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Silkworm “Firewater” / シルクワーム『ファイアウォーター』


Silkworm “Firewater”

シルクワーム 『ファイアウォーター』
発売: 1996年2月13日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 モンタナ州ミズーラで結成され、シアトルとシカゴを拠点に活動したバンド、シルクワームの4thアルバム。他の多数のアルバムと同じく、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを担当しています。

 3rdアルバム『Libertine』の後に、ギタリストのジョエル・R・L・フェルプス(Joel R.L. Phelps)が脱退。今作は、彼の脱退後、初のアルバムです。3ピース体制となった本作ですが、4ピースだった前作『Libertine』と比べて、音が薄くなったという印象は無く、むしろサウンド的には厚みを増しています。

 ギタリストが1人になった分、自由が増えたということなのか、ギターのフレーズがこれまでのアルバムよりも前景化されていると、随所に感じます。予期せぬところにギターのフレーズが差し込まれ、音楽のフックとして機能。全体としては、ねじれるようなギターを中心に、3ピースならではのコンパクトかつ荒々しいアンサンブルが展開されます。

 サウンド・プロダクションとしては、90年代のオルタナ・グランジ色も感じますが、アルビニ特有の生々しい耳ざわりも、アルバムの大きな魅力になっています。

 1曲目「Nerves」は、ざらついた歪みのギターが唸りをあげながら、ベース、ドラムと共に塊感のあるグルーヴを繰り広げる1曲。投げやりで、ぶっきらぼうなボーカルも、ざらついた雰囲気を演出しています。再生時間1:27あたりからの、歌メロ以上に歌っているエモーショナルなギターソロがアクセント。

 2曲目「Drunk」は、3者がタイトに絡み合う機能的なアンサンブルが展開。シンプルにリズムをキープするベースとドラムに対して、ギターは自由にフレーズを紡いでいきます。

 3曲目「Wet Firecracker」は、金属的な歪みのギターが全体を先導していく、疾走感あふれる1曲。ギターは、音のストップとゴーがはっきりしていて、メリハリがあります。

 4曲目「Slow Hands」は、ゆったりとしたテンポで、轟音と静寂を行き来するコントラストが鮮やかな1曲。ギターは、無理やり押しつぶされたような、独特の厚みのある、凝縮されたサウンドを響かせます。

 7曲目「Quicksand」は、イントロから鋭く歪んだギターが、時空を切り裂くようにフレーズを繰り出す1曲。正確かつ、随所にタメを作るドラム、メロディアスに動くベースと共に、この曲も3者のアンサンブルが素晴らしい。

 8曲目「Ticket Tulane」は、テンポを落とし、ゆるやかなグルーヴ感のある曲です。ギターの音色も、唸りをあげるディストーション・サウンドではなく、歪みを抑えたクランチ気味のもの。

 10曲目「Severance Pay」は、激しく歪み、分厚いサウンドのギターが支配的な1曲。ドラムは淡々とリズムを刻み、ベースはギターを下から支えるように、長めの音符を多用して、低音域を埋めていきます。

 16曲目「Don’t Make Plans This Friday」は、イントロのドラムから、演奏もサウンドも立体的。アルビニらしいサウンドを持った1曲であると言えます。テンポは遅めで、タメをたっぷりと作って、グルーヴ感を生み出していきます。

 自由なギターを中心に据えながら、タイトなリズム隊がギターを支え、3者で機能的なアンサンブルを構成していくアルバム。3ピースの魅力が詰まった作品です。音楽的には、オルタナやグランジの延長線上にあると言えますが、ギターの音作りと、バンドの作り上げるアンサンブルは、非常に練り込まれていて、借り物でない音楽的志向をはっきりと持ったバンドであると感じます。

 





Shrimp Boat “Cavale” / シュリンプ・ボート『カヴァル』


Shrimp Boat “Cavale”

