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Dirty Projectors “Rise Above” / ダーティー・プロジェクターズ『ライズ・アバヴ』


Dirty Projectors “Rise Above”

ダーティー・プロジェクターズ 『ライズ・アバヴ』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Chris Taylor (クリス・テイラー)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するバンド、ダーティー・プロジェクターズの5枚目のアルバムです。

 本作は、ハードコア・パンクのレジェンド、ブラック・フラッグ(Black Flag)のアルバム『Damaged』を、バンドのリーダーであるデイヴィッド・ロングストレス(David Longstreth)が再解釈する、というコンセプト・アルバム。

 デイヴィッドは15年間『Damaged』を聴いておらず、記憶だけを頼りに解釈を試みています。本作のタイトル『Rise Above』は、ブラック・フラッグ『Damaged』の1曲目のトラック・タイトルです。

 そんな情報を抜きにして音楽のみを評価しても、カラフルかつエキセントリック、実験性とポップセンスが高度に融合したアルバムになっています。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、このアルバムはまさにそれ。次々と楽しく奇妙な音が飛び出してきます。

 1曲目「What I See」から、早速おもちゃのようなチープでかわいらしいサウンド。バンド全体の音が、トイピアノのような質感をもっています。再生時間1:35からのジャンクでノイジーな展開も最高。

 2曲目の「No More」は、ゆったりしたドラムのイントロから、隙間の多いアンサンブルのなかをボーカルが漂う1曲。ボーカルはローファイな響きもありながらエモーショナル。

 4曲目の「Six Pack」は、イントロのヴァイオリンが印象的。加速と減速を繰り返し、展開がめまぐるしい1曲。しかし難解な印象はなく、ポップでかわいい曲です。こういうセンスが抜群。

 サイケデリックと呼ぶには親しみやすい、ローファイやジャンクと呼ぶにはカラフル過ぎる、極上のポップアルバム。サウンド的には、クリーントーンのギターが多用され、ギターポップに近い耳ざわりですが、アレンジはより実験的。

 前述したとおり、ブラック・フラッグのアルバムの再現ということになっていますが、原曲と比較してどうこうというより、このアルバム単体で楽しめる作品です。

 ブラック・フラッグがきっかけや動機付けとして機能したのは事実なんでしょうが、とにかくこのバンドのポップ・センスが浮き彫りになる1枚。デイヴィッド・ロングストレスは、本当に天才!

 こちらの作品は、現在のところデジタル配信はされていないようです…。





Zombi “Surface To Air” / ゾンビ『サーフェス・トゥ・エア』


Zombi “Surface To Air”

ゾンビ 『サーフェス・トゥ・エア』
発売: 2006年5月2日
レーベル: Relapse (リラプス)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のロック・デュオ、ゾンビの2ndアルバムです。ベースとシンセサイザー担当のスティーヴ・ムーア(Steve Moore)と、ドラムとシンセサイザー担当のA.E.パテラ(A.E. Paterra)からなる2人組。

 このグループが奏でる音楽は、ジャンルとしてはスペース・ロックやシンセウェーブにカテゴライズされることが多いのですが、なぜだかメタル系のレーベルであるリラプスと契約しています。

 本作『Surface To Air』で展開されるのは、うねるようなシンセの音と、タイトなリズム隊が絡む、複雑怪奇なアンサンブル。

 シンセサイザーらしい柔らかな音色が使用されていますが、もしかしたらアナログ・シンセが使用されているのかもしれません。音に独特の暖かみと太さがあります。

 3曲目の「Legacy」を例にとると、同じフレーズを繰り返すシンセを、正確なリズム隊が支え、徐々にアンサンブルが複雑さを増していく展開。

 シンセサイザーの音色にはエレクトロニカ、タイトで複雑なドラムにはポストロック、全体の幾何学的なリズム・デザインにはマスロック…を感じなくもないですが、そういったジャンル分けが無力化されてしまうほど、個性的で意味不明(ほめ言葉です)な音楽が繰り広げられます。

 一部のポストロックやマスロック・バンドが目指す、過激で複雑なアンサンブルを、シンセサイザーの音色を用いて鳴り響かせた。一言で説明するならば、そんな作品だと思います。

