「1990年代」タグアーカイブ

Lard “Pure Chewing Satisfaction” / ラード『ピュア・チューイング・サティスファクション』


Lard “Pure Chewing Satisfaction”

ラード 『ピュア・チューイング・サティスファクション』
発売: 1997年5月13日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ)

 ミニストリー(Ministry)のアル・ジュールゲンセン(Al Jourgensen)と、デッド・ケネディーズ(Dead Kennedys)のジェロ・ビアフラ(Jello Biafra)が結成したバンド、ラードの前作から7年ぶりの2ndアルバム。

 インダストリアルとハードコア・パンクの融合…と言うと単純化が過ぎますが、前作に引き続き両ジャンルの要素を併せ持ち、コンパクトにまとまった良作。純粋なインダストリアルと呼ぶには電子的な要素が薄く、ハードコアと呼ぶには多彩なサウンドとアンサンブルが前面に出たアルバムと言えます。

 言い換えると、ハードコアの疾走感と攻撃性、インダストリアル的な音作りが溶け合い、思いのほかモダンなサウンドを作り上げています。

 ビアフラのボーカルも、聴き手をアジテートする部分と、メロディーを際だたせる部分が、高度に両立。演劇的とも言えるボーカリゼーションを披露しています。

 1曲目「War Pimp Renaissance」は、倍音豊かなディストーション・ギターを中心に、波のように押し寄せる疾走感を持った1曲。アルバム1曲目から、インダストリアル的な厚みのあるサウンドと、ハードコアの疾走感を併せ持ったトラックです。

 2曲目「I Wanna Be A Drug-Sniffing Dog」は、小刻みなドラムのビートと、キレ味鋭いギターのリフが、スピーディーに疾走していく1曲。1曲目に続いて、ギターはただ激しく歪んでいるだけではなく、空間系のエフェクターも用いているのか、広がりを持ったサウンド。音作りのこだわりが感じられます。

 3曲目「Moths」は、ノイジーな高音ギターと、残響音をたっぷりと伴ったドラム、硬質なサウンドのベースによるイントロに続き、鋭く歪んだギター・リフが入り、一体感と躍動感のあるアンサンブルを構成。ハードロック的な歪みとリフの快楽に、ノイズが溶け合い、様式美とアングラ臭がブレンドされた1曲に仕上がっています。

 4曲目「Generation Execute」は、空間系エフェクターの深くかかったギターと、ハードで重厚な歪みのギターが重なり合い、足を引きずるような重たいアンサンブルを展開する1曲。ところどころで挟まれるブレイクも、楽曲に緊張感をプラス。

 6曲目「Peeling Back The Foreskin Of Liberty」は、各楽器とも硬質なサウンドに音作りされ、タイトなアンサンブルを組み上げていく1曲。エフェクトのかけられたボーカルが、タイトに締まった演奏に対して、ジャンクな空気を加えています。

 8曲目「Sidewinder」は、隙間が無いぐらい厚みのあるサウンドと、疾走感が持ち味だった本作において、隙間を利用した立体的なアンサンブルを展開するミドルテンポの1曲。アルバムのラストをこのような奥行きのある楽曲で締めるところに、直線的に走るだけではない、このバンドの引き出しの多彩さを感じます。複数のギターが重ねられていますが、それぞれ空間系エフェクターを用いた凝った音作り。物憂げなボーカルとも相まって、アート性とアングラ感の同居した世界観を作り上げています。

 インダストリアルとハードコア・パンクの融合した音楽、と言っても差し支えない本作。もう少し具体的に本作の特徴を挙げると、ギターの音作りにあると思います。

 ギターが歪み一辺倒の音作りであったなら、アルバム自体がもっとハードコア感の強いものになっていたでしょう。しかし、空間系エフェクターも駆使した、時には意外性のある音作りが、アルバム自体をカラフルで奥行きのあるものにしています。

 大御所2人が手を取り合った、サイド・プロジェクト的なこのバンド。2人の音楽的なアイデアが、気負わずに出たバンドであるのではないかとも思います。

 





Lard “The Last Temptation Of Reid” / ラード『ザ・ラスト・テンプテーション・オブ・リード』


Lard “The Last Temptation Of Reid”

ラード 『ザ・ラスト・テンプテーション・オブ・リード』
発売: 1990年9月26日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ)

 打ち込みによる電子的なサウンドと、激しく歪んだギター・サウンドを共存させるインダストリアル。そのインダストリアルというジャンルの開祖と言えるミニストリー(Ministry)。そして、サンフランシスコにおけるハードコア・パンクの開祖デッド・ケネディーズ(Dead Kennedys)。

