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Dwarves “Sugarfix” / ドワーヴス『シュガーフィックス』


Dwarves “Sugarfix”

ドワーヴス 『シュガーフィックス』
発売: 1993年7月
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Bradley Cook (ブラッドリー・クック)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの4thアルバム。1993年にリリースされ、その後1999年に本作『Sugarfix』と、前作『Thank Heaven For Little Girls』を、1枚に収めたコンピレーション盤が発売。2018年8月現在、各種サブスクリプション・サービスでも、こちらのコンピ盤が配信されています。

 ちなみに1993年のリリース当初、ソニー(Sony Records)から日本盤が発売されており、『架空黙示録』という邦題が付けられ、バンド名のカタカナ表記は「ドゥウォウヴス」となっていました。さらに、各曲にも邦題が付けられ、例えば4曲目の「Lies」は「嘘まみれ」、7曲目の「Action Man」は「異次元の異端児」、10曲目の「Underworld」は「地下遊戯」などなど。

 最近では洋楽でも映画でも、すっかり減った邦題の文化。なんでそんなタイトル付けた!?というのも多く、大人が会議室で頭をひねって考えたのかと思うと、微笑ましくも思えます。

 音楽の内容へ話を移すと、前作から2年ぶりにリリースされた本作。レコーディング技術の進歩なのか、あるいはプロデューサーを務めたブラッドリー・クックの手腕によるものなのか、前作から比較すると、格段にサウンドの輪郭がクッキリとし、音圧も高まっています。

 結成当初は、ガレージ・ロック色の強い、シンプルで勢い重視の音楽を志向していたドワーヴス。アルバムを追うごとにアレンジの洗練度が増し、4作目となる本作では、より多彩なアンサンブルが展開されています。

 例えば1曲目の「Anybody Out There」では、ギターのイントロから始まり、各楽器がタイトに絡み合い、アンサンブルを構成。勢いだけではなく、機能的に練り込まれたアレンジです。ボーカルのアクが強いのは相変わらずですが、エフェクト処理をなされているのか、コーラスのエフェクターを用いたような厚みと広がりのサウンドで、楽器の中に声が溶け込んでいます。

 2曲目「Evil Primeval」では、イントロにジャングルの中の鳥の鳴き声がサンプリングされ、新たなアプローチを感じさせます。その後は、シンプルなリズム隊の上に、クセのあるボーカルと、ワウを使ったジャンクなギターが乗り、アングラ臭を伴った演奏が展開。ちなみに邦題は「邪悪な烙印」。

 3曲目「Reputation」は、直線的なリズムに乗って、ノリが良く疾走感に溢れた演奏が繰り広げられる1曲。

 6曲目「New Orleans」は、前のめり刻まれるリズムを持った、疾走感のある1分弱の短い1曲。タイトなドラムと、厚みのある歪んだギターによるコード弾きが推進力となり、曲を前進させていきます。

 11曲目「Wish That I Was Dead」では、イントロに牧師の説教らしく声がサンプリングされています。ギターのコード・ストロークが波のように躍動し、ゆらぎのあるアンサンブルが展開。

 サブ・ポップでの1作目となる2ndアルバム『Blood Guts & Pussy』から比較すると、アレンジ面でも、サウンド・プロダクションの面でも、洗練されているのは間違いありません。

 ただテンポを速めたり、手数を増やすのではなく、異なったリズムやフレーズの組み合わせで、疾走感や盛り上がりを演出する手法は、確実に向上しています。

 ドワーヴスは本作を最後にサブ・ポップを離れ、次作『The Dwarves Are Young And Good Looking』から、パンク系のレーベル、シオロジアン・レコード(Theologian Records)、さらにパンクの名門エピタフ(Epitaph)へと移籍。さらなる音楽性の変化を遂げます。





Dwarves “Thank Heaven For Little Girls” / ドワーヴス『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』


Dwarves “Thank Heaven For Little Girls”

ドワーヴス 『サンク・ヘヴン・フォー・リトル・ガールズ』
発売: 1991年11月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mr. Colson (ミスター・コルソン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの1991年にリリースされた3rdアルバム。1999年には、本作と次作『Sugarfix』を1枚に収めたコンピレーション盤が発売。2018年8月現在、各種サブスクリプション・サービスでも、1999年発のコンピ盤が配信されています。

 ざらついたサウンドと疾走感あふれるアレンジが前面に出た、ガレージ・ロック色の濃い前作『Blood Guts & Pussy』と比較すると、よりアレンジの幅が広がった本作。前作も、ただ直線的なリズムで走るだけではなく、随所にフックとなるアレンジが施されていましたが、本作ではさらに凝ったアレンジが増加しています。

