「2000年代」タグアーカイブ

Chicago Underground Duo “In Praise Of Shadows” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『イン・プレイズ・オブ・シャドウズ』


Chicago Underground Duo “In Praise Of Shadows”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『イン・プレイズ・オブ・シャドウズ』
発売: 2006年2月17日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 主にコルネットを担当するロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションを担当するチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの4thアルバム。

 これまでの作品では、一部の曲でゲスト・ミュージシャンを迎えることもありましたが、本作はメンバー2名によって、全ての楽器が演奏されています。エンジニアは、トータスのジョン・マッケンタイアが担当。

 シカゴのポストロックの総本山とも言えるスリル・ジョッキーからのリリース。また、ロブ・マズレクは同じくスリル・ジョッキー所属のトータスのメンバーらと共に結成したフューチャー・ジャズバンド、アイソトープ217°(Isotope 217°)での活動でも知られます。

 これまでの3作でも、ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な編集感覚で再構築し、新しいジャズを創造してきたシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。4作目となる本作でも、生楽器のオーガニックな響きと電子音が溶け合い、ジャズとポストロックが有機的に融合したアルバムとなっています。

 1作目から順を追って電子音と編集の比率が高まり、ポストロック性を増していったのが、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの基本的な音楽性の変遷。しかし、本作では生楽器のナチュラルなサウンドを用いる比率が上がり、サウンドの面ではステレオタイプなジャズにやや戻った印象を受けます。

 しかし、音楽の質としては、ジャズ的なフレーズとサウンドを用いながらも、ジャンル特定の難しいポスト性を強く感じる音楽が展開されています。

 1曲目の「Falling Awake」では、ヴィブラフォンとコルネットが臨場感あふれる生々しいサウンドで録音。比較的、ジャズ色の濃い1曲と言えます。

 2曲目「In Praise Of Shadows」では、ピアノなのかチェレスタなのか、独特の透明感と残響感を持った鍵盤と、フリーなドラムがアンサンブルを構成。隙間が多い、緊張感のある演奏が展開されることで、音響が前景化して響きます。

 5曲目の「Pangea」は、個人的にこのアルバムのベスト・トラックだと思う1曲です。手数の多い鋭いドラムと、電子的なノイズなどが溶け合い、リズムと音響が一体化したような、ジャンルレスな音楽が展開。ジャズのリズムと、音響系ポストロックのサウンド・プロダクションが、見事に融合しています。

 アルバムごとに、音楽性が少しづつ異なるシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。しかし、ジャズのマナーを下敷きにしながら、同時代のポストロックやエレクトロニカと共鳴し、新しい音楽を作り出そうという意図は、共通していると言えるでしょう。

 また、一定以上のクオリティーを持ったアルバムを、作り続けているところもさすが。4作目のアルバムとなる本作でも、ジャズがポストロックのフィルターを通過して、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、全く新しい音楽が鳴らされています。

 





Lightning Bolt “Ride The Skies” / ライトニング・ボルト『ライド・ザ・スカイズ』


Lightning Bolt “Ride The Skies”

ライトニング・ボルト 『ライド・ザ・スカイズ』
発売: 2001年2月18日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの2ndアルバム。前作に引き続き、地元プロヴィデンスのインディペンデント・レーベル、ロードからのリリース。

 ジャンルとしては「ノイズ・ロック」や「エクスペリメンタル」にカテゴライズされることの多いライトニング・ボルト。ベースとドラムの2名という編成とは思えない、攻撃的なサウンドが炸裂します。

 ノイジーに暴走していた1stアルバムから比較すると、本作はより音楽的になったと言えます。部分的に整然とし、テクニックがより前景化されて、マスロック色が強まったと言っても良いでしょう。

 1曲目「Forcefield」は、音符が密集し、圧縮されたようなフレーズが、波のように一定のペースで押し寄せる1曲。サウンドもハードロック的な硬質さを持ち、ロックが喚起するエキサイトメントが凝縮されたように感じられます。

