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Woods “At Echo Lake” / ウッズ『アット・エコー・レイク』


Woods “At Echo Lake”

ウッズ 『アット・エコー・レイク』
発売: 2010年5月4日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの5thアルバム。

 前作『Songs Of Shame』は、ジェレミー・アール(Jeremy Earl)と、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)による2人編成によるレコーディング。

 2009年からツアーのサポートとして、ベースのケヴィン・モービー(Kevin Morby)が加入していますが、本作のクレジットには記載されていないので、レコーディングには参加していないようです。(確認できなかったので、謝っていたら申し訳ございません。)

 また、一部の曲では、マット・ヴァレンタイン(Matt Valentine)が、ハーモニカとボーカル(クレジットでは「Voice」と表記)でサポート参加。

 元々2ピース・バンドとしてスタートしたウッズ。2013年からはメンバーが少しずつ増え、2018年6月現在は5人編成となっていますが、2010年リリースの本作のレコーディングでは、前述のとおり2人プラス1人のサポート・メンバーという編成。

 これまでのアルバムでは、ローファイ風味のチープなサウンドに乗せて、ゆるやかにサイケデリックな音楽を響かせてきたウッズ。5枚目のスタジオ・アルバムとなる本作『At Echo Lake』でも、その路線を踏襲し、カラフルでサイケデリックな緩いフォークが、ローファイなサウンドで繰り広げられます。

 とにかく音を悪くしとけばいいんだろ、といった感のある手段と目的が逆になったジャンルとしてのローファイは、個人的にあまり好きにはなれないのですが、ウッズの音楽は、チープな音質で録音すること、隙のある演奏をすることによって、サイケデリックな空気を演出していることが分かります。

 1曲目「Blood Dries Darker」では、飾り気のないシンプルな音を持った各楽器が絡み合い、ゆるやかなグルーヴを生んでいきます。輪郭のくっきりとしたサウンドで録音してしまうと、ただしょぼいだけの音楽になってしまいますが、やや奥まった音質のボーカル、弦が緩んだように揺れるチープなギターの音、手数を絞ったアタックの弱いドラムが重なり、サイケデリックな空気を演出しています。

 2曲目「Pick Up」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、エフェクト処理されたドラム、淡々とコード・ストロークを続けるギター、高音域を使ったボーカルが絡み合い、牧歌的かつサイケデリックな空気を持った1曲。

 5曲目「From The Horn」は、複数のギターがフィーチャーされ、フォーク色の薄いサウンド・プロダクションを持った1曲。アンサンブルのしっかりした、躍動感のある曲ですが、単音弾きのギターが絡み合うパートでは、サイケデリックな空気が充満し、このバンドらしさも多分に持っています。

 6曲目「Death Rattles」は、一定のリズムをぶっきらぼうに刻むスネアと、歌声を駆使したコーラスワーク、ややざらついた音色のエレキ・ギターが、チープですが幻想的な空気を作り出す1曲。

 11曲目「Til The Sun Rips」は、どこか不安定で酩酊的なコーラスワークと、チャラチャラと鈴のような音を出すパーカッションが、サイケデリックな空気を演出する1曲。

 アルバム全体を通して、アコースティック・ギターがアンサンブルの中心に据えられ、フォーキーなサウンドが多分に含まれていますが、前述したとおりローファイな音色を狙ったレコーディングによって、音楽性は厚みを増しています。

 「シンプルでミニマルなフォーク・デュオ」のような音楽にとどまらず、サイケデリックでアヴァンギャルドな空気も持ち合わせているのは、間違いなくこのローファイな音作りのおかげです。

 





William Tyler “Behold The Spirit” / ウィリアム・タイラー『ビホールド・ザ・スピリット』


William Tyler “Behold The Spirit”

ウィリアム・タイラー 『ビホールド・ザ・スピリット』
発売: 2010年12月7日
レーベル: Tompkins Square (トンプキンス・スクエア)
プロデュース: Adam Bednarik (アダム・ベッドナリク)

 テネシー州ナッシュヴィル出身、ラムチョップ(Lambchop)やシルバー・ジューズ(Silver Jews)のメンバーとしても知られるギタリスト、ウィリアム・タイラーが自身の名義でリリースした1stアルバム。

