「2006年」タグアーカイブ

Zombi “Surface To Air” / ゾンビ『サーフェス・トゥ・エア』


Zombi “Surface To Air”

ゾンビ 『サーフェス・トゥ・エア』
発売: 2006年5月2日
レーベル: Relapse (リラプス)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のロック・デュオ、ゾンビの2ndアルバムです。ベースとシンセサイザー担当のスティーヴ・ムーア(Steve Moore)と、ドラムとシンセサイザー担当のA.E.パテラ(A.E. Paterra)からなる2人組。

 このグループが奏でる音楽は、ジャンルとしてはスペース・ロックやシンセウェーブにカテゴライズされることが多いのですが、なぜだかメタル系のレーベルであるリラプスと契約しています。

 本作『Surface To Air』で展開されるのは、うねるようなシンセの音と、タイトなリズム隊が絡む、複雑怪奇なアンサンブル。

 シンセサイザーらしい柔らかな音色が使用されていますが、もしかしたらアナログ・シンセが使用されているのかもしれません。音に独特の暖かみと太さがあります。

 3曲目の「Legacy」を例にとると、同じフレーズを繰り返すシンセを、正確なリズム隊が支え、徐々にアンサンブルが複雑さを増していく展開。

 シンセサイザーの音色にはエレクトロニカ、タイトで複雑なドラムにはポストロック、全体の幾何学的なリズム・デザインにはマスロック…を感じなくもないですが、そういったジャンル分けが無力化されてしまうほど、個性的で意味不明(ほめ言葉です)な音楽が繰り広げられます。

 一部のポストロックやマスロック・バンドが目指す、過激で複雑なアンサンブルを、シンセサイザーの音色を用いて鳴り響かせた。一言で説明するならば、そんな作品だと思います。

 他に似たような音を出しているバンドがいませんし(大量にいても困るけど笑)、個人的にはけっこうお気に入りのグループであり、アルバムです。

 こういうグループと契約するリラプスの柔軟性にも、ちょっと感心しました。

 





Mission Of Burma “The Obliterati” / ミッション・オブ・バーマ『ジ・オブリテラティ』


Mission Of Burma “The Obliterati”

ミッション・オブ・バーマ 『ジ・オブリテラティ』
発売: 2006年5月23日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 マサチューセッツ州ボストン出身のバンド、ミッション・オブ・バーマの3rdアルバムです。

 1979年に結成され、1982年に1stアルバム『Vs.』をリリースするものの、翌年にギタリストのロジャー・ミラー(Roger Miller)の耳鳴り悪化のため、解散するミッション・オブ・バーマ。彼らが2002年に再結成後、『ONoffON』のリリースに続き、2枚目のリリースとなるのが本作『The Obliterati』です。

 音圧が圧倒的に高いというわけではないのに、とにかく音が濃密で、迫力ある音像を持ったアルバムです。空気を揺るがすように響くドラム、ファットでコシのある音色のベース、曲によって変幻自在のディストーション。サウンドを聴かせるギター。各楽器の音が、どれも生々しく、臨場感を持って響きます。

 いわゆるドンシャリなサウンドではなく、全音域にわたって音が埋め尽くされているような、分厚いサウンドをバンド全体で作り上げていきます。演奏もスピード重視の直線的なものではなく、随所に知性を感じるアンサンブル。

 1曲目の「2Wice」。イントロのドラムの音がパワフルかつ立体的で、スタジオの空気の揺れまで伝わってくるかのよう。アルバムの幕開けにぴったりの1曲です。その後に入ってくるギターとベースの音にも、分厚い量感があり、バンドの音が時間と空間を埋め尽くします。

 3曲目の「Donna Sumeria」は、各楽器が分離して絡み合うイントロから、やがてひとつの塊のようなサウンドを形成。バンドのリズムと、ボーカルのメロディーが連動するような構造も、楽曲の躍動感を増幅しています。

 9曲目の「Careening With Conviction」は、ラフさとタイトさのバランスが抜群のリズム隊に、ギターが絡みつく1曲。最初はそれぞれ分離して認識できたいた各楽器のサウンドが、いつのまにか混じり合い、ひとつの塊のように感じられる展開も、かれらの音楽の特徴だと思います。

 とにかく音がかっこいいアルバムです。前述したとおり、僕は1曲目「2Wice」のドラムの音でノックアウトされます。

 ギターの音作りも、基本的には歪んでいるのですが、実に多彩なサウンド・カラーを使い分けています。アンサンブルも、ロックのダイナミズムと知性が共存した、非常にクオリティの高いものだと思います。

 日本での知名度はいまいちですが、もっと評価されていいバンドであり、アルバム。

 





Joanna Newsom “Ys” / ジョアンナ・ニューサム『イース』


Joanna Newsom “Ys”