 それぞれのジャンルの第一世代と言える2つのバンドのフロントマン、ミニストリーのアル・ジュールゲンセン(Al Jourgensen)と、デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラ(Jello Biafra)が結成したバンド、ラードの1stアルバム。ジェロ・ビアフラが設立したオルタナティヴ・テンタクルズからのリリース。

 元祖インダストリアルと、伝説的ハードコア・バンドのフロントマン。そんな2人が組んだバンドであることからも予想できますが、硬質なディストーション・ギターの音色を中心にし、疾走感のある楽曲が並ぶアルバム。しかしその一方で、ギターの音作りは歪み一辺倒というわけではなく、倍音豊かで現代的な広がりのある歪みになっています。

 基本的には、パワフルなギターが前面に出たサウンド・プロダクションですが、楽曲とアンサンブルは思いのほか鮮やか。

 1曲目「Forkboy」は、各楽器ともタイトに引き締まった音質で、タイトに引き締まったアンサンブルが展開される1曲。アルバム1曲目にふさわしく、疾走感と躍動感に溢れ、聴き手をアジテートするようなボーカリゼーションも秀逸。

 2曲目「Pineapple Face」は、回転するようなフレーズを軸に、パワフルかつ立体的なアンサンブルが展開される1曲。リズムとリフのロック的な攻撃性の強い曲ですが、再生時間1:06あたりでテンポとテンションを抑えるアレンジなど、ただ直線的に走るだけではない奥行きがあります。また、クレジットを確認すると、多数のバッキング・ボーカルが参加。「Oh! Abs」や「Sexo Sexo-Sexo」など、名前っぽくないものが多く、ジョークということでしょうか。

 5曲目「Can God Fill Teeth?」の前半は、空間系のエフェクターのかかったギターと、歌のメロディーではないセリフが、アジテートするようにリスナーに迫ります。ギターには、バネが跳ねるようにコーラスがかけられており、音作りの多彩さを感じさせます。この曲の雰囲気ならば、ギャンギャンに歪んだギターでも成立しそうなのに。後半はリズム隊も加わり、疾走感あふれるジャンクな演奏が展開。

 8曲目「They’re Coming To Take Me Away」は、ハープのようなみずみずしく美しい音と、多種多様なジャンクなサウンドが混じり合う1曲。ボーカルもアジテーション全開のここまでの歌い方とは異なり、コミカルにおどけたように歌います。

 前述のとおり、インダストリアルとハードコア・パンクの大御所が組んだバンド。ある種のスーパーバンドと言ってもよいバンドですが、音楽性はコンパクトにまとまり、ハードコアとインダストリアルが自然なかたちでブレンドされた、良質な1作です。

 





Lightning Bolt “Lightning Bolt” / ライトニング・ボルト『ライトニング・ボルト』


Lightning Bolt “Lightning Bolt”

ライトニング・ボルト 『ライトニング・ボルト』
発売: 1999年
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)からなる2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの1stアルバム。

 地元プロヴィデンスが拠点のエクスペリメンタル系のインディー・レーベル、Load(ロード)からのリリース。

 ドラムとベースのいわゆるリズム隊のみという編成も特異ですが、音楽性はさらにエキセントリック。ハードコアの先進性と、ヘヴィメタルの硬質なサウンドの攻撃性が、凝縮され抽出されたような音楽が展開されます。

 一般的な意味では、全くポップではありませんが、音楽の尖った部分のみを取り出したようなサウンドが、ある人にとってはフックとなり、クセになるでしょう。

 1曲目「Into The Valley」は、叩きつけるようなドラムの高速ビートと、ノイジーなベースが疾走する1曲。リフやコード進行のような、わかりやすい構造は存在せず、ただただノイジーに疾走していく演奏は圧巻です。

 2曲目「Murk Hike」は、前のめりに暴走するイントロから始まり、その後は一定のリズムが繰り返される1曲。

 4曲目「Fleeing The Valley Of Whirling Knives」は、ここまでのアルバムの流れの中では、最も曲らしい構造を備えた1曲。ドラムはタイトにリズムを刻み、ベースは音色は激しく歪んでいながら、ハードロックのようにリフを弾き、サウンドとリズムが一体となったかっこよさがあります。ただ、後半はやや加速するなど変化はあるものの、10分を超える曲の中でミニマルにリフが繰り返されるため、やはりある程度はリスナーを選ぶ曲だと言わざるを得ません。