 ナッシュビルといえば「ミュージック・シティ」というニックネームを戴くほど、音楽の盛んな街。特に、カントリーが有名で、カントリー・ミュージック殿堂博物館(Country Music Hall of Fame and Museum)を筆頭に、多くのカントリー関連施設があります。また、世界的なギター・メーカー、ギブソンが本社を置くのも、ここナッシュヴィル。(2018年5月に、残念ながら経営破綻し、再建に向かっているところですが…)

 そんな音楽が溢れる街、ナッシュヴィルで生まれ育ったウィリアム・タイラー。父ダン・テイラー(Dan Tyler)もソングライターで、幼少期から音楽に囲まれて育ったようです。

 1998年、19歳の時に、ナッシュヴィル出身のオルタナ・カントリー・バンド、ラムチョップに参加。その後、ニューヨーク出身のインディー・ロック・バンド、シルバー・ジューズにも加わり、ザ・ペーパー・ハッツ(The Paper Hats)名義で、ソロ活動もスタートさせます。

 そして、2010年に本名のウィリアム・タイラー名義でリリースされた最初のアルバムが、本作『Behold The Spirit』。カントリーやフィンガースタイル・ギターの作品を扱うレーベル、トンプキンス・スクエアからのリリースです。

 歌は無く、全編ウィリアム・タイラーの流れるようなギター・プレイが展開される本作。ブルーグラスを彷彿とさせる、スピーディーで、時にアクリバティックな演奏が、アコースティック・ギターを中心とした、オーガニックなサウンドで繰り広げられます。

 1曲目「Terrace Of The Leper King」では、ギターを中心にしながら、ホーンやヴァイオリンなどの楽器が、随所で顔を出すアンサンブルが展開。生楽器の音が心地よい、穏やかなサウンド・プロダクションですが、演奏には疾走感が溢れます。

 2曲目「Missionary Ridge」は、フィールド・レコーディングと思われる野外の音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う1曲。

 5曲目「The Cult Of The Peacock Angel」は、みずみずしく、はじけるようなギターの音と、ストリングスや電子音が絡み合い、有機的なアンサンブルを作り上げていく1曲。シンセサイザーによるものと思われる電子的なサウンドが効果的に用いられ、単なるルーツ・ミュージックの焼き直しにはとどまらない、現代的なサウンドに仕上がっています。

 9曲目「Ponotoc」は、ギターが穏やかに音を紡いでいく、牧歌的な雰囲気の曲。この曲に限らずですが、ギター1本で、ここまで情報量を込められるかな、というぐらい躍動感のある演奏が展開されていきます。

 アルバム全編を通して、ウィリアム・タイラーのギターのテクニックを堪能できる1作。というより、曲によってはゲスト・ミュージシャンによるベースやドラムなど他の楽器も加わっていますが、ギターのみでも成立するぐらいに、ギターを中心に据えた作品です。

 ルーツ音楽への深いリスペクトを持ちながら、電子音やフィールド・レコーディングを用いることで、モダンな空気も併せ持ったアルバムになっています。緩やかな躍動感と疾走感にも溢れ、アメリカの懐の深さを感じられる1作と言えるんじゃないでしょうか。

 カントリー・ミュージックの都、ナッシュヴィルらしい音楽とも言えるアルバムだと思います。

 





Tears Run Rings “Distance” / ティアーズ・ラン・リングス『ディスタンス』


Tears Run Rings “Distance”

ティアーズ・ラン・リングス 『ディスタンス』
発売: 2010年6月2日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2006年に結成されたシューゲイザー・バンド、ティアーズ・ラン・リングスの2ndアルバム。前作に引き続き、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリース。

 マシュー・バイス(Matthew Bice)と、ローラ・ワトリング(Laura Watling)による男女混声ボーカルを擁し、エフェクターを多用したサウンド・メイキングで、アンサンブルを作り上げる手法は、正しくシューゲイザー的と言えるバンド。