ジョアンナ・ニューサム 『イース』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Van Dyke Parks (ヴァン・ダイク・パークス)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムの2ndアルバム。タイトルは「ワイエス」ではなく、「イース」と読みます。

 プロデュースとオーケストラのアレンジをヴァン・ダイク・パークス、ミックスをジム・オルーク、レコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当する、この手のインディー好きにはたまらない豪華な布陣。

 本作には、30人を超えるオーケストラが参加しており、非常に立体的かつ厚いサウンドを響かせています。このうち20人以上はバイオリン等のストリングス隊です。

 オーケストラ以外の楽器も、ジョアンナ・ニューサム自身が奏でるハープを筆頭に、バンジョーやアコーディオンなどアコースティック楽器がほとんど。また、マリンバとパーカッションは入っていますが、ドラムセットは使用されていません。

 これは凄いアルバムです。ロックやポップスでストリングスを導入すると、基本的には楽譜に記されたとおりのリズムで旋律を演奏し、いわゆるクラシックのような雰囲気がプラスされます。

 しかし、本作ではヴァイオリンやヴィオラが、完全なフリーフォームで弾いているのかと思わせるぐらい、圧倒的なグルーヴ感と躍動感を響かせます。しかも、前述したとおりストリングス隊は20人を超える人数。その多数のストリングスが有機的に絡み合い、いきいきと生命力あふれるアンサンブルを繰り広げます。

 さらに、ジョアンナ・ニューサムの独特のクセのある、チャイルディッシュな声も唯一無二。童話の世界か、壮大な神話の世界に迷い込んだのかと思うぐらい、メルヘンチックで幻想的な音楽が展開される作品です。

 1曲目の「Emily」から、12分を超える大曲です。ジョアンナのハープの弾き語りから始まり、徐々に楽器が増加。再生時間2分を過ぎる頃には、立体的かつ躍動感あふれる音楽が構成されます。再生時間2:33あたりからの短い間奏の、流れるように盛り上がっていくバイオリンも凄い。

 前述したとおり、このアルバムではドラムが使われていません。しかし、まるでバンド全体が一体の生き物であるかのごとく、呼吸をし鼓動を打つように音楽全体が躍動するため、ビートが足りないという感覚は全くありません。生楽器のオーガニックな音色を用いて、スケールの大きなアンサンブルが展開される1曲です。

 2曲目の「Monkey & Bear」は、1曲目「Emily」とは雰囲気が変わって、童話の世界に迷い込んだかのような、かわいらしい1曲。しかし、かわいいだけではなく、異世界の得体の知れなさも内包した雰囲気があります。

 圧倒的なボリュームでストリングスが迫り来る「Emily」とは違い、ハープが中心に据えられ、それを取り囲むようにトランペットやバイオリンが彩りをプラスします。

 3曲目の「Sawdust & Diamonds」は、ハープの弾き語り。自ずとジョアンナの声とメロディーが前景化されます。9分を超える曲ですが、まるで口から自然と音楽が流れ出るかのように、ハープと声のみで疾走感とダイナミズムを生み出す展開は圧巻。

 4曲目「Only Skin」。イントロから、泉から音楽が湧き出てくるかのように、オーガニックでみずみずしいサウンドが流れ出します。ストリングスとハープが立体的に絡み合うアンサンブルは、高度なコミュニケーションを楽しんでいるかのよう。再生時間7:35あたりからの、巧みに緩急をつけながら前進していく展開にもワクワクします。

 5曲目の「Cosmia」は、独特のハリのある優しいサウンドのハープと、緊張感を演出するようなストリングスが対比的な1曲。ジョアンナのボーカルも、起伏が大きくエモーショナル。このアルバムの中では最も短い曲(それでも7分15秒)ですが、展開が多く、物語を見ているかのような感覚になります。

 5曲収録で、およそ55分。長い曲が多いですが、冗長な印象はなく、この世界観を表現するなら、これぐらいの時間は必要だよね、と思う曲ばかり揃っています。

 前述したとおり、大量のストリングス隊が参加していますが、クラシカルな雰囲気とは異質な、オーガニックで生命力あふれる、全く新しいオーケストラのサウンドが展開されていると思います。

 本当に素晴らしい作品ですし、あまり似ている音楽が無い、という意味でもオススメしたい1枚です。

 





Loose Fur “Born Again In The USA” / ルース・ファー『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』


Loose Fur “Born Again In The USA”

ルース・ファー 『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』
発売: 2006年3月21日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 ジム・オルークとグレン・コッチェ、ウィルコのジェフ・トゥイーディによるバンドの2ndアルバムであり、最後のアルバム。グレン・コッチェは、後にウィルコに加入することになります。

 『Born Again In The USA』という示唆的なタイトルを持った本作。その名のとおり、古き良きロックンロールや、フォークやカントリー等のルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないアレンジとアンサンブルが展開されるアルバムです。ジム・オルークとウィルコが融合した作品だと思えば、納得できる音楽性。

