのタイトルは、ボーカルのマイロ・オーカーマン(Milo Aukerman)が、カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学するため、バンド活動を離れることに由来。アルバムのジャケットになっているのは彼のカリカチュアで、やがてバンドのマスコットになります。

 15曲収録で、合計時間は22分。大半が2分以内におさまった疾走感と、耳なじみの良いメロディーを併せ持つアルバムです。後のカリフォルニアのパンク・シーンの元を作ったバンドのひとつと言っていいでしょう。

 1982年の作品ということで、現代的な耳で聴くと、音圧は低めですが、疾走感あふれる演奏と、流れるようなメロディー、みずみずしく青春を感じさせるコーラスワーク、身近な日常を切りとる歌詞には、パンクの魅力が溢れています。と書くと「パンクってなに?」という話になってしまいますが、背伸びせずに日常を歌うのも、ある時期以降のパンクの役割のひとつではないでしょうか。

 日本でも青春パンクと呼ばれるジャンルがありますが、政治性や攻撃性を重視するだけでなく、日常をユーモアや音楽で描き出すことで、自分の日常や世界を変える。その態度にリアリティがあり、パンクなのだと思います。

 1曲目「Myage」から、速めのテンポに乗って、バンド全体が前のめりに突っ込んでくるようなアンサンブルが展開されます。シャウト気味ながら、メロディーもきちんと聴かせる、ボーカルの歌唱バランスも秀逸。

 2曲目「I Wanna Be A Bear」も、ギターとベースが絡み合うように疾走するイントロから、前のめりに進行していきます。わずか40秒ほどの1曲で、勢いと共にあっという間に終わります。

 4曲目「Parents」は、ベースラインにジャカジャカと歪んだギターが絡みつくようなアンサンブル。

 5曲目「Tonyage」は、前につっこみ気味のリズムで、徐々に加速していく1曲。この曲も1分以内の短い曲ですが、その中で何回かに分けてテンポを上げていき、疾走感に溢れています。

 8曲目「Catalina」は、上から叩きつけるような立体的なドラムと、淡々とリズムを刻むベースと、ざらついた音色のギターが、ただの勢い任せではない、機能的なアンサンブルを構成していきます。スポークン・ワードから始まり、徐々にテンションを上げていくボーカルも、バンドのテンションと一致していて、盛り上がりをさらに演出。

 10曲目「Statue Of Liberty」は、メタリックな歪みのギターと、タイトなリズム隊が、カチッとしたアンサンブルを展開していきます。流れるようなメロディーとコーラスワークも心地よく、アングラ感とポップさの溶け合ったロックンロール。

 13曲目「Hope」は、潰れたような歪みのギターを中心に、塊感のある演奏が展開されます。各楽器が分離し、絡み合うようなアンサンブルが、このバンドの魅力だと個人的には思うのですが、この曲はバンドがひとつの塊になって転がっていくような一体感があります。

 アルバム全体を通して、各楽器が絡み合うような一体感があり、その絡み合いが疾走感に繋がっています。全ての楽器が同じリズムで、縦をぴったり合わせるのではなくて、追い抜き合うような、もつれ合うような部分があるところが、フックになって、耳をつかみやすくなっているんじゃないかと思います。

 疾走感あふれる演奏やシャウト気味のボーカルなどハードコア的な要素と、親やすいメロディーとコーラスワークなどメロコアに通じる要素を併せ持ったアルバムで、その後のカリフォルニアのパンクシーンに与えた影響の大きさを感じさせます。

 また、直線的に突っ走るだけでなく、歌詞と演奏の両面において、知性を感じさせるところも、このバンドおよびアルバムの魅力であると思います。

 





Lyres “On Fyre” / ライアーズ『オン・ファイア』


Lyres “On Fyre”

ライアーズ 『オン・ファイア』
発売: 1984年
レーベル: Ace Of Hearts (エース・オブ・ハーツ)
プロデュース: Richard W. Harte (リチャード・W・ハート)

 1976年にマサチューセッツ州ボストンで結成されたガレージ・ロック・バンド、DMZ。そのDMZが1978年に解散し、メンバーだったジェフ・コノリー(Jeff Conolly)を中心に結成されたのが、ライアーズです。本作は1984年にリリースされた1stアルバム。

 当時は彼らの地元ボストンのインディペンデント・レーベル、エース・オブ・ハーツから発売され、1998年にニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドール(Matador)から再発されています。プロデューサーは、エース・オブ・ハーツの設立者でもあるリチャード・ハートが担当。

