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Erase Errata “Night Life” / エラス・エラッタ『ナイト・ライフ』


Erase Errata “Night Life”

エラス・エラッタ (イレース・イラータ) 『ナイト・ライフ』
発売: 2006年7月25日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Chris Woodhouse (クリス・ウッドハウス), Eli Crews (イーライ・クルーズ)

 カリフォルニア州サンフランシスコで結成されたバンド、エラス・エラッタの3rdアルバム。タイトルは「Nightlife」と区切りなく表記されていることもありますが、各種サイトでは「Night Life」の表記が多いようです。

 ジャンル分けが非常に難しいバンドで、ポスト・パンクと言われることもあれば、ノイズ・ロックやエクスペリメンタル・ロックと言われることもあります。

 3枚目となる本作は、マスロックのような複雑なリズムとアンサンブルを持ちながら、歌のある作品としても成立しているアルバムです。全体のサウンド・プロダクションは硬質で、特にギターは鋭く、ドラムにも臨場感があります。

 そんな切れ味抜群のサウンドで、実験性のあるアンサンブルを繰り広げ、ボーカルはエモーションが噴出するように歌います。実験性とロック的なダイナミズムが、高次に融合した作品であると思います。

 1曲目の「Cruising」は、立体的なドラムに、極度に圧縮されたようなサウンドのギターと、ボーカルが絡み合う1曲。サウンド的にもアンサンブルにも、複雑で奇妙な耳ざわりを持っていますが、ボーカルはほどよい軽さを持ち、全体としてはカラフルな印象に仕上がっています。

 4曲目の「Take You」は、叩きつけるような躍動感あふれるドラムに、切れ味鋭いギター、丸みのあるベースがアンサンブルを構成する1曲。ベースの音とフレーズがかわいらしく、全体のバランスを取っています。

 実験的なアレンジと、ノイジーなサウンドを多分に含んではいるのですが、ボーカルや各楽器のちょっとしたフレーズなどで、エッジが立ちすぎず、聴きやすいバランスのアルバムだと思います。

 前述したとおり、どんなジャンルにカテゴライズすべきか難しい作品ですが、マスロックの緻密さと複雑さ、ポスト・パンク的な若干のパーティー感のある歌唱が溶け合っていて、なかなかにかっこいいアルバムです。

 





Mates Of State “My Solo Project” / メイツ・オブ・ステイト『マイ・ソロ・プロジェクト』


Mates Of State “My Solo Project”

メイツ・オブ・ステイト 『マイ・ソロ・プロジェクト』
発売: 2000年6月15日
レーベル: Omnibus (オムニバス), Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カンザス州ローレンス出身の夫婦デュオ、メイツ・オブ・ステイトの1stアルバム。2000年にOmnibusというレーベルから発売され、その後2003年にPolyvinylから再発されました。メンバーは、ボーカルとキーボード担当のコリ・ガードナー(コリ・ハメル)と、ボーカルとドラム担当のジェイソン・ハメルの2人。

 ポップだけど、サウンドにはジャンクな雰囲気も併せ持ち、多彩なアンサンブルが展開されるアルバムです。いい意味でラフな部分を残したコーラスワークと、キーボードの音色が印象的。楽曲によって鍵盤を、ピアノであったり、シンセサイザーであったりと、巧みに音色を使い分け、作品に彩りをプラスしています。

 非常にポップなアルバムでもあるのですが、ロック的なグルーヴ感とラフな魅力も同居する、良作だと思います。

 2曲目の「Proofs」は、イントロから空間に滲んでいくようなキーボードの音色と、立体的で臨場感あふれるドラムのバランスが絶妙。その後のラフな雰囲気のコーラスワークも良い。その裏でフリーな雰囲気で弾いているキーボードも良いです。

 この曲は、徳島出身の日本のロックバンド、チャットモンチーがライブのオープニングSEに使用し、「夢みたいだ」というタイトルで日本語詞をつけカバーしたこともあります。(シングル『ハテナ/夢みたいだ』に収録)

 3曲目「What I Could Stand For」。この曲も、キーボードの暖かみのある音色が良いです。リズム隊とキーボードが機能的に絡み合うアンサンブルを構成し、その上にコーラスワークが乗ります。再生時間0:58あたりからのキーボードのフレーズと音色もアクセントになり、楽曲を多彩にしています。

 5曲目「Nice Things That Look Good」は、イントロから、どこかノスタルジックなサウンド・プロダクション。どこまでが生楽器で、どこまでが電子楽器なのか分かりませが、サウンドに統一感があります。歌が入ってきてから、奥の方で小刻みにリズムを刻むドラムも、邪魔をせず控えめにアンサンブルを引き締めています。

 6曲目「A Control Group」は、キーボードの音色がジャンクで、ドラムもパワフル。少し前のめりになるようなグルーヴ感もあり、ロック的なノリの良さがある1曲です。めちゃくちゃかっこいい!

