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Sleeping People “Sleeping People” / スリーピング・ピープル『スリーピング・ピープル』


Sleeping People “Sleeping People”

スリーピング・ピープル 『スリーピング・ピープル』
発売: 2005年1月1日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のマスロック・バンド、スリーピング・ピープルの1stアルバム。

 ノレそうでノレない、ぎこちないとも言えるリズムに乗せて、複雑なアンサンブルが展開されるアルバム。正確にデザインされたアンサンブルと、それを寸分の狂いなく実行していくテクニックは、まさにマスロックと呼ぶべき音楽です。

 1曲目「Blue Fly Green Fly」は、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構成し、生き物がうごめくように躍動感する1曲。特別にテンポが速い、フレーズが複雑だというわけではなく、むしろ各フレーズとリズムは、マスロックにしては比較的シンプルですが、各楽器が折り重なるように組み上げられるアンサンブルの完成度は、非常に高いです。

 2曲目「Nasty Portion」は、不自然なほど前のめりになったようなリズムで、疾走していく1曲。急ぎすぎて足がもつれるかのように、各楽器が我先にとフレーズを繰り出していきます。

 3曲目「Fripp For Girls」は、回転するようなフレーズの動きが、実にマスロックらしい響きを持った1曲。この曲でも、各楽器が複雑に絡み合い、もつれるようにして演奏が進行します。

 4曲目「Technically You…」では、上から流れ落ちるようなフレーズが繰り返され、小刻みなリズムが緊張感を演出。フレーズに用いられる音符は細かいのですが、疾走感やスピード感よりも、複雑さの方が前景化した1曲。

 5曲目「Nachos」は、イントロから音が乱れ飛ぶ、アヴァンギャルドな空気を持った1曲。適当に無茶苦茶にプレイしているようでいて、合わせるところは非常にタイトで、このバンドの演奏力の高さを改めて感じます。

 6曲目「Johnny Depp」は、2本のギターによる、細かく緻密なフレーズから始まり、その後もツイン・ギターのアンサンブルが中心に置かれた1曲。リズム隊も含め、正確無比でスリリングな演奏が展開されていきます。

 テクニックを前面に押し出すわけではなく、リズムもアンサンブルも、一聴するとそこまで複雑には聞こえません。しかし、正確にタイトなアンサンブルをこなしていく演奏からは、各メンバーの高度なテクニックが窺えます。

 予定調和の静と動に頼らず、やり過ぎないバランス感覚が、このバンドの魅力。黙々とフレーズを紡ぎ、バンド全体で有機的なアンサンブルを組み立てていく態度からは、彼らのストイシズムが漂います。

 





Rumah Sakit “Obscured By Clowns” / ルマ・サキッ『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』


Rumah Sakit “Obscured By Clowns”

ルマ・サキッ 『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』
発売: 2002年6月4日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの2ndアルバム。

 「マスロック」と一口に言っても、その音楽性はバンドによって様々。インドネシア語で病院を意味する、ルマ・サキッという奇妙なバンド名を持ったこのバンドの特徴は、各楽器が奏でる幾何学的に制御されたかのようなフレーズが、機械のように組み合わさり、一体感のあるアンサンブルを構成するところ。

 前作『Rumah Sakit』と比較すると、2作目となる本作では、さらに理路整然とした、複雑かつ正確なアンサンブルが展開。前作で聞かれた荒々しい攻撃性はやや控えめになり、全てが計算で作り込まれたかのような演奏が繰り広げられます。

 1曲目「Hello Beginning, This Is My Friend… The End」は、アルバム1曲目ということもあり、バンドがさりげなく音合わせを始めるかのような、自由でラフな雰囲気の1曲。

 2曲目「New Underwear Dance」は、各楽器が折り重なるように絡み合い、織物のように有機的で一体感のあるアンサンブルを構成していく1曲。随所でリズムの切り替えや、テンポの加速と減速があり、楽曲が姿を変えながら、スリリングに進行していきます。