 1984年にLPで発売時は11曲収録ですが、現在ストリーミングでは5曲を追加し、16曲収録で配信されています。

 60年代ガレージ・ロックからの影響は明らかで、適度に荒れたドタバタ感のあるガレージ・ロックを鳴らしています。現代的なハイファイ・サウンドと比較すると、やや音圧不足でローファイに感じられる部分もありますが、その音質さえも魅力に感じられる、生々しく、良い意味で飾り気のないロックンロールが展開されます。

 ライアーズの音楽の特徴として、もうひとつ挙げられるのはオルガンの使用です。フロントマンのジェフ・コノリーは、ボーカルとオルガンを担当しており、本作でも全編でオルガンが使用されています。オルガンの音色も60年代のロックを感じさせるもので、ガレージに加えて、サイケデリックな空気感をプラス。アルバムを、より多彩にしています。

 また、発売当初の11曲の収録曲のうち、5曲目「Love Me Till The Sun Shines」と7曲目「Tired Of Waiting」は、1964年結成のイギリスのロックバンド、キンクス(The Kinks)のカバー。ガレージだけにとどまらない音楽性の幅が、ここからも窺えます。

 2012年には、フロントマンのジェフ・コノリーが単独来日。日本のTHE FADEAWAYSがバックバンドを務めるかたちで、DMZとライアーズの楽曲を披露する日本公演を実現。息の長いバンドです。

 





Rites Of Spring “Rites Of Spring” / ライツ・オブ・スプリング『ライツ・オブ・スプリング』


Rites Of Spring “Rites Of Spring”

ライツ・オブ・スプリング 『ライツ・オブ・スプリング』
発売: 1985年6月
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 のちにフガジ(Fugazi)に参加することになる、ギー・ピチョット(Guy Picciotto)とブレンダン・キャンティー(Brendan Canty)が在籍していたバンド、ライツ・オブ・スプリングの1stアルバムであり、唯一のアルバム。

 1985年に発売当時は、レコードのみでの発売でしたが、本作収録の12曲とEP『All Through A Life』収録の5曲をまとめて収録したものが、『End On End』というタイトルで、1991年にCD化されています。現在『Rites Of Spring』として、配信で販売されているもの、サブスクリプション・サービスで配信されているのは、いずれも『End On End』と同内容で17曲収録となっているようです。

 疾走感あふれる演奏と、感情を絞り出すようなヒリヒリするボーカルは、ハードコアの延長線上にあるのは間違いありません。しかし彼らの音楽は、メロディーの面ではハードコアの範疇におさまらない起伏があり、アンサンブルの面では後のフガジに繋がる複雑さと機能性を持ち合わせています。

 1曲目「Spring」は、切迫感のあるボーカルが、バンドともに疾走していく1曲。ですが、直線的にスピード重視で駆け抜けるのではなく、リズムが伸縮するようなメリハリがあり、各楽器とも見せ場があり、高いアート性を持った楽曲に仕上がっています。

 2曲目「Deeper Than Inside」は、1曲目以上に疾走感に溢れていますが、やはりこの曲も単純なリズムを繰り返すだけではなく、各楽器が絡み合うような、ねじれた部分があります。

 5曲目「All There Is」は、メロディアスなボーカルと、立体的なアンサンブルが、機能的に絡み合う1曲。波のように強弱をつけながら押し寄せるリズム隊に、ボーカルとギターが乗り、グルーヴ感と疾走感を生み出します。

 6曲目「Drink Deep」は、イントロから硬質なベースが曲を先導し、まとわりつくようなギターのロングトーンと、立体的なドラムが、多層的で複雑なアンサンブルを作り上げる1曲。ブチギレ気味のボーカルからはハードコア臭が漂いますが、演奏はポストロックに繋がる実験性を持っています。

 8曲目「Theme」は、クリーントーンのギターと、激しく歪んだギターが共生し、疾走していく1曲。スピード感はありますが、ギターの音作りとフレーズには、一般的なハードコアの範疇には入りきらない奥行きがあります。

 11曲目「Persistent Vision」は、疾走感があり、ハードコアの要素を多分に持っていますが、再生時間1:25あたりからのテープ・コラージュのようなアレンジなど、アヴァンギャルドな空気も持った1曲です。

 12曲目「Nudes」は、バンド全体がバウンドするような躍動感のある1曲。リズムのルーズなところとタイトなところがはっきりしており、立体感と一体感のあるアンサンブルが展開されます。

 たった1枚のアルバムのみを残して解散したバンドですが、ハードコアとエモコア、ポスト・ハードコアを繋ぐ存在として、重要なバンドだと言えるでしょう。また、余談ですが、カート・コバーン(Kurt Donald)は本作を、フェイバリット・アルバム50枚の30位に挙げています。





They Might Be Giants “Lincoln” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『リンカーン』


