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Black Dice “Beaches & Canyons” / ブラック・ダイス『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』


Black Dice “Beaches & Canyons”

ブラック・ダイス 『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』
発売: 2002年7月29日
レーベル: DFA

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ニューヨックのブルックリンを拠点に活動するバンド、ブラック・ダイスの1stアルバムです。

 エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックにカテゴライズされることの多いブラック・ダイス。本作も実験的で、時にノイジー、時にアンビエントなサウンドが鳴り響く1枚です。

 1曲目の「Seabird」から、鳥の鳴き声のような高音と、多種多様なノイズが重なり合い、独特の音空間を作り出します。一般的なヴァース=コーラス形式を備えた楽曲ではなく、そういう意味ではポップではありませんが、再生時間2分を過ぎるあたりから、叩きつけるようなビートが登場するなど、展開はあります。

 2曲目の「Things Will Never Be The Same」は、ノイジーで雑多な1曲目「Seabird」から一変して、アンビエントで穏やかな1曲。波の音のようなノイズが押し寄せては引き、中盤以降はビートが入ってくるなど、こちらの曲もミニマルながら展開があります。しかし、音響を重視した曲であるのも事実。

 3曲目「The Dream Is Going Down」は、イントロから多種多様な音が飛び交います。一般的にはノイズとしか言えない音の数々ですが、音の種類が多く、カラフルな印象の1曲。

 4曲目の「ndless Happiness」は、タイトルのとおり穏やかで、優しいサウンドを持った1曲。いつ耳障りなノイズが飛び出してくるのか、と身構えていると、再生時間5:30ぐらいから、躍動感あふれるいきいきとしたドラムがきます。アンビエントな音とドラムのビートが重なり、これは分かりやすくかっこいい!

 前述したとおり、エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックに分類されるブラック・ダイス。本作も実験的でノイジーな音に溢れ、一般的な意味では全くポップとは言えません。

 しかし、メロディーを追う、リズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、音響が非常に心地いい部分であったり、行き交うノイズかかっこよかったり、と音楽のむき出しの魅力を感じられる部分があります。

 とはいえ、誰にでもすすめられる作品かというと、やはりそうではなく、ある程度リスナーを選ぶ作品であるのは事実です。ノイズやアヴァンギャルドに属する音楽にしては、ポップだと思います。(なんだか矛盾するようですが…)

 僕はけっこう好き!

 





The Faint “Danse Macabre” / ザ・フェイント『ダンセ・マカブレ』


The Faint “Danse Macabre”

ザ・フェイント 『ダンセ・マカブレ』
発売: 2001年8月21日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの3rdアルバムです。

 小気味いいビートに、シンセの音色が載る、ダンス・パンクかくあるべし!というサウンドを持った作品。しかし、ボーカルのメロディーと声には、ダークな雰囲気も含んでおり、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴの香りもします。

 パーティー感のあるサウンドながら、若干のアングラ臭も漂い、ポップさとダークさのバランスが抜群。また、曲によってシンセの音色を効果的に使い分けているため、バラエティに富んだカラフルな印象を与えるアルバムです。

 1曲目の「Agenda Suicide」から、タイトなドラムのビートに、やや憂鬱な響きを持ったギターが重なり、ピコピコ系のシンセがさらに上に載る、そのバランス感覚が絶妙です。感情を抑えたように歌うボーカルも、全体の雰囲気を引き締めています。

 2曲目の「Glass Danse」は、イントロからシンセが激しくうねる1曲。シンセのサウンド的には、ダンサブルなパーティー・チューンといった趣ですが、淡々とリズムを刻むドラム、エフェクト処理されざらついた音質のボーカルと合わさり、単純に突き抜けるだけの曲にはなっていません。

 8曲目の「Violent」は、無機質なビートと、ダークな音色のシンセが溶け合う1曲。途中から入る高音ピコピコ系のシンセが彩りを加えるものの、物憂げなボーカルを筆頭に、アンダーグラウンドな雰囲気が漂います。

 しかし、アングラ一辺倒ではなく、ドラムのビートや、前述した高音のシンセによって、耳馴染みは良く仕上がっています。再生時間3:13あたりからのアヴァンギャルドな展開も、この曲の空気には合っているともいます。