 2曲目「Saint Jacques」は、ほとんど隙間なく打ちつけられるドラムのリズムに、ベースも加わり、分厚い音の壁を作り上げる1曲。

 3曲目「13 Monsters」は、タイトで立体的なドラムに、ノイジーなベースが絡み合う、疾走感の溢れる1曲。

 4曲目「Ride The Sky」では、ベースの音をエフェクターで持ち上げたのか、ノイジーでジャンクな高音域を使ったフレーズと、前のめりに疾走するドラムの高速ビートが重なり、凄まじいスピード感を生み出す1曲。

 5曲目「The Faire Folk」は、このバンドにあっては珍しく、各楽器ともナチュラルでクリーンな音作りで、タイトで正確無比なアンサンブルが繰り広げられる1曲。各楽器とも淡々と正確なプレイを続け、マスロック色の濃い演奏を展開。再生時間2:22あたりから、ディストーション・サウンドが加わるアレンジも、コントラストが鮮やか。

 6曲目「Into The Mist 2」は、手数の多いフリーなドラムと、ノイズ的な奇妙なサウンドが飛び交う、アヴァンギャルドな1曲。

 8曲目「Rotator」は、エフェクトが深くかけられたジャンクで金属的なサウンドと、小刻みにリズムを叩くドラムが、タイトなアンサンブルを構成する1曲。サウンドはエキセントリックですが、演奏は正確でタイト。ピッタリと合わせる部分と、ラフにぶちまける部分がはっきりしており、ダイナミズムの大きい曲です。

 アルバムを通して、凄まじいテンションで、爆発的なアンサンブルが繰り広げられる1作です。ヴァーストコーラスが循環するような、一般的な意味でのポップな構造を持った音楽ではありませんが、全くつかみどころの無い、敷居の高すぎる音楽かというと、そうではありません。

 リフが持つ耳に引っかかる魅力、テクニカルなプレイを聴く爽快感、高速ビートによる疾走感、サウンド面でのハードなかっこよさなど、ロックという音楽が持つ魅力が断片的に、しかし高濃度に圧縮された形で散りばめられており、一度その魅力にハマると、とことんハマってしまう音楽です。

 ただ、全く受け付けないという人もいるので、誰にでもおすすめできるわけではありませんが、少しでも気になった方には、是非とも聴いていただきたいです。

 





Chicago Underground Duo “Axis And Alignment” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『アクシス・アンド・アラインメント』


Chicago Underground Duo “Axis And Alignment (Axis & Alignment)”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『アクシス・アンド・アラインメント』
発売: 2002年3月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの3rdアルバム。

 レコーディング・エンジニアとミックスは、バンディー・K・ブラウンとジョン・マッケンタイアが、楽曲によって分け合うかたちで担当。

 ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な手法で再構築。シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの音楽性を一言であらわすなら、そう言って差し支えないでしょう。3作目となる本作でも、ジャズのパーツを用いて、全く新しい音楽を作り上げようという意思が感じられます。

 1曲目「Micro Exit」は、ヴィブラフォンの細かい音の粒が、サイケデリックかつ幻想的な空気を作りだす1曲。

 2曲目「Lifelines」は、コルネットのフレーズとドラムのリズムからは、ジャズの香りが立ちますが、全体のアンサンブルにはスウィングや躍動感が希薄で、バラバラに解体された後に組み立て直したような耳ざわりの1曲です。

 3曲目「Particle And Transfiguration」は、ドラムもコルネットも、高速で音符の詰め込まれたフレーズを繰り出す、フリージャズ色の濃い1曲。徐々に、全体にエフェクト処理が加えられ、攻撃的でアヴァンギャルドなサウンドへと変化していきます。

 4曲目「Exponent Red」は、ポリリズミックなドラムと、コルネットのリリカルなフレーズはジャズそのもの。しかし、シンセの太い音色がモダンな空気を演出し、全体のジャズ色を薄め、テクノのようなサウンドに仕上げています。

 5曲目「Average Assumptions And Misunderstandings」は、ピアノとヴィブラフォンが不協和に重なり合う、アヴァンギャルドな1曲。ジャズというより、現代音楽に近い雰囲気。