 前作『Always, Sometimes, Seldom, Never』では、エフェクターを多用しつつも、使用過多にはならず、各楽器が分離して聞き取れるバランスが保たれていましたが、2作目となる本作では、エフェクトがより深くかかっています。

 そのため前作と比較すると、より音響が前景化され、各楽器の音がシームレスで、塊感のあるサウンド・プロダクションとなっています。

 また、前作は「Happiness Part One」から始まり、「Happiness Part Two」で終わるという流れでしたが、今作も「Happiness 3」から始まり、「Happiness 4」で締めくくられ、前作の流れを踏襲。アルバムという作品に対しての、こだわりが感じられるところです。

 アルバムの幕開けとなる1曲目の「Happiness 3」は、鼓動のような暖かみのあるビートと、幻想的なボーカル、空間系エフェクターの効いたギターが溶け合う、音響を前景化したアプローチの1曲。

 2曲目の「Forgotten」は、トレモロをはじめとした空間系エフェクターを用いた複数のギターが絡み合い、複雑に入り組んだ立体的なサウンドが構築される1曲。輪郭のはっきりしたサウンドの多かった、前作との違いを感じる曲です。

 3曲目「Inertia」は、空間が歪むようなギター・サウンドと、耽美な男女混声コーラスワークが溶け合う、シューゲイザーのお手本のような1曲。マイブラを強く感じさせる音像を持っています。

 4曲目「Reunion」は、リズム隊によるはっきりしたビートと、エフェクトのかかった浮き上がるようなギター・サウンドが、躍動感あるアンサンブルを展開していきます。

 5曲目「Distance」は、ギターとベースの音が、ゆっくりと空間に広がっていくような、アンビエントな空気を持った1曲。

 10曲目「Happiness 4」は、アルバム冒頭の「Happiness 3」に引き続き、ボーカルとエフェクトの深くかかったギターが、スローテンポの中で溶け合う、穏やかでアンビエントな1曲。

 前述したとおり、前作から比較するとエフェクターが深くかけられ、アンサンブルよりもサウンドを重視したアプローチが色濃くなったアルバムと言えます。

 言い換えれば、かなりシューゲイザー色…というより、マイブラ色が強くなったなぁ、という印象。ただ、それはネガティヴな意味ではなくて、音楽を構成する要素が一体となったシューゲイザー作品としてのクオリティは、前作を上回っています。

 ちなみに、クレアコーズから発売されたCD版では10曲収録でしたが、クインス・レコーズ(Quince Records)から発売された日本盤、および現在サブスクリプションなどで配信されているものは、ボーナス・トラックが2曲追加され、12曲収録となっています。

 





Minus The Bear “Omni” / マイナス・ザ・ベアー『オムニ』


Minus The Bear “Omni”

マイナス・ザ・ベアー 『オムニ』
発売: 2010年5月4日
レーベル: Dangerbird (デンジャーバード)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、マイナス・ザ・ベアーの4thアルバムです。プロデュースは、ザ・ストロークスやホワイト・ストライプスを手がけ、グラミー賞受賞歴もあるジョー・チッカレリ。

 ソリッドな楽器の響きと、電子的なサウンドが溶け合い、アンサンブルを構成する1枚。アンサンブルは非常に緻密で、サウンド・プロダクションもロック然とした硬質な耳ざわりですが、随所に効果的に差し込まれる電子音が、アルバムをよりカラフルな印象に仕上げています。

 音楽的にも、マス・ロック的なテクニカルで複雑なアンサンブル、実験的なアレンジが随所の顔を出しますが、すべて的確にコントロールされ、コンパクトな楽曲にまとまっています。

 1曲目の「My Time」では、サンプリングされたドラムの音が、バウンドするように響くイントロに続いて、立体的で緻密なアンサンブルが展開されます。電子音のファニーな響きが、楽曲全体を柔らかくポップな印象にしています。

 2曲目「Summer Angel」は、イントロから叩きつけるようにバンド全体が迫ってきます。ギターのフレーズが、威圧感を中和するように響き、バランスを取っています。