 アルバム全体を通して、現在のダンス・パンクやポストパンク・リバイバルにつながるサウンドを持ちながら、ダークな雰囲気も色濃く持った1枚です。

 冒頭にも書きましたが、ダークになりすぎず、楽観的にもなりすぎない、バランス感覚が秀逸。

 





Pit Er Pat “Shakey” / ピット・アー・パット『シェイキー』


Pit Er Pat “Shakey”

ピット・アー・パット 『シェイキー』
発売: 2005年3月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ピット・アー・パットの1stアルバムです。シカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 ピット・アー・パットは大好きなバンドで、特にこの1stは多くの人におすすめしたい1枚です。簡単にこのバンドの紹介をさせていただくと、ボーカル兼キーボードのフェイ・デイビス・ジェファーズ、ベースのロブ・ドラン、ドラムのブッチー・フエゴの3人組。

 のちにベースが脱退して2人組へ。ドラムのブッチーは、77人のドラマーが77台のドラムを一斉に打ち鳴らす、ボアダムスの『77 BOA DRUM』という作品に参加しています。

 本作『Shakey』は、1枚目のアルバムながら、非常に高い完成度を誇っています。複雑かつ躍動感あふれるアンサンブルが、全編にわたって展開されます。ギターレスの編成で、キーボードはオルガンのような暖かみのある音色が使用されているため、全体のサウンドはオーガニックな印象。

 サウンドにはルーツ・ミュージックを感じさせつつ、アレンジには実験的な要素を含みながら、立体的でグルーヴィーな演奏を繰り広げていきます。日本のバンドに例えると「アメリカーナな雰囲気を持ったクラムボン」といった感じです。

 1曲目の「Bird」から、早速のキラー・チューンです。イントロから、音数は詰め込まれていないのに、三者が複雑に絡み合うアンサンブル。複雑と言っても難解な印象ではなく、気持ちよくパワフルにグルーヴしていく演奏です。

 再生時間0:41あたりから、1:28あたりからと、段階的にシフトが上がっていく展開も、加速感を演出します。テンポが速い、音量が大きい、というわけではないのに、有機的で生命力を感じる素晴らしいアンサンブルです。

 1:28あたりからの間奏でのドラムは圧巻。1人でポリリズムを作り出すような、複雑なプレイをさらっとやってのけます。2:42あたりからラストに向かっていく、アヴァンギャルドなアレンジも、聴き手のテンションを上げます。

 2曲目「Scared Sorry」は、三者が肩慣らしをするように演奏が始まり、徐々に加速していく展開。この曲はアンサンブルが非常にタイト。

 3曲目「Gated Community」は、メロディアスなベース、緩やかなキーボード、正確に細かくリズムを刻むドラムが絡み合う、緻密かつグルーヴに溢れた1曲。この曲でも、三者とも素晴らしい演奏をしていますが、特にドラムがすごい。

 7曲目「Cake Peg」。こちらもイントロから、三者が複雑怪奇なアンサンブルを繰り広げます。リズムも複雑ですが、キーボードのハーモニーが奇妙で、クセになる1曲。この曲に限らず、一般的にはかなり前衛的な要素を含んでいるんですけど、難しく感じない、むしろ魅力に転化させているところが、このバンドの凄いところ。

 本当に大好きな1作です。リズムもハーモニーも展開も複雑。かなり実験的なアレンジも含まれているのですが、難解な印象は全くなく、いきいきとした躍動感が前面に出た、聴いていて本当に楽しいアルバム。

 本国でも、めちゃくちゃ人気のバンドってわけでもないのですが、こういう音楽が日本でも売れる世界になってほしいなぁ、って思います。ちなみにこのアルバムは、ボーナス・トラック入りの日本盤も出ていました。

 本当に心からオススメしたい1枚。ぜひ聴いてください!