 他に似たような音を出しているバンドがいませんし(大量にいても困るけど笑)、個人的にはけっこうお気に入りのグループであり、アルバムです。

 こういうグループと契約するリラプスの柔軟性にも、ちょっと感心しました。

 





Mission Of Burma “ONoffON” / ミッション・オブ・バーマ『オン・オフ・オン』


Mission Of Burma “ONoffON”

ミッション・オブ・バーマ 『オン・オフ・オン』
発売: 2004年5月4日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 マサチューセッツ州ボストン出身のバンド、ミッション・オブ・バーマの2ndアルバム。ミックスとレコーディング・エンジニアを務めたのは、シェラック(Shellac)やヴォルケーノ・サンズ(Volcano Suns)の活動でも知られるボブ・ウェストン。

 1979年に結成され、1982年に1stアルバム『Vs.』をリリース。しかし、翌年にギター担当のロジャー・ミラー(Roger Miller)の耳鳴り悪化のため、解散してしまったミッション・オブ・バーマ。彼らが再結成し、22年ぶりにリリースされたアルバムが、本作『ONoffON』です。

 1枚のアルバムのみを残し、なかば伝説化していたミッション・オブ・バーマ。22年ぶりのリリースとなる本作ですが、攻撃性と知性の同居するアンサンブルとサウンドを持った、良盤です。

 激しく歪んだギターや、初期衝動を吐き出すようなボーカルには、アングラ感も漂うものの、フレーズやアレンジの端々には知性と緻密さも感じさせます。

 すべての楽器の音が、テンション高く荒削りかつ、独特の濃密な耳ざわりを持った作品なのですが、特にギターは激しく歪んだサウンドでコードをかきならし、時間と空間を埋めていきます。

 前述したようにギタリストの耳鳴りの悪化が解散の原因となったわけですが、このテンションとサウンドを実現させるには、相当な音量でライブやレコーディングに臨んでいたことが、想像できます。

 幸運なことに音源で聴く場合には、自分の好きな音量で再生できますが、小さい音で再生したとしても、彼らのテンションは感じることができるでしょう。

 このアルバムも良い作品だと思いますが、個人的には3作目の『The Obliterati』の方が好きです。『The Obliterati』の方が、より厚みのあるサウンド・プロダクションを実現しています。





Mission Of Burma “The Obliterati” / ミッション・オブ・バーマ『ジ・オブリテラティ』


Mission Of Burma “The Obliterati”

ミッション・オブ・バーマ 『ジ・オブリテラティ』
発売: 2006年5月23日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 マサチューセッツ州ボストン出身のバンド、ミッション・オブ・バーマの3rdアルバムです。

 1979年に結成され、1982年に1stアルバム『Vs.』をリリースするものの、翌年にギタリストのロジャー・ミラー(Roger Miller)の耳鳴り悪化のため、解散するミッション・オブ・バーマ。彼らが2002年に再結成後、『ONoffON』のリリースに続き、2枚目のリリースとなるのが本作『The Obliterati』です。

 音圧が圧倒的に高いというわけではないのに、とにかく音が濃密で、迫力ある音像を持ったアルバムです。空気を揺るがすように響くドラム、ファットでコシのある音色のベース、曲によって変幻自在のディストーション。サウンドを聴かせるギター。各楽器の音が、どれも生々しく、臨場感を持って響きます。

 いわゆるドンシャリなサウンドではなく、全音域にわたって音が埋め尽くされているような、分厚いサウンドをバンド全体で作り上げていきます。演奏もスピード重視の直線的なものではなく、随所に知性を感じるアンサンブル。

 1曲目の「2Wice」。イントロのドラムの音がパワフルかつ立体的で、スタジオの空気の揺れまで伝わってくるかのよう。アルバムの幕開けにぴったりの1曲です。その後に入ってくるギターとベースの音にも、分厚い量感があり、バンドの音が時間と空間を埋め尽くします。

 3曲目の「Donna Sumeria」は、各楽器が分離して絡み合うイントロから、やがてひとつの塊のようなサウンドを形成。バンドのリズムと、ボーカルのメロディーが連動するような構造も、楽曲の躍動感を増幅しています。