 同時に、悪ノリとも言える、おどろおどろしいサウンドや歌詞は全く損なわれておらず、ノイズ・ロック的な一面を好む方にも、受け入れられるアルバムです。

 1曲目の「Satan」では、イントロにオルガンが用いられ、サウンド面でも広がりを見せています。しかし、ヴォーコーダーを用いたらしい、悪魔のうめき声のようなコーラスも入っており、アングラ臭も漂う1曲です。

 4曲目「Blood Brothers Revenge」は、細かくリズムが刻まれる、テンポの速い1曲ですが、スライド・ギターが楽曲に滑らかさをプラス。ハードコア一辺倒にはならず、ポップなテイストも感じられる曲に仕上がっています。

 5曲目「Blag The Ripper」は、硬質なベースと、激しく歪んだギター、立体的なドラムが絡み合い、アンサンブルが展開されます。スピード重視の疾走感よりも、コントラストとグルーヴ感を重視した曲。ムチで叩く音や、悲鳴のような声が、奥の方で鳴り響き、アングラ感もプラス。

 10曲目「Three Seconds」は、各楽器が一体感を持って疾走する、テンポが速く、コンパクトにまとまったパンク・チューン。「カチカチ」という時限爆弾のカウント音のようなイントロから、ラストまで1分ほど。イントロとラストのサウンドにも、このバンドらしい遊び心があります。

 11曲目「Fuck Around」は、厚みのある歪むのギターと、メロディアスなボーカルが前面に出た、ポップでメロコア色の濃い1曲。ノリの良いリズムと、爽やかなコーラスワークからは、カントリーの香りも漂います。

 パンクを下敷きにしながら、曲によってはハードコア色が濃く、曲によってはメロコア色が濃く、といった具合に多彩な曲が収録された1作。

 疾走感の点では、前作の方が上回りますが、楽曲とアレンジの多彩は、本作の方が確実に上回っています。このバンド得意の悪趣味なサウンドやアレンジも散りばめられ、良い点は失わずに、音楽性の幅を広げたと言えるでしょう。





Dwarves “Blood Guts & Pussy” / ドワーヴス『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』


Dwarves “Blood Guts & Pussy”

ドワーヴス 『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』
発売: 1990年1月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ドワーヴスの2ndアルバム。1986年の前作『Horror Stories』は、ロサンゼルス拠点のボンプ・レコード(Bomp! Records)傘下のレーベル、ヴォックス・レコード(Voxx Records)からのリリースでしたが、本作からシアトルの名門サブ・ポップへ移籍しています。グランジ・ブームの真っ只中で、多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノが、エンジニアを担当。

 ジャンルとしてはガレージ・ロックやハードコア・パンクに分類されるドワーヴス。とにかく勢い重視の演奏と、下品なサウンド・プロダクションが彼らの魅力です。本作も12曲収録ながら、収録時間は13分台という、文字通り勢いで突っ走るアルバム。ガレージ風のシンプルなロックを基本に、時に楽曲のなかで加速しながら走り抜けていきます。

 収録時間がとても短く、全てのトラックが1分程度。しかし、めちゃくちゃにテンポが速いというわけでも、直線的にリズムを刻み続けるわけでもなく、思いのほかアレンジが練り込まれ、コンパクトにまとまったロックンロールが、一貫して鳴らされています。

 ガレージ・ロック的な、ざらついた音像と疾走感を持ち、ボーカルのクセのある歌い方からは、アングラ感が漂います。アルバム全体を通して、ワルノリで押し切るようなところもあるのですが、前述のとおり単純に突っ走るだけでなく、アレンジが凝っていて、意外と真面目なのかな?と感じるところもあり。

 1曲目「Back Seat Of My Car」は、ギターのイントロを皮切りに、リズムが前のめりに走っていく、疾走感あふれる1曲。曲のラストには、車が衝突する音が入り、このバンドらしい遊び心も感じられます。

 2曲目「Detention Girl」は、イントロから前のめりに走っていきますが、再生時間0:37あたりのベースをスイッチにしてテンポを落とし、その後は段階的に再加速。緩急によって加速感を演出する1曲。

 5曲目「Skin Poppin’ Slut」は、毛羽立ったサウンドのギターを中心に、全ての楽器が塊となって転がるような、一体感と疾走感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Fuck You Up And Get High」では、シンプルなリフと、シャウト気味のボーカルが、勢いに任せて走り抜けていきます。わずか40秒の曲ですが、演奏時間の短さ以上に、疾走感に溢れ、短い体感の1曲。

 11曲目「Astro Boy」では、ギターは激しく歪み、各弦の分離感のないだんご状のサウンド。リズム隊とも一丸となり、転がるように駆け抜ける演奏が展開されます。

 音も下品なら、ジャケットも下品。しかし、リズムやテンポの切り替えが随所にあり、思ったよりも演奏は練りこまれています。

 とはいえアングラ臭が充満しているのも事実で、音圧の高いハイファイなサウンドのマスロックやハードロックとは、一線を画する耳ざわり。ガレージで鳴らされた音をそのまま閉じ込めたかのような、生々しく歪んだ音で、塊感のあるアンサンブルを展開していく1作です。