 





Les Savy Fav “Let’s Stay Friends” / レ・サヴィ・ファヴ『レッツ・ステイ・フレンズ』


Les Savy Fav “Let’s Stay Friends”

レ・サヴィ・ファヴ 『レッツ・ステイ・フレンズ』
発売: 2007年9月18日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身のバンド、レ・サヴィ・ファヴの4枚目のアルバム。ベースのシド・バトラーは、本作をリリースしているレーベル、フレンチキスの創設者です。

 立体的なアンサンブル、オルタナティヴな香りを振りまくディストーション・ギター、実験的なアレンジ等々、インディーロックの魅力が多分につまった、USインディーの良心のようなアルバムです。

 ルーツ・ミュージックからガレージ、オルタナ、インディーロックまで、多種多様なジャンルが顔を見せ、実験的な要素もありながら、全体としてはカラフルでポップ。バランス感覚が抜群だと思います。

 1曲目の「Pots & Pans」から、臨場感あふれるドラム、オーバー・プロダクションになっていない地に足のついた音色のギター、それらを用いた多層的なアンサンブルが展開。早速、素晴らしい1曲です。再生時間1:02あたりからの立体的なドラミングも最高。

 2曲目の「The Equestrian」は、ギター、ベース、ドラム、そしてボーカルまで、全ての楽器がエモーションの表出のようなサウンドを響かせる1曲。「エモい」という言葉では片付けられないほどエモーションが充満しています。

 4曲目の「Patty Lee」は、タイトなリズム隊と、高音を使ったギターのコントラストが鮮やかな1曲。コーラスワークと歌メロも色彩豊かでポップ。

 8曲目「Slugs In The Shrubs」は、縦ノリのリズムがかっこいい1曲。イントロのトライバルな雰囲気のかけ声、エモーショナルなボーカルも、カラフルかつ雑多な空気感を演出しています。

 一聴するとわかりやすいロックな曲のように思えても、ちょっと奇妙な部分を持っている、実にインディーロックらしいアルバムです。

 アンサンブルも良いし、立体的で臨場感あふれるサウンド・プロダクションも良いです。日本ではいまいち地味な印象のバンドですが、積極的にオススメしたいバンドであり、作品。

 





Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String” / ビショップ・アレン『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』


Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String”

ビショップ・アレン 『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』
発売: 2007年7月24日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの2ndアルバムです。

 個人的に大好きなバンド、ビショップ・アレン。彼らの魅力は、楽曲もサウンドもポップで親しみやすいのに、アンサンブルは立体的でグルーヴ感も抜群なところ。

 本作も曲によってキュートだったり、ローファイ風だったり、カラフルなサウンドと共に躍動感あふれるバンド・サウンドを響かせています。

 2曲目「Rain」は、テンポも速めで、疾走感のある1曲。ドラムのドタバタ感が絶妙にローファイの香りを漂わせていて良い。各楽器のリズムの組み合わせで、加速感を出していて、本当に素晴らしいアンサンブル。エレキ・ギターは、音作りもフレーズもシンプルなのに、いちいち耳に残ってしまう。

 3曲目「Click, Click, Click, Click」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まり、徐々に音が増えていく展開。再生時間1:05あたりからフルバンドになり、いきいきと躍動を始めるところのコントラストも秀逸。

 このバンドは、本当にムダな音を使わず、鮮やかにコントラストや疾走感、躍動感を演出できるバンドだと思います。言い換えれば、引き算のできるバンド。再生時間1:51あたりから、もう一段シフトが上がるところも、カッコ良すぎて泣ける。

 6曲目「Like Castanets」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、音色的にはカントリーに近いのですが、パーカッションやトランペットが曲に色彩を足し、彼ら特有のポップスに仕上がっています。この曲もアンサンブルが素晴らしい。

 10曲目「Middle Management」は、歪んだエレキ・ギターとパワフルなドラムが、ハイテンポで駆け抜けていく、ガレージ風味のロックな1曲。とはいえ、このバンドが持つポップでカラフルな魅力は、全く損なわれていません。

 今作も本当に素晴らしいアルバムです。カントリーやガレージを感じさせる要素もありながら、決して特定のジャンルに染まることはなく、オリジナリティを保ったまま、カラフルなサウンドと、躍動感あふれるアンサンブルを響かせます。

 このアルバムを含めて、ビショップ・アレンの作品は全て高いクオリティを保っていると思います。個人的に、心からオススメしたいバンド。