 9曲目の「Careening With Conviction」は、ラフさとタイトさのバランスが抜群のリズム隊に、ギターが絡みつく1曲。最初はそれぞれ分離して認識できたいた各楽器のサウンドが、いつのまにか混じり合い、ひとつの塊のように感じられる展開も、かれらの音楽の特徴だと思います。

 とにかく音がかっこいいアルバムです。前述したとおり、僕は1曲目「2Wice」のドラムの音でノックアウトされます。

 ギターの音作りも、基本的には歪んでいるのですが、実に多彩なサウンド・カラーを使い分けています。アンサンブルも、ロックのダイナミズムと知性が共存した、非常にクオリティの高いものだと思います。

 日本での知名度はいまいちですが、もっと評価されていいバンドであり、アルバム。

 





Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise” / スフィアン・スティーヴンス『イリノイ』


Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise”

スフィアン・スティーヴンス 『イリノイ』
発売: 2005年7月4日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの5枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Illinois』とのみ表記されることもあります。

 アメリカ全50州それぞれのコンセプト・アルバム制作をうたった、スフィアン・スティーヴンスの「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)。前作『Greetings From Michigan The Great Lake State』(ミシガン)に続く、プロジェクト2作目が本作『Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise』(イリノイ)です。

 しかし、50枚のアルバムを完成させることなく、プロジェクトは今作で終了。スフィアンは、このプロジェクトはジョークだったと認めています。

 ミシガンをテーマにした前作は、多種多様な楽器とジャンルを組み合わせた、スフィアン・スティーヴンスのポップセンスが光るアルバムでした。本作も、彼のポップセンスがいかんなく発揮された1作であることは間違いないです。

 前作と比較すると、より楽器の音色がカラフルに、実験性の増したアルバムと言えます。ミニマル・ミュージックや実験音楽を感じさせる要素や、前作以上にオルタナティヴなアプローチが目立つアルバムですが、できあがった音楽はどこまでもポップです。

 1曲目「Concerning The UFO Sighting Near Highland, Illinois」は、流れるような躍動感のあるピアノを、オーボエとフルートと思われる笛の音が追いかける1曲。

 2曲目「The Black Hawk War, Or, How To Demolish An Entire Civilization And Still Feel Good About Yourself In The Morning, Or, We Apologize For The Inconvenience But You’re Going To Have To Leave Now, Or, “I Have Fought The Big Knives And Will Continue To Fight Them Until They Are Off Our Lands!”」は、イントロから様々な楽器と人の声が、不思議なハーモニーを作り上げます。

 随所に違和感のあるアレンジなのに、完成された音楽は、ポップでカラフルに響きます。スフィアンのこのあたりのポップ感覚は本当に見事。あと、タイトルがとにかく長いですね…。

 3曲目は「Come On! Feel The Illinoise!」。この曲は1トラック扱いですが、クレジットでは「Part I: The World’s Columbian Exposition」と「Part II: Carl Sandburg Visits Me In A Dream」、ふたつのパートのタイトルも記載されています。

 イントロから、ピアノなのかオルガンなのか、ふくよかな音色の鍵盤が響きます。多くの楽器が参加し、有機的でノリのいいアンサンブルを展開していきますが、様々なジャンルの香りがするのに、ひとつのジャンルに特定するのは難しい、不思議な魅力にあふれたポップ・ソングです。

 クラシックの香りもするし、ジャズのようなスウィングもあり、ロック的なダイナミズムも感じる。そして、できあがっている音楽は、心地よい極上のポップス。そんな1曲だと思います。

 9曲目の「Chicago」は、ヴィブラフォンの柔らかなサウンド、壮大なストリングス、躍動感あふれるバンドのアンサンブルが融合する、生命力を感じるいきいきとした1曲。曲名は、CDでは前述のとおり「Chicago」、アナログ盤では「Go! Chicago! Go! Yeah!」という表記になっています。

 22曲、74分収録のボリュームたっぷりのアルバムですが、無駄に長いわけではなく、多種多様なジャンルを消化し、スフィアン自身のポップ・ミュージックを作り上げた、すばらしい作品です。

 雑多なサウンドやジャンルを、極上のポップ・ミュージックに仕上げるセンス。しかも、聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、彼独自のオリジナリティを持った曲に仕上げるセンスには、脱帽です。