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The Album Leaf “In A Safe Place” / アルバム・リーフ『イン・ア・セーフ・プレイス』


The Album Leaf “In A Safe Place”

アルバム・リーフ 『イン・ア・セーフ・プレイス』
発売: 2004年6月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jón Þór “Jónsi” Birgisson (ヨン=ソル “ヨンシー” ビルギッソン)

 元トリステザのジミー・ラヴェルによるソロ・プロジェクト、アルバム・リーフの3枚目のアルバムです。

 本作のプロデューサーは、アイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスのヨンシーが務め、レコーディングも彼らのスタジオで実施。シガー・ロスの他のメンバーも、レコーディングに参加しています。

 音響を前景化させるようなアプローチと、ポストロック的なアンサンブルが溶け合った1作だと思います。もう少し具体的に言うと、ひとつひとつこだわった音を使い、丁寧にアンサンブルを作り上げているということ。

 リズムよりも音響とハーモニーを重視した、美しい響きを持ったアルバムです。「ハーモニー」という言葉を使いましたが、和音という意味だけではなく、音の組み合わせのバランスが絶妙で、オーガニックな生楽器の音と、電子音が溶け合い、美しく暖かい音像を作っている、ということです。

 このあたりのバランス感覚は、シガー・ロスからの影響もあるのかもしれません。

 1曲目「Window」は、電子音が時間と空間に、にじみ出て浸透していくような音響的なアプローチの1曲。一般的なポップ・ミュージックと比較すればミニマルな曲ですが、徐々に音が増加し、ストリングスも導入されるなど展開が多く、いつの間にか音楽に没頭してしまいます。

 2曲目の「Thule」は、1曲目「Window」からシームレスにつながっています。ヴェールのように1曲目の持続音が鳴り続けるなか、ドラムが入ってきて、音楽が途端に立体的に響き始めます。

 3曲目「On Your Way」は、ボーカル入り。緩やかにグルーヴしながら進行していく心地よい1曲。ボーカルが入り、歌メロのある曲ですが、特別に歌が前景化される印象はなく、声がまわりの音の一部のように溶け合って響きます。

 7曲目の「Another Day (Revised)」は、ピアノと、テクノ的なビート、エレクトロニカ的な音響が溶け合う1曲。異なるサウンドがレイヤーのように折り重なり、立体的な音像を構成していきます。曲の最後に入っている声にも、なぜだかほっとする。

 8曲目「Streamside」は、アコースティック・ギターが優しく響き、生楽器の音が絡み合いアンサンブルを構成。電子的な要素は控えめに、オーガニックな響きを持った1曲です。

 アルバムによって、大きく音楽性が異なり、音楽的語彙の豊富さを感じさせるアルバム・リーフ。本作は、音響が前景化された面もありながら、生楽器と電子音が有機的に絡み合い、あたたかい音楽を作り上げるアルバム。

 前述したとおり、シガー・ロスのメンバーが全面協力した作品ですが、彼らとの相性も抜群に良いと思いました。

 生楽器はあたたかい、電子音は冷たい、という二元論ではなく、全ての音を公平に扱い、有機的なサウンドを生み出しています。電子音が優しく響く、美しい音像を持った作品です。

 





Bishop Allen “Grrr…” / ビショップ・アレン『Grrr…』


Bishop Allen “Grrr…”

ビショップ・アレン 『Grrr…』
発売: 2009年3月10日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの3rdアルバムです。

 日本での知名度はいまいちですが、僕はこのバンドがめちゃくちゃ好きなんです。彼らの魅力を一言であらわすと、楽曲とサウンド・プロダクションはポップでカラフル、アンサンブルは立体的で躍動感とグルーヴ感もある、本当に聴きどころばかりの素晴らしい音楽をクリエイトし続けています。(一言で終わらなかった…)

 本作『Grrr…』も、キュートでカラフルな極上のポップスでありながら、アレンジやサウンドには実験的な要素もあり、素晴らしいバランス感覚で作られたアルバムです。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がありますが、本作はまさにおもちゃ箱をひっくり返したように、煩雑かつカラフルで、子供のおもちゃ箱だと思っていたら、ガチなモデルガンとか鉄道模型も出てきた!みたいなアルバムです。

 1曲目「Dimmer」では、耳元で歌っているかのような音のボーカルに、次々と楽器が加わり、立体的でグルーヴ感あふれるアンサンブルが展開されます。再生時間1:20からの、バンド全体で前進していくような、各楽器が絡み合い、追い越し合うようなリズム・デザインもたまらない。再生時間1:58あたりからの展開も、コントラストを演出していて、楽曲の世界観を著しく広げています。

