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Fastbacks “Answer The Phone, Dummy” / ファストバックス『アンサー・ザ・フォン, ダミー』


Fastbacks “Answer The Phone, Dummy”

ファストバックス 『アンサー・ザ・フォン, ダミー』
発売: 1994年10月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの4thアルバム。サブ・ポップ移籍後2作目のアルバムで、過去3作のアルバムでレコーディング・エンジニアを務めてきたコンラッド・ウノに代わり、本作ではピート・ジェラルドがレコーディングを担当。

 疾走感あふれる演奏に、女性ツイン・ボーカルによる爽やかなメロディー、ギターのカート・ブロック(Kurt Bloch)の多彩ギタープレイが重なるパワーポップが、デビュー以来一貫したファストバックスの魅力です。

 4作目となる本作でも、これまでの彼らの魅力は損なわず、ややハードロック色の濃くなった、演奏を展開。キャリアを通して、大きな音楽性の変更はおこなわなかったファストバックスですが、やはり作品ごとに色彩の違いがあり、常に真摯に音楽に向き合ってきたスタンスが窺えます。

 1曲目「Waste Of Time」は、うねるようなギターのフレーズと、パワフルなリズム隊が重なる、ハードな音像を持ったミドルテンポのロック・チューン。ギターがボーカルと等しく前景化され、アルバムの幕開けにふさわしい、ハードさとポップさを持ち合わせた1曲です。

 2曲目「On The Wall」は、タイトに疾走するパンキッシュな演奏に、中音域を用いた、粘り気のあるギターフレーズが重なる1曲。前半はパンク色が濃い演奏が続きますが、再生時間1:35あたりからリズムの切り替えがあり、楽曲が多様な表情を見せます。

 3曲目「Went For A Swim」は、バタバタとバンド全体が前のめりに疾走するパンク・ナンバー。溜め込んだパワーが噴出するような、スピード感に溢れた演奏が展開されます。

 4曲目「Old Address Of The Unknown」は、ミドルテンポのメロウな雰囲気ながら、随所でテンポを切り替え、リズムがいきいきと伸縮する躍動感のある1曲。サウンドはハードで厚みがあり、メロディーには子守唄のような親しみやすさがあります。ハードとポップを共存させる、ファストバックスらしい曲だと言えるでしょう。

 8曲目「And You」は、ハードな音質は鳴りを潜め、クリーントーンのギターとキーボードが主軸に据えられた、ギターポップ色の濃い1曲。

 12曲目「In The Observatory」は、タイトにリズムを刻むベースとドラムに、倍音豊かに歪んだギターが重なり、躍動的なアンサンブルを作り上げる1曲。ハードな音像に対して、吹き抜ける風のような美しいコーラスワークが、コントラストをなしています。

 前述したとおり、これまでの作品と比べると、やや全体のサウンド・プロダクションがハードになり、ギターのフレーズにもハードロック的なアプローチが増えた本作。しかし、青春を感じる流麗なメロディーと、バンドの疾走感あふれるアンサンブルは変わらず健在。

 ちなみに、当時発売された日本盤には『電話だよ』という、なんとも言えない邦題がついています(笑)

 





Fastbacks “Zücker” / ファストバックス『ザッカー』


Fastbacks “Zücker”

ファストバックス 『ザッカー』
発売: 1993年2月2日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの3rdアルバム。前作と前々作は、プロデューサーのコンラッド・ウノが運営する、ポップラマからのリリースでしたが、本作から同じシアトルを拠点にするレーベル、サブ・ポップへ移籍。

 サブ・ポップと言えばニルヴァーナを輩出し、グランジ・オルタナ・ブームを牽引した、シアトルの名門レーベルです。レーベルは移籍したものの、レコーディング・エンジニアは前作に引き続き、コンラッド・ウノが担当。レコーディングとミキシングも、彼が所有するエッグ・スタジオ(Egg Studios)で実施されています。

 サブ・ポップ移籍後の初アルバムということもあり、彼らの代表作に挙げられることも多い本作。キャリアを通して、大きく音楽性を変えることはなかったファストバックスなので、本作が他の作品に比べて、圧倒的に優れているという事ではないのですが、人におすすめできるクオリティを備えた作品であるのは事実です。

 彼らの音楽性は、青春を感じる爽やかなメロディーとコーラスワークに、ハードな音色のギターと立体的なリズム隊が重なり、突き抜けるようにポップ。パワフルな音像と、キャッチーなメロディーが溶け合い、音楽が大好きだ!という気持ちに溢れた演奏を繰り広げます。