シュリンプ・ボート 『カヴァル』
発売: 1993年4月1日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 1987年にシカゴで結成されたバンド、シュリンプ・ボートの4thアルバムであり、ラスト・アルバム。ここまでの3枚を順番に挙げると『Speckly』『Volume One』『Duende』で、これ以前にもカセット音源をいくつかリリースしています。また2004年には、1986年から1993年までの音源を収録したコンピレーション『Something Grand』を発売。こちらは現在、配信でも購入できます。

 本作『Cavale』は、アメリカではBar/None、イギリスではラフ・トレード(Rough Trade)、日本ではジャズやラテンのリイシューを数多く手がけるボンバ・レコードからリリース。

 のちにザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)の結成に参加するサム・プレコップ(Sam Prekop)とエリック・クラリッジ(Eric Claridge)がメンバーだったシュリンプ・ボート。多種多様な音楽を飲み込みながら、耳なじみの良いギター・ロックに仕上げるセンスは、ザ・シー・アンド・ケイクに繋がると言っていいでしょう。

 最後のアルバムとなった本作では、フリージャズや現代音楽を感じさせるアヴァンギャルドな空気も振りまきながら、軽やかでカラフルな音楽を響かせます。アレンジには多分に実験的な要素も含むのですが、どこか牧歌的でカントリー色を感じさせるところも魅力。

 1曲目「Pumpkin Lover」は、バンド全体が緩やかに、軽やかにグルーヴしていく1曲。リズムには複雑なところもあるのですが、ややローファイで純粋無垢なサウンドが、牧歌的でかわいい雰囲気をかもし出します。どこか、とぼけた感じのボーカルも、良い意味での軽さをプラスしています。

 2曲目「Duende Suite」は、減速と加速をくり返しながら、駆け抜けていく1曲。小刻みで、せわしないリズムからは、カントリーの香りが漂いますが、前述したとおり速度を切り替えながら進むアレンジからは、カントリーだけにとどまらない実験性が伝わります。

 4曲目「Blue Green Misery」は、各楽器が緩やかに弾むようなリズムを刻み、バンド全体も立体的にグルーヴしていく1曲。聴いていると自然に体が動き出すような躍動感がありますが、強すぎず弱すぎず、非常に心地いい1曲です。

 5曲目「What Do You Think Of Love」は、一聴するとぶっきらぼうにも聞こえるドラムが、絶妙にタメを作りながらリズムをキープしていきます。その上にギターとサックス、ボーカルが乗り、いきいきとしたグルーヴが形成。エレキ・ギターのフレーズが、サウンドとアンサンブルの両面でアクセントになっています。

 6曲目「Swinging Shell」は、ギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合う1曲。裏声を使ったボーカルも、やわらかな雰囲気を演出。

 7曲目「Creme Brulee」は、サックスも使用され、音数が多く、立体的なアンサンブルが展開される1曲。いくつもの歯車が複雑に、しかしきっちりと噛み合ったような心地よさのある曲です。ドラムのソリッドな音色と、立体的なリズムが全体を引き締めています。

 9曲目「Free Love Overdrive」。イントロのハーモニーが奇妙な響きを持っていますが、聴いているうちに、その不協和音のような不安定な雰囲気が、クセになっていきます。曲全体としては、実験性が強く聴きづらい印象は全くなく、カラフルでポップな1曲です。まさにアヴァン・ポップと呼ぶべき1曲。

 11曲目「Apples」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、サックスとギターがムーディーなフレーズを奏でる、ジャズの香り立つ1曲。

 12曲目「Smooth Ass」も、ゆっくりなテンポで、緩やかなグルーヴが展開される曲。音数は少ないのですが、ヴェールが空間を包むような、穏やかなサウンドと雰囲気を持った1曲です。

 15曲目「Henny Penny」は、イントロから鳴り響くドラムの音に臨場感があり、印象的な1曲。ギターとベース、ボーカルも、ゆったりと絡み合い、有機的なアンサンブルを作りあげます。

 アルバム全体を通して、ジャズやカントリーなど様々なジャンルの香りを漂わせつつ、決して難解な印象にはならず、カラフルで良い意味で軽いギター・ロックを響かせています。実験性とポップさのバランスが秀逸で、9曲目の「Free Love Overdrive」の部分でも書きましたが、アヴァン・ポップと呼びたくなる作品です。