 2曲目「The Lion & The Teacup」は、イントロから徐々に楽器が増加し、それに比例してリズムが立体的になっていく展開が心地よい1曲。

 5曲目「Oklahoma」は、ギターポップのようなカラフルで甘い耳ざわりのサウンド。ですが、アンサンブルはちょっと複雑で、歌メロ以外の部分にも聴きごたえがあります。このあたりのバランス感覚とポップ・センスには脱帽。

 9曲目の「Shanghaied」は、本作のベスト・トラックです。わずか2分30秒の間に、多種多様な楽器が使われ、サウンドも色彩豊かなのですが、ムダな音がひとつも無い。フックだらけの音楽。

 イントロのドタバタした感じのドラムもいいし、アコギの音とリズムもいい。そのあとに入ってくる「ラーララー…」というコーラスも、その裏で鳴っているマレット系の打楽器の音も、有機的にアンサンブルを構成していて、音楽がいきいきと躍動しています。

 この曲は、エレキ・ギターの音も最高。アンプ直で音作りしたような、シンプルなサウンドですが、ところどころに入ってくるフレーズがアクセントになっていて、耳に残ります。再生時間1;50あたりでは「ジャーン」って弾いただけなのに、この上なくテンションが上がります。

 アルバムを通して聴いても、本当にポップで、奥が深く、長く付き合える素晴らしい1枚だと思います。心からオススメしたい作品です。

 ピッチフォークのレビューでは、10点満点で3.5という低評価。ですが、僕の評価だと、9.2ぐらいはつけたい名盤です!

 残念ながら、このアルバムは今のところデジタル配信されていないようです…。ビショップ・アレンの他のアルバムは配信されてるのに…。





Firewater “The Golden Hour” / ファイアーウォーター『ザ・ゴールデン・アワー』


Firewater “The Golden Hour”

ファイアーウォーター 『ザ・ゴールデン・アワー』
発売: 2008年5月6日
レーベル: Bloodshot (ブラッドショット)
プロデュース: Tamir Muskat (タミル・マスカット)

 1995年にニューヨークで結成されたバンド、ファイアーウォーターの5枚目のアルバムです。オルタナ・カントリーを得意とするレーベル、ブラッドショットからのリリース。

 オルタナ・カントリー系の名門レーベルからの発売ではありますが、いわゆるオルタナ・カントリーとは異質なサウンドを聴かせるバンドです。

 本作『The Golden Hour』も、ルーツ・ミュージックを感じさせる音楽ではありますが、アメリカのフォークやカントリーというより、よりワールドワイドな多種多様な民族音楽の香りがする1作。雑多な音楽が、るつぼの中で混じり合うようなサウンドが展開されるのですが、散漫な印象はなく、すべてポップ・ミュージックとして昇華されています。

 例えば、「ジャズ風の歌謡曲」というように、様々なルーツ・ミュージックが、コンパクトなポップスの形式に変換され、集められたアルバムです。

 前述したように、非常に多くの音楽が顔を出す1作で、曲によってラテン風であったり、スウィング・ジャズ風であったり、ロックンロール風であったり、どこかの民族音楽風であったり、あるいは1曲のなかに複数の音楽ジャンルが融合されていることも珍しくありません。

 このあたりのバランス感覚が秀逸。これには、プロデューサーを務めたのが、イスラエル出身のジャズ・ミュージシャン、タミル・マスカットであることも関係しているのかもしれません。

 1曲目の「Borneo」は、飛び跳ねるようなリズムに、儀式で歌われるような独特のコーラスワークが載る1曲。

 3曲目「Some Kind Of Kindness」は、リズムが小気味いい、開放的なラテン風味の1曲。

 5曲目の「A Place Not So Unkind」では、パーカッションが立体的に響き渡り、アンサンブルにも躍動感が溢れています。

 10曲目「Already Gone」は、カントリー風…というより、西部劇を連想させるような1曲です。

 全体を通して聴くと、ルーツ・ミュージックの音楽としての強度を感じる1作。多種多様な音楽を参照しながら、それらを消化したうえで、ファイアーウォーターのオリジナリティが加えられており、まとまりのあるアルバムに仕上がっています。また、ボーカルのパワフルかつ渋い声が、アルバムに一貫性を与えているとも思いました。

 オルタナ・カントリーとは一風変わった、オルタナ・ワールドミュージック、あるいはオルタナ民族音楽とでもいうべき作品だと思います。

 





Fugazi “The Argument” / フガジ『ジ・アーギュメント』


Fugazi “The Argument”