 本作でも、1曲目の「Believe Me Never」からエンジン全開。ファットに刺々しく歪んだギターと、やや物憂げな飾り気のないボーカルが合わさり、疾走感あふれる演奏が展開されます。キム・ワーニック(Kim Warnick)と、ルル・ガルジューロ(Lulu Gargiulo)の女性2名によるコーラスワークも、楽曲に厚みと彩りをプラス。

 2曲目「Gone To The Moon」は、イントロから鳴り響く、ざらついたギターの音色が印象的な1曲。ドラムが前のめりにリズムを刻み、流れるようなバンドのアンサンブルの上を、曲芸的にボーカルが駆け抜けていきます。

 3曲目は「Hung On A Bad Peg」。この曲でも、ギターのアグレッシヴなサウンドが耳に残ります。前曲とは異なる音作りで、マグマが噴出するように、勢いよく音が飛び出してきます。タイトなリズム隊がアンサンブルを支え、疾走感あふれるポップなパンク・ナンバー。

 5曲目「Never Heard Of Him」は、各楽器が絡み合い、転がるように躍動的なアンサンブルが展開される1曲。各楽器ともファットで激しい音作りですが、キーボードと思われる柔らかな電子音がアクセントとなり、楽曲をカラフルに彩っています。

 6曲目「When I’m Old」は、ささやくようなボーカルと、ギターのアルペジオから始まる、メロウな1曲。ミドルテンポに乗せて、疾走感よりもアンサンブルの構成を重視した演奏が展開されます。一種の教会音楽を思わせる、厚みのあるコーラスワークも秀逸。

 7曲目「All About Nothing」は、前曲に続いて、穏やかな空気を持った、ミドルテンポの1曲。ボーカルも含め、全ての楽器が機能的に組み合い、一体感のあるアンサンブルを作り上げます。

 8曲目「Bill Challenger」は、ギターが唸りをあげ、ハードロック的なフレーズを繰り出していく、1分ほどのインスト曲。メロウな曲が2曲続きましたが、ここで再びパンク・モードへ回帰する、インタールードの役割を担う曲ということでしょう。

 9曲目「Parts」は、無理やり押しつぶしたように、下品に歪んだギターが疾走する、パンク・ナンバー。バンド全体が、ひとつの塊のように迫ってくる、パワフルな演奏。

 10曲目「Kind Of Game」は、乾いた音質のドラムのイントロから、各楽器が絡み合う、タイトで躍動感に溢れたアンサンブルが展開される1曲。リズムが直線的ではなく、軽快に弾むように刻まれていきます。再生時間1:22あたりからのギターソロは、音色もフレーズも、いわゆる「泣きのギター」と呼びたくなるほどにメロディアス。

 12曲目「Please Read Me」は、ビージーズ(Bee Gees)のカバー曲。ゆったりとしたテンポに乗せて、ハーモニーを前景化するオリジナル版からは違い、テンポは抑えめですが、ハードな音作りのパンク風のアレンジ。ですが、美しいメロディーとコーラスワークは引き継ぎ、むしろハードな音像の中で、浮き彫りになっています。

 ファストバックスらしい、パワーポップかくあるべし!という魅力が、存分に詰め込まれたアルバム。メロウな曲もあり、ビージーズのカバーもありと、元々カラフルで楽しい彼らの音楽に、さらなるエッセンスが追加されています。

 前述したように、彼らの代表作に挙がることの多い本作ですが、それも納得のクオリティを備えた1作です。





Fastbacks “Very, Very Powerful Motor” / ファストバックス『ベリー・ベリー・パワフル・モーター』


Fastbacks “Very, Very Powerful Motor”

ファストバックス 『ベリー・ベリー・パワフル・モーター』
発売: 1990年3月1日
レーベル: Popllama (ポップラマ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの2ndスタジオ・アルバム。前作に引き続き、ポップラマからのリリースで、レコーディング・エンジニアを務めるのは、同レーベルの設立者でもあるコンラッド・ウノ。

 グランジ旋風吹き荒れる、1990年リリースの作品ですが、実はファストバックスが結成されたのは1979年。この時点で、すでに10年以上のキャリアを持ったバンドです。

 そのため、というわけでもないのでしょうが、グランジに迎合することもなく、自分のやりたい音楽を心の底から楽しんでやっている、というのが滲み出たアルバムになっています。