 非常にポップでありながら、実験性も持ち合わせていて、聴くごとに味が出てくる、奥深いアルバムだと思います。

 





The Afghan Whigs “Congregation” / アフガン・ウィッグス『コングリゲーション』


The Afghan Whigs “Congregation”

アフガン・ウィッグス 『コングリゲーション』
発売: 1992年1月31日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Ross Ian Stein (ロス・イアン・ステイン)

 オハイオ州シンシナティで結成されたバンド、アフガン・ウィッグスの3rdアルバム。前作『Up in It』に続き、シアトルを代表するレーベル、サブ・ポップからのリリース。この後の4枚目『Gentlemen』からは、メジャー・レーベルのエレクトラ(Elektra Records)に移籍します。プロデュースは、ロス・イアン・ステインと、ギター・ボーカルのグレッグ・デュリ(Greg Dulli)が担当。

 アフガン・ウィッグスの音楽性をシンプルに説明するなら、ブラック・ミュージックの要素を、オルタナティヴ・ロックの形式に落とし込んだ音楽、ということになるでしょう。前作『Up in It』も、基本的には当時のオルタナ・ブームの範疇におさまる音でありながら、随所にソウルやブルースの香りを漂わせるアルバムでした。3作目となる本作は、前作にも増して、ブラック・ミュージック色が濃くなったアルバムだと言えます。

 アルバムは、50秒足らずのイントロダクション的な1曲「Her Against Me」で幕を開けます。ミス・ルビー・ベル(Miss Ruby Belle)という女性ボーカルがフィーチャーされ、彼女の幻想的なボーカルと、激しく歪んだギターをはじめとした生々しいバンド・サウンドが、ゆったりとしたテンポで溶け合う1曲。

 2曲目「I’m Her Slave」は、ところどころ足がもつれるようにリズムのフックを作りながら、立体的なアンサンブルが構成される1曲。

 3曲目「Turn On The Water」は、ワウのかかったギターと、細かくリズムを刻むピアノが、ファンクの香りを漂わせる1曲。全体のリズムも、直線的な8ビートではなく、リズムが伸縮するような躍動感があります。

 4曲目「Conjure Me」。こちらも3曲目に続いて、ワウが効果的に使用されています。弾むようなドラムと、低音域を動きまわりながら支えるベース、その上に乗る2本のギターが、機能的に絡み合い、アンサンブルを構成します。

 6曲目「Congregation」は、コード進行とメロディーが、明らかに一般的なロックとは異なる1曲。「ブラック・ミュージック的」という一言で終わらせるのは忍びないぐらい、奥行きのある楽曲です。やや不穏なイントロに続いて、ボーカルが重力から解放されたように、ソウルフルにメロディーを絞り出していきます。

 9曲目「The Temple」は、2本のギターとリズム隊が、複層的に重なるイントロが印象的。ボーカルが入ってからも、スポークン・ワードのような雰囲気のメロディーと、歌うように動きまわるベース、隙間を埋めるようにかき鳴らすギター、全体を引き締まるドラムと、各楽器が適材適所で有機的にアンサンブルを作り上げていきます。

 10曲目「Let Me Lie To You」は、テンポを落とし、サイケデリックな雰囲気が漂う1曲。ボーカルも、感情を排して囁くような歌い方で、ギターもドラッギーにフレーズを紡いでいきます。

 12曲目「Miles Iz Ded」は、回転するような小刻みなギターのフレーズが、ボーカルよりも前面に出てくるようなバランスのサウンド・プロダクション。

 アルバム全体を通して「ブラック・ミュージック的」、というよりむしろ「ロック的ではない」という印象が強い1枚です。もちろん、ソウルやファンク、R&Bといったブラック・ミュージックの要素は随所に感じられるのですが、少なくとも僕には、いわゆる普段聴き慣れたロックとは違う、という印象が前面に出てきます。