 7曲目「Two Concepts For The Storage Of Light」は、叩きつけるようにパワフルかつ自由なリズムを刻むドラムと、歌い上げるようにフレーズを紡ぐコルネットが絡み合う、フリージャズ色の濃い前半から、シンセが加わりモダンな空気を増した後半へと展開。全体としても、躍動感に溢れ、単純にかっこいい曲です。

 8曲目「Memoirs Of A Space Traveller」は、フリーな高速フレーズを繰り出すコルネットとドラムを、ノイズ的な電子音が包み込む、アヴァンギャルドな1曲。

 10曲目「Access And Enlightenment」は、トライバルなドラムと、軽快なシンセとコルネットが絡み合う、立体的で躍動感に溢れた1曲。ジャズ的なフレーズと即興性を持ったコルネット、変幻自在にカラフルなリズムを刻むドラム、オルタナティヴな空気を持ち込むシンセの音色が溶け合い、フックの多い音楽を作りあげています。

 アルバムによって、アプローチの方法とバランスを変化させながら、常にジャズを用いた新しい音楽を目指しているシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。

 本作でもジャズのスウィング感や即興性を、ポストロック的な感覚で解体・再構築し、ジャンルを超えた音楽を完成させています。

 





Chicago Underground Duo “Synesthesia” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『シナスタジア』


Chicago Underground Duo “Synesthesia”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『シナスタジア』
発売: 2000年5月2日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: John McEntire (ジョン・マッケンタイア)

 コルネット担当のロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッション担当のチャド・テイラー(Chad Taylor)からなる、アヴァンギャルドなジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの2ndアルバム。

 トータスらを擁するシカゴの名門インディー・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。エンジニアは、トータスのジョン・マッケンタイアが担当。

 ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロックにおける編集感覚で再構築した、前作『12° Of Freedom』。2作目となる本作では、前述のとおりトータスのジョン・マッケンタイアをエンジニアに迎え、よりポスト・プロダクションを大胆に施し、電子音も導入した、ポストロック色の濃い1作となっています。

 1曲目の「Blue Sparks From Her And The Scent Of Lightning」は、イントロから輪郭のはっきりしない電子音が増殖する、アンビエントな雰囲気からスタート。コルネットのフレーズと音色からはジャズの香りが漂い、再生時間4:46あたりからは、いきいきとしたスウィング感の溢れるアンサンブルが展開。ジャズの躍動感と、エレクトロニカの音響を併せ持った1曲と言えます。

 2曲目「Threads On The Face」では、1曲目で聴かれたエレクトロニクスの導入はやや控えめに、コルネットとドラムのフレーズが、それぞれフリーにフレーズを繰り出していきます。後半になると、録音後に再構築されたであろう、ポスト・プロダクションを感じさせるサウンドが展開。

 3曲目「Bellatron」は、シンセなのか打ち込みなのか、あるいは生楽器にエフェクト処理を施したのか、電子音が飛び交う、アンビエントな1曲。

 4曲目「Red Gradations」は、ヴィブラフォン、パーカッション、コルネットが、音数を絞ったミニマルなフレーズを持ち寄り、緩やかに絡み合い、有機的なアンサンブルを構成していく1曲。

 5曲目「Fluxus」は、ドラムとコルネットがそれぞれ即興性の強いフレーズを繰り出す前半から、アナログシンセが入り、ジャズのグルーヴ感と、テクノの音響とダンス要素が融合したような後半へと展開。クレジットを確認すると、このアナログ・シンセサイザーはモーグ(Moog)で、ザ・シー・アンド・ケイクのサム・プレコップがゲスト参加で弾いているようです。

 8曲目「Tram Transfer Nine」は、エフェクト処理されたであろう楽器や、フィールド・レコーディングらしき大人など、多様な素材が飛び交う、実験性の強い1曲。この曲をアルバムのラストに持ってくるところに、実験性を重んじるこのデュオの態度が、あらわれていると言ってもいいかもしれません。