 5曲目「Mistake」は、もはや原音がはっきりしないレベルまで歪んだベースが、空間を埋め尽くす1曲。ベースの奥で聞こえる金属的な音色のドラムも含め、非常に耳障りなサウンド・プロダクション。

 6曲目「Zone」は、32分を超える大曲。形を変えながら、ひたすら嵐のようなサウンドが吹き荒れる、ノイズ絵巻。しかし、随所にフックとなりそうなリフらしき断片やリズムがあり、一部の人にとってはたまらない1曲でしょう。僕は…体調が良いときでないと、聴く自信がありません。聞き流しやBGMには全く向かない質の音楽です。

 7曲目の「And Beyond」は6曲目に続き、こちらも14分を超える長尺の1曲。ドラムとベースが塊となって絡み合いながら、リスナーへと迫ってきます。

 耳障りで、この手の音楽を聴かない人からしたら、ノイズにしか聞こえない音の詰まった本作。しかし、疾走感や硬質でソリッドな音色など、ロックが持つ攻撃性を極限まで尖らせたそのサウンドには、かっこいいと思える部分が随所にあります。

 正直、万人にオススメはしがたい音楽ですが、ハードでポストな音楽を求める方は聴いてみては。

 





Chicago Underground Duo “12° Of Freedom” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『12ディグリーズ・オブ・フリーダム』


Chicago Underground Duo “12° Of Freedom”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『12ディグリーズ・オブ・フリーダム』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 コルネット担当のロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッション担当のチャド・テイラー(Chad Taylor)からなるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの1stアルバム。シカゴの名門インディー・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 スリル・ジョッキー所属のジャズ系グループやミュージシャンというと、アイソトープ217°(Isotope 217°)と、トータスのギタリスト、ジェフ・パーカー(Jeff Parker)が挙げられます。ロブ・マズレクはアイソトープ217°の中心メンバーでもあり、本作には同じくアイソトープ217°のメンバーでもあるジェフ・パーカーが3曲でゲスト参加。

 シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ(並行して「トリオ」「カルテット」と拡大した編成でも作品をリリース)には、スリル・ジョッキー界隈のジャズ系ミュージシャンが結集したグループ、という側面もあります。

 ジャズ的なフレーズやグルーヴを、ポストロック的な手法で再構築していくアイソトープ217°と比較すると、よりジャズ色の濃い音楽を志向しているのが、このグループ。しかし、本作がスリル・ジョッキーからリリースされていること自体が示唆的ですが、ジャズ的なフレーズや即興性を用いつつ、シカゴ音響派を思わせるサウンドも持ち合わせた作品となっています。

 1曲目「The Pursued」は、コルネットとドラムの断片的なフレーズが行き交う、隙間の多い1曲。音数が絞られ、無音部分もあるのですが、それぞれの楽器のプレイには、一瞬のひらめきや疾走感が随所に感じられます。最小単位のスウィング感が提示されるるような、このアプローチ方法は、音響を前景化させる一部のポストロックと、精神性では共通していると言ってもいいでしょう。

 2曲目「Not Quite Dark Yet And The Stars Shining Above The Withered Fields」では、マズレクがピアノ、テイラーがヴィブラフォンを担当。ジェフ・パーカーがギターでゲスト参加しています。ビート感に乏しく、各楽器の音の粒がすれ違い、時に重なり合う、アンビエントな1曲。

 3曲目「January 15th」は、これまでの2曲と打って変わって、ドラムの躍動感あふれるビートと、翼が生えたように飛び回るコルネットが絡み合う、アンサンブルの重視された1曲。コルネットのフレーズも、ステレオタイプにジャズ的で、ノリノリのビバップのようにも聴けます。後半は音数を減らし、アンビエントな雰囲気へ。

 5曲目「Waiting For You Is Like Watching Stillness Grow Into Enormous Wings」は、2曲目と同じく、マズレクがピアノ、テイラーがヴィブラフォン、パーカーがギターという編成。各楽器の音が有機的に絡み合い、幻想的な雰囲気を作り上げていきます。北欧のポストロック・バンドが作りそうな、音響と各楽器の重なり方が美しい1曲です。

 6曲目「Twelve Degrees Of Freedom」は、ドラムとコルネットによる、このデュオの基本となる編成での演奏。ですが、両楽器ともにエフェクト処理がなされ、ポスト・プロダクションを強く感じる、言い換えればポストロック色の濃い1曲。ややフリーキーで、奥まった音質の両者が、吹き荒れる風のようにテンポを変えながら、フレーズを繰り出していきます。