 ブラック・ミュージックを愛聴かつリスペクトしつつ、自分たちで消化した上で音楽を作り上げている、とも言えるでしょう。オリジナリティに溢れた作品であると思います。

 





The Afghan Whigs “Up In It” / アフガン・ウィッグス『アップ・イン・イット』


The Afghan Whigs “Up In It”

アフガン・ウィッグス 『アップ・イン・イット』
発売: 1990年4月
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 1986年にオハイオ州シンシナティで結成されたバンド、アフガン・ウィッグスの2ndアルバム。1988年の1stアルバム『Big Top Helloween』は、彼らの自主レーベルUltrasuedeからのリリースでしたが、本作『Up In It』は、シアトルを代表するインディー・レーベル、サブ・ポップからのリリース。レコーディングも、当時サブ・ポップのバンドを数多く手がけたジャック・エンディーノが担当。

 ギター・ボーカル担当のグレッグ・デュリ(Greg Dulli)と、ギター担当のリック・マッコラム(Rick McCollum)は、共にR&Bなどのブラック・ミュージックを好んで聴いており、アフガン・ウィッグスを結成して初めて演奏したのは、テンプテーションズの「Psychedelic Shack」とのこと。

 そんなバックボーンもあり、アフガン・ウィッグスの音楽性は、ブラック・ミュージックの要素を持ったロック、ブラック・ミュージックとオルタナティヴ・ロックの融合、などと説明されることがあります。本作も、グレッグ・デュリのソウルフルなボーカルを筆頭に、ブラック・ミュージックからの影響が随所に感じられます。

 当時は、グランジ・オルタナ・ムーヴメントの勃興期。前述したとおり、本作のレコーディングは、ニルヴァーナ『Bleach』やマッドハニー『Mudhoney』を手がけたジャック・エンディーノが担当しており、サウンドは当時のオルタナに近いものです。オルタナ・ブームにおいては、文字通り掃いて捨てるほど多くのバンドがデビューし、そして消えていったのですが、アフガン・ウィッグスは確固とした音楽的志向を持っており、3rdアルバム以降は、よりブラック・ミュージック色を強めた作品をリリースしていきます。

 1曲目「Retarded」は、やや引きずるような、糸を引くようなギターが印象的な1曲。ドラムは比較的シンプルな8ビート、ベースは小節のアタマの音を強調。言語化すると、ブラック・ミュージックからは程遠い音楽のようですが、そこまで強くはないもののファンク色を感じるアレンジです。ボーカルも、抑える部分と感情を解放する部分がはっきりとしていて、ソウルフルに響きます。

 2曲目の「White Trash Party」は、イントロから各楽器が絡み合い、グルーヴ感に溢れた1曲。左チャンネルのワウのかかったギター、右チャンネルの小気味いいディストーション・ギター、メロディアスなベース、タイトなドラムが、立体的なアンサンブルを作り上げていきます。その上に乗るボーカルも、シャウトをしながら雑にはならず、メロディーを紡いでいきます。

 5曲目「Amphetamines And Coffee」は2分弱の短い曲ですが、イントロから段階的に波のようにバンドが躍動し、テンポはそこまで速くはないのに、疾走感があります。だんだん加速していくようにも感じます。

 6曲目「Hey Cuz」は、各楽器がタイトにリズムを刻み、走り抜ける1曲。ギターの小刻みなカッティングと、タイトで正確なリズム隊が、疾走感あふれる演奏を展開します。特にギターのリズムがフックになっており、リスナーの耳を掴んでいきます。

 8曲目「Son Of The South」というタイトルも示唆的ですが、ブルースのスライドギターを思わせるイントロから、立体的なリズムのノリの良いロックンロールが展開されます。リズムを止めてためるところが随所にあり、進行感を強めています。

 本作はレコードとCDで収録曲数が異なり、レコードでは9曲、CDでは13曲収録となっています。1曲目から9曲目までは、前述したとおりジャック・エンディーノによるレコーディング。10曲目から12曲目はウェイン・ハートマン(Wayne Hartman)、13曲目はポール・マハーン(Paul Mahern)によるレコーディングで、おそらく録音時期が違うので、10曲目以降はボーナス・トラック的な意味合いなのでしょう。