 7曲目「Throw Down」。臨場感のあるドラムのサウンドと、高音域のキーボードのバランスが良く、印象的なイントロ。歌が入ってきてからは、随所にキーボードがフレーズを差し込んでくるのですが、それが全てフックになっています。

 8曲目「I Have Space」は、バンド全体が緩やかに躍動していく1曲。それぞれの楽器が少しずつ推進力を持ち寄るような、有機的で心地よいアンサンブル。再生時間1:17あたりからピアノだけになる部分など、1曲の中でのコントラストもあります。

 9曲目「Everyone Needs An Editor」は、倍音たっぷりのキーボードと、立体的に響くドラムが絡み合い、加速と減速を繰り返す緩急が鮮やかな1曲。

 10曲目「Tan/Black」。この曲もキーボードの音が太めで、倍音たっぷり。再生時間2:10あたりからのキーボードの、音程が狂ったようなアレンジも、アクセントになっていてかっこいいです。

 アルバム全体を通して、キーボードの音が曲によって効果的に選択されていて、楽器の数は少ないのに、多彩な印象を与えるアルバムです。

 少し隙があるというか、ラフな魅力を持ったボーカルとコーラスワークも、楽曲に奥行きをもたらしていると思います。ジャンクな雰囲気や実験性を、違和感なく溶け込ませるセンスも抜群。

 2ピース・バンドってたまにいますけど、このメイツ・オブ・ステイトも大好きです! 同じく2ピースのドードースや、2人体制のチャットモンチーも好きなので、僕は2ピースが好きなのかも。

 





Death Cab For Cutie “Narrow Stairs” / デス・キャブ・フォー・キューティー『ナロー・ステアーズ』


Death Cab For Cutie “Narrow Stairs”

デス・キャブ・フォー・キューティー 『ナロー・ステアーズ』
発売: 2008年5月12日
レーベル: Barsuk (バースーク)

 ワシントン州ベリンハムで結成されたバンド、デス・キャブ・フォー・キューティーの6枚目のアルバム。シアトルのインディペンデント・レーベルBarsukと、メジャー・レーベルのAtlanticより発売。

 「インディーロック」という、具体的な音楽性を示すわけではない言葉。しかし、その言葉が持つ共通のイメージ、ぼんやりとした傾向は、確かに存在します。僕がインディーロックといってまず思い浮かぶのが、デス・キャブ・フォー・キューティーであり、特にこのアルバムです。

 すなわち、ポップでカラフルなサウンドと、美しく流れるようなメロディーを持ちながら、アンサンブルには若干ねじれたオルタナティヴな要素を含む。そのバランス感覚に、インディーロック感が強くにじみ出ていると思います。

 本作も、極上の歌ものアルバムでありながら、サウンドやアンサンブルには随所にメジャー的でない、実験的なアプローチが聴かれます。

 1曲目「Bixby Canyon Bridge」は、イントロから開放感のある、伸びやかなボーカルがメロディーを歌い、耳に心地よい1曲。そのボーカルを引き立てるように、透明感あふれるクリーントーンのギターが響きます。しかし、再生時間1:38あたりでフル・バンドになると、途端にパワフルで躍動感のあるアンサンブルへ。1曲の中でのコントラストが鮮烈。

 3曲目の「No Sunlight」は、「ノリノリな曲」「ロックな」というわけではないのに、躍動感に溢れ、グルーヴのある1曲。随所に挟まれるギターとピアノのフレーズが、楽曲をさらに多彩にしています。個人的には、本作のベスト・トラック。

 7曲目「Grapevine Fires」は、立体的なドラムに、各楽器が絡み合うアンサンブルを持つ1曲。各楽器が、生々しく臨場感あふれるサウンドでレコーディングされています。

 9曲目「Long Division」は、タイトなリズム隊が曲を先導し、その上に羽が生えたようなギターのフレーズ、激しく歪んだディストーション・ギターが乗る、多層的なアンサンブルの1曲。

 10曲目「Pity And Fear」は、イントロからドラムのリズムが、トライバルな雰囲気を醸し出す1曲。しかし、民族音楽的な空気が充満した曲かというとそうではなく、全体としてはポップなインディーロック然としてサウンドにまとまっています。

 多種多様な音楽ジャンルが顔を出しながら、全体としては一貫性のあるポップなサウンド・プロダクション。収録されている楽曲群もカラフルで、これは名盤だと思います。

 





Paik “The Orson Fader” / パイク『ジ・オーソン・フェーダー』


Paik “The Orson Fader”

パイク 『ジ・オーソン・フェーダー』
発売: 2002年6月15日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 オハイオ州トレド出身のバンド、パイクの3rdアルバムです。シューゲイザーを得意とするレーベル、Clairecordsからのリリース。