 1曲目の「Hey Chicken」は、イントロからディストーション・ギターが鳴り響き、シンプルなロックンロールが炸裂する1曲です。しかし、縦のぴったり揃ったアンサンブルや、フックとなる効果的な楽器の重ね方など、ウィルコっぽさを感じさせる部分もあり。

 2曲目「The Ruling Class」は、緩やかにグルーヴしていくカントリー風味の1曲。口笛の音色も牧歌的な空気を色濃くしています。

 4曲目「Apostolic」は、ポストロックやマスロックを思わせる、リズムが周期的に切り替わる、緻密なアンサンブルが特徴の1曲。インストでもおかしくない雰囲気ですが、歌が入ってきて、ポップ・ミュージックの枠組みも備えています。再生時間0:56あたりからのメロディアスなベースと、流れるようなアコースティック・ギターなど、聴きどころとなるフックが、続々と放たれます。

 5曲目「Stupid As The Sun」は、シンプルな縦ノリのリズムと、意外性のあるコード進行が融合した1曲。イントロからの第一印象はシンプルなロック色の強い曲ですが、違和感が耳に引っかかり、クセになっていく曲です。

 8曲目「Thou Shalt Wilt」は、キーボードとベースが前に出た、立体的な音像を持った1曲。

 前述したとおり、一聴するとシンプルなロックンロールに聞こえるような曲にも、いたるところに音楽的なフックが配置されていて、聴けば聴くほどに魅力が増していく作品です。

 僕はジム・オルークもウィルコも大好きなのですが、期待を裏切らない1作。両者のどちらかが好きな方は、聴いておいて損はない作品だと思います。そうではない方にも、十分オススメできる1作!

 





Don Caballero “World Class Listening Problem” / ドン・キャバレロ『ワールド・クラス・リスニング・プロブレム』


Don Caballero “World Class Listening Problem”

ドン・キャバレロ 『ワールド・クラス・リスニング・プロブレム』
発売: 2006年5月16日
レーベル: Relapse (リラプス)
プロデュース: Al Sutton (アル・サットン)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロの通算5枚目のスタジオ・アルバムです。前作『American Don』を最後に一時的に解散していたドン・キャバレロが、ドラマーのデイモン・チェ(Damon Che)を中心にメンバーを替えて再結成し、リリースされたのが本作『World Class Listening Problem』。

 以前、所属していたタッチ・アンド・ゴーから、メタル系を得意とするリラプスへ移籍してのリリース。また、プロデュースは、2ndアルバム『Don Caballero 2』と3rdアルバム『What Burns Never Returns』以来となる、アル・サットンが担当。

 レーベルも移籍し、ドン・キャバレロの再編1作目。このような再編後は、音楽性が著しく変わっていたり、クオリティが明らかに落ちていたり、ということも珍しくないですが、今作『World Class Listening Problem』はすばらしい作品だと思います。

 1stアルバム『For Respect』を思い出すような、激しく歪んだ轟音ギターが鳴り響き、ドラムもアグレッシヴにリズムを刻んでいく作品に仕上がっています。轟音で圧倒するだけでなく、以前のドン・キャバレロが持っていた緻密なアンサンブルも健在。ドラムのデイモン・チェ以外のメンバーは交替しているものの、解散前のドン・キャバレロらしさも感じられる演奏が展開します。

 しかし、以前とは変わったところがあるのも事実。メタル系の音楽を得意とするリラプスに移籍したことも示唆的ですが、ギターを中心に全体的なサウンドは、メタル色が濃くなっています。ただ、それが欠点になっているかというとそうではなく、ハードなサウンドと、タイトなアンサンブルが溶け合う、以前よりダイナミズムの大きい作品です。

 1曲目は「World Class Listening Problem」。イントロから、緊張感を演出するようなギターのフレーズに続いて、バンドがフルスロットルで感情を爆発させるような演奏を繰り広げます。前のめりにつっこんでくるようなドラムのリズムと、硬質なギターのサウンドの相性も抜群。

 2曲目の「Sure We Had Knives Around」は、回転するようなドラムのイントロから、ギターがミニマルなフレーズを繰り返し、メタルとサイケデリック・ロックが融合したような1曲。

 6曲目「World Class Listening Problem」は、各楽器が有機的に絡み合ってアンサンブルを構成し、解散前のドン・キャバレロを思わせる1曲です。

 前述したとおり、メンバーの変更もあり、音楽性にも変化の見られる今作ですが、個人的には解散前のドン・キャバレロと同じぐらい、後期ドン・キャバレロも好きです。

 以前から、デイモン・チェのドラムは音もプレイも最高だな、と思っていましたが、あらためて彼が優れたミュージシャンだと認識させられた1枚。一般的には、イアン・ウィリアムスの在籍していた、前期ドン・キャバレロの方が評価は高いですが、後期ドン・キャバレロもおすすめです!