 3曲目「No-One Likes A Grumpy Cripple」は、タイトでシンプルなドラムに、ベースが絡みつくようにフレーズを重ね、さらにギターが重なり、全ての楽器が複雑に絡み合うようなアンサンブルが展開。

 5曲目「Obscured By Clowns」は、イントロのギターのシンプルなフレーズに導かれ、徐々に楽器が加わり、立体的で緩やかな躍動感のある演奏が展開される1曲。10分を超える大曲ですが、次々と展開があり、壮大な絵巻物のよう。

 6曲目「Are We Not Serious? We Are Rumah Sakit!」は、曲名は長いですが、30秒ほどのインタールード的な役割の1曲。曲というより、メンバーの声とミニマルなベースのフレーズのみで、スタジオでの一場面(悪ふざけ?)を切り取ったようなトラックです。

 9曲目「Hello Friend, This Is My End… The Beginning」は、電子音らしきサウンドが鳴り響くイントロから始まり、バンドの音が次々と重なり、アンサンブルを作り上げていく1曲。サウンド・プロダクションの面でも、演奏の面でも、ジャンクな空気が充満しています。しかし、ハードルが高いというわけではなく、むしろチープとも言える音質が、キュートで親しみやすい雰囲気をプラス。

 時にはハードな音色も用いて、攻撃性も持ち合わせていた前作から比べると、本作では各楽器ともシンプルな音色が多用され、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムになっています。

 テンポも抑えめの曲が多く、圧倒的なスピード感や、複雑怪奇なテクニカルなフレーズよりも、全ての楽器が組み合う、アンサンブルの正確性と表現力を追求した1作。

 





Rumah Sakit “Rumah Sakit” / ルマ・サキッ『ルマ・サキッ』


Rumah Sakit “Rumah Sakit”

ルマ・サキッ 『ルマ・サキッ』
発売: 2000年12月26日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)
プロデュース: Jeremy deVine (ジェレミー・ディヴァイン), Scott Campbell (スコット・キャンベル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの1stアルバム。バンド名はインドネシア語で、病院を意味するとのこと。(「Rumah Sakit」は「sick house」に相当するらしい。)

 マスロック、ポストロックに強いレーベル、テンポラリー・レジデンスからのリリース。プロデュースは、同レーベルの設立者であるジェレミー・ディヴァインが手がけています。

 テクニカルなフレーズと、多彩なリズムによって織り上げられる、マスロックかくあるべし!というアルバム。というより、2000年にリリースされた本作が、その後のマスロックに影響を与えた、と言った方が正しいんでしょうね。

 静と動を往復する音量面でのコントラスト、テンポとリズム・フィギュアを緩急自在に操るリズム面でのコントラスト。その両面が、バランスよくアンサンブルに溶け込んでいます。

 1曲目「I Can’t See Anything When I Close My Eyes」は、アルバムの幕開けにふさわしく、理路整然とした部分と、荒々しくドライブしていく部分が共存し、多様な音が降りそそぐ1曲。タイトにキメるところと、ラフに音が押し寄せるところを使い分け、メリハリの効いたアンサンブルが展開。

 2曲目「Scott & Jeremiah」は、ゆったりとしたリズムの中で、音数を絞ったミニマルなアンサンブルの前半から、徐々に音が増えていき、後半は怒涛の展開を見せる1曲。

 3曲目「Careful With That Fax Machine」は、ギターの複雑なフレーズが絡み合い、不協和な響きを持った不思議なサウンドができあがる1曲。クリーントーンを用いたソフトなサウンドの前半から、後半は歪みを多用したパワフルでハードなサウンド・プロダクションへ。

 4曲目「Wind & Wing」は、細かい音が有機的に組み合い、ひとつの生き物のような躍動感のあるアンサンブルを展開していく1曲。ゆるやかなパートと、激しく躍動するパートを往復する、コントラストが鮮やかな曲です。

 6曲目「Stomachache Due To The Sincere Belief That The Rest Of My Band Is Trying To Kill Me」は、複雑なリズムを刻んでいくドラムに、テクニカルで変幻自在なギターが絡みつき、爆発力を伴って疾走していく1曲。歌の無いインスト・バンドではありますが、エモーショナルで音の情報量に圧倒されます。