 個人的には、じめじめした陰鬱なグランジも大好きなのですが、ファストバックスの鳴らす音は、それとは対極にカラッとした明るさを持ったもの。本作でも、分厚く歪んだギターと、ドタバタ感のあるアンサンブル、女性ボーカルによる親しみやすいメロディーが合わさり、カラフルなサウンドを作りあげています。ジャンル名を引き合いに出して説明するなら、ギターポップとパワーポップの融合、といったところ。

 1曲目の「In The Summer」から、ドラムのリズムが前のめりに突っ込み、ギターはドライブ感全開のフレーズを繰り出していきます。ギターは激しく歪んでいるものの攻撃性は感じず、全音域が豊かで明るいサウンド。脳を揺らすように、パワフルに鳴り響きます。

 2曲目「Apologies」は、バンド全体が塊となって転がるように、疾走感に溢れたパンク・ナンバー。爽やかなコーラスワークも秀逸。この曲でもギターが、激しくも羽が生えたように軽やかなフレーズで、バンドを引っ張っていきます。

 5曲目「What To Expect / Dirk’s Car Jam」は、イントロからリズム隊がフィーチャーされ、立体的なアンサンブルが構成される1曲。本作の中では、ややリズムが複雑で、各楽器がリズムを噛み合うように、グルーヴ感が生まれていきます。

 6曲目「Says Who?」は、ドタドタと低音域を響かせるドラムのイントロに導かれ、パワフルに疾走する演奏が繰り広げられる1曲。アルバム中で、最もハードな音像を持っています。

 ちなみに、現在SpotifyやAppleで配信されている音源では、5曲目が「What To Expect」、6曲目が「Dirk’s Car Jam」という曲目になっています。しかし、CDのジャケットの表記だと、5曲目が「What To Expect / Dirk’s Car Jam」で、6曲目が「Says Who?」。

 Spotifyで配信されている6曲目を聴いてみると、タイトルは「Dirk’s Car Jam」なのに、歌詞では「Says Who?」と歌っています。おそらく、5曲目のタイトルを分割したために起きた間違いでしょう。以降の曲も、CDおよびLP版とは、曲目がズレています。

 8曲目「I Won’t Regret」(配信の表記は「Last Night I Had A Dream That I Could Fly」)は、激しく歪んだギターと、アコースティック・ギターが用いられ、立体的で厚みのあるアンサンブルが展開される1曲。やや物憂げでメロウなボーカルが、サビで「I won’t regret the times we walked and watched the days run by us」と歌いあげるのは、胸に沁みます。

 1stアルバムである前作『…And His Orchestra』に引き続き、とにかくポップで楽しいアルバム。シンプルで親しみやすいメロディーに、ハードロックを彷彿とさせるギターのフレーズが重なり、パワフルでダイナミズムも大きな1作です。

 キム・ワーニック(Kim Warnick)と、ルル・ガルジューロ(Lulu Gargiulo)の女声ボーカルも魅力的。高音域をいかした突き抜けるような声で、基本的には勢い重視の歌唱が多いのですが、絞り出すようなシャウトだったり、メロウで情緒的だったりと、表情豊か。楽曲をさらにカラフルに彩っています。





The White Stripes “The White Stripes” / ザ・ホワイト・ストライプス『ザ・ホワイト・ストライプス』


The White Stripes “The White Stripes”

ザ・ホワイト・ストライプス 『ザ・ホワイト・ストライプス』
発売: 1999年6月15日
レーベル: Sympathy For The Record Industry (シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリー)
プロデュース: Jim Diamond (ジム・ダイアモンド)

 ミシガン州デトロイト出身の2ピース・バンド、ザ・ホワイト・ストライプスの1stアルバム。

 ニューヨーク出身のザ・ストロークス(The Strokes)と並び、2000年代におけるガレージロック・リバイバルの中心バンドに数えられるホワイト・ストライプス。

 ギター・ボーカルのジャック・ホワイトと、ドラムのメグ・ホワイトによる、姉弟を自称する2ピース・バンド。バンドのイメージカラーは赤、白、黒の3色で、衣装もこれらの色のみ使用するなど、コンセプチュアルな点も話題になりました。

 ガレージ・ロックのリバイバルであるというのは、その通りなのですが、彼らが数多のガレージロック・リバイバル・バンドの中で突出した存在となったのは、過去の焼き直しではなく、オリジナルな部分を持っていたからこそ。このレビューでは、彼らの特異性を指摘しながら、本作の魅力をお伝えできればと思っています。