 前述したとおり、1stアルバム『12° Of Freedom』から比べると、編集や電子音が大胆に用いられ、ポストロック色の増した2作目と言えます。

 各楽器のフレーズやサウンドには、間違いなくジャズの香りが漂うのですが、完成された音楽は、良い意味でジャンルレス。断片的にはジャズ感が強いのに、言葉には表しがたい新しい音楽として仕上がっており、実にポストロック的な、またスリル・ジョッキー的な作品です。

 





Califone “All My Friends Are Funeral Singers” / キャリフォン『オール・マイ・フレンズ・アー・フューネラル・シンガーズ』


Califone “All My Friends Are Funeral Singers”

キャリフォン 『オール・マイ・フレンズ・アー・フューネラル・シンガーズ』
発売: 2009年10月6日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 シカゴ出身のポストロック・バンド、キャリフォンの2009年作のアルバム。前作までは、地元シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリースでしたが、本作からインディアナ州ブルーミントンを拠点にするレーベル、デッド・オーシャンズへ移籍。(並行して、メンバーのティム・ルティリとベン・マサレラが設立したレーベル、ペリシャブル(Perishable Records)からのリリースもありましたが。)

 アコースティック・ギターを基調としたルーツ・ミュージックを感じさせるサウンドと音楽性に、ノイジーな電子音やエレキ・ギターを用いて、実験性を溶け込ませるのがキャリフォンの特徴。本作でも、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを思わせるサウンドに、アヴァンギャルドな音が隠し味のように溶け込み、深みのある音楽を作り上げています。

 1曲目「Giving Away The Bride」は、シンプルなリズム・パターンに乗せて、やや物憂げなボーカルが淡々とメロディーを紡いでいく1曲。基本のパターンは延々と繰り返しが続き、楽曲構造としてはシンプル。しかし、多種多様な断片的なフレーズとリズムが飛び交い、多彩なサウンドが織り込まれた曲でもあります。

 2曲目「Polish Girls」は、ミニマルなパーカッションのイントロから始まり、アコースティック・ギターと歌のみの前半から、徐々に楽器が増え、広々としたサウンドが展開される1曲。音数が増えるのと比例して、躍動感も増していきます。

 3曲目「1928」は、アコースティック・ギターと、乾いたパーカッションの音、アヴァンギャルドな空気を振りまく電子音が、ゆるやかに絡み合い、アンサンブルを構成。ささやき系の穏やかなボーカルを含め、牧歌的な雰囲気の曲ですが、さりげなく用いられる奇妙なサウンドが、楽曲に色を与えています。

 6曲目「Buñuel」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心にしたイントロから、エレキ・ギターやストリングスが波のように折り重なり、厚みのあるアンサンブルを組み上げていきます。スウィングしながら前進していく、カントリー色の濃い1曲。

 7曲目「Ape-like」は、軽快なリズムと立体的なアンサンブルを持った、ノリの良い1曲。特に低音域のドラムが地面を揺らすように鳴り響き、バンド全体もダンサブルに躍動していきます。

 10曲目「Alice Marble Gray」は、手数を絞ったシンプルなドラムのビートと、ギターのミニマルな反復フレーズが、淡々と演奏を続けていきます。

 12曲目「Krill」は、ゆったりとテンポに乗せて、徐々に広がるようにアンサンブルが展開していく1曲。生楽器主体のオーガニックなサウンド・プロダクションですが、随所で効果的に用いられるエレキ・ギターと電子音が、オルタナティヴな空気とダイナミズムをプラス。再生時間1:03あたりからの木琴による細かい音粒、1:54あたりからのダイナミックな盛り上がりなど、段階的にシフトを上げていきます。

 アコースティックな音色を基調としながら、電子音とディストーション・ギターが効果的に用いられ、アルバム全体をカラフルに彩っています。フレーズやサウンドのみを取り出すと、実験性が強いのですが、楽曲の中に心地よい違和感として、見事に溶け込ませています。

 アルバム毎に音楽性が若干異なるキャリフォンですが、伝統と実験性を巧みにブレンドするセンスは常に秀逸。毎作、安定したクオリティの作品を作り続けていると思います。

 2018年6月現在、Spotifyではデジタル配信されていますが、AppleとAmazonでは未配信です。