 4曲目「Hold Me Down」は、淡々と8ビートを刻むギターとベースに、他のギターやドラム、電子音が重なり、多層的なアンサンブルを形成していく1曲。

 6曲目「The Thief」は、電子的なビートと、エフェクトの深くかかったギターが、80年代のディスコ・サウンドを彷彿とさせる立体的なアンサンブルを繰り広げます。この曲もエフェクトの使い方、電子音と生楽器のバランスが秀逸。

 7曲目の「Into The Mirror」は、繊細なシンセサイザーの音色と、ナチュラルなギター、タイトなドラムが溶け合う1曲。5分ほどの曲ですが、展開が多彩で情報量が非常に多く感じます。

 電子音と生楽器のサウンドを適材適所で使い分け、ゴテゴテにならず楽曲ごとに見事にまとまっています。このあたりのサウンド・プロダクションのセンスが、非常に優れたアルバムだと思いました。

 前述したとおり、マス・ロックやプログレを彷彿とさせる緻密で複雑なアンサンブルが展開される部分もあり、技術的なレベルの高さも窺えます。しかし、それが敷居の高さや、独りよがりの演奏至上主義には陥っておらず、あくまで5分におさまるポップ・ソングとしても成立させるセンスも、秀逸だと思います。

 





Avi Buffalo “Avi Buffalo” / アヴィ・バッファロー『アヴィ・バッファロー』


Avi Buffalo “Avi Buffalo”

アヴィ・バッファロー 『アヴィ・バッファロー』
発売: 2010年4月27日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 カリフォルニア州ロングビーチ出身、アヴィ・バッファローことアヴィグダー・ベンヤミン・ザーナー・アイゼンバーグを中心にしたグループ、アヴィ・バッファローの1stアルバム。

 今作はセルフ・タイトルとなっており、フロントマンの名前、グループ名、アルバム・タイトルが全て「Avi Buffalo」です。

 ナチュラル・トーンのギターを中心に、丁寧にアンサンブルが組み上げられるアルバムです。サイケデリックな音色と、爽やかなギターポップ的なサウンドがバランスよく溶け合った、サウンド・プロダクション。コーラスワークも、バンドのアンサンブルと有機的に対応していて秀逸です。

 非常に完成度の高い音楽性とアンサンブルを持つアルバムなので、フロントマンのアヴィがこの当時まだ19歳というのは本当に驚きです。早熟の天才というのは、こういう人を言うんですね。また、彼のハイトーンのボーカルも、このバンドの大きな魅力になっています。

 1曲目「Truth Sets In」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークに続いて、ハーモニクスを用いたギターが重なり、アンサンブルを形成していきます。ハーモニクスの使い方が、非常に効果的で、楽曲をカラフルかつ幻想的にしています。

 2曲目「What’s In It For?」は、イントロから開放的なボーカルが響き渡る1曲。かなり高音域を用いたメロディーですが、耳に刺さらない程度に絞り出すようなボーカルが、エモさを演出しています。

 4曲目「Five Little Sluts」は、ミニマルなイントロのアンサンブルから、徐々にシフトが上がりグルーヴ感が増していく展開。

 6曲目「Summer Cum」は、各楽器が立体的に響くサウンド・プロダクションが心地よい1曲。2本の絡み合うアコースティック・ギターが、特に有機的なアンサンブルを構成。

 7曲目「One Last」は、ドラムとパーカッションがいきいきと響き、音数は少ないながら躍動感あるアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 アルバムを通して聴いてみると、楽曲の多彩さ、サウンド・プロダクションの鮮やかさが、より強く感じられます。各楽器のオーガニックな音色、立体的で緩やかなグルーヴ、ハイトーンのボーカルとコーラスワークなどなど、フックとなる要素も満載で、聴いていて本当に耳の心地よいアルバムです。

 前述したとおり、フロントマンのアヴィはこのアルバムのリリース当時19歳。10代にして、この完成度のアルバムを作り上げるとは末恐ろしいです。しかし、Avi Buffaloというプロジェクトは、2014年に2ndアルバム『At Best Cuckold』をリリース後、翌2015年に活動終了となってしまいました。

 フロントマンのアヴィ君は、本当に天才だと思うので、今後の活躍にも期待したいです。