They Might Be Giants “Lincoln”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『リンカーン』
発売: 1988年9月25日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 1982年に結成され、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの2ndアルバム。タイトルの「リンカーン」とは、彼らが育ち出会った、マサチューセッツ州の街の名前です。

 前作『They Might Be Giants』では、2人のメンバーが多重録音と打ち込みを駆使して、ほぼ全ての楽器を演奏していましたが、2作目となる本作でもその方針は変わりません。

 主な担当楽器は、ジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)が、ギター、トランペット、グロッケンシュピール、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)。ジョン・リネル(John Linnell)が、アコーディオン、キーボード、オートハープ、サックス、クラリネット。ボーカル、作曲、打ち込みのプログラミングは、2人とも務めます。唯一のサポート・ミュージシャンは、3曲目の「Lie Still, Little Bottle」でドラムを担当するケネス・ノーラン(Dr. Kenneth Nolan)。

 ややローファイなサウンドで、ギターポップ色が強く、カラフルで親しみやすい音楽を作り上げた前作。本作では、カラフルで雑多な部分が引き継ぎつつ、アンサンブルはよりタイトに、深みと精度を増しています。

 先ほど挙げたとおり、アコーディオンやメロディカなど、一般的なロック・バンドがあまり使わない楽器を用いて、実験性とポップさを持ち合わせた、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げます。

 1曲目「Ana Ng」は、ギターとドラムがタイトにリズムを刻んでいく1曲。イントロはストイックに音数が絞られていますが、再生時間0:36あたりから軽快に疾走するところや、アクセントのように絶妙に差し込まれるアコーディオンなど、1曲目から彼らの音楽の深さが十分に感じられます。

 2曲目「Cowtown」は、イントロからサックスが鳴り響き、アヴァンギャルドな雰囲気を持った1曲。しかし、難しい曲というわけではなく、ジャンクなパートと、カラフルに緩やかにグルーヴするパートが交互の訪れ、全体の耳ざわりは非常にポップです。

 3曲目「Lie Still, Little Bottle」では、前述のとおりサポート・メンバーがドラムを担当。ドラムの立体的なリズムを筆頭に、歩き回るようなベース・ライン、アクセント的に挿入されるトランペットとサックスなど、ジャズの香りが漂う1曲です。

 4曲目「Purple Toupee」は、ほどよく歪んだギターとシンセサイザーが前面に出た、疾走感あふれるギターポップ。

 5曲目「Cage & Aquarium」は、下の方からパワフルに響くフロアタムと、ファニーな音色のギター、カラフルなコーラスワークが重なる、1分ほどの曲。

 8曲目「Mr. Me」は、様々な音が飛び交うカラフルでポップな1曲。アコーディオンや口笛のような音など、一般的なロックでは使用されない音が、楽曲を親しみやすく、鮮やかにしています。

 9曲目「Pencil Rain」は、行進曲のようなリズムに乗せて、ボーカルがダンディーにメロディーを歌い、まわりではポップかつアヴァンギャルドな音が飛び交う1曲。再生時間1:21あたりから信号音のように聞こえるキーボードらしき音など、実験的な要素も含んでいるのに、全体としては非常にポップな仕上がりなのは、彼らならではのバランス感覚。

 10曲目「The World’s Address」は、ピアノがフィーチャーされ、ラテンの香り漂う1曲。しかし、再生時間1:30あたりからのギター・ソロからは、ジャンクでローファイな空気も漂い、ただジャンルを借りてくるだけではありません。サックスの音色もアクセントになっていて、楽曲を多彩にしています。

 15曲目「Shoehorn With Teeth」は、サックスとアコーディオン、ボーカルがいきいきとしたアンサンブルを繰り広げる、民謡的な耳ざわりの1曲。

 16曲目「Stand On Your Own Head」は、オートハープと思われるサウンドが弾むように鳴り響く、ブルーグラスを彷彿とさせる1曲。躍動感と疾走感もあり、ポップで楽しい空気に溢れています。

 18曲目「Kiss Me, Son Of God」は、ストリングスが導入され、ボーカルと共に、厚みのあるハーモニーを作り上げる1曲。クラシック寄りの荘厳な雰囲気にはならず、ほどよくポップで軽さを持った、曲に仕上がっています。

 多種多様な楽器と音楽ジャンルを参照しながら、オリジナリティを失わず、極上のポップスを聴かせてくれるのが、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツです。2作目となる本作では、前作以上に多くの音楽ジャンルの要素を感じさせながら、カラフルで親しみやすい、そして一貫性のあるアルバムを作り上げています。そのポップ・センス、バランス感覚が、本当に素晴らしいバンドです。