 彼らが結成されたデトロイトは、フォード、クライスラー、ゼネラルモーターズ(GM)のいわゆる「ビッグ3」が工場を置き、一般的には自動車の街として有名。そして、自動車産業と並んで、いくつもの重要な音楽を生み出してきた、音楽の街としても知られています。

 デトロイトにゆかりのある音楽をいくつか挙げると、まずはなんと言ってもモータウン(Motown Records)。デトロイト・テクノが誕生し、エミネム主演の映画『8 Mile』の舞台にもなりました。ガレージ・ロック第一世代を代表するバンドであるMC5も、デトロイトにほど近いミシガン州リンカーンパークで、1964年に結成され、デトロイトを拠点に活動しています。

 また、イギー・ポップが率いたザ・ストゥージズ(The Stooges)も、デトロイトから60kmほど離れたミシガン州アナーバーの出身。デトロイトで、何度も重要なライヴをおこなっています。

 以上のように、多くの良質な音楽を生んできたデトロイト。その一因となったのは、アフリカ系アメリカ人の人口の多さ。2010年の国勢調査では、アフリカ系アメリカ人または黒人の比率は、82.7%となっています。

 1910年には、白人が人口の98.7%を占めていたデトロイト市。それが、前述の自動車産業の発展により、南部に住む多数のアフリカ系アメリカ人が、デトロイトへ移住します。彼らがブルースやゴスペル、ロック、そして前述のモータウンやデトロイト・テクノなど、豊かな音楽文化を育む一因となったのは間違いありません。

 さて、そんなデトロイトで1997年に結成されたホワイト・ストライプス。1999年にリリースされた、デビュー・アルバムとなる本作では、ブルースやカントリーなどのルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、ざらついたサウンドによるガレージ・ロックを展開しています。

 ガレージ・ロックとは、その名のとおり、ガレージ(=車庫)で練習をおこなうことに由来する言葉です。音楽性に加えて、DIY精神やアマチュアリズムも包括した、ジャンル名だと言えるでしょう。

 ブルースやガレージ・ロックなど、デトロイトに所縁のある音楽を引き継ぎ、現代的にアップデート。さらに自動車の街として栄えたデトロイトで、1990年代にガレージ・ロックを高らかに鳴らす姿勢は、それだけで十分なコンセプトになり得ます。

 本作の音楽性は、前述のとおりブルースを基調にしながら、ガレージロックらしいダイナミズムの大きなアンサンブルと音像を持ったもの。しかし、懐古主義に陥っているわけではなく、先述のコンセプトを含め、現代的な面を持ち合わせているところが、このバンドの特異なところです。

 ギターとドラムからなる2ピースという編成も、十分に特殊ですが、そこから鳴らされるサウンドは、さらに個性的。立体的でドタバタ感のあるドラムに、ガレージらしく毛羽立った歪みのギターが絡みつきます。

 ベースレスの2ピースで、サポートメンバーも入れないため、当然ながら通常のバンドよりも隙間の多いアンサンブル。しかし、その隙間が一音の重みを際立たせ、躍動感に溢れた演奏を演出します。

 シンプルで手数の少ないメグ・ホワイトのドラミングは、時にテクニックに乏しいと捉えられることもありますが、そのシンプルなスタイルから生まれるダイナミズムは、間違いなくこのバンドの特徴となっています。

 そして、テクニックや様式美にとらわれず、感情をそのまま変換したかのような、自由でパワフルなジャック・ホワイトのギター。ベースレスの編成を逆手にとり、ロックの持つ根源的なグルーヴ感や、サウンドの持つ攻撃性を際立たせ、頭にガツンと響く音楽を繰り広げていきます。

 1曲目の「Jimmy The Exploder」から、ドタドタとパワフルにリズムを刻むドラムに、エモーショナルに唸りを上げるギターが絡み合い、音数と楽器数は少ないはずなのに、ロックの魅力を凝縮したような音楽が展開。

 2曲目「Stop Breaking Down」と、7曲目「Cannon」は、それぞれ伝説的なブルース・シンガー、ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)とサン・ハウス(Son House)の楽曲のカバー。ルーツ・ミュージックへのリスペクトを示しつつ、ホワイト・ストライプスらしいドタバタ感のあるアンサンブルに仕立て上げています。