 サウンド的には、当時のいわゆるオルタナやグランジの範疇に入る、歪んだギターを用いた、生々しい耳ざわりを持っていますが、リズムにはところどころブラック・ミュージック的な粘り気を感じるアルバムです。当時の他のグランジ・バンドと比較すると、一線を画したオリジナリティを持ったバンドであると言えるでしょう。

 前述したとおり、この後の3枚目以降では、さらにブラック・ミュージックの要素を強めていきます。どちらを好むかは、リスナーの好みによるとしか言えませんが、R&Bやソウルをオルタナティヴ・ロックの枠組みのコンパクトに落とし込んだ本作も、魅力的で優れた作品であると思います。

 





Storm & Stress “Storm & Stress” / ストーム・アンド・ストレス『ストーム・アンド・ストレス』


Storm & Stress “Storm & Stress”

ストーム・アンド・ストレス 『ストーム・アンド・ストレス』
発売: 1997年7月8日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 バトルスとドン・キャバレロでの活動で知られるイアン・ウィリアムスが在籍していたバンド、ストーム・アンド・ストレスの1stアルバムです。

 バトルスの色彩豊かなサウンド・プロダクション、ドン・キャバレロの凝縮されたダイナミズムと比較すると、本作で聴かれるのは実験性が高い音楽です。ガチガチに複雑なアンサンブルを組み上げるマスロックというより、フリーな雰囲気の演奏が展開されます。

 ギターも、鋭い歪みや、音圧高めの重いサウンドは控えめに、ナチュラルに近い音質が多用されています。

 1曲目「We Write Threnodies. We Write With Explosions」は、12分を超える曲ですが、音数は少なく、隙間の多いアンサンブルです。ドラムはところどころ、叩きつけるように手数の多さを見せます。

 2曲目の「Today Is Totally Crashing And Stunned In Bright Lights」も、ちょうど10分ぐらいの長さを持つ1曲。特に前半は、1曲目以上に実験的かつミニマルな演奏が展開されます。フレーズというより、フレーズの断片のようなギターとドラムの音が、それぞれ絡み合うでもなく、同時に鳴っている、という感じです。

 4曲目「Micah Gaugh Sings All Is All」は、不安定な音程のピアノの伴奏に乗せて、ボーカルがメロディーを紡ぐ1曲。アルバムのなかでインタールード的、箸休め的な1曲になっています。

 5曲目「Guitar Cabinet Stack Way High Is Freedom [Or] Gravity Gives Us Rhythm」は、イントロから、ギターとドラムがアンサンブルを形成するでもなく、フレーズを繰り出していきます。やがて、グルーヴらしきものが生まれていきますが、かなりフリーな曲であるのは確かです。

 7曲目「Orange Cone Made No Noise」は、飾り気のないボーカルから始まり、各楽器が絡み合うようにフリーな演奏を始める展開。中盤は音数が減り、アンビエントな雰囲気へ。

 前述したとおり、バトルスやドン・キャバレロと比較すると、展開やアンサンブルが実験的で、やや敷居の高いアルバムであると思います。あと書いてて気がつきましたけど、曲名が全部長い(笑) 無理やりジャンル名を用いてあらわすなら、かなりエクスペリメンタル色の濃いマスロックです。

 ロック的なグルーヴ感やアンサンブル、バンドが塊になったダイナミズムは希薄で、各楽器のフレーズが断片的に配置されたような耳ざわりの1枚。その代わりに、各楽器のプレイが前景化され、ギターやドラムのむき出しのかっこよさにスポットライトが当たります。ボーカルも入っていますが、メロディーを歌うよりもむしろ、素材として使用されています。

 しかし、随所にかっこいい瞬間があるのは事実で、ロック的なグルーヴ感とは違う、新しいグルーヴやアンサンブルを追求したアルバムとも言えます。