フガジ 『ジ・アーギュメント』
発売: 2001年10月16日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの6枚目のスタジオ・アルバムであり、現在のところ最後のアルバムです。

 フガジのアルバムからは、常にストイックな空気が漂います。サウンドとアレンジの両面において、無駄を極限まで削ぎ落とした、むき出しの音を発しているのがその理由と言えるでしょう。

 シングアロングできるメロコアが持つ爽快感や、スピード重視のハードコアが持つ疾走感とは、全く異質の魅力が本作『The Argument』、そしてフガジの音楽にはあります。(メロコアやハードコアが劣っている、という意味ではありません。念のため。)

 前述したとおり、とにかくストイック。切れ味鋭いむき出しの音が、こちらに迫ってくるアルバムです。圧倒的に音圧や音量が高いというわけではないのに、臨場感あふれる鬼気迫るサウンドが、充満したアルバムです。

 2曲目「Cashout」は、アンビエントなイントロから始まり、再生時間0:53から混じり気のない音色のドラムとギターが、響きわたります。前半は感情を抑えたように淡々と進み、再生時間2:55あたりからエモーションが爆発。3:13あたりから始まるサビでの、イアン・マッケイのボーカルは鳥肌ものです。

 3曲目「Full Disclosure」は、役割のはっきりした2本のギター、硬質なベース、臨場感あふれるドラム、感情むき出しのボーカル、その全ての音が生々しく、かっこいい1曲。

 8曲目の「Oh」は、ざらついた音色のギターとベースが、複雑に絡み合う1曲。

 9曲目「Ex-Spectator」は、イントロからドラムの立体的な音像がかっこいいです。ボーカルが入るまでのイントロが1分ぐらいありますが、いつまでも聴いていたいぐらいアンサンブルが良い。しかし、イアン・マッケイ先生のボーカルがこれまた良い!

 再生時間1:42あたりからの間奏も、立体的なアンサンブルが非常にかっこいいです。4分20秒ぐらいの曲ですので、まずは黙ってこの曲を聴いてください!と言いたくなるレベルの楽曲です。

 アルバムを通して聴いてみると、音を絞ることで緊張感を演出し、いざ音が鳴らされたときの迫力を増幅させていると感じました。

 また、フガジのアルバムの中でも、特に間を大切にしたアルバムであるとも思います。フガジのアルバムは、どれもクオリティ高く良盤揃い。この作品が、今のところラストなのが残念です。

 





Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?” / アイソトープ217『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』


Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?”

アイソトープ217 『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』
発売: 2000年8月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の3rdアルバム。

 これまでの2作で、ジャズとポストロックの融合を推し進めてきたアイソトープ217。本作『Who Stole The I Walkman?』でも、その方法論は基本的には変わっていません。

 彼らはジャズの要素をポストロック的な手法で、解体・再構築してきました。今作は、最もポストロック色の強い1作と言えます。

 ジャズのフレーズやリズムを、パーツとしてポスト・プロダクション的に組み立て直した1作目『The Unstable Molecule』。ジャズのグルーヴ感やダイナミズムと、音響的なアプローチが高度に融合した2作目『Utonian Automatic』。

 そして、3作目の本作は、もはやジャズとポストロックを、細切れに解体して再生された、全く新しい音楽を作りあげています。

 1曲目「Harm-O-Lodge」から、多種多様なサウンドとリズムが飛び交う、ジャンルレスで不思議な音楽が展開していきます。再生時間0:55あたりで、別の音源を切り貼りしたように、雰囲気が一変するところも新鮮。というより、実際にかなり大胆なポスト・プロダクションが施されているのだろうと思います。

 3曲目「Meta Bass」は、音の素材がそのまま漂うようなアンビエントな1曲。音響が前景化された曲であることは確かですが、徐々にビート感とグルーヴ感が生まれていきます。音響とアンサンブルが、不可分に融合したような感覚。

 7曲目「Moot Ang」は、ギターやトランペットのフレーズ、ドラムのリズムが、かみ合わないようでかみ合っていく展開。いわゆるポリリズムとは異なりますが、いくつものパーツから、有機的に新しい音楽が生まれていくような1曲。

 前述したとおり、アイソトープ217のアルバムの中で、最も斬新でジャンルレスな音楽が展開される1作です。前2作と比較すると、ある程度の難解さはあるかなぁ、とは思います。

 しかし、既存の音楽ジャンルを刷新する、ポストロックやポストジャズの一種として、とても刺激的な作品です。トータスが好きな方や、普段ポストロックを聴いている方には、違和感なく受け入れられる作品であると思います。