 4曲目「Suzy Lee」と17曲目「I Fought Piranhas」には、オハイオ州マウミー出身のガレージロック・バンド、ソールダッド・ブラザーズ(Soledad Brothers)のジョニー・ウォーカー(Johnny Walker)が、スライドギターで参加。以上2曲は、伸縮するようなリズムを持った、ブルージーな空気が充満するサウンドとなっています。

 9曲目「Broken Bricks」は、ところどころつっかえながら、前のめりに疾走していくガレージ・ロック。

 13曲目「One More Cup Of Coffee」は、ボブ・ディラン(Bob Dylan)のカバー。アコースティック・ギターを用いて、ボブ・ディランのフォークに、ブルージーな香りを足したアレンジとなっています。途中から挿入されるオルガンによるロングトーンが、楽曲に奥行きをプラス。

 本作の音楽性を単純化して説明するなら、「ブルースを下敷きにしたガレージ・ロック」ということになるのでしょうが、そんな折衷的な音楽にはとどまらない、オリジナリティを持ったアルバムです。

 前述したように、その理由のひとつは2ピース編成で、今までには無いグルーヴやアンサンブルを構築していること。もうひとつには、ジャック・ホワイトのギター・テクニックと、音楽的教養の深さが挙げられます。

 一聴すると、かっこいいツボを刺激する、現代版のガレージ・ロックに聴こえるのですが、聴き込むほどに、様々なジャンルの断片が見えてくるアルバムです。

 むき出しのパワフルなサウンドとアンサンブルに、まずは耳を奪われますが、その深層にはルーツ・ミュージックからオルタナティヴ・ロックまで、幅広い音楽が垣間見えます。単なるガレージ・ロックの焼き直しではなく、時代を代表する名盤と言ってよいでしょう。

 





Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking” / ドワーヴス『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』


Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking”

ドワーヴス 『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』
発売: 1997年3月24日
レーベル: Epitaph (エピタフ), Recess (リセス), Theologian (シオロジアン)
プロデュース: Bradley Cook (ブラッドリー・クック), Eric Valentine (エリック・ヴァレンタイン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの5thアルバム。

 2ndアルバムから4thアルバムまでの3枚は、サブ・ポップからリリースしていたドワーヴス。5作目となる本作ではサブ・ポップを離れ、1997年3月にリセス・レコードから発売。その後、同年のうちにパンク系のレーベル、シオロジアンとエピタフからもリリース。

 レーベルの移籍が、音楽性にどの程度の影響を与えるか、という問いに対しては「場合による」としか答えられません。しかし、レーベルの変更という予備知識を抜きにしても、前作から比較して異なった部分があるのは事実です。

 ジャンクなサウンドを持ったガレージ・バンドとしてスタートしたドワーヴス。初期のアングラ臭の充満したサウンドと比較すると、サウンドは音圧が高くパワフルに、アンサンブルもタイトかつ多彩に洗練されています。

 1曲目の「Unrepentant」は、ゆったりとしたテンポで始まり、再生時間0:45あたりでの加速と同時に、音数も増え、コントラストがはっきりした展開。テンポと音数の鮮やかな切り替えによって、曲のダイナミズムを広げています。

 2曲目「We Must Have Blood」は、叩きつけるような躍動的なリズムに乗せて、歪んだギターとシャウト気味のボーカルが、マグマが噴出するようにフレーズを繰り出す1曲。

 3曲目「I Will Deny」は、ベースのメロディアスなイントロに導かれ、バンド全体が前のめりに疾走していきます。ボーカルはシングアロングが起こりそうなポップさで、メロコア色の濃い1曲。

 9曲目「One Time Only」は、サウンドもメロディーも、爽やかなポップ・パンクのような、疾走感に溢れた曲。

 12曲目「You Gotta Burn」は、アルバムの世界観とは異なる、ダンディーなボーカルと、糸を引くような余裕を持ったリズムが印象的なミドルテンポの1曲。しかし、激しく歪んだギターの音色と、フリーなフレーズからはアングラ臭も漂い、初期のドワーヴスらしさも感じられます。

 エピタフからのリリースという先入観を抜きにしても、メロコア色の濃い、疾走感あふれる曲が多いアルバムです。サウンド面でも、前作から比較しても音圧が高まり、現代的なパンクらしい音になったと言えるでしょう。

 個人的には初期の下品なサウンドの方が好みですが、一般的にはアレンジの面でもサウンドの面でも、洗練され、向上した1作です。