 





Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love” / ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』


Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love”

ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』
発売: 1994年9月13日
レーベル: Up (アップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 トゥリーピープル(Treepeople)のメンバーだったダグ・マーシュ(Doug Martsch)によって結成されたバンド、ビルト・トゥ・スピルの2ndアルバム。

 前作から、ベースのブレット・ネットソン(Brett Netson)と、ドラムのラルフ・ユーツ(Ralf Youtz)が、それぞれブレット・ネルソン(Brett Nelson)とアンディ・キャップス(Andy Capps)へ交代。また、レーベルもC/Zから、アップ・レコード(Up Records)へと移籍しています。

 上記のとおり、メンバー交代とレーベル移籍を経て、リリースされた本作。しかし、元々ダグ・マーシュを中心としたバンドであり、彼がギターとボーカルを変わらず担っているため、音楽性はそこまで大きくは変化していません。

 ダグは音楽雑誌『スピン』(Spin)による当時のインタビューで、「アルバムごとにメンバーを全て入れ替えるつもりだった」とも語っています。今後もたびたびメンバー交代はあるものの、実際にはアルバムごとのメンバー刷新はおこなっていません。

 今作では、フィル・エクがプロデューサーを務めているのも注目ポイントです。シアトルを拠点に活動し、最近ではフリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)や、バンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)のプロデュースでも知られるフィル・エク。

 彼のプロデュース・ワークによって、前作よりもサウンドの輪郭がくっきりとし、各楽器が分離して聴き取りやすく、結果としてアンサンブルが引き立つ音像に仕上がっています。また本作は、スピン誌のトップ・インディー・レコード(top indie records of all time)のトップ10にも選出。これが、フィル・エクの名を上げるきっかけにもなっています。

 1988年に結成されたトゥリーピープルは、当時のグランジ旋風の影響を受けていたのか、ハードな音像を持ったバンド。ダグ・マーシュが、トゥリーピープル脱退後に結成したビルト・トゥ・スピルの1stアルバム『Ultimate Alternative Wavers』も、トゥリーピープルの音楽性をある程度は引き継ぎ、グランジを思わせるハードなサウンドを持っていました。

 しかし、2枚目のアルバムとなる本作『There’s Nothing Wrong With Love』では、サウンド面のアグレッシヴさは抑えられ、よりアンサンブルを重視した音楽性へと変化しています。

 1曲目の「In The Morning」は、歯切れの良いイントロのギターから始まり、バラバラの音が絡み合う、立体的なアンサンブルが展開。特にギターは、トリルを用いたマスロックを思わせるフレーズや、シャキシャキと軽快なカッティングなど、歌い上げるような泣きのフレーズが持ち味だった前作とトゥリーピープル時代から比較して、より多様なアレンジを聴かせます。この曲は、脱退したブレット・ネットソンによる作曲。

 2曲目「Reasons」は、ゆったりとタメを作ったリズムに乗せて、ギターとコーラスが多層的なサウンドを作り上げる1曲。やや遅れてリズムを刻むドラムと、そのドラムに絡みつくようにフレーズを繰り出すベースが、波のように躍動的に揺れるアンサンブルを支えます。

 3曲目「Car」は、2曲目とは打って変わって、タイトで小気味よいアンサンブルが展開される1曲。ところどころに、不安定な音程のフレーズを差し込むギターが、楽曲にキュートさを加えています。再生時間2:12あたりからの、うねるような音色のギターソロも、楽曲にオルタナティヴな空気をプラスするアクセント。

 5曲目「Fling」は、クリーントーンのギターとチェロを中心にした、穏やかなサウンド・プロダクションを持っています。ボーカルのメロディーも、流れるような美しさを持った、ギターポップ色の濃い1曲。

 7曲目「The Source」では、ドラムが立体的に響き、ギターがうなりを上げる、躍動感の溢れるアンサンブルが展開。再生時間0:48あたりからの壊れたオモチャのようなアレンジなど、オルタナティヴな空気も充満した、カラフルな曲です。

 10曲目「Distopian Dream Girl」は、複数のギターが複雑に絡み合うバンドの演奏に対し、爽やかなメロディーが乗る1曲。ギターの音作りとフレーズにはジャンクな香りも漂い、厚みのあるアンサンブルを作り上げます。とにかく、ギターが前面に出たアレンジ。

 メロディーも良いけど、アレンジも良い、多彩な楽曲が収録されたカラフルなアルバムです。歪んだギターが効果的に用いられ、ところどころアングラのノイズ・ロック的なサウンドも持っているのですが、ボーカルのメロディーはギターポップを彷彿とさせるぐらいポップ。バランス感覚に優れた1作です。