 8曲目「Gratitude」は、コルネットとヴィブラフォンが音を紡ぎ出していく、幻想的な1曲。コルネットのフレーズは、ジャズのマナーに沿っていますが、全体のサウンド・プロダクションは、音響系ポストロックのように柔らかくアンビエント。

 1stアルバムということで、まだコンセプト先行で手探り状態の印象も受けますが、スリル・ジョッキーらしい風通しの良さと、新しさのある作品です。

 メンバーのロブ・マズレク、また本作にゲスト参加しているジェフ・パーカーは、ソロ作品も含め、多くのプロジェクトに参加しています。他のグループや作品と比べながら聴くのも、リスニングの楽しみを広げてくれることでしょう。

 





Pullman “Turnstyles & Junkpiles” / プルマン『ターンスタイルズ・アンド・ジャンクパイルズ』


Pullman “Turnstyles & Junkpiles (Turnstyles And Junkpiles)”

プルマン 『ターンスタイルズ・アンド・ジャンクパイルズ』
発売: 1998年8月11日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスやガスター・デル・ソルでの活動でも知られるバンディー・K・ブラウン(Bundy K. Brown)や、同じくトータスやブロークバックでの活動で知られるダグ・マッカム(Doug McCombs)を中心に、ポストロックおよびスロウコアなど、各ジャンルでキャリアのある4人が結集したバンド、プルマン。

 ちなみにこのバンドの活動はスタジオでのレコーディングのみで、ライブ活動はおこなっていません。

 本作は、1998年にリリースされた彼らの1stアルバム。前述のトータスらが在籍し、シカゴのポストロックの総本山とも言えるレーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。デイヴィッド・パホ(David Pajo)が1曲でゲスト参加するなど、こちらの界隈が好きな人にとっては、聴く前から嫌が応にも期待が高まります。僕もそのひとり。

 期待と共に本作を再生すると、アコースティック・ギターを中心に据えたナチュラルなサウンドを用いて、多彩なアンサンブルが展開。アコギ中心というと、フォークやカントリーがまず頭に浮かびます。

 しかし、本作で展開されるのは、単なるカントリーのアップデート版とは違って、「アコースティック・ギターを用いたグッド・ミュージック」とでも呼びたくなるような、多様なジャンルを参照し、結果的にジャンルレスとなった音楽。あるジャンルを参照しつつも、その先に向かっているという意味では、ポストロック的と言ってもいいでしょう。

 1曲目の「To Hold Down A Shadow」から、アコースティック・ギターを中心に据えたオーガニックなサウンドで、各楽器が穏やかに絡み合い、躍動する、有機的なアンサンブルが展開されていきます。

 2曲目「Barefoot」は、複数のギターが、それぞれそよ風のように流麗なフレーズを弾く、吹き抜けるような疾走感のある1曲。フレーズ同士が重なるときに生まれるハーモニーに、どこか不安定な部分があり、そこが音楽の深みを増し、またジャンルレス感をも演出しています。

 3曲目「In A Box, Under The Bed」も、2曲目「Barefoot」に続いて、複数のギターが折り重なるように音楽を組み上げていく1曲。

 5曲目「Gravenhurst」には、バンディー・K・ブラウンと入れ替わりでトータスに加入したことでも知られるデイヴィッド・パホが参加。透き通るような音色のアコースティック・ギターによるシンプルなフレーズを中心に、穏やかなアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Lyasnya」は、ここまでのアルバムの流れとは異質な、軽快な3拍子に乗せて、メロディアスなフレーズが繰り出される1曲。リズムがはっきりとしているため、ダンサブルに響きます。

 9曲目「Deer Hill」は、音の動きの少ないミニマルなフレーズが押し寄せる、音響が前景化した1曲。

 アルバム全体と通して、アコースティック・ギターを中心にした穏やかなサウンド・プロダクションを持っていますが、前述したとおり音楽の幅は広く、ジャンルレスで風通しの良い作品です。

 「シカゴ音響派」という言葉もありますが、まさに本作は「音響派」と呼びたくなる、音の響きを追求したストイシズムが感じられる1作。と書くと、なんだかハードルが高い音楽であるかのようですが、実際に鳴っている音は、音響を追求しているからこそ、リラクシングで心地よく、深い意味でポップな作品であると思います。

 通常は14曲収録ですが、徳間ジャパンからリリースされた日本盤にはボーナス・トラック5曲が追加され、19曲収録となっていました。