 シューゲイザーを思わせる、倍音豊かな厚みのあるギターも聞こえますが、ドローン・メタルを彷彿とさせる音像や、ポストロック的なアンサンブルも共存するアルバムです。全編インスト、かつスローテンポの曲が多く、音響を前景化した作品であるとも思います。

 1曲目の「Detroit」は、ざらついた質感のギターが空間を満たし、リズム隊がゆったりとリズムをつける、スローテンポでアンビエントな雰囲気の1曲。音符の数は多くないですが、ギターのサウンドには厚みがあり、時間と空間が音で充満しているかのような、サウンド・プロダクション。

 2曲目「Tall Winds」は、1曲目と比較すると、各楽器のサウンドの輪郭がはっきりしており、アンサンブルを認識しやすい1曲。ゆったりと各楽器が絡み合う、ポストロック的なアンサンブルが展開されます。

 4曲目の「Black Car」は、深くエフェクトのかかったギターが隙間を埋め尽くす、ドローン・メタルを彷彿とさせる1曲。ですが、ドラムが激しく叩きつけるリズムがアクセントになり、一般的なドローン・メタルよりは、遥かに聴きやすいと思います。シューゲイザー的なサウンドで、ドローン・メタルに近い音楽を実行した、というイメージです。

 6曲目の「Ghost Ship」は、タイトルのとおりというべきなのか、不穏かつ幻想的な空気が漂う1曲。イントロから、しばらくはアンビエントな音像ですが、再生時間1:41あたりから、ドラムがはっきりとビートを刻み始めると、緩やかなポストロックのようなアンサンブルが形成されます。

 シューゲイザー系のレーベルからの発売という先入観を抜きにしても、ギターサウンドにはシューゲイザーを感じるアルバムです。シューゲイザー的なサウンドを用いて、ドローン・メタルや音響系ポストロックを演奏した1作、と言ってもいいでしょう。

 ただ、シューゲイザーというと、轟音ギターや空間系エフェクター特盛のギター・サウンドに、耽美なボーカルが乗る、という構造のバンドが多いなか、このバンドは全編インスト。アンビエントやドローンの要素も強く、やや敷居の高いバンドであるとも思います。

 





Evangelicals “The Evening Descends” / エヴァンゲリカルズ『ジ・イヴニング・ディセンズ』


Evangelicals “The Evening Descends”

エヴァンゲリカルズ (エヴァンジェリカルズ) 『ジ・イヴニング・ディセンズ』
発売: 2008年1月22日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 オクラホマ州ノーマン出身のバンド、エヴァンゲリカルズの2ndアルバムです。

 おどろおどろしい、ホラー映画のようなジャケットにまず目を奪われてしまいますが、実際の音はというとジャケットのイメージどおり(笑)、ゴシックな香りも僅かに漂いつつ、よくまとまった良質なインディーロックだと思います。

 1曲目「The Evening Descends」のイントロから、やや不穏な空気が漂いますが、サイケデリックな空気とポップな空気のバランスが絶妙な1曲です。3分ちょっとの短い曲ですが、多種多様なサウンドと展開が詰め込まれていて、全体の耳ざわりはカラフル。

 ジャケットからは、もっとゴシック色強め、実験性強めのアルバムを予想していましたが、思いのほかポップ・センスの高さを感じさせる曲からアルバムがスタートします。

 2曲目「Midnight Vignette」は、バンドのアンサンブルとコーラスワークが多層的で、塊感のある1曲。音の出し入れが面白く、この曲も実験的なアレンジを、見事な手さばきで、コンパクトなポップ・ソングにまとめていると思います。

 4曲目「Stoned Again」は、イントロから、立体的なドラムと、ややメタルを感じさせるギターのような音が重なり、厚みのあるアンサンブル。よく聴くといろいろな音が鳴っています。

 5曲目の「Party Crashin’」。個人的には、この曲が最もジャケットのイメージに近いです。イントロから、シンセらしきうねる音がサイケデリックな香りを振りまき、その後も様々な音が飛んできます。しかし曲自体は、音で壁を作るような厚みのあるアンサンブルに、流れるようなボーカルが乗る、疾走感のある1曲。

 アルバムを通して聴いてみて、意外と言ったら失礼かもしれませんが、ポップ・センスに非常に優れたバンドであると思いました。

 ほどよくサイケデリックでアングラな空気も持ちつつ、ポップでカラフルなインディーロックにまとめあげています。何度か「ポップ」という言葉を使いましたが、音楽的にはメタルやゴシックの要素を持ったインディーロック、といった感じです。

 こういうバンドに不意に出会えるのも、USインディーズの楽しみのひとつ。しかし、残念ながら本作は、今のところデジタル配信はされていないようです。