 ポッポさと実験性が独自の方法でブレンドされていて、実にインディー・ロックらしい耳ざわり。個人的にも大好きなアルバムです。1997年リリースの次作『Perfect From Now On』からは、メジャーのワーナーへ移籍。メジャー移籍で魅力をそこなうバンドも多いなか、ビルト・トゥ・スピルは変わらず良質な音楽を作り続けています。

 2015年には、シアトルを代表する名門レーベルであるサブ・ポップより、本作のアナログ盤が再発。





Built To Spill “Ultimate Alternative Wavers” / ビルト・トゥ・スピル『アルティメット・オルタナティヴ・ウェーヴァーズ』


Built To Spill “Ultimate Alternative Wavers”

ビルト・トゥ・スピル 『アルティメット・オルタナティヴ・ウェーヴァーズ』
発売: 1993年5月1日
レーベル: C/Z (シー・ズィー)
プロデュース: Todd Dunnigan (トッド・ダニンガン)

 アイダホ州の州都ボイシ出身のロックバンド、トゥリーピープル(Treepeople)のメンバーだったダグ・マーシュ(Doug Martsch)が中心となり、1992年に結成されたビルト・トゥ・スピルの1stアルバム。グランジを代表するレーベルのひとつ、 C/Zからのリリース。

 ダグ・マーシュ在籍時のトゥリーピープルは、ダグとスコット・シュマルジョン(Scott Schmaljohn)がボーカルを分けあっていましたが、ビルト・トゥ・スピルでは、全曲でダグがボーカルを担当。しぼり出すような、泣きのボーカルが堪能できます。

 ダグ以外のメンバーは、トゥリーピープルとはかぶっていません。しかし、ギターとボーカルを担うダグが中心となっている以上、やはり共通点も認められます。エモを先取りしたとも言える、感情的なボーカルや、ボーカルに負けず劣らず、歌心を持ったギターは、その最たる例。

 では、逆にどこが異なるのかと言えば、ややローファイ感がありつつ、ハードな音像を持っていたトゥリーピープルと比較して、ビルト・トゥ・スピルはハードさは抑えつつ、よりソリッドでアンサンブルの際立つ音像となっています。音楽的にも、構造がより前景化して、巧みになったと言えるでしょう。

 インディーロックのバンドの多くに言えることですが、音楽が意外性のあるバランスで成り立っていることが、メジャー・レーベルのバンドにはあまり無い魅力です。ビルト・トゥ・スピルに関して言えば、ニール・ヤングなどのシンガーソングライターを彷彿とさせる、メロディーと声を持ちながら、オルタナティヴ・ロックやサイケデリック・ロックの香りが漂う演奏が共存。様式美にとらわれず、実に非メジャー的なバランスを持ったバンドと言えます。

 1曲目の「The First Song」は、音が増殖していくようなサイケデリックなイントロから始まり、再生時間1:10あたりから、歌と共にメローな演奏が展開。ギターのフレーズと音作りには、サイケデリックな空気が漂いつつ、ボーカルは流れるようにメロディーを紡いでいきます。

 2曲目「Three Years Ago Today」は、揺れるような躍動的なグルーヴを持った1曲。ところどころで激しく歪んだギターが顔を出しながら、ギターポップを彷彿とさせる爽やかな演奏が展開。

 3曲目「Revolution」では、アコースティック・ギターと、うなりをあげるエレキ・ギターが共存しています。アコギのストロークとボーカルによる繊細な面と、エレキ・ギターの泣き叫ぶようなフレーズが溶け合い、あらためてこのバンドの懐の深さを感じる1曲。

 4曲目「Shameful Dread」は、穏やかなパートから、混沌としたパートまで、様々な表情を見せる、振り幅の大きい1曲。8分を超える曲ながら、展開が多彩で、コントラストも鮮やか。加速と減速を繰り返す、ジェットコースターのような曲です。

 10曲目「Built Too Long」は、クレジット上は「Part 1」から「Part 3」までの3部に分かれた、9分を超える大曲。スライド・ギターを駆使した、サイケデリックなイントロ部分から、ファットに歪んだギターが主導するサウンドへの移行し、本作の多様性を凝縮したようなインスト曲です。

 前述したとおり、魅力的なメロディーと、意外性のあるアレンジが共存した1作です。広い意味での「オルタナティヴ」な作品と言っても良いでしょう。アメリカの古き良き家族写真を思わせる、ジャケットのデザインも秀逸。

 ちなみにビルト・トゥ・スピルは、3rdアルバム『Perfect From Now On』から、メジャーのワーナーへ移籍。メジャーへ移籍して音楽的、あるいは経済的にも失速していくバンドも多いなか、彼らは良い意味でのインディーらしさを失わず、息の長い活動を続けます。