 各楽器ともテクニックに裏打ちされたフレーズを繰り出し、アンサンブルも正確かつ変幻自在。アルバムを通して次々と音楽が表情を変え、展開していく、スリリングな1作です。





Lightning Bolt “Hypermagic Mountain” / ライトニング・ボルト『ハイパーマジック・マウンテン』


Lightning Bolt “Hypermagic Mountain”

ライトニング・ボルト 『ハイパーマジック・マウンテン』
発売: 2005年10月18日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの4thアルバム。ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)の2人によって、凄まじいテンションで、テクニカルかつカオティックな演奏が繰り広げられるのが、このバンドの魅力。

 1作目から、ロックの音質面でのソリッドな攻撃性や、ヘヴィメタル的なテクニックが存分に詰め込まれた…いや、むしろ楽曲の構造よりも、サウンドとプレイ自体が前景化した音楽を展開してきたライトニング・ボルト。4作目となる本作でも、攻撃性の凝縮されたサウンドを踏襲しています。

 しかし、前作『Wonderful Rainbow』からは、楽曲らしい構造も洗練化され、初期の作品よりもポップで聴きやすく進化。4作目となる本作でも、以前の実験性と攻撃性はそのままに、より一般的なロックとしても聴きやすいアルバムとなっています。

 前述のとおり、ベースとドラムからなる2ピースですが、ベースの音は度々エフェクト処理によって、ギターに近い音域まで持ち上げられているようです。

 1曲目「2 Morro Morro Land」は、カタカタと高速で前のめりにリズムを刻みドラムと、図太いサウンドのベース、高音域を使ったノイジーなフレーズが疾走していく1曲。アルバム1曲目から、テンションの高い演奏が繰り広げられます。

 2曲目「Captain Caveman」は、イントロから、ジャンクに歪んだベースが塊となって、押し寄せます。奥の方からはボーカルのメロディーも聞こえ、このバンドにしては曲らしい構造を持った1曲と言えます。

 3曲目「Birdy」は、イントロから繰り返されるリフに、ドラムとボーカルも重なり、一体となって駆け抜けていく1曲。

 6曲目「Magic Mountain」は、イントロから暴発しそうなテンションを抑えたような、緊張感のあるアンサンブルが展開。しばらく控えめのサウンドでの演奏が続きますが、再生時間1:45あたりからシフトが切り替わり、やや加速。その後も爆発しそうで爆発しない、スリリングな空気を保ったまま、アンサンブルが続きます。

 7曲目「Dead Cowboy」は、ドラムの高速ビートと、ギターらしき音色(のベース?)の速弾き、重たく硬質なベースが、パワフルなサウンドとアンサンブルを繰り広げる1曲。テンションの高いシャウト系のボーカルも、楽曲の疾走感を増加させています。

 10曲目「BizarroBike」は、前のめりのビートと、奇妙なボーカルが、絡み合うアヴァンギャルドな1曲。途中から入ってくる速弾きのフレーズが、さらに疾走感を与えています。

 実験性の強い音楽を志向するライトニング・ボルトですが、本作ではボーカルが入る部分が多く、アンサンブルもリフを主体にしていて、ハードロックやヘヴィメタルの範疇でも聴きやすいアルバムに仕上がっています。

 リスナーをある程度選ぶ音楽であることは確かで、誰にでもオススメできるわけではありませんが、本作『Hypermagic Mountain』と、前作『Wonderful Rainbow』は、このバンドの作品の中では、聴きやすいと思います。

 





Lightning Bolt “Wonderful Rainbow” / ライトニング・ボルト『ワンダフル・レインボー』


Lightning Bolt “Wonderful Rainbow”

ライトニング・ボルト 『ワンダフル・レインボー』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Load (ロード)
プロデュース: Dave Auchenbach (デイヴ・オーチェンバック)

 ドラムのブライアン・チッペンデール(Brian Chippendale)と、ベースのブライアン・ギブソン(Brian Gibson)の2人のブライアンによって結成された、ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトの3rdアルバム。

 結成以来、凄まじいテンションで、暴発と暴走を繰り返すような音楽を鳴らし続けるライトニング・ボルト。1作目の『Lightning Bolt』では、ロックの攻撃性のみが凝縮された実験的な音楽が展開されていましたが、2作目『Ride The Skies』では楽曲の輪郭がより分かりやすくなり、3作目となる本作では、そこからさらに楽曲の構造やリフのかっこよさが前面に出たアルバムとなっています。

 とはいえ「ポップになった」と単純に表現するのが、難しい作品であるのも確か。彼らのアルバムの中では、聴きやすく、かっこよさの分かりやすい作品であると思いますが、一般的な意味では全くポップではありません。

 僕なりにこのバンドの魅力を説明すると、コード進行や歌メロのような分かりやすい構造よりも、ソリッドで攻撃的なサウンド、重たく地面を揺らすようなリフ、手数の多い圧巻のドラミングなど、ロックが持つ魅力が凝縮されているところ。言い換えれば、ロックという音楽が引き起こすエキサイトメントが、むき出しのまま迫ってくるところです。

 前述したとおり、メンバーがドラムとべースの2名のみで、クレジットにもそのふたつの楽器しか記載されていないのですが、実際に聞こえてくるサウンドには、ベースの音をエフェクターで持ち上げているのか、ギターのような音も含まれています。

 1曲目の「Hello Morning」は、1分弱のアルバムへのイントロダクションとなるトラック。前述したとおりギターのように聞こえる(ベースの?)音とドラムが風通し良く吹き抜け、タイトルのとおり、彼らの楽曲の中では、爽やかな朝を感じる曲と言って良さそうです。

 2曲目「Assassins」は、発せられる全ての音が一体となって押し寄せる1曲。ベースもドラムも不可分に溶け合い、倍音たっぷりの分厚い音の塊となっています。

 4曲目「2 Towers」は、手数の多い高速なドラムのリズムの上に、ギターの速弾きのように聞こえる、高音域を使ったトリッキーなベースが乗り、疾走していく1曲。

 5曲目「On Fire」はボーカルも含めた全ての楽器が、エモーションを暴発させて噴き出すようなイントロからスタート。再生時間0:53あたりからは高速なフレーズが組み合い、マスロック的な展開へ。ちなみに「ボーカル」と書きましたが、いわゆる歌メロはほとんど無く、大半はシャウトやうめき声です。

 6曲目「Crown Of Storms」は、高音域を使用したマスロック的なベースの速弾きからスタートし、その後はソリッドな音質でリフが繰り返されます。疾走感や硬質なサウンドなど、ロックの魅力が凝縮されて音に還元されたかのような1曲。

 8曲目「Wonderful Rainbow」では、このアルバムの中では珍しく、イントロからクリーンなサウンドを用いて、ゆったりとアンサンブルが編み上げられていきます。その後も静から動へと展開することなく、タイトで幾何学的なアンサンブルが続きます。

 9曲目「30,000 Monkies」は、速弾きベースと高速ドラムが、足がもつれながらも疾走していく、スピード感に溢れた1曲。

 10曲目「Duel In The Deep」は、ダークな持続音と、耳障りな高音ノイズがうごめく、不穏な空気を持った1曲。ドラムがパワフルにビートを刻み始めると、躍動感と疾走感に溢れたアンサンブルへと展開していきます。

 アルバムによって若干の差異はありながら、常にハイテンションで強度の高い音楽を鳴らし続けるライトニング・ボルト。本作でもその魅力は十分で、ハードロックの硬質なサウンドのリフ、ヘヴィメタルのテクニカルなソロ、マスロックの幾何学的な構造などが、1曲の中に圧縮され、表現されています。

 前述したとおり、ここまでの3作の中では最も楽曲の構造が掴みやすく、演奏も鋭さを増していて、彼らの目指す音楽がひとつの完成形に達したのでは、と感じさせる1作です。